【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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ミッドガルズからの出立 その1

 翌日、ウィノナは自室のベッドの上から一人、窓の外を見つめていた。

 

 アーチェは何度も一緒に出かける事を望んだが、ウィノナはその度にやんわりと断った。

 ついに諦めたアーチェは、お土産を買って来る、と約束して、他の面々と共に宿を出て行った。

 

 窓より外から見える街中は戦勝ムード一色で、国民達は悪の魔王討伐に浮かれている。

 ウィノナにはとても、そんな空気に触れる気持ちになれなかった。

 

 気持ちを落ち着ける為にも、また、ダオスと過ごした一時を思い出さない為にも、外に出るより部屋に居た方がいい。

 

 ただ、この一年はずっと一人でいたし、心安らぐ暇もなかった。

 

 一人鬱々と過ごすばかりで、気持ちは後ろ向きになり続け、その度に負の感情が増幅されるような有り様だった。

 

 それを考えれば、ただゆっくりと養生しているだけで、凝り固まった気持ちが、少しずつ解れていくような気がした。

 

 そして、ウィノナの傷が癒え、ミントからの許しが出たのは、その三日後の事だった。

 その日は荷物の準備など、旅支度と買い物を済ませる。

 

 それで、いよいよ出発となった。

 

 

 

 三日の養生に意味はあった。

 ウィノナの険は大分ほぐれ、かつてよく知った顔を覗かせている。

 

 それに気付いたアーチェは何かを言うわけではなかったが、終始頬が緩みっぱなしだった。

 

 クラースはと言うと、この二日程は王城へと出向き、モリスンと意見の摺り合わせをしていた。

 

 まさか宿まで呼びつける訳にもいかない、という言い分は間違いではないのだろうが、ウィノナとの鉢合わせを避ける為だろう、というのが大方の見解だった。

 

 モリスンから聞いた、時空転移理論は役に立った。

 それを元に大方の指針も設けられたし、ウィノナもそれについては感謝しないでもない。

 

 だが、それでも顔を合わせば、冷静でいられる自信がなかった。

 

 

 実際に街を出る前に、クラースはウィノナ以外を連れて、王城へ向かった。

 王との拝謁を行う為で、報奨金を受け取る為でもある。

 

 その支払いと、今大戦への貢献を称えられ、労われるまでが功労者の役目だ。

 

 王城で騒ぎを起こし、また魔王の情婦として手配されていたウィノナが、そこに顔を出せる筈もない。

 

 クレス達が帰って来るまで、ただ待って時間を潰す。

 

 そうして、実際に彼らが帰って来たのは昼前で、苦労話に華を咲かせながら早めの昼食を取り、それからすぐに出発する事になった。

 

 宿の部屋を引き払い、入り口脇に集合したウィノナ達は、今後の方針について確認を取る。

 

「まず白樺の森に向かう事は、周知の通りだ」

 

 クラースが全員の前で、肩掛けサックを地面に置きながら言った。

 

「クレス達の時代には、既にユニコーンホーンという杖があったとか……。ならば、ユニコーンに頼んで、これを入手する必要がある。その後、世界樹のあるベルアダム南の森まで移動だな」

 

「大移動じゃん……」

 

 アーチェがげんなりとして言うと、チェスターも流石に顔を顰めながら肩を竦めた。

 

「確かに、世界の端から端へ、と言っても過言じゃねぇよな……。けどまぁ、こればっかりは仕方ねぇ」

 

「そして、世界樹まで辿り着けば、後はミントに任せることになる」

 

 ミントは強い意思の篭った瞳で頷く。

 

「世界樹を確実に復活させるだけの力が、私にあるのか自信はありませんけど、精一杯やらせていただきます」

 

「頼むよ、ミント」

 

「それが無事済めば、次はヴェネチアから、海底に沈む超古代都市トールに向かい、現代へ時間転移する。──以上が、簡単な旅程と方針だが、何か質問は?」

 

「質問ってわけじゃねぇけどよ……」

 

 チェスターはそう前置きしてから、顔を難しそうに歪める。

 

「どれもこれも、行き当たりばったりだよなぁ。確かに現代じゃ杖があったけど、それが今から取りに行くものと同じ物か分からねぇし。現代に帰るにしても、トールに行けば確実ってわけじゃねぇんだろ?」

 

 クラースは曖昧に笑って肩を竦めた。

 

「ま、やるだけやってみるさ」

 

「もし、出来なかったら?」

 

「笑って誤魔化すさ」

 

 いっそ晴れやかに笑って、クラースは地面に置いていたサックを肩に掛け、それから街の城門へ身体ごと向ける。

 

「さぁ、出発だ」

 

 それぞれが自分の荷物を背負い、クラースの後に続いて歩き出す。

 しばらく道を歩いていると、前方に見覚えのある顔を見つけた。

 

 鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌なアランが、こちらに気付くと軽く手を振って、歩調を速めて近付いて来る。

 

 こちら同じく旅装をしているところを見ると、アランも宿を引き払い、街から出る予定なのだろう。

 

「よぉ、そっちもお出かけかい?」

 

「ああ、今から出立する。どうやらお互い、長居する気はないらしいな」

 

 違いない、とアランは笑う。

 

「残ってても金が減ってくだけで、入るアテもないしな。……ま、たんまり報奨金も出た。これで夢の道場を開けるぜ。とはいえ、まだ十分とは言えないんだが、頭金と考えれば釣りも出るだろうさ。……どっかで金でも借りるかね」

 

 アランに憂い顔が浮かんだが、それも僅かなことで、その顔はすぐに晴れやかなものに変わった。

 自分の道場を持つ夢の実現が目前とあって、不安よりも希望の方が大きく思えるらしかった。

 

 しかし、クラースはそこで待ったをかけた。

 

「借金だけは、やめておけ。門下生がどれだけ集まるか分からない現状で、それはあまりに危険だ。アランの夢に賛同してくれる人を探して、出資を求めるべきだろう」

 

 クラースとしては当然の助言だったが、アランは明らかに顔を顰める。

 

「……そりゃ、ちっと厳しいぜ。ただでさえ、金を貸してくれる奴だっているか分からんのに」

 

「後々苦労するのは、自分かもしれんのだぞ。重ねて言うが、借金だけはやめるんだ」

 

「……うーん」

 

 クラースの忠告に、アランは腕を組んで唸る。

 眉根に皺が寄る所を見ると、納得できないようだ。

 

 傭兵稼業は難儀な商売で、戦がなければ金は貰えない。

 そしていつでも、都合よく戦がある訳でもなかった。

 

 かといって、地道に稼ごうとすれば、それこそ何年掛かるか分からない。

 夢の実現には、借金が一番手っ取り早いのは確かなのだが……。

 

「せっかく出来た道場が、たった一年で奪い取られる、なんてことにならなければいいな」

 

「おっかねぇこと言うなよ!」

 

「だが、金を借りるのはそれだけ危険だ、と言いたいんだ」

 

「ああ……、まぁ、それなら……。故郷に帰る道すがら、出資を頼んでみるさ。なに、帰るまでには、幾つも町を回るんだ。一つくらい……」

 

「くれぐれも、借金だけはするなよ、我々も探しておいてやるから」

 

「すまないな、恩に着る」

 

 それから一言二言、言葉を交わた後、アランと別れた。

 

 ウィノナ達もまた移動を再開したのだが、誰もが思い付いているであろう事を指摘しないので、クレスは不安げな顔でクラースに尋ねる。

 

「あの……、ウィノナがする筈のアルベイン道場の出資って、この事じゃないんですか?」

 

「まぁ、十中八九そうだろう」

 

 視線を前方に固定したまま、軽い調子で返答するクラースに、クレスは思わず声を上げた。

 

「えっ、だ、大丈夫なんですか!? 今の内に出資する名乗りを上げるとか、そういう事しておかないと! 他に出資者が出たら、どうするんです?」

 

「そうはならんと踏むがね」

 

「どうして、そう言えるんです? もしも、という事があるじゃないですか。確実に事を運ぶなら、今の内に言っておいた方が、絶対にいいですよ!」

 

 切実な言い方とは反対に、クラースは余裕そうな笑みを浮かべて、クレスに視線を移した。

 





 
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