【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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エピローグ
新たな生活 その1


 

 トーティス村を出立したウィノナ達の旅路は、すこぶる順調だった。

 魔物による被害や旅程の遅延もなく、ベネツィアからの船路もまた同様に問題なかった。

 

 トールへ辿り着いてからは、機械兵による妨害はあったものの、やはりウィノナ達の敵ではなく、問題なく最奥の部屋に到着する。

 

 時間転移装置によって百年前──クレス達と共に現代へと転移した直後に帰還し、来た道をまた戻る。

 

 同じ道とはいえ、百年違えば見えるものも随分違って、ウィノナはアーチェと共に、会話に花を咲かせながら道を進む。

 旅の道中、いつまで経ってもそんな調子だったので、クラースも呆れを通り越して感心する程だった。

 

 いつの時代も、女性と言うのは変わらんらしい、と内心で唸る。

 ベネツィアから南下し、ユークリッドへ向かう前にローンヴァレイへ立ち寄る事になった。

 

 元より通り道なのでクラースにも異存はなく、むしろ遠慮なく実家に顔を出すべきだろうとさえ思った。

 

 

 

 小屋の前に着くと、警戒にノックをしてから、返事も待たずにドアを開ける。

 アーチェが先頭になって入ると、バートは破顔して迎えた。

 

「どうしたんだ、こんな急に……! ああ、いや……お帰り、アーチェ」

 

「ただいま、お父さん!」

 

 アーチェも元気に笑って応え、身体をずらしてドアへの道を開ける。

 アーチェの陰から出てきたウィノナとクラースを見て、バートはこちらも歓迎した。

 

「二人もよく来てくれた。さぁ、是非上がってくれ」

 

「では、遠慮なく」

 

 クラースが先に入って、ウィノナもお邪魔します、と会釈しながら中に入る。

 入った後は適当に、テーブルのある席へと座り、報告と雑談の時間になった。

 

 報告とは言っても、ウィノナに関する事情は出来るだけ伏せ、話せる部分だけを掻い摘んで話す。

 

 他にもやるべき事を終わらせた事、これからクラースは帰宅する途中である事などを話し、その都度バートは楽しそうに相槌を打っていた。

 

「そうかそうか……。帰って来るのは、もっと遅くなると思ってたが、それじゃあ……旅はもう終わったんだな?」

 

「そだね。少なくとも、どっかにパッと出かけて、世界を救っちゃうような事はもうないんじゃん?」

 

「何だか凄まじく語弊のある言い方だが……、まぁそうだな。私もユークリッドに戻ったら、今回の旅で得た知見などをレポートに起こして、その後はゆっくりするつもりだ」

 

 そうか、とバートは心底安堵したように溜め息をついた。

 大事な一人娘が危険を顧みない旅をしていた事を思えば、その心配も当然だ。

 

 こうして無事帰って来ただけでも嬉しのだろうに、今後は何処にも行かないと分かれば、安堵の息も漏れるだろう。

 

 バートは暖炉の上に掛けていた、ヤカンの湯が沸き上がった事に気付いて、それぞれにお茶を振舞ってくれる。

 ウィノナがカップを口に運んで喉を潤していると、クラースもお茶を飲みつつ顔を向けてきた。

 

「それで、ウィノナはこれからどうするんだ? 特に考えがないなら、ユークリッドまで一緒に行くのは? 何だったら、泊まって行くといい」

 

 あー、とウィノナは視線を宙に彷徨わせ、それからゆっくりと首を横に振る。

 

「ユークリッドまで一緒に行くのは全然いいんだけど、そこまで世話になるのは……ねぇ」

 

「何だ、遠慮する事はないぞ。知らない仲じゃないんだ、ミラルドにも改めて紹介したいしな」

 

 ウィノナはあからさまな溜め息を吐いてみせる。

 口に運んでいたカップを離し、じっとりとした視線をクラースに向けた。

 

 アーチェといえば、こちらは目を見開いてクラースを見ており、唐突な二人の変化にクラースは身を硬くする。

 

「な、何だ一体、二人して……」

 

「クラースって、恋人いたの!?」

 

 声を上げて驚いたのはアーチェで、今度はクラースが面食らう番だった。

 

「馬鹿! ミラルドはそういうんじゃない、ただの助手だ!」

 

「へぇ……。一緒の家に住んで、家事まで任せている女性を、ただの助手、ねぇ……」

 

 更に冷ややかな視線を向けるウィノナに、クラースはたじろぐ。

 気を紛らわそうとカップを口に運ぶも、中にはもう入っていなかった。

 

 飲めないと分かると、何やら余計に喉が渇いてくる気がして、お代わりを頼もうにも、雰囲気が許してくれそうにない。

 

「うわぁ……。それホントなの、クラース?」

 

「いや、確かに家事はしてるが……。別に頼んだ訳でもなく……」

 

「──そんな訳ないでしょ」

 

 しどろもどろになるクラースに、ウィノナがぴしゃりと言った。

 

「仮に頼んでなくても、クラースから進んでやらず、結局ミラルドさんにやらせる形になっているなら、頼んでいるのと同じ事よ」

 

 ウッ、とクラースの息が詰まる。

 いつの間にかミラルドが家事全般を取り仕切る事になっていたが、事実クラース自身から頼んだ記憶はない。

 

 しかし、ウィノナの言っている事が、そのまま当て嵌まるのも事実だった。

 でも、とウィノナは続ける。

 

「恋人じゃないっていうのは、本当だと思う」

 

「あ、そうなの?」

 

「……あれは妻よ」

 

 クラースは思わず盛大に吹き出す。

 そして、今度ばかりはお茶が切れている事に感謝した。

 

 もしも口に含んでいたなら、前に座るウィノナの顔面は、水しぶきで濡れそぼつ事になっていただろう。

 その後の顛末は、考えるまでもない。

 

「ちょっと待て。私はまだ、結婚していないぞ!?」

 

「あ、そうなんだ。まだ、なんだ?」

 

 アーチェがにんまり笑うのを見て、クラースは失言をしたと悟らざるを得なかった。

 とはいえ──。

 

「いや、そういう事ではなくてだな。そもそも学会の方にも色々提出したいレポートもあるし、それらに時間を使う事を思えば──」

 

「ミラルドさんは既に、内助の功を尽くすような生活をしているように見えた。お茶が必要ならスッと持って来たり、時間になったら食事を運んで来るような……。多分、あの状態から鑑みるに、研究の方についても明るくて、必要な学術書とか探してたら、横から差し出して来たりするよ」

 

 それもまた事実だったが、口にするともっと厄介な事になりそうだったので口を結んだ。

 

 そうして、ある種の期待を込めて、バートへ手にしたカップを小さく掲げ、お代わりの催促をしたのだが、注がれたのはお茶ではなく燃料だった。

 

「お前も、もういい年じゃないか。そろそろ身を固めてもいいんじゃないのか?」

 

 グッとクラースの息が詰まる。

 動揺を押し隠そうと、カップの淵を強く握ると、握りすぎて小さく罅が入った。

 

 アーチェの方へ盗み見ると、そこにはにんまりとした嫌らしい笑みが浮かんでいた。

 

「へぇ~? やっぱり、そうなんだ? 何よクラース、そういう相手がいるなら、ちゃんとあたしにも教えてくれないと!」

 

「お前に一体、何を教えろと言うんだ……」

 

 いよいよ、クラースは頭を抱える事になった。

 そんなクラースに、ウィノナは相変わらずの視線を向けて続ける。

 

「……だからね、話を最初に戻すけど。そんな女性が待っている家に、クラースが女を連れて帰って来てごらんなさい。一体、どれだけの衝撃を与えることか……」

 

「いや、しかし……。ウィノナとは別に、一緒に旅をした以上の仲ではないだろう……?」

 

「それは事実だけど、そんな事は関係ないの。長い時間、信じて家を守って待ってたのに、帰って来たと思えば女連れ……。その事実の方が、よほど問題になるのよ、この場合は」

 

 クラースは腕を組んで唸り、ついには黙り込んだ。

 それを見て、アーチェも頭の後ろで手を組んで、天井を仰ぐ。

 

「クラースって、そういう女心、理解してなさそうだもんねー」

 

「ミラルドさんに改めて紹介っていうのは、むしろこちらからお願いしたいくらいだけど、今回は見送った方がいいと思う。代わりに何か、プレゼントでも用意して帰ればいいンじゃない?」

 

「プレゼントと言っても、何を買えばいいんだ……。いや、第一どこで買えと? ベネツィアまで戻れ、とでも言うのか?」

 

 アーチェは姿勢はそのままに、呆れた様子で溜め息を吐く。

 

「流石にそこまで言わないよー。貰えたら何でも嬉しいものだし、……でも、魔術書とかやめてね」

 

「私を何だと思ってるんだ……。だが、分かった。一応……忠告感謝する、とは言っておこう」

 

「まぁ、今までの態度を見ると、気の利いた事なんてして来たなかっただろうから、きっと面食らうと思うよ。ちゃんとフォローする台詞も考えておいた方がいいと思う」

 

「……ご親切にどうも」

 

 クラースは憮然として溜め息をつき、視線を感じてバートの方へ顔を向けた。

 そうして見た先では、苦笑としか言いようのない表情が浮かんでいる。

 

 何を言わんとしているのか分かって、クラースは更に気持ちが重くなるのを感じた。

 

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