【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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帰郷 その2

 

 無事、村へと帰ったクレス達は、そのまま自宅へと足を運んだ。

 その頃にはウィノナも大分落ち着きを取り戻し、隣を歩くアーチェと、僅かながらに談笑できるまでになっている。

 

 アーチェは締め落とされ事を愚痴りながら、チェスターの背中を箒で突つく。

 

「ねぇ、信じられる? 他にもっと、やりようがあると思わない?」

 

「確かにちょっと、アーチェに酷すぎたよね」

 

「だから、もう謝っただろ? あんま昔のこと穿(ほじく)り出して、文句言うのもどうかと思うぜ?」

 

「──たった十分前の事ですけど!?」

 

 アーチェとチェスターの喧嘩はいつもの事だし、それが二人の交流方法だと知っているので、誰もとやかく言わない。

 しかし、ただ一人それに慣れていないモリスンだけが、仲裁した方がいいのか迷う素振りを見せていた。

 

 クレスの家が見えてくると、近くまでチェスターを出迎えに来ていた妹のアミーが目に入った。

 チェスターは一目散に駆け出すと、その小さい身体に抱きついて、そのまま両脇の下に手を入れ、持ち上げる。

 

「いま帰ったぞ!」

 

 笑顔で声高に言うチェスターに、アミーは困惑を隠せない。

 いったい何に喜んでいるのか不明だし、起床してから数時間会えなかっただけで、その反応は過剰に思えた。

 

 喜ぶ兄を見るのはアミーも好ましく思えたが、何しろ突飛な事で反応に困った。

 

「昨日の夜からいないのは知ってたけど……。お兄ちゃん、どうしたの?」

「ああ、何て言ったらいいかな。まるで一年以上会ってない気がしたから、かもな」

 

 尚のこと言ってる意味が分からず、アミーは首を傾げる。

 そんな愛らしい妹を、チェスターはもう一度抱きしめてから地面に降ろした。

 

「うわぁ、この子がチェスターの妹さん? かっわいいなー。はじめまして、アーチェ・クラインだよ。気軽に、アーチェさんって呼んでね」

 

「お前にさんづけはいらんし、そもそも勝手に近寄るな」

 

 人懐っこい笑みを浮かべて、手を差し出すアーチェに、チェスターは横からその手を叩く。

 そうして、アミーを庇うように立ち位置を調整した。

 

「ちょっと何よ。今はアンタに用はないから。とっととそこ、どきなさいよ」

 

「お前になくても、こっちにゃあるんだよ。妹を守るのは兄の役目だ。オマエなんかと会わせてみろ、どんな悪影響があるか分からん」

 

「何よ、その言い草さはー!」

 

 ついに取っ組み合いの喧嘩が始まり、アミーはそれを見て固まる。

 

 チェスターにとって、仲が良いと言えるのはウィノナくらいだが、その彼女にだって、ここまで遠慮のない喧嘩はしない。

 

 クレスはやれやれ、と嘆息交じりにそれを見つめ、誰が止めに入るか仲間内で相談を始めた。

 

 

 

 結局、気が済むまで好きにさせよう、という事で話が纏まり、クレス達は自宅へ帰宅した。

 出迎えたのは母のマリアで、病弱な身体を押してまで、クレス達の身体を気遣った。

 

「ああ……、お帰りなさい、クレス。地震があったというのに、あなたの姿が見えないから、どんなに心配した事か……。お父さんに捜して貰うように言っていたけれど……。でも、大丈夫だったみたいね」

 

 クレスの髪を撫でつけながら、眉根を八の字に下げていたマリアは、次にウィノナに顔を向ける。

 

「ウィノナも良かったわ。……でも、何だか……随分違って見えるわ? それにその服装は……、どうした事かしら」

 

「恋をすると、女の子は変わるもンだよ、お母さん」

 

 ウィノナが照れたように言うと、マリアはまぁまぁ、と頬に片手を当てて、嬉しそうに笑った。

 

「そうよね、ウィノナも年頃だから……! 今までそういう話を全然しないから、お母さん心配してたのよ?」

 

「やめてよ、お母さんっ。……お客さんも来てるンだから」

 

 そこでマリアはようやく、後ろにいる人物達に気が付いた。

 

「あら、こんな所で立たせたままで、大変失礼しました。どうぞ、お入りになって下さいな」

 

 柔らかい笑顔を向けて身体を引き、マリアはドアの奥を手で示した。

 クレスからも入るよう促して、それで全員が後に続く。

 

 マリアにとっても、モリスンとは旧知の仲だ。

 その再会もあって、大変に機嫌が良かった。

 

 

 

 その日の夕食は、マリアが腕によりをかけて振舞う事になった。

 起き上がれるようになったばかりだし、長い時間、調理場に立つのは身体に障るから、とクレスは止めたのだが……。

 

 マリアは珍しく、強情に首を振って譲らない。

 外から連れて来た子供達の友人に、母らしいところを見せたいのだろう、というミゲールの言葉に、クレスは渋々引き下がった。

 

 それに、ミントが法術でサポートしてくれたのも大きかった。

 普段以上に元気になったので、料理中も倒れることなく、無事全て作り終えた。

 

「夕食を召し上がるだけじゃなく、是非一泊していって下さいな」

 

「ああ、いや……。私はすぐにでもお暇しようと……」

 

 クラースが固持するような仕草を見せたが、ミゲールの一言で動きが止まる。

 

「旨い酒もありますから。是非色々、話を聞かせていただきたいですな」

 

「ああ、うん……まぁ、そういう事なら、無碍に断るのも失礼というもの」

 

 だらしなく相好を崩し、一瞬で態度を改めたクラースに、クレスは非難めいた視線を送る。

 

 半眼で見つ続けていたのだが、その視線に気づくと、クラースは咳払いをして、窓の外に顔を向けた。

 

 それを横で見ていたウィノナとアーチェは、額を突き合わす距離で、くすくすと笑い合う。

 そんな二人を、ミゲールは物珍しく見ていた。

 

「随分と、仲が良いみたいだな」

 

「ウィノナとは大親友ですから!」

 

 アーチェが顔を輝かせて頷くと、ウィノナも横で頷いてみせる。

 様子を見ていれば、それが嘘でない事はすぐに分かるが、ミゲールは釈然としない気持ちが強まった。

 

「……だが、村で見かけた事はないな。ここへ遊びに来た事はなかったのかな?」

 

 ああ、とウィノナはちらり、と視線を外に向けてから答える。

 

「いつもは、外で会ってたから。ユークリッドより向こう側に住んでて、あまり気軽に会えなかったし」

 

「そうそう、たまに会えれば良く話し込んでたよねー」

 

 ウィノナが言ったのは即興の嘘だが、アーチェは即座に話を合わせた。

 全てが全て、嘘と言う訳でもなかったが、誤魔化し続けるのは難しそうだ。

 

 特にアーチェは、どこでボロが出るか気が気ではない。

 だからといって、ウィノナ達の事情の全てが露見する事はないだろう。

 

 しかし、特に腕の事を知られてしまうと、厄介この上ない。

 食事中も手袋を外さない理由を、考えねばならなかった。

 

 そうして、楽しい夕食時間が続く。

 酒の入ったクラースが饒舌に精霊について語り、クレスとチェスターがそれを賑やかし……。

 

 ミントやアーチェがアミーの世話を買って出て、モリスンはミゲールと杯を重ね……。

 とにかく、騒がしくも賑やかな夕食となった。

 

 食事が始まって以降、クレス達は何かと、ミゲールやマリアの注意をウィノナ以外に向けようと協力してくれた。

 

 だが、やはりオペラグローブを外さないウィノナは、マリアからすれば奇異に映る。

 それで、窘めるように、やんわりと注意が飛んだ。

 

「ウィノナ、食事時ぐらい外したらどうなの?」

 

「うん……。でも、お気に入りだから」

 

「マナー違反とまでは言わないけど……、でも、そうした物を着けてると……」

 

 マリアが食事の手を止め、まじまじとウィノナを見つめる。

 視線は腕だけではなく上半身を回り、最後は顔に行き着く。

 ウィノナどことなく気まずさを感じ、手元の皿に視線を落とした。

 

「何だか……凄く、大人びて見えるわね。まるでこの一日で、一年も二年も成長したみたい」

 

「やめてよ。いきなりそンなに老けたくないよ、アタシ」

 

 母の目の鋭さにウィノナは自然、上向くような視線になる。

 まさか本当にそれが真実だとは気付かないだろうが、どこかでバレやしないかと心臓に悪い。

 

 そこへ、ウィノナと母のやり取りに気付いたクレスが、わざとらしく話題を逸らし、それにチェスターが乗っかり、アーチェまで加わった。

 

「あぁ、そうそう……! 精霊の森は、ビックリしたなぁ。普段、奥まで行かないもの!」

 

「お、おぉ、そうだな。護衛役を頼まれなかったら、入る機会なんてなかったろうなぁ……!」

 

「ごえいぃぃ? イノシシ相手に、逃げ回るのがオチなんじゃないのぉ?」

 

「うるせぇな! ンなわけ、あるか!」

 

 賑やかな食事が再開され、それに流されるように大いに食べ、飲み、笑い、そうして本日の食事が終わった。

 

 

 

 クラース達は客間に案内されると、すぐに眠りに落ちた。

 チェスターの家はすぐ近所なので帰宅し、マリアやミゲールは勿論、クレスも自室に戻って、ベッドに入る。

 

 ウィノナも勿論、すぐにでも眠りにつきたかった。

 だが、まだやるべき事が残っている。

 

 クラースが食事の最中、すぐにでも帰宅するつもりだと言っていたので、ウィノナもそれに合わせて準備するつもりだった。

 

 一日や二日、滞在が伸びても、クラースは嫌な顔をしないだろうが、ウィノナの決心の問題もある。

 それが失せてしまわない内に、やるべき事はすませておかねばならなかった。

 

 ウィノナは一つ気合を入れて決心をすると、机の上にある小皿の燭台に火をつける。

 椅子に座り、羽ペンにインクを浸すと、手紙の文面に頭を悩ませ始めた。

 

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