【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
kuda様、誤字報告ありがとうございます。
それからの行動は早かった。
ウィノナが何もしなくても、全てスカーレット家が取り仕切って豪族と契約を交わしてくれた。
手配した職人が集まり、工事の着手も遠からず始まった。
本来は十数年……あるいは、それ以上の年月が掛かる大事業だ。
だからこそ、早い段階で着工が始まったのだが、クラースに連絡を取る事で、その完成が大幅に縮まった。
事の経緯を説明すれば、洞窟の横穴の拡張など、精霊を召喚して手助けしてくれて、人力で穴を掘る事に比べれば、その速度は雲泥の差だ。
完成への道のりが大幅に短縮され、前代未聞の短時間施工で完成する見込みだった。
これで自分の使命も終りか、とウィノナは感慨深く工事の光景を眺める。
本来、汗して工事を手伝うべきなのだが、クラースの助けもあって、むしろ人手が余っている状態だ。
だから、陽が落ちるまで見守る事が、日課になっているのが現状だった。
それでも、いつお呼びが掛かってもいいように、傍で見守るに留めていたのだが──今の所、声が掛かる気配はない。
その日は自宅に帰り、簡単に食事も済ませると、ぽっかりと空いた時間に将来を思う。
――アタシはこれからどうしようか。
やるべき事はやった。これでダオスが救われる線は繋がった。
──そして、これからは?
その考えが頭の中を際限なく巡り、時間も忘れて没頭する。
一体どれだけそうしていたのか、ウィノナ自身にも分からなかった。
だが、窓の外……海の水平線には、夜明けを告げる、一筋の光が見えている。
それを見ながら、胸の奥にある素直な自分の声を聞いた。
──ダオスに逢いたい。
想えば想うほど、その気持ちが強くなる。
何度逢いたいと思い、そして嘆いた事だろう。
地下墓地建設に向けての準備が終えた事で、気が緩んでしまったのかもしれない。
目の奥が熱くなり、堪えきれずに目尻の端から涙が落ちる。
ウィノナは手の甲で拭い、誘われる様に外へ出た。
そうして、夜明けの光を見つめながら決意する。
涙を見せるのはこれで最後、これからは自分の夢を見つけ、幸せになれる道を模索する。
遠い明日に思いを馳せながら、ウィノナは思う。
その道とは、あの時──ダオスが未来へ旅立つあの時。
ウィノナが言えなかった言葉を伝える、その先にしかない。
ウィノナは目を瞑り、顎を上げた。
朝陽が瞼を溶かすような、温かな錯覚を感じながら、その為の方法を模索し始めた。
◇◆◇◆◇◆
それから幾年もの月日が流れ、地下墓地建設が佳境に入った。
そろそろ終わりも見え始めた頃、アーチェはスカーレット家の仮宅を訪れていた。
スカーレット夫妻への挨拶もそこそこに、リアの部屋に向かうと、軽くドアをノックして返事を待つ。
どうぞ、という警戒を感じない声音が聞こえると、アーチェは気さくな所作でドアを開いた。
「やっほー、アーチェさんだよー」
「あら、やっぱり。明るい声音が聞こえるなぁ、と思ったら……。いらっしゃい、どうぞ座って」
何か書き物をしていたリアが椅子から立ち上がり、近くにあるソファーへ手を向ける。
アーチェも慣れた調子で部屋を横切り、飛び乗るようにしてソファーに座った。
それを見ながら、リアはお茶の用意を始める。
アーチェもまた、その間に何をするでも、何を言うでもなく、窓の外の景色を眺めていた。
用意が終わって、茶器はアーチェの前に置かれ、自分の分の紅茶も淹れ終えると、リアは改めてアーチェに尋ねた。
「……それで、今日はどうしたの?」
「うん、ウィノナのことで……。ちょっと」
アーチェが紅茶に口をつけながら、気まずそうに答える。
「そろそろさ、墓地も完成するワケじゃない? だから、ウィノナの墓石のことも、考えなくちゃなぁって思ってさ」
「そういえば、そんな話もあったわね。でもそれなら、当のウィノナも存命なんだし、考えるにしても気が早すぎるんじゃないかしら」
「そりゃ、そうなんだけどさ。でも、あたしの考えを実行しようと思えば、むしろ今の内の方しかないんだよ」
「どういうこと? ウィノナが嫌がるような事なら、やらない方がいいと思うけど」
「いやぁ……。これ聞いたら、きっとリアも賛成すると思うなぁ。悪戯でも意趣返しでもないけどさ、本当のことも刻んでおかないと」
殊更明るく振舞うアーチェだったが、それには勿論理由があった。
墓地が完成となれば、それは即ちウィノナとの別れが訪れることを意味する。
ほんの数日前、ウィノナはその胸に秘めた想いと決意を語ってくれた。
そして三人による協議の結果、その方策が成れば、墓地の完成後数日から十日前後が、共に過ごせる最後の時間となる筈だった。
それを考えれば、もう殆ど時間は残されていない。
この時間が永遠に続けばいいと思う反面、ウィノナの努力は報われて欲しいとも思う。
そして、その報いとは、離別の先にしかないと分かっていた。
リアもまた、アーチェと全く同じ気持ちで、ウィノナとアーチェの二人から、幾度となく話を聞いてきたからこそ尚のこと思う。
ウィノナは誰より辛い思いを経験したからこそ、誰より報われて欲しいという思いが強い。
「なるほどね、何となく読めて来た。……けど、いいの? 多分、ウィノナ怒るよ?」
「怒られるくらいで済むなら幾らでも。だから、ちょいと良い感じの碑文、一緒に考えようよ」
「もう、仕方ないわね……」
「女の友情を捨てて、オトコを選ぶんなら、それ相応の仕返しを受けるもんなワケ!」
アーチェは悪戯めいた笑みを浮かべ、にししと笑う。
リアはこの数年で素晴らしい淑女として成長したが、アーチェは変わらぬ外見そのままに、その精神性まで変わらないらしい。
でも、どこまでも同じ思いだから、リアはむしろ協力するつもりだ。
──ダオスとウィノナを再会させる。
それこそが二人の願いであり、そしてそれこそが自分の夢だと、ウィノナは語った。
しかし、過去に転移しないダオスが、この先の未来で心変わりする可能性は、限りなく低い。
それに実際転移してきたとしても、時間転移者が過去の人物と不慮の接触があれば、未来への影響がどうなるか分からなかった。
だから、もし逢うにしても、ウィノナが一人だけいる状態で、かつ他人が来れない場所でなければならない。
そしてそれを可能にするには、屋外よりも屋内を選ぶべきだった。
それは例えば、
そして、その様な場所を、今まさに作り終えようとしているのだ。
事が成れば、ウィノナは遠くの世界へと旅立つ。
それは海を隔てた遠い土地ではなく、この星からすらも、いなくなることを意味する。
会いたいと思っても不可能で、手紙すら届けられない、遥か遠い世界へ行ってしまう。
魔王と呼ばれた男が、実は異星人だと聞かされた時は実に驚いたものだ。
しかも、人類への侵略や、世界の破滅を狙ったわけでもなく、故郷となる惑星の救済だけを願っていた。
ダオスのやり方は、確かに苛烈だった。
やり方を間違っていた、とも思う。
だからこそ魔王と呼ばれ、封印されもした。
しかし、その故郷を想う救済の願いは尊いし、その協力に尽力したウィノナもまた尊く思う。
一人の男にかける冷めることのない情熱は、今もウィノナの胸の内に燻っている。
だからこその、あの夜聞かされたウィノナの決意なのだろうし、一種の賭けとなるダオスの説得も、アーチェは必ず成功させるつもりでいる。
リアとアーチェは、ウィノナの想いを成就させるつもりでいるし、またその努力を怠ろうとは思わなかった。
今生の別れは、確かに辛い。
しかし、別れを惜しんで、親友に涙を流し続けさせるつもりもなかった。
だから、そう──。
一種の意趣返しくらい、許してもらってもバチは当たらないだろう。
「私も乗るわ。話を詳しく教えてちょうだい」