【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「ちょっと待ってくれ。……本当に、それでいいのか」
「どうした、クレス。怖い声なんて出してよ……」
「皆は何とも思わないのか。確かに、歴史の流れを守る事は大事かもしれない。感情で物を言うのは、この場合、間違いなのかもしれない。──でも、こっちの勝手な事情で……! ミントを引きずり込む為に、ミントのお母さんと再会させない、って言ってるんだぞ」
クレスが先程感じた強い違和感と、それに付随するような忌避感は、これだったのだと理解した。
死んだと思われていた、ミントの母は生きていたかもしれない。
それは喜ばしいことだ。
しかしそれは決して単純な事ではなく、母の命を人質に、協力を要請するような悪辣さを秘めている。
「それでいいのか……! 過去に行くなら僕たちだけでもいいはずだ。大事な人が生きていることを隠して、利用までしようっていう、そういう魂胆で、ミントまで連れて行く必要はないだろう……! この後、法術が必要だっていうなら、キャロルさん達に協力して貰う事だって出来る!」
クレスは拳を強く握って訴えた。
今ここにミントがいるのは、それと知らずに協力を申し出てくれたからだ。
確かに事実として、クレスは知らなかったが、今こうして知ってしまった以上、このさき行われる救出劇で、素直に再会させやる事こそ、正しい行いに思えてならなかった。
そんなクレスを見て、ミントはすぐ傍で膝を折り、その震える拳にそっと手を添える。
俯いていたクレスの顔が上がり、ミントと視線が合わさった。
ミントひたりと見つめたまま、はゆるゆると首を横に振った。
「確かに、怖い思いもしました。でも、無事です。母は私を庇って怪我をしました。でも、生きていると分かりました。助けることが出来るなら、思うところはありません」
「でも……!」
「ジャミルとの戦いで、クレスさんは大怪我をしました。皆さんも小さな傷なら、数えきれない程の怪我をしています。私がいなかったら、一体どうなるでしょうか。もしかしたら、その時の傷で、クレスさんは最悪の事態に陥ってしまうかもしれません」
思い返せば、確かにジャミルには深手を負わされた。
吐血したうえ、腹部からも絶え間なく血が流れた。
あの場の状況から考えて、賊と思われたクレス達に、果たして医者を即座に呼んでくれたかどうか……。
それに、旅の道中では、幾らでも魔物との戦闘があった。
大小合わせたら、幾つ傷を負ったか分かったものではない。
しかし、だからといって──。
「もしも、私が母と共に助けられていたら、きっとその傍を離れられなかったでしょう。母を失った悲しみは辛く哀しかったですけれど、今こうして無事と知れるのなら、大した問題ではありません。……それよりも、皆さんのいずれかが、大怪我で倒れてしまう方が、余程恐ろしく思います。──だから、いいんです」
ミントはクレスの目を覗き込んで、ふんわりと笑う。
それは強がりでも何でもなく、クレス達の助けとなりたいと願う。献身の心が見える笑みだった。
そのような姿まで見せられたら、クレスとしても、これ以上は何も言えない。
「……うん、分かった。ありがとう、ミント」
「いえ、いいんです。そこまで憤っていただいて、私こそ嬉しかったです」
お互いが見つめ合い、数秒……。
えへんえへん、とアーチェがわざとらしい咳をすると、ミントはクレスから弾かれるように手を離した。
「あ、いえ、その……!」
「万事綺麗に纏まった所で、あたしの方も、お話を再会してよろしいですかね?」
ああ、うう、とクレスが呻くように頷き、そのまま顔を伏せてしまった。
ミントも同様に顔を赤くして伏せており、元の場所へ戻り腰を下ろす。
二人の再起動には、少し時間が掛かりそうだった。
クラースに視線を向ければ、構わず続けろという意図を持って顎をしゃくる。
アーチェはもう一度二人に視線を向けてから、先程言いかけていた続きから話を始めた。
「えーと、それで……。そう、あたしはクレスの村の異変を見たら、すぐにモリスンさんのトコに行って、上空で待機。救出に動くモリスンさんの後をつけて、根城を上空から発見次第、急行。モリスンさんに先んじて、ミントのお母さんを助け出す。……えっと、その後はモリスンさんの屋敷の二階の部屋に……クレス、二階のどこの部屋?」
「ああ、うん……。あー、玄関のすぐ真上だった、かな……」
クレスの煮え切らない返事は、記憶を掘り起こす為というより、先程のダメージが抜け切っていないせいだろう。
アーチェはそれを合えて気付かぬ振りで、話を続けた。
「おっけー! じゃあそこに連れてって介抱して……んで、クレスたちが来たら、窓辺に立つようにお願いすればイイって感じ?」
「大筋はまぁ、そんな所だろうな」
クラースが頷きながら、顎の下を撫でる。
「……とはいえ、それはアーチェに取って、百年も後に行う役目だ。今は置いといて、また今度改めて、話を詰めていこう。──まずはダオス救済と、その為に行うべき、一連の事だ」
アーチェはウィノナに一度視線を向け、それから頷いた。
「そして、その我々が行うべきことは、ユニコーンに会うことだな」
ウィノナは思わず顔を顰める。
「白樺の森ね……」
「はい、ユニコーンは清き乙女にのみ、その姿を現すと伝えられています」
調子を取り戻したミントがそう言うと、ウィノナは明らかな敵意と共に、フンと鼻を鳴らした。
「どうだか……。随分、気まぐれな奴だと思うけど。必死になって捜すだけじゃ出会えない」
「ウィノナさん。何か、あったんですか……?」
「別に、そういう……噂」
ミントの気遣いとも言える視線から、ウィノナは逃げる。
完全な善意と分かっているからこそ、ウィノナは気まずい気持ちを抑えきれなかった。
「じゃあ、出発はいつにしたものかな?」
「アタシは直ぐにでもいいけど……」
「駄目です、いけません」
何気なく言ったクラースとウィノナだったが、意外にもミントが強い口調で否定した。
「ウィノナさんは、まだ目覚めたばかりなんですよ。身体に不調を感じないからといって、万全とは言えません。ゆっくり静養して、しっかり回復させて下さい」
非難さえ混じる視線から、ついウィノナは逃げる。
クラースに顔を向けると、クラースもまた然もありなんと頷いていた。
「まぁ、いい機会だ。我々もゆっくり休もう」
「いいですね、時間ならたっぷりあるんだ」
「そうだよな、百年も!」
チェスターが茶々を入れるように笑って言うと、ウィノナも苦笑しながら頷く。
クラースもまた呆れたように笑い、それからチェスターを見て言葉を続けた。
「どのみち、報償金の受け取りに何日か掛かる。それまで自由時間としようじゃないか。ここまで随分、張り積めた旅を続けていたんだ。これからもまた、厳しい旅が再開される。丁度いいんじゃないか?」
「やったー!」
アーチェは我が事に舞い降りた、予期せぬ休暇に喜び、チェスターも同じように喜んだ。
早速飛び出していくアーチェを、チェスターは慌てて追いかける。
ウィノナが自分を気にせず行くよう促すと、一言詫びてクレスも出て行った。
「ま、ゆっくり養生してくれ」
クラースも一声かけて部屋から出ると、後にはミントだけが残された。
「ミントはいいの?」
「折角ですから、傷の治療をしてしまおうかと。表に見える傷は塞がっていますけれど、内蔵はまだ完治とは言えないはずです」
そう、と頷いて、ウィノナは上着の前をはだける。
魔物によってつけられた刀傷は、ひきつった痕を残して塞がっていた。
「じゃあ、お願いできる?」
「お任せください」
ミントは微笑んで請け負い、ウィノナの腹部に手を当て、法術の光を当てた。