【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

9 / 96
企みを追って その2

 

 ウィノナ達は夜を徹して移動し続け、ユークリッドへと続く山道より、西方にある海沿いの漁村ヴィオーラまでやって来た。

 

 屋敷がある場所はここから近くの筈で、騎士団のような目立つ存在が出入りしているなら、村人の誰かが目撃している可能性は高い。

 

 食糧の買い付けにと、途中で寄った可能性もあった。

 

 そうして話を聞いてみると、騎士団はこの辺に住んでいないと言う。

 しかし、つい最近村の前を横切って行くのを見た、とも聞くことが出来た。

 

 ――奴らのマントの裾を掴んだ。

 

 そう思った時、横合いから風変わりな男に声を掛けられた。

 布を頭にグルリと巻き付けた学者風の男は、自らをトリニクス・D・モリスンと名乗った。

 

 しかし、何しろ危険に身を寄せようとしているところだったから、この男を信用しても良いものか、ウィノナには判断が付かなかった。

 

「君たちは何故、こんな時間に? それも騎士団のことなど尋ねて。余程の事があったのだと、推察はできるが……」

 

 クレスはウィノナの耳に口を寄せ、小さく何か知っているかと聞いた。

 だが、ウィノナは小さく首を横に振るだけだ。

 

 少なくとも、覚えている限りで、この男が予知夢に出たことはない。

 敵だとしたら、そう易々と自分達を逃がさないだろう。

 

 あるいは味方だと誤認させ、警戒を解いたところで背後から襲いかかる、ということもあり得る。

 

 何と答えたものか考えあぐねていると、向こうの方から何かを察したような顔をした。

 

「いや、怪しい者じゃない。……と言っても、素直に信じられないか。君達のお父上とは古い友人だし、トリスタンのじい様とは茶飲み友達だ。アルベインの二粒星のことは、よく話に聞いているよ」

 

 ホッと息を吐いたクレスとは反対に、チェスターはクレスに腕で遮って息巻いた。

 

「アルベイン家に誰が住んでるかぐらい、調べりゃすぐに分かることさ。それだけじゃ、信用するにはまだ早いぜ」

 

 それもそうだとクレスは思い直すと、チェスターに軽く顎を引いて感謝を示す。

 すると、今度はモリスンが参る番で、どうしたものかと唸り始めた。

 

「じゃあさ、トリスタン師匠と頻繁に話してるなら知ってるかもしれない問題。クレスとアタシ、どこまで修練が進んでるか分かる?」

 

 意地悪な質問のつもりだったが、むしろモリスンの顔は明らかに綻んだ。

 

「あぁ、勿論知ってるとも。クレス君が第三修練を終えて、ウィノナさんは第二を終えた頃じゃなかったかな?」

 

 それを聞いて、クレスとウィノナは顔を合わせて頷いた。

 疑い出したら切りがないが、少なくともこんな事を情報収集しないだろう。

 

 クレスは頭を下げて謝罪し、気が抜けない状況でしたから、と言い訳をした。

 

「詳しく聞こう。何があった?」

 

「それが……、何から話したらいいか……」

 

 クレスは唸って首を捻る。

 ウィノナの予知夢の事など、下手に話せばその説明だけでも一日掛かりになりそうだ。

 

 しかも、それは主題ではない。

 あれこれと頭を悩ませていると、ウィノナが先に説明を始める。

 

 クレスが考えをまとめてから話そうと思えば、どれほど時間をかけたか分からない。

 ウィノナのこういう機微は有り難い、と素直にクレスは思った。

 

「簡単に言うと、ユークリッド独立騎士団が、クレスのペンダントを持って逃亡しました」

 

「いや、それはざっくり言い過ぎじゃないかな」

 

 クレスはもっと他に言うべきことがあるはずだと思ったが、モリスンの変化は劇的だった。

 

「まさか、アルベイン家に受け継がれるべき、あのペンダントを奪われたのか!」

 

 モリスンの剣幕に、三人は思わず姿勢を正した。

 

「は、はい! そうです!」

 

「多分、こっちの方に逃げたンじゃないかと思い、追いかけてきました!」

 

「君たちだけで? ミゲールはどうした!?」

 

「いや、そっちはユークリッドの方に直談判して、ペンダントを返してもらうとかで……そっちに行きました」

 

「なんたることだ! すっかり奴らの後手に回されている! 私は行かなければ!」

 

「行くって、どこに行くんです!?」

 

 今にも駆け出しそうなモリスンを留め、クレスは両手を広げて行く手を遮る。

 それだけでは心許ないと思い、ウィノナもクレスに倣って両手を広げた。

 

 そこまでされては、流石のモリスンも立ち止まり、焦る様子を隠す事なく話し始める。

 

「騎士団がこの道の先を進んだというのなら、狙いは一つ。そこにあるのは地下墓地だけだ」

 

「じゃあ、今からそこに?」

 

 クレスが問うと、違う、とモリスンは短く答えた。

 

「最悪の事態だが、まず確認がいる」

 

 モリスンは顔に苦渋を滲ませて、額に拳を当てる。

 

「どちらを優先するか迷う所だが、 ミゲールのペンダントが奪われたのであれば……順番的には、恐らく二番目だ」

 

 順番とは何か、と訊きたかったが、モリスンの迫力がそれを許さない。

 

「彼女の物も同様に奪われているか、あるいは隠し場所を知るため拷問しているか……。どちらにしても、ろくでもない目に遭っているのは間違いない」

 

 ウィノナはとりあえず頷く。

 彼女の物もということは、ペンダントは二つあった、ということだろうか。

 

「囚われているのなら、少し心当たりがある。私はまずそこへ向かうから、決して勝手に地下墓地へは近づくな」

 

 そうは言っても、その為にここまで来たのだ。

 家族に秘密で来たのは単に止められるから、という理由ばかりではない。

 

 夜が明ければ全てが元通りになっている、それを実現させる為に来た。

 だがモリスンには、まるで一人で全てを片付けようとする雰囲気がある。

 

「地下墓地へ向かったのが先行部隊だとしても、あっちの守りは手薄になってるだろう。チャンスはある……」

 

 終いには、こちらを無視して自分に言い聞かせているような口振りを始めた。

 そうかと思えばこちらへ振り返り、頼みたいことがある、とモリスンは言っ放った。

 

「夜が明けてからでいいから、自宅に来てくれ。ここから見て、山側にある。他に屋敷と呼べるような家はないから、すぐに分かるだろう」

 

 そうとだけ言うと、慌しく二人の横を通り過ぎて駆け出していく。

 では、初めから黒騎士の屋敷だと思って向かっていたのは、モリスンの屋敷だったのだ。

 

 あるいは知らずに突入し、モリスンに迷惑を掛けていたかも知れない。

 それを思うと、ここは素直に従っておいた方がよいかもしれない、という気持ちになってくる。

 

「どうする……?」

 

「どうするってなぁ、ウィノナ……。ここまで来たもんを……」

 

「じゃあここは、アタシ達の財布の紐を握ってる、クレスに任せるよ」

 

「ええっ、僕かい!?」

 

 突然、水を向けられて、クレスは面食らって一歩身を引く。

 だがすぐに考え込み、視線を下へと向けた。

 

「……やっぱり、準備は必要だと思うよ。地下墓地っていうのが、どれほど深いのかも分からないんだし。まずはモリスンさんの言う通り、明日屋敷に向かおう」

 

 協力者が出来れば、ペンダントの奪還も無事に済む可能性が高まる。

 そういうことで、村で一泊することになった。

 

 それは良いのだが、床に就いても聞き慣れない波の潮騒(しおさい)、それがウィノナを不安にさせた。

 

 これから行うことが全て上手く行く保障は、勿論ない。

 今まではそれでも、何とかなるだろう、何とかしてみる、という気持ちでいた。

 

 それなのに、その気力を波が引いて行くのと同時、一緒に持っていかれるような感じがする。

 

 これでは果たして安眠させてくれるかどうか。

 しかし、それは全くの杞憂だった。

 

 実際は、目を閉じた次の瞬間、既に眠りに落ちていた。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 一夜明けた早朝……。

 まだ完全に日が昇りきる前に、三人は言われた通り、モリスンの屋敷へと向かった。

 

 辺りには屋敷どころか、民家の一つすらない。

 山際に近づくにつれ見えてくる建築物が、モリスンの屋敷でなければ、他の屋敷など見つけるのは不可能に思えた。

 

 そうして屋敷の門を通り、正面玄関に向かう途中、クレスは二階の窓に人影を見た。

 

「あれ……?」

 

 恐らくは三十代と思しき女性で、もしかしたら母マリアと同年代かもしれない。

 

 長く伸ばした金髪は肩まで掛かるほど長く、耳には何やら白馬とよく似た動物の、不思議なイヤリングをしていた。

 

 クレスの視線に誘われて、チェスターも顔を上げる。

 

 そこにいる金髪の女性が目についたが、モリスンの奥さんだろう、と特に深く考えずにチェスターは思った。

 

 耳には白馬のイヤリングが見えるが、何故(たてがみ)が緑なのか。

 そのような馬は聞いたこともない為、チェスターには強く印象に残る。

 

 女性にしても瞳の色が同じ緑だったので、尚更そう思ったのかもしれない。

 

 見るともなく見て、観察している自分に気がついたチェスターは、今はそんな場合じゃなかった、と我に返る。

 

 そうして、クレスの肩を叩いて屋敷の中へと入っていった。

 

 すると、そこでは既に、今や遅しとモリスンが待ち構えていた。

 その隣には、貞淑そうな少女もいる。

 

 長い金髪は腰まで伸び、普段は芯が強いだろうと感じさせる瞳だが、しかし今は悲しげに伏せられていた。

 

 娘さんですか、とクレスが訊く前に、モリスンもまた悲しげに口を開く。

 

「彼女だけは無事、保護できた……」

 

「彼女……、保護……とは、つまり?」

 

「クレス君、昨晩言った通りだ。拉致され拷問されている可能性があると。誤算だったのは親子共々、拉致されていたことだった」

 

「え……。でも二人共、助け出せたンですよね?」

 

 ウィノナが問うと、モリスンは慙愧に堪えない、といった様子で首を横に振る。

 

「この子――ミントしか居なかった。彼女の母も一緒に囚われ、別の牢にいたと言うから、探してみたんだが……。誰もいなかった」

 

「そんな筈はないんです……! ずっと私のことを励ましていてくれました……!」

 

 伏せていた顔を上げたミントの顔は、泣き腫らした目に涙を溜めていた。

 ウィノナは痛ましい物を見る目でミントに顔を向けたが、目が合う前に慌てて伏せる。

 

 ここで同情するのは容易いが、安易な慰めもミントは求めていないだろう。

 ウィノナには、掛ける言葉が見つからなかった。

 

 しかし、自分達がすることは変わらない。

 戦う理由が、また一つ増えたというだけだ。

 

 ウィノナは強く拳を握った。

 

「ミントの母親を見つけようよ! 別の場所に移されただけかもしれないンだしさ。一緒にクレスのペンダントだって取り返すンだ!」

 

「おうよ、俺たちだって戦える! 全員倒すなんて、大口は叩かねぇ。だがよ、ひと一人、物一つくらい、かっさらってみせるぜ!」

 

「――いいや、君達では無理だ」

 

 きっぱりと言ったモリスンに、チェスターは元よりクレスまで気色ばむ。

 

「……納得できないって顔をしているから尋ねるが、君達は本気のミゲールと戦って勝てるのか? いっそ、三人掛かりの想定でもいいが」

 

 クレスは言い返せず、息を詰まらせた。

 手加減された稽古の中で、一本取った事ならばある。

 

 ウィノナもやはり、同様に取った事があった。

 しかし、実力の半分程まで力量を上げてもらった立ち合いでは、全く手が出ないのが事実だ。

 

 モリスンの口振りからして、黒騎士の力量はミゲールと同等、と推定しているのだろう。

 

 少なくとも、三人掛かりでミゲールを足止め出来なければ、参戦する資格すらない、と判断されていた。

 

 モリスンが、にべもなく断る理由については、確かに納得がいく。

 だとしても……。

 

「私はもう行く。ミントのことは、しばらく面倒見てやってくれ」

 

 返答なく押し黙るクレス達を見て、モリスンは一瞥をくれるだけで出て行った。

 

 せめて即座に反応し、言い返せていれば、また違ったかもしれない。

 だが今、玄関に残った四人は、その背をただ黙って見送るしかなかった。

 




 
漁村ヴィオーラは矢島さら女史著、紺碧の絆に登場します。

実際あの辺り、モリスンの屋敷以外なにもありません。
作中では、行商だけで生活必需品を賄っている様子でした。
でも、本当にそれだけを頼りに生きているとも思えなかったので、近辺に村ぐらいあるだろうと思い、使わせて頂きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。