【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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思わぬ再会、命題の意味 その1

 

 アーチェが何やら含みのある言い方をしてから、姿を見せなくなって、一週間程が経った。

 

 その時はあまり気にしてなかったが、二日と置かずに訪ねて来ていたアーチェが、途端に来なくなったとなれば、心配にもなってくる。

 

 あの時の会話に、どれほどの意味があったのか、ウィノナには分からない。

 しかし、思わせぶりな発言は、どうしても気になった。

 

 ただし、遊びに来ない事に関しては、単に用事があって時間が取れないだけかもしれない。

 彼女は実力ある魔術師でもあるので、何処かで頼りにされていても、不思議ではないのだ。

 

 しかし、更に十日経っても姿を見せないとあっては、ウィノナも別の危惧をしない訳にはいかなかった。

 ウィノナの懐事情が温かくないのは、アーチェもよく知るところだ。

 

 ウィノナには、地下墓地を建設しなければならない、という使命がある。

 その資金をどう用意するのか――。

 

 それについては、常に頭の痛い問題だった。

 事情を知るアーチェが、もしかしたら何処かで負担を強いているのでは、と不安になる。

 

 これはウィノナの命題だ。

 一人で全てを解決しなくてはならないとは思っていないし、アーチェの協力を拒むつもりも更々ない。

 

 しかし、もしもアーチェが身を粉にして働くような仕事をしていたのならば、それは事情が全く異なる。

 その時は、自分が代わると言わねばならないだろう。

 

 

 

 それから更に数日が経ち、悶々として仕事もろくに手が着かずにいると、不意に家の扉が叩かれた。

 アーチェだろうかと考え……いや違う、と思い直した。

 

 彼女の戸の叩き方は、特徴的でもっと容赦がない。

 この音には、遠慮と言うより、不安のような気配が感じ取れる。

 

 そして、村人の誰かならば、もう少し気安い感じで叩いてくるものだ。

 はて誰だろう、と思いながら扉を開けると、そこには予想もつかない人物が立っていた。

 

「──リア!」

 

 扉を開けた目の前にいたのは、ウィノナとアーチェの親友だった。

 ハーメルの町で出会い、予知夢を覆そうと奮闘し、そして一縷の希望を以って、家族と共に町から逃がした。

 

 そのリアが、今ウィノナの目の前にいる。

 

「……あぁ、どうして……!?」

 

 考えるよりも前に身体が動き、駆け寄り、抱きしめる。

 

 彼女の豊かな髪に顔を押し付け、その感触の懐かしさを感じるていると、それでようやく、目の前のいリアが幻ではないと実感できた。

 

 ──しかし、何故。

 そう思わないではいられなかった。

 

 リアの安否は気になってはいたが、しかし同時に考えないようにもしていた。

 予知夢で見えた内容のまま、もしリアが命を失っていたら……。

 

 ウィノナはどうしたらいいか分からない。

 事実がどちらに転ぶか分からないので、わざと考えない様にしていた――そうした部分もある。

 

 だが、それが今、どうした事か目の前にいる。

 

 ウィノナが何かに対してか感謝していると、リアの背後にチラリと満足げな顔をして立っているアーチェを見つけた。

 

 それでようやく、思い至る。

 以前アーチェが聞いてきた内容は、予知夢を見たかどうかと、自分と出会って一年経ったか、という事だった。

 

 アーチェと出会って一年なら、当然リアの予知夢を見てからも一年という事になる。

 そして、予知夢の実現期間は一年以内だと、以前アーチェにも説明してあった。

 

 もしも、予知夢の内容から多くの対策を講じて、それでも結局害されてしまったのなら……、その時は仕方ない。

 

 しかし、変えられるはずだという信念の元に、ウィノナとアーチェは知恵を絞ってリア一家を送り出した……。

 

 それをアーチェが見つけ出し、ウィノナと出逢わせてくれた、という事なのだろう。

 

 一年という時を経て、今なお平穏無事でいることは、予知夢で見た惨劇を回避する事ができた、という保障でもある。

 

「でもアーチェ、どうやって捜し出したの?」

 

 ウィノナの声が思わず震える。

 リアがそっと背中を撫でてくれて、それが嬉しくて目頭が熱くなった。

 

「そりゃあもう、虱潰しにね……。ミッドガルズの近くじゃなくて、海からも離れてる、そういう町や村を中心に。逢えると信じて箒を飛ばしてたけど、案外早く見つかって良かったよ。最悪、見つからない可能性もあったしさ」

 

 だから、とアーチェは頭を掻きながら、小さく頭を下げた。

 

「何も言わずに、行っちゃってゴメンね。……だってウィノナも今、大変だしさ。期待させて駄目でした、とかそういうの止めといた方がいいかと思って、勝手に動いてたんだ」

 

 ウィノナはリアの体から身を離し、何にしろ無事で良かった、と笑顔を見せる。

 

「さぁ、入って入って。──あ、そこ適当に座って」

 

「ありがとう」

 

 リアを室内へ通し、ウィノナはお茶を用意する為に、竈に掛けていた鍋からポットにお湯を移す。

 遠慮してどこに座ろうか迷うリアに、アーチェが手を引いて、テーブルのある椅子に座らせた。

 

 その間にウィノナは戸棚を開いて、とっておきの茶葉を用意する。

 時々やって来る行商から買える物で、常に節約しているウィノナにとっては、大変贅沢な代物だ。

 

 しかし、こういう時に出してこそ、節約している意味もあるというものだろう。

 いそいそと準備して、視線は手元に向けつつ、離れたリアに言うつもりで声を出す。

 

「あんまり良い葉っぱじゃないんだけどね? ウチじゃ高級品なンだ」

 

 ウィノナは笑いながら、動きも軽快に手馴れた様子で紅茶を用意していった。

 

 来るのが分かっていたら、何かお菓子も用意できたのだが、ウィノナの家に甘味など常備されていないのだ。

 

 三人分の紅茶をポットに入れて、テーブルに戻ってそれぞれに注ぐと、ウィノナは席についてリアへと顔を向ける。

 

「今日はゆっくり出来るの? ウチに泊まってく?」

 

「……お願いできるなら」

 

「そんじゃ、あたしもー!」

 

 リアがおっとりと頷き、アーチェは手を挙げて便乗する。

 寝る場所をどうしよう、それより夕食は、などと会話に華を咲かせ楽しい一時が流れた。

 

 再びこうした時間が持てる幸福に感謝し、そうして話は近況報告へと流れていく。

 

「この一年どうしてたの、って訊いてもいい?」

 

「えぇ……。でも、特別な事は何もなかったのよ……?」

 

 リアはこの一年間であった事を、要約しつつ掻い摘んで話した。

 

 アルヴァニスタの冒険者ギルドで人を雇い護衛と共に移動し、山林に囲まれた内陸の町に移り住んだという事。

 そこで護衛をしてくれた者達に一年の契約延長を頼み、そこで共に慎ましく暮らしていたのだ、とリアは語った。

 

「実際に襲撃はあったんだけど、未遂で終わって……。やっぱり弓を扱える人が複数いると違うのね……。手数も違うから、近づく前に逃げ帰ってしまって……。それからは襲撃者も見ていないの」

 

「そうなんだぁ」

 

 ウィノナは安堵の息を吐いた。

 かつて視た夢があった。襲われるリアと、対面する何者か。

 

 その何者かに、リアの背後から弓矢に寄るまばらな雨が襲う。

 矢が何者かに当たった場面は見えなかった。

 

 それがリア達を救う攻撃であったのか、それとも別の何かかまでは、予知夢から分からず、ただ無事でいて欲しいと願うしかなかった。

 

 その、願うことしか出来ない自分を、不甲斐なくも思ったが、こうしてこの場にいるということは、真実救いの矢だったのだろう。

 

 安堵の笑みを浮かべるウィノナに、リアも笑みを返しながら話を続ける。

 

「後は父が新しく事業を始めて、その手伝いなんかをして過ごして……。それなりに忙しく、この一年が過ぎて行ったかしら」

 

「良かった……」

 

 ウィノナが嬉しそうに呟き、テーブルに手を置いたタイミングで、リアがそっと手を重ねる。

 それはオペラグローブに包まれた右手で、リアには無骨な感触が返っているはずだった。

 

「私はウィノナの話が聞きたい……。辛い事だもの、話したくないかもしれないけど。でも、知っておきたいって思うの……」

 

「うん、もう吹っ切れたし、その事はいいんだけど……。聞いて愉快な話じゃないよ。それでも良いなら……」

 

 それからウィノナは滔々(とうとう)と語った。

 リアは逐一相槌を打っては頷き、真摯に話を聞いては、悲しみを分かち合うように涙した。

 

 暗い話はそこまでで、そこからはまた別の近況話に移った。

 お互いにあった楽しい出来事や、リアと護衛の一人とのロマンスなど、女子らしい話題へと移る。

 

 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき……。

 陽の傾きも見えてきた頃、リアがゆっくりと茶器を置いて姿勢を正した。

 

 只ならぬ雰囲気に、ウィノナは思わず首を傾げる。

 

「……ウィノナ。貴女、何か困り事があるんじゃない?」

 

 ぎくりとして、咄嗟にアーチェを見る。

 アーチェは顔の正面で手のひらを合わせ、きつく目を瞑って拝むように手を掲げた。

 

 ウィノナは一度息を吐き、バツの悪そうな顔をすると、音を立てながら紅茶を啜った。

 

 とてもではないが、久方ぶりに──それも再会できるか分からないと思っていた友人に、話せるような内容ではなかった。

 

 ウィノナはリアに目線を合わせられないでいると、彼女の方から再び名を呼ばれた。

 

「ウィノナ、何か困り事があるのでしょう」

 

 ハッキリとした口調は、断定して答えを促すものでしかなかった。

 そう言われれば、リアはもう、細かな事情まで知ってるのだろう、と想像できる。

 

 とはいえ、だからといって、素直に口に出せるはずもなかった。

 

 お金が必要などという事を、再会して間もない親友に相談するのは憚られたし……ともすれば、金の無心とも取られかねない事情を、話せる図々しさもなかった。

 

 だが、事情を聞きたいリアも、そう簡単には諦めない。

 

「……お願い、あなたの口から聞きたいの。是非、聞かせて」

 

 リアに真摯な表情で、そこまで言われてしまえば、抗うことは難しかった。

 ぽそりぽそりと話し始め、最後には堰を切るように話し、地下墓地建設に、どういう重要性があるのかまで、全てを暴露した。

 

 ダオスは滅び行く故郷を救う為に、長い時間を掛けて別の星から来たこと。

 

 その唯一の救う手段を、ミッドガルズが潰してしまう研究をしていた為、それを破棄させる目的で戦争が起きたこと。

 

 それに破れたダオスは、やがて時間を飛び越えてやってくること。

 その魔王が一度封印される為に、地下墓地が必要なこと。

 

 それには莫大な費用が掛かること。

 ウィノナの労働と稼ぎでは、あと十年掛かっても無理であろうこと。

 

 それら全ての話を語り終え、ようやく一息をつくと、リアは満足げに頷いた。

 

「話してくれて、ありがとう」

 

 そう言って、ふわりと微笑む。

 一呼吸の間を置いてから、リアは笑んだ表情を、真剣な表情に切り替え、ウィノナが思ってもいない事を口にした。

 

「──その費用、全額スカーレット家が負担します」

 

「なっ……!?」

 

 ウィノナは開いた口が塞がらなかった。

 一体何を言い出したのか理解できない。

 

 どれほどの費用が掛かるのか説明したばかりだったのに、おいそれと用意すると言える筈もない。

 だが、その疑問は直後にリアの口から語られた。

 

「この事は既に父も知っていることで、そして費用についても全面的に同意しているの」

 

「そンな馬鹿な……」

 

 ウィノナが零すと、リアは手を頬に当て首を傾ける。

 

「知っていたかしら、スカーレット家は多くの資産を持っているのよ」

 

 そう言って、少し悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「……何度も家を取り替えたり、新しい事業を始める事が、簡単なくらいには」

 

 思わず、ウィノナは喉の奥で唸りを上げた。

 それについては、確かに思い当たる節がある。

 

 ミッドガルズから越す前は家に使用人が居たと、リアは言っていた。

 ハーメルに越して来てからは、また直ぐ逃げ出すことになったが、家財も置いたままだった。

 

 あの時は逃げるのを優先し、嵩張る物は捨てていくのも仕方ないことだろう、と思っていたのだが……。

 

 普通ならば、そもそも簡単に住居を変えられるものではない。

 命が掛かっていたのだから、逃げ出す以外になかったのだとしても、そこから新事業など、早々考えられる事ではなかった。

 

 だが、元より裕福な資産があったなら、話は変わって来る。

 リアの言った事は、考えるだに信憑性が増していってしまうのだ。

 

 リアはウィノナの顔から視線を動かさない。

 

「確かに、簡単な額じゃないわ。全ての資産を投げ打って、尚足りないかもしれない。それでも──是非、協力させて欲しいの」

 

 でも、とウィノナはそれでも渋る。

 出資させる金額は、莫大なものだ。

 

 はいお願いします、と簡単に言えるものではない。

 頼っていいのか、甘えていいのか、と自問する。

 

 ウィノナは最初から、その全てを自分独りの力で出来るとは、考えていなかった。

 どこかで誰かに、頼る事になるだろうと思っていたし、それは何かのアイディアを実現させる為に必要な手段だと思っていた。

 

 その為には自分やるべき事を認識し、その力の全てを注ぐのが当然だとも思っていた。

 突如、天からお金が降って来るような幸運を、期待した事は一度もない。

 

 悩み続けるウィノナに、見かねたリアは両手を差し出し、その手に重ねて更に言う。

 

「いつか必ず、この恩は返すと言ったでしょう? 是非、いま返させてちょうだい」

 

 ウィノナの瞳から涙が零れ落ちる。

 そこまで言わせた自分の不甲斐なさと、リアの優しさが心に沁みた。

 

 ウィノナはリアに重ねられた手を取り、両手で包んでから頭を下げる。

 

「よろしく、お願いします……っ」

 

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