【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
状況を天秤にかけて、黒騎士はペンダントが手に入れば良しと判断したようだ。
前進していた兵達を旋回させ、目を見張る速度で撤退して行く。
それを油断なく見送ってから、ミゲールは剣を鞘に収めた。
続く門下生達は念のため周囲に展開し、警戒を続ける。
それを見届けると、ミゲールは心底安堵したような顔をして、ウィノナとクレスの傍まで近づいてきた。
「ああ、お前達……。無事で良かった。チェスターから聞いた時は、一体どうしたものかと……」
「それなンだけど……、ごめンなさい!」
ウィノナはがばり、と頭を下げて、ミゲールに謝罪した。
いま予知夢の事を言っても、混乱しかさせないと思うので、本当の事は言えない。
だが、誤魔化しをするとしても、謝罪したい気持ちは本物だった。
「アイツら、金目の物欲しさに村を襲うと思ったから……。クレスのペンダントを渡せば、退いてくれると思って……」
「ウィノナは最善を尽くしてくれたと思う。父さん、怒られるなら僕の方だ。あの黒騎士達を前にして、僕は何も出来なかった……」
「いや、怪我の無い方が優先だ。無事で良かった。それにクレス、あの人数に向かっては、無謀も良いところだったろう。それで良かったんだ」
しかし、とミゲールは腕を組んで、思わず唸った。
「渡してしまったあれは、ただのペンダントではない。一族の存亡をかけてでも、守るべきものだ」
ウィノナはシュンとして、肩をすぼめた。
「重ね重ね、ごめんなさい……」
「それはもういいんだ。二人が無事で何よりだった。しかし、あの風体……今回の犯人は、ユークリッド独立騎士団で間違いないだろう。あの特徴的な鎧は、この近辺にそうあるものじゃない」
それじゃあ、とウィノナが顔を上げれば、ミゲールは毅然とした態度で言った。
「騎士団に、ペンダントの返却を求めよう。多数の武装兵に村人が恐れて金品を差し出したら、誤解を解こうともせずに受け取とった。真に騎士団としての行軍であったならば、これを釈明せずに去って行くなど言語道断。甚だしい愚行だ、と申し立てねばならない。そうすれば、あちらからも何かしらの反応はあるだろう」
「……そういえば、父さんも昔、騎士団員だったと聞いた気がするよ」
団長だぞ、とミゲールは笑った。
「まぁ、だから無視される事だけはないだろう」
「……あの、アタシの勝手な判断でしたことだし、自分で取り戻すよ!」
「馬鹿な事を言うんじゃない。後の事は、大人に任せておきなさい」
ミゲールはそう言って一蹴したが、ウィノナの決意は変わらなかった。
自分がやった不始末なのだから、自分の手で始末をつける。
クレスとチェスターに顔を向ければ、無言で頷きが返ってきた。
思うところは一緒だ。
親友三人の思いは、いま一つになっていた。
ミゲールはその足でユークリッドへ向かい、ウィノナ達は残った門下生達と帰路に着いた。
家の前で待っていたマリアには大層心配され、クレス共々抱き締められた。
その余りの心配ぶりは、腕をなかなか離そうとしない事からも窺い知れる。
病弱な母に心配させたのは、素直に申し訳なく思ったが、その夜、クレスたちは部屋を抜け出た。
そうして、事前に話し合って決めていた合流場所へ向かう。
夜の闇の中を目立たぬように移動して、向かった先の教会の裏では、既にチェスターが待ち構えていた。
「……で、どうする? あいつら追うにしても、どっかアテでもあんのかよ?」
「そりゃないけどさ……」
「ねぇのかよ……」
「ウィノナは予知夢で、何かヒントになるようなものは見なかったのかい?」
クレスの問いに、うーん、と腕を組んで頭を捻って考え込む。
すると、その片隅に何か、小さく引っ掛かるものを感じた。
あれは確か、黒騎士がペンダントを狙っていることを、部下に仄めかしている時に――。
「そういえば、何か豪華な部屋で悪巧みしてたかなぁ……?」
「騎士団だもんな? 城の中に部屋でも貰ってんだろ」
「そうだよねぇ」
でも、とクレスが首を傾げた。
「何であの鎧を着て来たのかな。父さんも言ってたじゃないか。この近辺では他に見ないって。これから悪事を働こうって時に、自分の正体を教えるような装備をしていくかな」
「つまり、あの鎧は模造品ってこと? ユークリッドの騎士団に罪を着せる為に……。あるいは捜査を撹乱させる為に、敢えてあの鎧を身につけた?」
「十分あり得る話だよな? アイツら、逃げた方角は北だったけどよ。これもユークリッドに帰ったと思わせる為かもしれねぇ」
「きっと、そうだと思う」
クレスは頷きと共に断言した。
「父さんがそうしたように、騎士団に対して直訴しに行く可能性は、高いって考えたんじゃないかな。だから、そう見せかけた上で、別の拠点に帰ったんじゃないか」
「でも、この辺に屋敷なんてあったかな……?」
ウィノナが腕を組んだ姿勢のまま、更に首を傾ける。
短い沈黙が流れ、チェスターは小さく息を吐いた。
「俺なんて村の近辺以外じゃ、トーティスとユークリッドの間しか動いたことないからな。他の地形はさっぱりわかんねぇ」
「屋敷というなら、一つだけ思い当たるのがあるんだけど……」
「さっすがクレス!」
ウィノナは手放しで褒めて、手を叩いた。
「……で、どこにあンの?」
「ユークリッドに続く北の山道を、西に曲がった先の方だよ。そのまま行くと海に出るんだけど、山側には一つだけ、屋敷が建ってるのを覚えてる」
「……アイツらが逃げていった方向とも、一応合致するな」
チェスターが考え込むように俯き、ウィノナが頷いた。
「うん、山道を通らずその前で左折して、その屋敷に帰ったとするなら、ね」
「うーん……。まぁ、それはいいとしてもよ」
一応頷きはしつつ、それでもチェスターは、未だに納得しかねる様子だった。
「結局、アイツら何者なんだ? わざわざ騎士団を敵に回す様な真似してよ。それで戦利品はペンダント一つだけ。……割に合ってるのか、これ?」
チェスターの疑問にそれぞれが考え込み、それからウィノナがそうか、と顔を上げた。
「……騎士団なんだ」
「何がだい、ウィノナ?」
「あの鎧は偽装じゃない、本物の騎士団だよ。豪華な部屋の中で、お父さんのこと、前団長って言ってたんだから」
「……マジかよ。じゃあ、単なる考えなしの馬鹿って訳か?」
「それも違うと思う。正体がバレようと関係ないンだよ。アイツは世界を統べるって言ってた」
「それも予知夢でか?」
そう、とウィノナは頷き、組んでいた腕を解いた。
「何であのペンダントを欲しがったと思う? 特別高価な宝石が付いてるわけでもないのに」
「本人も言ってたけど、金銭目当てじゃないのは本当だと思うよ。でもそれがあれば、世界を征服できるって言うのは……あまりに荒唐無稽っていうか」
「本当かどうかは、アタシだって知らないよ。でも、本人は本気でそう思ってる。だから身分を隠す必要なんて、最初からなかったンだ」
「自分は世界を支配する王様だ、だから逆らう奴は皆殺しってか? 冗談じゃねぇぞ」
チェスターは吐き捨てると、二人を促して立ち上がった。
「今はまだよく分からねぇけどよ、とにかく動かなきゃって気がするぜ」
「そうだね。クレスの言う屋敷が、アイツらの根城かどうかも分からない。でも、まず行ってみないと始まらない」
「他に手掛かりもない以上は仕方ない、か……。じゃあ、まずはそこから探ってみよう」
ウィノナとクレスが次々に言って、チェスターに続いて立ち上がる。
そうして、暗闇の中それぞれが頷き合うと、夜のトーティス村を飛び出した。
駆けて行く三人の背中を、ただ月明かりが照らしていた。