【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
無事、村へと帰ったクレス達は、そのまま自宅へと足を運んだ。
その頃にはウィノナも大分落ち着きを取り戻し、隣を歩くアーチェと、僅かながらに談笑できるまでになっている。
アーチェは締め落とされ事を愚痴りながら、チェスターの背中を箒で突つく。
「ねぇ、信じられる? 他にもっと、やりようがあると思わない?」
「確かにちょっと、アーチェに酷すぎたよね」
「だから、もう謝っただろ? あんま昔のこと
「──たった十分前の事ですけど!?」
アーチェとチェスターの喧嘩はいつもの事だし、それが二人の交流方法だと知っているので、誰もとやかく言わない。
しかし、ただ一人それに慣れていないモリスンだけが、仲裁した方がいいのか迷う素振りを見せていた。
クレスの家が見えてくると、近くまでチェスターを出迎えに来ていた妹のアミーが目に入った。
チェスターは一目散に駆け出すと、その小さい身体に抱きついて、そのまま両脇の下に手を入れ、持ち上げる。
「いま帰ったぞ!」
笑顔で声高に言うチェスターに、アミーは困惑を隠せない。
いったい何に喜んでいるのか不明だし、起床してから数時間会えなかっただけで、その反応は過剰に思えた。
喜ぶ兄を見るのはアミーも好ましく思えたが、何しろ突飛な事で反応に困った。
「昨日の夜からいないのは知ってたけど……。お兄ちゃん、どうしたの?」
「ああ、何て言ったらいいかな。まるで一年以上会ってない気がしたから、かもな」
尚のこと言ってる意味が分からず、アミーは首を傾げる。
そんな愛らしい妹を、チェスターはもう一度抱きしめてから地面に降ろした。
「うわぁ、この子がチェスターの妹さん? かっわいいなー。はじめまして、アーチェ・クラインだよ。気軽に、アーチェさんって呼んでね」
「お前にさんづけはいらんし、そもそも勝手に近寄るな」
人懐っこい笑みを浮かべて、手を差し出すアーチェに、チェスターは横からその手を叩く。
そうして、アミーを庇うように立ち位置を調整した。
「ちょっと何よ。今はアンタに用はないから。とっととそこ、どきなさいよ」
「お前になくても、こっちにゃあるんだよ。妹を守るのは兄の役目だ。オマエなんかと会わせてみろ、どんな悪影響があるか分からん」
「何よ、その言い草さはー!」
ついに取っ組み合いの喧嘩が始まり、アミーはそれを見て固まる。
チェスターにとって、仲が良いと言えるのはウィノナくらいだが、その彼女にだって、ここまで遠慮のない喧嘩はしない。
クレスはやれやれ、と嘆息交じりにそれを見つめ、誰が止めに入るか仲間内で相談を始めた。
結局、気が済むまで好きにさせよう、という事で話が纏まり、クレス達は自宅へ帰宅した。
出迎えたのは母のマリアで、病弱な身体を押してまで、クレス達の身体を気遣った。
「ああ……、お帰りなさい、クレス。地震があったというのに、あなたの姿が見えないから、どんなに心配した事か……。お父さんに捜して貰うように言っていたけれど……。でも、大丈夫だったみたいね」
クレスの髪を撫でつけながら、眉根を八の字に下げていたマリアは、次にウィノナに顔を向ける。
「ウィノナも良かったわ。……でも、何だか……随分違って見えるわ? それにその服装は……、どうした事かしら」
「恋をすると、女の子は変わるもンだよ、お母さん」
ウィノナが照れたように言うと、マリアはまぁまぁ、と頬に片手を当てて、嬉しそうに笑った。
「そうよね、ウィノナも年頃だから……! 今までそういう話を全然しないから、お母さん心配してたのよ?」
「やめてよ、お母さんっ。……お客さんも来てるンだから」
そこでマリアはようやく、後ろにいる人物達に気が付いた。
「あら、こんな所で立たせたままで、大変失礼しました。どうぞ、お入りになって下さいな」
柔らかい笑顔を向けて身体を引き、マリアはドアの奥を手で示した。
クレスからも入るよう促して、それで全員が後に続く。
マリアにとっても、モリスンとは旧知の仲だ。
その再会もあって、大変に機嫌が良かった。
その日の夕食は、マリアが腕によりをかけて振舞う事になった。
起き上がれるようになったばかりだし、長い時間、調理場に立つのは身体に障るから、とクレスは止めたのだが……。
マリアは珍しく、強情に首を振って譲らない。
外から連れて来た子供達の友人に、母らしいところを見せたいのだろう、というミゲールの言葉に、クレスは渋々引き下がった。
それに、ミントが法術でサポートしてくれたのも大きかった。
普段以上に元気になったので、料理中も倒れることなく、無事全て作り終えた。
「夕食を召し上がるだけじゃなく、是非一泊していって下さいな」
「ああ、いや……。私はすぐにでもお暇しようと……」
クラースが固持するような仕草を見せたが、ミゲールの一言で動きが止まる。
「旨い酒もありますから。是非色々、話を聞かせていただきたいですな」
「ああ、うん……まぁ、そういう事なら、無碍に断るのも失礼というもの」
だらしなく相好を崩し、一瞬で態度を改めたクラースに、クレスは非難めいた視線を送る。
半眼で見つ続けていたのだが、その視線に気づくと、クラースは咳払いをして、窓の外に顔を向けた。
それを横で見ていたウィノナとアーチェは、額を突き合わす距離で、くすくすと笑い合う。
そんな二人を、ミゲールは物珍しく見ていた。
「随分と、仲が良いみたいだな」
「ウィノナとは大親友ですから!」
アーチェが顔を輝かせて頷くと、ウィノナも横で頷いてみせる。
様子を見ていれば、それが嘘でない事はすぐに分かるが、ミゲールは釈然としない気持ちが強まった。
「……だが、村で見かけた事はないな。ここへ遊びに来た事はなかったのかな?」
ああ、とウィノナはちらり、と視線を外に向けてから答える。
「いつもは、外で会ってたから。ユークリッドより向こう側に住んでて、あまり気軽に会えなかったし」
「そうそう、たまに会えれば良く話し込んでたよねー」
ウィノナが言ったのは即興の嘘だが、アーチェは即座に話を合わせた。
全てが全て、嘘と言う訳でもなかったが、誤魔化し続けるのは難しそうだ。
特にアーチェは、どこでボロが出るか気が気ではない。
だからといって、ウィノナ達の事情の全てが露見する事はないだろう。
しかし、特に腕の事を知られてしまうと、厄介この上ない。
食事中も手袋を外さない理由を、考えねばならなかった。
そうして、楽しい夕食時間が続く。
酒の入ったクラースが饒舌に精霊について語り、クレスとチェスターがそれを賑やかし……。
ミントやアーチェがアミーの世話を買って出て、モリスンはミゲールと杯を重ね……。
とにかく、騒がしくも賑やかな夕食となった。
食事が始まって以降、クレス達は何かと、ミゲールやマリアの注意をウィノナ以外に向けようと協力してくれた。
だが、やはりオペラグローブを外さないウィノナは、マリアからすれば奇異に映る。
それで、窘めるように、やんわりと注意が飛んだ。
「ウィノナ、食事時ぐらい外したらどうなの?」
「うん……。でも、お気に入りだから」
「マナー違反とまでは言わないけど……、でも、そうした物を着けてると……」
マリアが食事の手を止め、まじまじとウィノナを見つめる。
視線は腕だけではなく上半身を回り、最後は顔に行き着く。
ウィノナどことなく気まずさを感じ、手元の皿に視線を落とした。
「何だか……凄く、大人びて見えるわね。まるでこの一日で、一年も二年も成長したみたい」
「やめてよ。いきなりそンなに老けたくないよ、アタシ」
母の目の鋭さにウィノナは自然、上向くような視線になる。
まさか本当にそれが真実だとは気付かないだろうが、どこかでバレやしないかと心臓に悪い。
そこへ、ウィノナと母のやり取りに気付いたクレスが、わざとらしく話題を逸らし、それにチェスターが乗っかり、アーチェまで加わった。
「あぁ、そうそう……! 精霊の森は、ビックリしたなぁ。普段、奥まで行かないもの!」
「お、おぉ、そうだな。護衛役を頼まれなかったら、入る機会なんてなかったろうなぁ……!」
「ごえいぃぃ? イノシシ相手に、逃げ回るのがオチなんじゃないのぉ?」
「うるせぇな! ンなわけ、あるか!」
賑やかな食事が再開され、それに流されるように大いに食べ、飲み、笑い、そうして本日の食事が終わった。
クラース達は客間に案内されると、すぐに眠りに落ちた。
チェスターの家はすぐ近所なので帰宅し、マリアやミゲールは勿論、クレスも自室に戻って、ベッドに入る。
ウィノナも勿論、すぐにでも眠りにつきたかった。
だが、まだやるべき事が残っている。
クラースが食事の最中、すぐにでも帰宅するつもりだと言っていたので、ウィノナもそれに合わせて準備するつもりだった。
一日や二日、滞在が伸びても、クラースは嫌な顔をしないだろうが、ウィノナの決心の問題もある。
それが失せてしまわない内に、やるべき事はすませておかねばならなかった。
ウィノナは一つ気合を入れて決心をすると、机の上にある小皿の燭台に火をつける。
椅子に座り、羽ペンにインクを浸すと、手紙の文面に頭を悩ませ始めた。