【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「いいか、クレス。よく考えてみろ。どの町だって、自分の所に腰を落ち着かすわけでもないのに、金を出す訳ないだろう? 貸すんじゃないぞ、金を出せって話なんだから」
「あ、ああ……。それじゃあ、彼は困って故郷に辿り着くわけですか……?」
「最寄の村でもユークリッドだ。道場に通うには、山道を越えなきゃならん。通うというには、いかにも不便だ」
「言われてみれば、確かに。……うん、そうか。話を聞けば聞くほど、出資者が出るとは考え難いですね」
「──そして、どこからも出資者が現れないところで、ウィノナの登場というわけだ。話を持ち出すなら、こちらの方が効果的だろう? きっと、大変な感謝をしてくれるに違いない」
クラースはそう言って、浮かべていた笑みを深くする。
「あるいは孫の代の、そのまた先まで、受けた恩の話が伝わったりするかもしれないな」
「うっわ、あくどい。出たよ、あくどいクラース! 略して、アクラースだよ!」
後ろで聞いていたアーチェが、大袈裟に身体を引いて、非難めいた声を出した。
黙って話を聞いていたウィノナも、実は似たような気持ちだったが、表情には出さない。
だが同時に、そこまで考えていた事に、感心すら覚えている。
「失礼なことを言うんじゃない。大体なんだ、その略してってのは」
「でも、出資するのはいいとして、どこからそのお金を出すの?」
流石にウィノナとしても、そこを言及しない訳にはいかなかった。
ウィノナが持つ所持金は、一人旅ならば問題ないだけの金額しかなく、今ではそれもクレス達との共同資金となっている。
仮にそれを全額使えたとしても、建設資金として十分かと問われれば、まるで足りないと思われた。
しかし、クラースは事も無げに言い放つ。
「我々にも報奨金が出ただろう? それを使う」
「でも、いいの……?」
「元より、受け取る謂れのない金だ。それに……未来の為だろう、喜んで差し出すさ」
「あ……、うん。ありがとう」
「なぁに!」
クラースは何でもないように手を振って、肩で風を切って城門へ向かった。
そして、人垣の波を掻き分ける様にして、ようやく町の外へと繋がる城門に辿り着いた。
ダオス討伐からこちら、隊商の行き来も活発になり、そういった商人達が出入りする姿がよく見られる。
馬車の通りの邪魔をしないよう、道の端に寄りながら進むと、その先にモリスンが立っているのが見えた。
気まずそうな顔をしたまま、モリスンはクラースに手を挙げる。
「やぁ、良かった……。もう行ったかと思ったよ」
「何か用事でも?」
「去ってしまう前に、どうしても一度は会っておかねば、と思ってね」
モリスンはウィノナに顔を向ける。
不躾にならない程度に近寄ると、しっかり腰から曲げて頭を下げた。
「私の軽率な行動が、今回の悲劇を招いた。どうか、心からの謝罪をさせて欲しい」
ウィノナは顔を余所に向けたまま、無視に近い態度で沈黙を貫いた。
そうして十秒ほど経過してから、モリスンがゆっくりと頭を上げる。
それでも尚、顔どころか視線すら向けないウィノナに、思わずクレスがその肩に手を置く。
「ウィノナ……」
「いや、無理もない。ただ頭を下げて、許しを貰えるとも思ってなかった。……だから、いいんだ」
そうね、と顔を向けないままに、ウィノナは答える。
「あなたの自己満足に付き合わされても、こちらは良い迷惑よ。──ただ」
ウィノナは一つ息を吐く。
「ダオスも自分自身の意思で付いて行った。だから、あなたにばかり非があるとは言わないわ」
モリスンの目が見開かれる。
無視されるだけでも上等、殴られて当然という覚悟で来たのに、返って来たのは肯定とも取れる言葉だった。
ウィノナは続ける。
「アタシは……、あなたを許すとは言えない。でも、……もう終わった事よ。今はまだ感情の整理がつかない。だから、それ以上の事は望まないで」
「ああ……、いや、ありがとう……。ありがとう」
モリスンは顔を俯かせ、そして頭をもう一度下げた。
ウィノナはやはり視線を余所に向けたまま、一度もモリスンに顔を向けない。
クレスもチェスターも何も言えない中、アーチェはウィノナの背後から抱きつき、痛いくらいに締め付けてくる。
ウィノナはその手を優しくポンポンと叩き、その手が緩められると、代わりに腕を優しく撫でた。
モリスンの頭が上げられたのを見て、クラースはその肩をごく軽く押しながら、ウィノナからの距離を離す。
「全く、どうなることかと思いましたが……」
「そうだな……、殴られる覚悟は済ませて来ていた。最悪、刺される覚悟まで」
「こんな往来で、そんな事されたら困りますよ……」
目が赤くなってるモリスンを見れば、どういった思いでここまで来たのか、ある程度は理解できる。
元の鞘とはいかないまでも、ウィノナから赦しとも取れる言葉を聞けて、胸のつかえが取れたような思いだろう。
「……それで、目的はそれだけですか?」
いや、とモリスンは首を振って、目尻を親指で拭う。
「実際い相談したい事がある、というのも一つの理由だが、他にもう一つ。……今日これから直ぐ、という話ではないが、私もいずれこの国を離れる。その事を伝え忘れていてね」
「元々アルヴァニスタから、戦争の為に
「そうなんだが、理由はもっと別のことだ。いつか現れるダオスを封印するのは、私──我が一族の役目だろう。その為の対抗策を考えておきたい。腕の立つ剣士が必要だろうし、この先魔術が失われるなら、法術士とも縁を結んでおく必要があるだろう」
「それならば、アランとキャロルがいるじゃないですか」
呆れたように言うクラースに、モリスンは苦笑した。
「……それもそうだ。君たちといると、どうにも彼らが霞んで見えた。頭から除外してしまっていたよ。彼らの優秀さを否定するわけじゃないんだが……」
そう言って、モリスンは苦い笑みを正す。
「あとは、私もダオス到来に備えて、居を移すつもりだ。次はどこに現れるものかな……。やはり、古城で待つのが最善なのか?」
クラースの後を遅れて着いて来ていたウィノナ達から、クレスが一人抜け出て、横合いから口を挟む。
「ああ……、ダオスは世界樹のある森から近い、とある地下墓地に現れています」
「何だってそんなところに……」
眉を顰めた言うモリスンに、クラースもまた疑問に思う。
顎の下を何度か擦りながら首を捻るが、それらしい答えは捻出できなかった。
「まず考えられるのは、世界樹……ですかね。現在の状況を知りたかったから、というのはどうでしょう?」
「分かる話だ。……しかし、何故その近くにあるという墓地に? 直接世界樹の前に、出現すれば良いだけの話だろう。……それとも、何かあるのか?」
「どうでしょう。目的があって墓地に出現したというなら、墓に用があった……のか? 誰かの墓に──」
言いながら、ハタとクラースは顔を上げた。
「そうか。死没しているなら、ウィノナにも墓があるはず。それを確認したかったのかもしれない……」
得心がいったように頷くクラースに、モリスンも同意するように頷く。
そして、それを傍で聞いていたウィノナは、顔を暗くさせた。
「そういえば、そんな事もダオスには言ったっけ……」
未来から来たことを話した時、そしてユークリッド村へ行く前に、墓地のあった場所に立ち寄った時。
その際に、ウィノナの墓がどこにあったか伝えたはず。
冗談めいたやり取りで終わった事だが、確かにダオスはウィノナの墓が何処にあるかを知っている。
ウィノナという執着を捨てたいダオスが、確認を取り為に向かった、というのはあり得る事に思えた。
「ならば、まずは出来ることから始めよう」モリスンが言って踵を返す。「私の居も、その近くに移そう。他の面々とも密なやりとりを取るつもりだ。……今日は話せて良かった。また近い内に会いたいものだ」
ウィノナに少しの間視線を向け、それから全員に顔を向ける。
一度礼を言ってから去るモリスンに、ウィノナは複雑な表情で見送った。
クレス達はその背を何とはなしに見つめ、今も引っ切り無しに往来を続ける馬車などの間を縫って、城門を出た。
外に出れば、遠く北の平原に、薄っすらと雪が積もっているのが見えた。
夜になる前に駐屯地に着けば、そこで安全な寝床を確保できる。
戦争が終わったとはいえ、国境と平原を隔てる関所には、現在も人員が配置され、魔物の警戒を行っているはずだ。
ウィノナ達は歩き出す。
駐屯地から白樺の森へは、徒歩でも二日あれば到着する。
旅程に障害がなく、かつ順調であれば、一日で辿り着く事も可能かもしれない。
そうして実際、白樺の森に着いたのは翌日で、時刻は昼を少し回った頃だった。