【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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宿願の結実 その2

 

 チェスターは考えることなく、感情のままに吐き出した。

 しかし、自分で言った言葉を頭で理解するにつれ、更に怒りが募って来る。

 

 憤慨が更なる憤慨を呼び、とにかく怒りのままに言葉を吐き出そうとしたその時、クラースが手を挙げて制止させた。

 

「まぁ、落ち着け。一度、冷静になってよく考えてみよう。そう……チェスターが言う通り、可笑しな話だ。どうして過去の時代に、ウィノナの墓がなくてはならないんだ? 我々が考え得る必要な役目は、全て終わったはずだ。後はダオスを見送って、それで全ては事もなし。他に何がある……?」

 

「それは……、確かにそうです」

 

 クレスも同意して頷き、首を捻る。

 しかし、その隣でミントが、深刻な表情で呟くように言った。

 

「今までだって、現代で観測できたことに、無意味なことは一つもありませんでした……。過去の時代で行った、私達が起こした必然でした」

 

「……ってことはさ。つまり、ウィノナがこれから過去へ行くことにも、意味があるってワケ?」

 

 アーチェが不満顔で言うと、クラースも流石に首を傾けた。

 

「当然そうだと言いたいが、根拠がな……。単に墓石に刻む年号の、帳尻合わせの為だけとは思えん。そもそも、単に間違っただけなのか、他に狙いがあるのか、それさえ我々には分からないんだ」

 

 そう言って黙り込むと、誰もが必死で考え込み、しばしの沈黙が流れた。

 誰もが思考に耽って、身動ぎさえしない。

 

 幾らか時間が経った後、ミントがふと、思い出したように顔を上げて言った。

 

「私たちが旅をしたあの時代、まだ地下墓地はありませんでしたよね? でも、だとしたら……一体いつ造られたのでしょう?」

 

「いつというより誰が、と考えるべきかもしれない。……ウィノナの墓は地下墓地のどこにあったんだ?」

 

 クラースが顎の下に手を当てて返答すると、クレスが疑わしそうに眉根を寄せる。

 

「それって、何か関係あるんですか?」

 

「あるかもしれないな。──で、何処なんだ?」

 

「ダオスが封印されていた奥の間より、少し手前でした」

 

「つまり最奥、か。だとすると……」

 

 クラースは一度考えを整理するように、首を右へ左へ傾げて、それから重い口調で話し始める。

 

「あぁいった墓地の場合、奥地に行くほど、身分の高い者が葬られるのは、よくある話だ。……ウィノナはこの先、過去に戻ることで身分が高くなるのか? それが過去に戻る意味なのか?」

 

 クラースは皆の反応を伺って、ぐるりと見渡す。

 期待する顔、不安になる顔、苛立たしくする顔……。

 

 見せる顔はそれぞれ違うが、共通していることは、誰もクラースの言に納得していない、という事だった。

 

 そしてクラースもまた、皆と同じ意見だ。

 

「──私も違うと思う。幾つか別の理由も考えられるだろうが、墓地の最奥に葬られるのは、何も高い身分の人間だけじゃない。例えば、墓地を作った人間なんかも、その功績でもって奥地を使用する権利を与えられる事があるんだ」

 

「では、クラースさんはそれが理由だと?」

 

 クレスは息を呑む。

 

「それが理由なんですか? ウィノナがあの時代であの場所にいるから……。だからこそ、墓地が出来るというんですか?」

 

 ──他の誰でもなく、ウィノナが?

 

 クレスにはそれが信じられない。

 何故ウィノナでなければならないのか。

 

 クレスの中では、ウィノナと墓地が線で繋がらない。

 クラースは尚も続ける。

 

「勿論、それが絶対の正解だ、と言うつもりはないよ。……しかし、一応の納得はできる」

 

「でも、本当にそうなら、有力者として近くの町に住んでたんじゃないですか? 漁村のヴィオーラ、そこに子孫が住んでいたっておかしくないですし……」

 

 クレスの咄嗟の反論に、しかしクラースは首を横に振る。

 

「クレス、ウィノナは捨て子だったんだろう? トーティスから目と鼻の先、捨てた親か、その親戚が住んでいるかも、と思わない筈がない。クレスの親御さんだって、当然捜したに違いない。しかし現実として、ウィノナは養子になっている」

 

 だから、あの村にウィノナの親戚はいなかったに違いない、とクラースは持論を展開した。

 そして、口に出したことで、なお確信を深めた。

 

 だからこそ、過去に飛んだウィノナの実情も、あるていど類推できる。

 

「どちらにしても、ウィノナに子はいなかったろう。というより、もしいたとしても、遠く知らない土地に送られなければならない。身内らしき者がいたら、幼い頃のウィノナはその村に送られる事になり、トーティスからいなくなる。……であれば歴史が変わり、ここにいるウィノナすら、いなくなってしまう可能性が高い」

 

「ああ、もう訳分かんない! じゃあ、どうすんのさ!?」

 

 堪り兼ねたようにアーチェが頭を抱え、クラースも帽子を取って乱暴に頭を掻いた。

 

「話が脱線しているな……、元に戻そう。百年前に地下墓地はなかった。じゃあ一体、誰が作ったものだったのか。それが過去に戻ったウィノナであり、それこそが墓石にあった、死没の意味だろうとも思う。突然どこかの誰かが作り出したと考えるより、よほど理屈に合っている」

 

 自分口から出た言葉に、クラースは自分自身で納得がいった。

 ──理屈に合う。

 

 そう、理屈に合ってしまうのだ。

 こうしてクラースが気付いた事、類推した事が歴史の中に組み込まれているかのような違和感すら覚える。

 

 クラースが次に言う言葉は、きっと全てを決定付けてしまうだろう。

 もしかしたら、あるいは別の、と期待する誰かの気持ちを、打ち砕いてしまう言葉……。

 

 その事を、クラースは申し訳なく思った。

 しかし、言わねばならないと。

 

 クラースは表情を隠すため、あえて帽子を被り直した。

 ──逆説的ではある、しかし……。

 

 因果の逆転。なればこそか。

 

「何故ならあそこは、ダオスが封印されなければならない場所だからだ」

 

 その言葉はアーチェの胸に、抵抗なくストンと落ちた。

 反論はしたかったが、それだけの根拠を持たない。

 

 子供の癇癪のようなもので、とにかく目の前の事実が気にくわないだけだし、それ以上の意味はなかった。

 

 先程から何も話さないウィノナに、アーチェはここでようやく顔を向ける。

 

「ねぇ……、まさかウィノナは、そこまで考えてたの?」

 

「それこそまさか。ただ墓石に名前があったんだから、きっと意味がある、それなら仕方ないか、って思ったぐらい。──だからダオス、もう最後なんだ」

 

 吹っ切れたような笑顔を見せるウィノナに、ダオスは切れ長の目が伏せた。

 

「大好きだよ、ダオス。……きっと故郷を救ってね。」

 

 ウィノナはここに来て確信する。

 この先の未来は誰にも分からない。

 

 しかし、ダオスの希望は叶い、長い旅は終わりを迎えるだろう。

 滅び行く星は救われ、そしてダオスの帰りを待つ民から、万雷の拍手と歓呼によって祝われるに違いない。

 

 だから笑う。

 ウィノナは笑顔で、送り出すことが出来る。

 

「ウィノナ……」

 

 ダオスは顔を上げ、真っ直ぐにウィノナへ視線を合わせた。

 ウィノナもまたダオスに視線を合わせ、毅然とした態度で頷く。

 

「だから、もう行って。今は覚悟ができてる。優しい言葉を聞いたら、きっと挫けちゃうと思うから」

 

 ウィノナの決意を聞いたダオスは、ぐっと口を引き絞り、ウィノナから顔を背ける。

 何か一声でも、と思った気持ちは、ウィノナの方から止められてしまった。

 

 ダオスはその代わりに、辺りにいる一同へと、一人ずつ視線を動かす。

 

「世話になった……。この苦労に報いる手段を持たないが、恩と感謝は決して忘れず、心に刻むと誓う」

 

 それぞれが頷き、気にするな、と口々に言った。

 

「ダオスの為というより、ウィノナの為にやったんだ」

 

 チェスターが言うと、クレスも曖昧に頷く。

 

「僕ら一人一人がいても、きっと救うという話にはならなかったと思う。だからきっと、これはウィノナの功績だ」

 

「そのウィノナが会えないっていうんだ。俺たちが健康に生きてても、五十年後ここには来ない」

 

「その方がいいだろう……。ウィノナも息災でな。そなたへの感謝と恩義は、常にこの胸の奥に」

 

 ダオスは情感の詰まった声を掛け、せめての手向けとして、ストールによく似たダオスのマントを肩に掛けた。

 ウィノナは顔を俯けたまま、動きもせず、返事もしない。

 

 ただその掛けられたマントを、掻き抱くように両手で握った。

 ダオスはそれを目にしただけで満足すると、背を向ける。

 

 俯いたウィノナは、それでも顔を上げない。

 しかし、その背が小さく震えた。

 

 もうダオスは行ってしまう。行けばもう、二度と会うことはない。

 ウィノナはこの後、百年前に飛ばねばならないし、ダオスはきっと過去にはやって来ないだろう。

 

 このままでいいのか、ウィノナは自問自答する。

 せめて一言、その背に伝えることがあるのではないか。

 

 行かないで欲しいとは言えない。

 だが会いに来て、迎えに来て、とは言えるのではないか。

 

 ──幾ばくかの逡巡。

 やっぱり一言、と声を掛けようと顔を上げたのと、ダオスの姿が光に変わり、そして消えるのは同時だった。

 

 ウィノナは消え行く光の粒子を、呆然と見送る事しか出来なかった。

 ──遅すぎた。

 

 あまりに遅い決断だった。

 ウィノナはがくりと膝を突く。

 

 ダオスのマントをより強く掻き抱き、そしてその背を震わせる。

 心の内から溢れる激情を抑えようと、少しは我慢してみたが、まるで無理だった。

 

 涙が落ちて、地面に幾つもの点を作る。

 小さく嗚咽を漏らし始めたウィノナに、誰も掛ける言葉を持たなかった。

 

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