【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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流れの進む道、見えてきた道の先 その2

 

「……ミントの母親が問題なく救出されて、親子がそこで再会した場合、ミントはクレス達と共に着いて行ったか? 襲撃され監禁されていたと言う状況から、不安も大きかったはず……。ミントは確かに芯の強い女性だが、安全な場所で母親と一緒ならば、屋敷から動こうとしない筈だ」

 

 そう言われて、クレスは元より、ミントもハッとした。

 それは確かに、あり得る話だった。

 

 母が傍にいる中で、それでも敵の懐に入って行ったか、と言われると……素直に頷けない所だろう。

 ミントに取って、クレス達に着いていく理由が希薄になるのは否めなかった。

 

「転移して来てからこちら、何度ミントの法術に助けられた? ダオスの元へ辿り着くまでに、失う仲間すらいたかもしれない。そして、それよりも遥かに重要な、世界樹を癒すという大役をも失う事になる。だから、ミントの母親が救われるにしても、それを救出直後に知られる訳にはいかなかった。……そういう事じゃないのか?」

 

 クレスは我知らず、唾を飲み込む。

 言われれば言われるほど、不可思議な説得力が迫って来ていたが、理解しようにも違和感がある。

 

 あるいはそれを、忌避感と呼ぶのかもしれないが、それを今、正確に表現するのは難しかった。

 

「これは明らかに、クレス達が過去へ時間転移する事を知っていなければ出来ない芸当だ。誰にも知られておらず、かつ事情を知っていて、しかも秘密裏に自由に動ける。そして、素早い移動手段を持てる人物。となれば──」

 

 クラースが一人の人物に視線を向け、それを全員が追いかける。

 そして留まった先の人物さえ、呆気に取られて自らを指差した。

 

「──え? あたし!?」

 

 アーチェは素っ頓狂な声を上げて驚いた。

 周りの驚愕以上に、アーチェ自身が一番驚いている。

 

 予想外からの指摘に、アーチェは指折り数えながら、言った事を整理し始めた。

 

「アタシなら確かに事情全て知ってるし? 箒を使って上空から観察できるし? モリスンさんに見つからず尾行できるし? ある程度近づけば、行き先だって分かるわけだし? 箒で移動だから先回りも簡単だし、そんでお母さんだけ助ければいいワケだし? ──全部ホントに出来ちゃうじゃん!」

 

「おお、いいぞ脳みそスポンジ女!」

 

「なによ、その言い草は!」

 

「褒めてんだろ!」

 

「どこがだー!」

 

 アーチェがくわっと口を開き、両手を上に突き上げる。

 それをチェスターが揶揄するように笑みを見せた。

 

「ぐいぐい水分吸収するみてぇに、知識吸収してんだな、ってところがだよ! そんですぐまた、ボトボト落とすんだろ!?」

 

「うがー!!」

 

 いつもの取っ組み合いが始まりそうになり、ウィノナはベッドから降りて、アーチェが動き易いように場所を確保した。

 

 積極的に加勢するつもりはないが、チェスターが痛い目に遭うのを止めるつもりもない。

 しかし、実際の取っ組み合いが始まる前に、クラースが手を叩いて場を取り直した。

 

「いいから落ち着け、喧嘩するのは後にしろ」

 

 クラースは三人が元の位置に戻るのを待ち、それから続ける。

 

「状況はこちらに有利そうだ。アーチェ、この件でお前以上の適任はいない。というより、お前にしか出来ない問題だ。任せるぞ。──現代では目を光らせろ、いつやってくるか分からん。だが、事前には助けると矛盾が生まれる。牢に囚われた後だ」

 

 うん、と真面目な顔でアーチェが頷く。

 クラースの言葉が止まるのを待って、ウィノナが言葉を継いだ。

 

「それじゃあ、開始のタイミングは、トーティス村に黒騎士がやって来てから? アタシがペンダントを黒騎士に渡す時。そのタイミングなら、奴らは根城にいないだろうし……」

 

 言ってウィノナは思考を巡らし、つられるように首を捻る。

 

「警戒自体も、動かした兵の分だけ手薄になる。チャンスはここしかないと思う……けど」

 

 考え込むように顎を指先で摘んでしばし、それからウィノナは一人納得したように頷いた。

 

「ああ、なるほど。……だからか」

 

「何がだよ?」

 

 どこか不満げにチェスターが顔を向けると、ウィノナはちらりと笑った。

 

「アタシたちの視界に、ちらちらピンク色が見えてた理由。こっちの状況知る為に、アーチェが覗いてたのよ」

 

「あー……?」

 

 南の森で時折、視界の端に映っていたピンク色の何か。

 ──鳥か何かと見間違えたんだろ。

 

 時が過ぎる毎にその頻度は増え、しかしそれは鳥だとも、花びらが舞っただけとも言いながら、気にしないでいた。

 

 何故なら、そういうピンク色が見えるのは高い木の上で、人が登れる様な場所ではないからで……。

 

 そして、アーチェとの初対面では、そのピンク色に規視感を覚えたのを思い返していた。

 

 ──聞けよ、他人(ひと)の話。だからそうじゃねぇんだって。お前の見て呉れは関係ねぇ。

 ……色か? その色に見覚えが──。

 

「あーーーー!!!」

 

 ようやく点と点が結び付いた時、チェスターは我知らず声を上げていた。

 

「そうか! ちょいちょい見えてた、あのピンク! あれ、アーチェだったのか!? だから、その色に覚えがあったんだ! てめぇ、ふざけやがって!」

 

 チェスターはようやく喉の奥の(つか)えが取れた興奮のまま、アーチェを指差し、自分でも分からない謎の怒りを向けた。

 

 大した理由はないと思っていた。

 その色がチラついて見えていたことも、その色に既視感があったのも、そこまで特別な理由がないと思ってた。

 

 ──だが、そうではなかったのだ。

 

「ふざけるなって、あんたねぇ! 大体さ、あんたの言ってる事って、百年後の話じゃん。今のあたしに関係ないし!」

 

「お前になくても、俺には関係あるんだよ! お前と初めて会った時の違和感、ぜってぇコレだ!」

 

 やれやれ、とアーチェは肩を竦めてかぶりを振る。

 小馬鹿にしたような視線すら向けてくるアーチェに、チェスターは挑むような目つきで凄んだ。

 

「お前そんな態度取るけどよ、準備やら何やら、これから用意が全て終わって、そんで諸々全部にケリついたとしてだ。現代まで待ってる間、アーチェ……、お前クレス達の様子、見に行かないって言えるか?」

 

「い、言えるよ~……」

 

 自信を持って断言しないその言葉に、チェスターは本当か、と更に語気を強める。

 だが、返って来たのは視線を逸らして、それでも頷いて見せる、アーチェの頼りない姿だった。

 

「あ、だめだ。こりゃ見に行くわ」

 

「なによー! 仕方ないじゃん。絶対気になるに決まってるよ、皆の小さい頃なんてさー!」

 

 堪り兼ねて、思わず本音を暴露したアーチェに、クラースは溜め息を吐いた。

 

「チラチラと見えていた、という事実が観測されていたなら、それぐらいはいいんじゃないのか。どんなに危険な目に遭っていても、助けにいかない、姿を見せない、という条件はつくが」

 

「う……!」

 

 アーチェは思わず息に詰まる。

 本当に危険な目に遭った時、動かないでいられる自信がなかった。

 

 だが、それではいけないのだ。

 思うが侭に動いた結果、目も当てられない時間の矛盾を作る事になりかねない。

 

「ま、確かにアーチェに会った記憶はないしな。我慢しろよな」

 

「ぐぐぐ……!」

 

 歯噛みをしながら睨み付けるアーチェは、苦し紛れに言い放つ。

 

「でも、絶対チラチラ姿を見せにいってやる……! 遠くからギリギリで、あたしだって分からない範囲で! それが正しい歴史ってモンでしょーよ!」

 

「いらん知識、身に付けやがって……。言っとくけどな、本っ当に見つかったら駄目だからな」

 

 チェスターが凄んで釘を刺した時、別方向のウィノナからも、特大の釘が飛んで来た。

 

「あ……。そういえばアタシ、そのピンクに向けて、矢を射ったから気をつけて」

 

「──ちょ、ちょおお! 何してんの!?」

 

「……ごめん。何か変な気配を感じたから……」

 

 流石のウィノナも、当時のピンク色が何かなど知らない。

 人だとすら思っていなかったが、何か悪い物かもしれない、とは思っていた。

 

 だからこそ牽制を込めて矢を撃ったわけだが、それがまさか後の親友になる人物など、分かるはずもない。

 

 申し訳なさそうに肩を小さくするウィノナを見て、チェスターが軽い調子で諌める。

 

「そんな責めてやんなよ、悪気があってやったんじゃないんだから」

 

「分かってるよ、そんなこと」

 

「それより、それで油断して見つかる様な事すんなよな? お前ヌケてんだから」

 

「あんたは何で、いつもそー……」

 

 コメカミに一本指を当てて、大きく溜め息を吐きそうになったとろこで、チェスターが立ち上がり、アーチェの両肩を掴む。

 

 その強さは余りに強かった。

 だから、抗議の目を向けるたのだが、それ以上に強い、懇願にも似た意志の篭った視線がアーチェを射抜いた。

 

「だからな、アーチェ。マジで、頼むぞ……!」

 

「──うん、任しといて。絶対ヘマなんてしないよ。ミントのお母さんだって、必ず助けるから」

 

 チェスターに頷き、次いでミントに顔を向ける。

 肩からチェスターの手をやんわりと外して、ミントに向き直ると、にっかりと笑う。

 

 ミントは感動に身体を震わせて、深々と頭を下げた。

 

「はい……! 何卒、よろしくお願いしますアーチェさん!」

 

「任せて!」

 

 アーチェは親指を立てて快諾する。

 そうしてアーチェが、事の流れをまとめようとした時、それまでむっつりと黙っていたクレスから声が上がった。

 

 その強張った重苦しい声は、それまでの明るい雰囲気を打ち消すのに、十分な重量を持っていた。

 

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