【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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終わりの場所、そして始まる場所 その2

 

 ウィノナは息を切らす程に、気持ちを込めて訴え続けた。

 全ての労苦は倒す為ではなく、救う為であると。

 

 だが、そうしたウィノナの訴える視線を受け止めて尚、ダオスの表情は変わらない。

 場を沈黙が支配し、聞こえるのはウィノナの呼吸音と、僅かな衣擦れ音だけだった。

 

 ダオスはその端正な顔を、ゆっくりとクレス達に向ける。

 

「……計られた、ということか」

 

「したのは僕らだ。ウィノナは関係ない」

 

「それを信ずる証拠は!」

 

 ダオスは声を荒らげ、拳を翳して外に振るう。

 

「またも封印する為、今度は彼女をも利用し、機を窺っているだけではないのか! 失われたマナを回復するだと? ならば今も尚、魔術が使えないのはどう説明する!」

 

「──待ってください!」

 

 ミントが制止しつつ、前に出て声を上げた。

 

「私達がしてきたことは、世界樹を癒す事ではなく、その癒す手段を確立することでした。過去の時代で癒しては、歴史が変わってしまう恐れが強かったから……!」

 

 ミントは両手を胸の前で組み、天井のあらぬ方向を見つめる。

 その方向にあるはずの世界樹を見つめながら、期待を込めて天に祈った。

 

「……約束を守ってくださるなら、そろそろのはず」

 

「何を言っている……」

 

 そして、ミントの言葉を合図とするかのように、特大の振動が墓地を襲った。

 その場に居る全員が、その発生した強力過ぎるエネルギーを感じ取る。

 

 ダオスの時とは比較にならないエネルギーの奔流が、この地の近くで起きているのだ。

 その余波を受けて天井に罅が入り、次いで裂け、墓地に瓦礫と土が降る。

 

「ここは危険だ、崩落するぞ! 表に出よう!」

 

「時間を稼ぎ、もろとも生き埋めにする気だったか……!」

 

 モリスンの言葉に、ダオスは大いに顔を顰め、マントを翻して構えを取る。

 だがそこへ、ウィノナが更に近付き腕を拡げた。

 

「お願いだから信じて! アタシ達はダオスを助けたいンだよ!」

 

 ウィノナの必死の懇願が届いて、ダオスは思わず息をつめた。

 崩落してくる天井を思えば、確かに猶予はそれ程ない。

 

 ウィノナを助けながら他の者を打ち倒し、その上で逃げ出す時間的余裕があるかどうか。

 

 どうしたものか、と一瞬の思考の内に、またも天井が崩れる。

 その生まれた大きな瓦礫は、ウィノナの真上に落ちようとしていた。

 

 咄嗟に気付いたクレスが、地を蹴り手を伸ばす。

 しかし、その距離は絶望的に遠く、間に合わないことはクレス自身も理解していた。

 

 それでも、手を伸ばさずにはいられない。

 きっと助けられると、無茶でも何でもやってやると、身体に気合を入れて手を伸ばす。

 

 あんな思いまでして来たウィノナを、こんな所で死なせる訳にはいかない。

 そんな結末は受け入れらない――その一心で手を伸ばす。

 

 しかし、それよりも早くダオスが身を投げ入れ、覆いかぶさるようにウィノナを庇った。

 ダオスの腕の中で抱き締められ、ウィノナは呆然とする。

 

 落下して来た瓦礫はダオスに衝撃を与えたが、怪我らしい怪我もなく、悠然と瓦礫を退け、立ち上がった。

 

「早く外へ!」

 

 クラースは片腕を大きく振って、出口へ走りながら叫ぶ。

 ダオスはウィノナを抱えて立ち上がり、今度は躊躇ったりしなかった。

 全員が出口を目指し、ただひた走る。

 

「ちょっ……! 降ろして、自分で走れるってば!」

 

 赤面しながら身を捩るウィノナだったが、ダオスはそれに取り合わない。

 激しい振動が続き、いつ崩落するとも限らない中で、ウィノナを降ろす訳にはいかなかった。

 

 手間を考えれば、走り続けた方が良いという判断だったし、実際その足取りが一番確かなのがダオだった。

 

 人を一人抱えているというのに、その体幹は安定していて危なげが無い。

 後から追随するクレス達にも、追いつかれる事なく走り続けているのが、何よりの証拠だった。

 

 ウィノナは最早ダオスの腕から逃れる事を諦め、せめて少しでも邪魔にならないよう──あるいは全く他意はないが、体重を軽く感じるよう──に身体を小さく縮こませる。

 

 そうして走り去る通路の中、ふと視線が一つの物に吸い寄せられる。

 それは墓石だった。

 

 通り過ぎていく墓石を見て、ウィノナは大きく記憶を揺さぶられた。

 

 かつて休息する場として利用した部屋──。

 暇つぶし程度の理由で墓石を眺め──。

 そしてチェスターが一番始めにそれを発見し──。

 

 一際大きな振動と落盤に、ダオスは大きく横に跳躍する。

 それでウィノナの意識が墓石から遮断され、今はそんな過去の記憶よりも、生命の危機を優先するべき時だった。

 

 人工的な墓地部分を抜け、そこに繋がる自然窟へ足を踏み入れる。

 落ちる瓦礫や石は激しさを増し、前進する先にも、次々と落石した。

 

 そもそもの地面にも、既に落ちていた岩などがあって、進める場所も限られている。

 生き埋めの可能性も脳裏を掠めたその時、ついに出口の光が見えた。

 

「出口だ! もうすぐ! 皆、頑張れ!」

 

 クレスが光の中に身体を投げ出すように飛び込み、その後に全員が続く。

 全員が何とか抜け出した丁度そのタイミングで、入口が崩落して完全に埋没した。

 

「間一髪だった……」

 

 クレスが起き上がって、肩で息をすると、それですぐに異変を察知した。

 大きく呼吸を繰り返せば、その違いは尚も顕著に感じられる。

 

 空気の密度が違う、とクレスは感じた。

 そして、それは他の全員も同様に思ったことだ。

 

 それ以外にも何かが違う事は分かったが、何がと言われると表現するのは難しい。

 ただ分かるのは、心地よい清らかさが満ちている、ということだ。

 

 見上げると、遠くには青々と茂った葉を持つ、大樹が見える。

 そして、その方向に見える大樹と言えば、一つしか考えられない。

 

 山の向こう、トーティス村より程近く、精霊の森のある場所に、クレス達が知るより遥かに大きな樹があった。

 茫然と見つめていたダオスも、困惑した声音で言葉を零した。

 

「あれは……。では、本当に?」

 

「いい加減降ろしてってば!」

 

 ウィノナが遠慮がちに暴れながら言うと、今度はダオスも素直に降ろす。

 ウィノナは気まずそうに身なりを整えた後、上目遣いに尋ねる。

 

「……信じてくれた?」

 

「これを見せられれば、信じる他ない……。死に行くしかないと思った大樹が、ああも見事に復活しているとは……」

 

「賭けな部分もあったけどね」

 

 ウィノナは苦笑し、ミントに流し目を送る。

 ミントは視線を受け取って、上品に手を口に添えて、誤魔化す様な笑みを浮かべた。

 

「世界樹の元まで行きましょう。精霊マーテルに感謝と、そして一応……その無事を確認しなくては」

 

 ミントの言葉に誰もが賛成し、そしてダオスを伴って、世界樹の根元へと急ぎ向かった。

 

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