【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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思わぬ再会、命題の意味 その2

 

 泣き腫らしたウィノナの顔を、リアが柔らかな布で拭ってくれて、それでようやく落ち着いた。

 隣では、アーチェが肩を抱いて、寄り添ってくれている。

 

 それがウィノナを、落ち着かせる要因にもなった。

 その日は三人で、川の字になるように狭いベッドで寝た。

 

 お互いを抱くように眠り、それから目覚めてからも、三人は着かず離れずの距離で動いた。

 それはまるで、これまで離れていた時間を埋めるようだった。

 

 朝食を摂り、食後のお茶を楽しみながら、リアはしみじみと呟く。

 

「それにしても、昨日は色々と驚いたわ……」

 

「それはこっちの台詞でしょ」

 

 ウィノナが半眼になりつつ、恨みがましく言えば、リアは小さく苦笑した。

 

「まぁ、そうなんだけれど。でも、まさか魔王と呼ばれ、恐れられていた人物が──手段の是非は置いとおくとしても、マナを保護する為に戦っていたなんて……」

 

 信じられないでしょう、と隣に座る、アーチェに流し目を送る。

 アーチェは視線を受け止めると、ヒョイと肩を竦めた。

 

「ま、これが真実だって言っても、誰も信じないのは確かだよね」

 

「その上、実は異星人、でしょう? 信憑性を更に失うのが、オチだと思うわ」

 

 でも、とリアは人指し指を顎先に当て、上方に視線を向ける。

 

「一つだけ気になる事があって……」

 

 この上いったい何が気になるのか、ウィノナは戦々恐々とする思いで見る。

 何しろ昨日一日だけで、リアのその鋭い思考は嫌と言うほど味わった。

 

 そこへ更に言いたいことがあるというなら、それはきっと意味のあることに違いない。

 

「ウィノナはそれでいいの?」

 

「……それって?」

 

 んー、と言葉を濁したリアは、顎先に当てていた指を戻し、視線をウィノナに向ける。

 その表情は真剣味を帯びたようなものではなく、ごく自然な疑問を浮かべたものだった。

 

「あまり持って回った言い方も、良くないと思うから、この際ハッキリ訊くけれど──」

 

「う、うん……」

 

「ウィノナはダオスと、結ばれたいとは思わないの?」

 

 突然の指摘に、ウィノナは息が止まる気がした。

 ドクリと心臓が一度大きく跳ねて、それから思い出したように鼓動が早鐘を鳴らす。

 

 顔に一気に熱が登り、耳鳴りが近くから聞こえて来た。

 

「え、え……?」

 

 ウィノナは咄嗟に返事を出来ない。

 正確には、返す言葉を持っていなかった。

 

 それでとにかく何か言おうとするのだが、思考が空回りするばかりで、上手い言い訳を思い付かない。

 

 口だけが開いては閉じてを繰り返し、結局言葉をつぐんでしまった。

 

 興味深く見守っていたアーチェは、ウィノナが何も言えなくなったのを見て、深く溜め息をつく。

 

「ウィノナ、その献身はさ、大したもんだと思うよ? でも、こんだけ頑張ってるのにさ、何も報われないっていうのもね……。言いたいこと、分かるっしょ?」

 

「いや、でも……」

 

「貴女はもう少し、我が儘言っても許されると思うの」

 

「それは……、うん。かも、しれないけど……」

 

 ウィノナはモゴモゴと口を動かすだけで、それきり俯いてしまった。

 二人の言いたいことは分かる。

 

 全ての努力と献身は報われるべきだ、とは言わないまでも……。

 それでも、報われてもいい努力というのは、あってもいい筈だった。

 

 だけど、とウィノナは言い募る。

 

「ダオスは過去には、やって来ない」

 

「あ……」

 

 言わんとする事を理解して、アーチェが声を漏らした。

 トールの時空転移装置が封印された以上、ウィノナは未来へ転移する手段を持たない。

 

 会いたいと思い、どれだけ願おうとも、もう二度と会えないのだった。

 

「過去をみだりに変えない為──ううん、それによって、ウィノナの存在を不確かにしない為。ウィノナの事を思えばこそ、ダオスは過去へは転移しない。……聞いた話から考えると、そんな感じかしら?」

 

 そう、とウィノナは項垂れるように頷く。

 それを見ながら、リアは首を小さく傾げた。

 

「──でも、それって突ける穴があると思う」

 

「えっ……!?」

 

 ウィノナが顔を上げ、アーチェが驚きを隠すことなく、リアへ身体ごと顔を向ける。

 

「嘘でしょ!?」

 

「ウィノナが一人だけいる状態で、かつ他人が来れない場所で会う。これだけで、条件は満たせるでしょう?」

 

「いや、そりゃあそうかもしれないけどさ……。言うほど簡単じゃないってば。まず、その状態を作るのが難しいんじゃん? どんな場所でも、不慮の遭遇ってあるものだし。……それに、だから不慮って言うんでしょ?」

 

「……そうね。人は勿論、動物はおろか、魔物にだって遭遇しないことが好ましいと思う」

 

 そう言って、リアは時分の顎先を摘まみ、考えに集中し始めた。

 何かを考える時、顎に手をやるのが癖らしい。

 

「動物や魔物も、二人に遭遇すれば逃げの一手でしょう。その逃げた先で何が起きるか、その予想がつかないもの。……だから、屋外よりは中がいい。坑道の様な人工的な洞穴で、かつ新造。これなら動物も魔物も、即座には棲み着かない。そして、出入りを制限できれば完璧ね」

 

 そこまで一人で呟くように捲し立て、しかし諦めの色が濃い息を吐いた。

 

「とはいえ、今のところそんな都合のいいもの、探し出すのは無理でしょうけど……」

 

「当たり前でしょ」

 

 アーチェは至極当然、と頷いたが、それと同時に、そこまで一息に考えられたリアに呆れる気持ちだった。

 

 しかし、それよりも気掛かりなのは、もし実現したならば……。

 きっと三人は、離ればなれになるだろう、という事だった。

 

 何しろ、ダオスと共に生きると言うことは、ダオスに着いていくということで、そしてダオスはこの星そのものから去っていく。

 

「どこか遠い国っていうくらいならさ、何日かけてでも会いに行くよ。でもさ、ダオスと一緒に旅立つっていうなら、それはもう二度と会えないってことだよ……」

 

「そうだよね……」

 

 暗い顔をして眉根を寄せてしまったアーチェに、ウィノナも気持ちを同じくする。

 これは二者択一の問題だ。

 

 どちらか一方を選べば、必ずもう一方を諦めねばならない。

 クレス達との別れの時は、地下墓地の完成という目指すべき道があった。

 

 やり遂げてみせる、という確固たる意思があった。

 だから、こちらを選ぶのに躊躇はなかったが、今のウィノナは、ダオスを選ぶどうの……と考える余裕がなかった。

 

 そもそも、今の内から考える問題でもなかった。

 

 ダオスに再び──あるいは三度──会う為の方法とて、確実に目の前にある訳でもなく、今はリアの疑問に心が揺らいだに過ぎない。

 

 ウィノナが何より優先すべきことは、地下墓地の建設に邁進し、まずその目処を立たせることだった。

 ウィノナは一度かぶりを振って、気持ちを切り替える。

 

「最初に考えるのは、地下墓地の完成だよ。それからのことは、終わってから考える。決意と覚悟は、その後にしか出来ないと思う」

 

 そう言った今のウィノナの目にこそ、決意と覚悟が見て取れる。

 リアは一つ頷き、紅茶で軽く唇を濡らした。

 

 アーチェもまた、それに倣うようにして紅茶を口に運び、それから今後について、詳しい話をする事になった。

 

「分かったわ。それで……確認だけど、ウィノナは墓地が欲しいんじゃくて、あくまで地下墓地が必要なのね?」

 

 リアがそう切り出して、ウィノナは頷く。

 

「うん。そして、その最奥に、封印の間を作る必要があるンだ」

 

「ふぅん……。でも、話を聞いてると違和感があるのよね……」

 

 リアはその小さな顎に人差し指を当てて、小首を傾げた。

 それにつられて、アーチェも首を傾げる。

 

「なんで?」

 

「私は完全に部外者だし、実際に見たこともないから、先入観なく物事を見れるだけなんだと思うんだけど……。それって、順番が逆じゃない?」

 

「……逆? 何が逆?」

 

 ウィノナが難しい顔で尋ねると、リアは視線を天井に向ける。

 

「話を聞くと、必要なのは封印の間であって、地下墓地その物ではないでしょう? なのに、どうして墓地が欲しいの?」

 

「え……」

 

 言われて、ウィノナは咄嗟に言葉を返せなかった。

 確かにこれは、部外者であり、先入観なくして見れる者でければ、出てこない発想だ。

 

 ウィノナはあくまで墓地を作り、その先に封印の間も作られなければならない、と思っていた。

 何故なら、ウィノナが出会った時のダオスは、そうした場所で封印されていたからだ。

 

「極端な話、地下通路を一直線に作り続けて、その最後に封印の間でも良い訳でしょう?」

 

「いや、それじゃ駄目なワケよ。最奥の間の前に、ウィノナの墓がないといけないから」

 

 アーチェが口を挟むと、リアは更に難しく眉根を寄せる。

 

「ウィノナの墓? それも必要なの?」

 

「うん、多分……という予想なんだけど、アタシが寿命か病気か何かで死んだ時、アタシの墓がそこに作られているのね。それが現代で観測されている以上、アタシの墓はそこになければならないから……」

 

「……その墓石が、あくまで違和感なく、その場になくてはならないから? ポツンと墓石を置くだけじゃ不自然、っていうだけの理由で、わざわざ地下墓地まで作っちゃうの?」

 

 そう言われると、確かに墓地の建設という、大事業に違和感がある。

 これではまるで、成金が財力に物を言わせて無理をさせているようにしか聞こえない。

 

 しかし、現代では実際そうなっているのだから、としかウィノナには説明できなかった。

 

「だから、順番が逆だって言ったの。……物事には、しっかりとした原因と、そこから生まれる結果があるものでしょう? 単にウィノナの墓が違和感なく、その場にある為だけに墓地まで作ろうなんて、そんなの本末転倒だもの。ガルドが幾らあっても足りな……」

 

 言ってる途中で、リアが唐突に言葉を切った。

 ハッとした顔で、口を隠すように手を当てている。

 

 それでウィノナもリアの意図に気付いた。

 ──ガルドが足りない。

 

 それがまさに、墓地を作る原因となったのではないか。

 リアはそう考えている。

 

 しかし、何故墓地だったのか、それがウィノナには分からない。

 リアは一体、そこから何を考え付いたのだろう。

 

 リアは細い顎を摘むように持ち、ぶつぶつと小さく呟きながら、視線を外に向けている。

 

 ウィノナはアーチェと視線を合わせ、その意図に気付いたか問うたが、アーチェから返って来たのは、肩を竦める身振りだけだった。

 

 しばらく見守っていると、リアは興奮したように息を吐き、それからカップを持ち上げて喉を潤す。

 それから改めて、リアはウィノナに視線を向けた。

 

「私の家はその商売柄、色々と知ってる事も多いんだけど……。近々、ユークリッドに王国が出来るのは知ってる?」

 

「え、知らないよ、そんな事……! ウィノナは?」

 

 アーチェが驚きと共にに問うて来て、ウィノナも首を横に振る。

 

「初耳……」

 

 現代では、既に王国があった。

 あったからには、いつか建国されたのだろうが、歴史に疎いウィノナは、いつ頃かまでは知らなかった。

 

「ユークリッド大陸にある、三つの豪族が手を組んで、国を作る事にしたみたい。ダオスのような強大な敵が現れた時に、成す術も無いと危機感を持ったのが原因だとか……」

 

 ウィノナはとりあえず頷く。

 

「即ち、デロノイ族、メイルガン族、ユークリッド族、この三つの部族が統一されることにより、建国される予定らしいの」

 

「そして、その王城がユークリッドに出来るのね?」

 

「うん、そう。つまり、王族はいずれ墓に収まる時、埋葬されるに相応しい墳墓が必要となってくるでしょう?」

 

 あっ、とアーチェが声を上げた。

 ウィノナもようやく、リアが何を言いたいか分かってきた。

 

「やけに立派な地下墓地だと思ったけど……。そっか……、そういう理由?」

 

「権威には、それなりに見栄えが必要になるけれど、墓を建てるとなると、場所も考えなくてはならない。王都の傍であれば良いのは確かだけれど、近過ぎるのも嫌がるものよ。ウィノナが言うように、この近辺に造られるなら、遠すぎるとはならないし、適所じゃないかと思う……。売り込むにも十分、勝算がある」

 

「それで、共同融資という形で頼むのね?」

 

 リアは我が意を得たりと、笑って頷いた。

 

「やっぱり、スカーレット家だけで全てを賄うのは難しいと思うの。それこそ、一本道の地下道を掘り進めるだけなら、何とかなりそうだけど……。それで、出資を募る訳だけど、それなりの理由も、出資額も解決しなくちゃいけない。でも王墓を造るとなって、それが地下墓地っていう箔付けも加われば、高確率で頷いてくれると思う。封印の間を造る為の隠れ蓑として最大限活用できるし、地下墓地完成の功で持ってウィノナの墓の場所取りも出来る」

 

 リアは何度も頷き、興奮したように息を吐く。

 

「最初は何故と思ったけれど、よく考えられてる。これは謂わば一石三鳥の策なのね……!」

 

 ダオス封印の間を造ること、その場にウィノナの墓を作ること、そしてその為の資金を稼ぐこと。この三つの条件を満たすことが、これならば可能となる。

 

 盲目的に、未来に存在しているから、というだけの理由で造ろうとしていた地下墓地だったが、その理由を紐解けば、実に複雑な事情が絡んでいた訳だ。

 

 ウィノナは正に瞠目した。

 

 時の流れというものはウィノナにとっては、その為に動きを制限されるものという認識しかなかったが、ここに来て味方であるようにも思えてきた。

 

 クラースがウィノナが過去に渡る必要性を説いたのは、まさにこういう事なのだろう。

 流れに身を任せる、というのとはまた違う。

 

 ウィノナがこの時代に帰って来なければ、アーチェが一年という区切りに気付かなければ、リアとの再会が叶わなければ……。

 

 その全ての縁なくして、地下墓地は完成しないのかもしれない。

 ウィノナは時の流れに背を押されるという感覚を、その身を感じる。

 

 ──だが、それでも。

 

 完成の目途が立ち、期待が持てるようになった。

 無論、ウィノナとしても座して待つつもりはなく、完成までの協力の一切を惜しむつもりはない。

 

 それでも、ようやく完成への道筋をはっきりと感じて、ウィノナは目の奥が熱くなるのを感じた。

 リアはそれを見て、より強く感じさせる笑みを浮かべる。

 

「安心して。全て、私達に任せてちょうだい」

 

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