【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
終わりの場所、そして始まる場所 その1
地下墓地、その最奥の間にて……。
モリスンの詠唱が、今まさに完了したところだった。
直前までその場に立っていたクレス達は、光と共に姿を消し、過去への時間転移を果たした。
後には飛び立った際に舞い上がった埃と、消えた瞬間に発した音が、残響として残っている。
その一瞬の間の後、目の前から姿を消したウィノナを見て、ダオスは激昂した。
「彼女をどこにやった!?」
その怒りは天を衝き、怒号が封印の間を震わせる。
「何故ウィノナをこの地、この時に呼んで来た! 何の理由あっての事だ!」
その怒りに
しかし、動けないのは単に恐怖からではなく、困惑の度合いもまた大きかった。
ダオスがここまで激昂する理由が、モリスンには分からない。
何故、魔王とウィノナが、知り合いかのような発言をするのか。
「いや、待て……。彼女のあの姿は……」
ダオスは眉根を寄せ、視線をモリスンから切る。
そして、消え去った痕跡に視線を向けた。
「彼女の……消え去る直前に見た、
只ならぬ気配を発しながら、ダオスはそこへ一歩近づく。
必然的にモリスンの方へ一歩近づく事になり、それでモリスンも一歩下がった。
それはまるで、重圧が見えない壁となって押し込んで来るように感じられ……、それはまた事実でもあったろう。
「……そうか、そういう事か。貴様が諸悪の根元か。貴様さえいなければ、彼女は──ウィノナは、斯様な過酷な目に遭わず済んだものを……!」
今度は憎悪を持って、ダオスはモリスンを睨み付ける。
「貴様は……! 百度殺して尚、足りん!」
モリスンを睨み付けて恫喝し、ダオスがその手に力を込める。
モリスンはダオスの掌に、力が集中していくのをただ見つめる。
抵抗しようにも、時間転移に全ての精神力を使った今、既にその力は尽きていた。
諦めにも似た感情がモリスンを支配する。
自嘲気味な笑みを浮かべたその時、二人の間に幾つもの光球が降り注いだ。
「私が送り出した時と同じ光……!?」
──ならば、それは一つしかない。
咄嗟に飛び退き事態を静閑していると、床に着地した光は、複数の人型を作り、次第に明確な姿へ変わっていく。
そうして現れた人物の中には、見知らぬ者も幾人か含まれていた。
光の人型から姿を取り戻し、そこから真っ先に飛び出したのはウィノナだ。
だが、そう認識した直後、不安になる。
本当に彼女なのか、咄嗟に自信がなくなった。
それというのも、先程まで身に付けていた物と、まるで印象が違ったからだ。
機能性を重視した作りの、黒いレザーで全身を纏った彼女は、寸前に見た彼女と、その雰囲気に違和感がある。
それは小さな違和感だったが、雰囲気だけが原因ではなく、年齢もまた、違っているように見えたからかもしれない。
あちらで何年を過ごしたのかは分からないが、変えてしまうだけの体験があったのだろう、との察しはついた。
あるいは、ダオスの激昂は、これに原因があるのかもしれない。
「──ダオス!」
喜色満面で駆け付けるウィノナに、ダオスは驚愕した目を向ける。
たが、次いで背後に佇むクレス達を見て、明らかに警戒して身構えた。
そんなダオスを見て、ウィノナは安心させるように優しげな笑み見せる。
「待って、ダオス! アタシ達は、ダオスを助けに来たんだよ!」
◇◆◇◆◇◆
ウィノナの嘆願すら込められた言葉に、ダオスの動きが止まる。
警戒を解く事がないのは、背後に見えるクレス達を信用できないからだ。
一度その命を追い立てられた相手、しかしそれがウィノナと共にあり……そして、一定以上の距離に近づいて来ない。
それがダオスを警戒させ、決して油断させない原因だった。
だが、警戒とそれ以上に緊張を隠せないのは、クレス達も同じだ。
ウィノナの邪魔をしないよう、必要以上に近づかないのは当然としても、それが安全に繋がる訳でもない。
ダオスが怒りに我を忘れてしまえば、真っ先に狙われるのは、その最も近くにいるウィノナではない。
クラースはモリスンの傍に立ち、庇う姿勢を取る。
そして、その顔を横目で見て、驚きと共に納得した。
これでは、クレス達が過去の時代でのモリスンと、見間違えても無理はない。
「……君達は?」
「お探しの魔術師と、召喚術士ですよ、モリスン殿」
「私の名を……?」
当のモリスンは、突然の闖入者に驚きはしても、警戒は薄かった。
何しろ、クレス達と共に出現した者達だ。
信頼はともかく、敵ではないと予想できる。
しかし、そのウィノナから、理解できない発言が飛び出したのには困惑させられた。
──封印された魔王を救う、とは一体……?
「我々は魔王ダオスを倒す為に、追いかけてきたのではありません。──逆です」
「それは、一体なぜ……」
話している合間にも、ウィノナとダオスの距離は縮まっていく。
懇願するかのように手を伸ばすウィノナに、ダオスもその手を取ろうと、逡巡している様子が窺える。
しかし結局、その手が取られる事はなかった。
出した拳を握り締め、ダオスは眼前に持ち上げる。
震える拳を抑え、自らに言い聞かせる様に手を下ろした。
「これは……、どういうことだ」
ダオスの詰問に、ウィノナは動じる事なく一歩出る。
ウィノナは自分とクレス達の思いが伝わるよう、必死になって声に出した。
「クレス達がした事は……確かに許せないと思う。アタシも話を聞くまで、そう思ってた。でも、お願い。──聞いて」
ウィノナの必死な眼差しに嘘はない。
そもそもダオスに、ウィノナを疑う気持ちはなかった。
それでも素直に信じることが難しいのは、自らの負う責務の為だ。
もう二度と、足元を掬われるてはならない、という思いからだった。
「クレス達は現代からやって来た。だから、ダオスが追い詰められれば現代に逃げる事も知っていたし、その先で封印される事も知っていた。だから、クレス達はその再現をしなくちゃならなかった。過去をみだりに変えるのは危険だから。……でも、それだけじゃない!」
両手を広げ、声を張り、ウィノナは必死に訴えるが、ダオスの表情は変わらない。
それよりも、むしろウィノナは彼らに利用されているのではないか、という疑いさえ浮上していた。
ウィノナを盾にすれば、ダオスは攻撃の手を緩めざるを得ない。
あるいはそれこそが狙いではないか、とダオスは思う。
「この時代じゃ、魔術が使えないぐらいマナが希薄な事だって知ってた! だから世界樹を癒して、マナを回復する手立ても過去で取ってきた! 全部全部、ダオスを救う為には、それしかないって思ったからなンだよ!」