戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram>   作:haneさん

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7話 クエストクリア

 □アルター王国サウダ山道

 

 その鬼は群れを率いるボスだった。

 ボスと言っても能力は並。率いる群れも特別強い訳でも、数が多い訳でも無い平凡な群れだった。

 本来なら他の群れ、あるいは別の上位モンスター、あるいは人間に狩られる運命だった。

 その程度の力しか持たない鬼達の群れ。

 しかし、とある人間(ティアン)から戦利品として斧を手に入れた事で全てが変わる。

 

 その斧は超重量武器に分類される程に大きく、そして重い武器だった。扱うには相応のSTRを要求されるが、その重量が生み出す攻撃力は随一である。

 持ち主がただの人間であれば話はそこまでだったのだが、その斧は周囲のリソースを効率よく収集するスキルが備え付けられていた。

 人間にとってはレベルアップし易くなる程度、ゲーム的に言えば”獲得経験値アップ”の効果があったのだ。

 しかし、ボスの鬼はリソースの扱いに長けていた。配下のゴブリンの全ステータスを倍加し、配下が得た経験値が自身に加算される≪ゴブリンキングダム≫を持つ【ゴブリン・キング】の子供として生まれた個体だったからだ。

 ボスは元の持ち主以上に斧を使いこなした。倒した敵以外にも、周囲に漂うリソースを効率よく収集する事が出来たのだ。

 

 人間と同様にモンスターもリソースを得る事でレベルを上げるが、人間と違ってモンスターは上位個体に進化する際にもリソースを使用する。

 斧を手に入れたボスはリソースを集め、自身の進化を行い、群れの勢力を強化する為に生え抜きの部下達を上位個体へ進化させた。

 もちろん、直ぐに出来た事ではない。地道にリソースを集め、徐々に群れを強化していったのだ。

 

 進化による強化を行う為、群れは積極的に狩を行う。周囲からリソースを集めるより、他者から奪った方がより効率が良いからだ。

 ボスの更なる進化の為のリソースが貯まるにつれ、群れの狩りの頻度は増えていき、より積極的に狩りを行っていった。

 そして、群れは山道で野営する人間達を見つけ、獲物とする事を決めたのだった。

 

 

 

 □アルター王国サウダ山道野営地  防人

 

「なんで突然進化したんだ? こっちの被害は無いよな?」

 

 敵を倒さなければ経験値は得られないのでは無いのか? 

 馬車の中のエドワードさん達は無事だし、ブランドンさんも無傷だ。【ホブゴブリン】が進化するようなキッカケは無かったはずだ。

 

『部下の【ゴブリン・ウォーリアー】達が死んだ事で生じたリソースを吸収したのじゃ』

「自分のパーティメンバーから、それも自分が関与していない事象なのに経験値を得られるのか?」

 

 パーティで敵を倒した場合、得られる経験値はパーティ内で共有される。

 しかし、敵が自分のパーティメンバーを倒した事をきっかけに経験値を得るなどありえるのだろうか? 

 

『あの斧の力じゃ。あの斧が周辺に溢れるリソースを吸収し、それを装備者に供給しておるのじゃ』

「<エンブリオ>だから分かるのか?」

『身共が<エンブリオ>と言うよりも、リソースに関するスキルを持っておるからじゃろうな』

「リソースに関するスキル?」

 

 そう言えば≪一閃≫以外にもスキルがあると言っていたな。

 恐らく残り二つのうち一つがリソースに関わるスキルなのだろう。

 

『説明したいのは山々なのじゃが、どうやらその時間は無さそうじゃ』

「……だな」

 

【ホブゴブリン】から【ゴブリン・キング】に進化した群れのボスは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 進化した事で増した威圧感。リアルの強敵から感じてきた威圧感よりも弱いのだが、<Infinite Dendrogram>で感じてきた威圧感の中では一番だ。

 ……<Infinite Dendrogram>初めて一日なので、そんな凄い経験は無いので説得力が無いが。

 

「【ゴブリン・キング】は亜竜級です。十分注意してください」

「了解です」

 

 たしか亜竜級はティアン換算で下級職六人のパーティ、もしくは上級職一人に匹敵する戦力を持つ。

 ブランドンさんは上級職なので、亜竜級の【ゴブリン・キング】と互角の戦力を持つと言う事だ。

 しかし、問題点が一つある。ブランドンさんは上級職ではあるのだが、最近上級職になったばかりなのだ。上級職はジョブ単体で最大100までレベルが上がるが、ブランドンさんの場合は下級職の【剣士】レベル50と合わせても合計レベルが100以下なのだ。

 この状態でブランドンさんは【ゴブリン・キング】と互角の戦力なのだろうか? 

 

「ぐ!」

 

 その答えは直ぐに出た。

 間合いを詰めたブランドンさんは大剣を振り下ろし、対峙する【ゴブリン・キング】も斧を振り下ろした。

 空中で激突した大剣と斧、勝敗は斧に軍配が上がる。ブランドンさんの大剣は弾き飛ばされてしまったのだ。

 

「不味い、完全にブランドンさんの上位互換だ」

 

 ブランドンさんは剣士系統上級職【剛剣士】なので典型的なパワーファイターだ。

 そして、【ゴブリン・キング】もパワーファイターであり、恐らく全てのステータスがブランドンさんを上回っている。

 いや、全ては言い過ぎかもしれないが、少なくともSTRとAIGは【ゴブリン・キング】の方が高そうだ。

 

「速さで翻弄しようにも【ゴブリン・キング】の方が速いし打つ手が見つからないな」

『マスターが加勢すれば良いのじゃ』

「無理言うな。レベル0だからステータス的に圧倒的に負けている」

 

 闘いのテクニックだけなら勝てるだろうが、こちらの攻撃でダメージが通らなければ勝てない。

 こちらが隙を作り、その隙をブランドンさんが付く方法で攻めるしかないか。剣では【ゴブリン・キング】にはダメージが入らないかもしれないが、柔術を使えば体制くらいは崩せるだろう。

 

「まずは、ブランドンさんが剣を拾う時間を稼ぐか」

『身共のマスターとあろう者が情けない。あの鬼を斬る気概はないのかの?』

「リアルなら問題無いが、ここはシステムに支配された<Infinite Dendrogram>だからな」

 

 風鳴宗家の人間として恥ずかしいが、システムの壁を越えて敵を斬れるほど人間を辞めてない。

 OTONAは人間離れしてはいるが、あくまでも人間なのだ。何処かの人外とは違う。

 弾き飛ばされた大剣を捨て、素手で殴りかかるブランドンさん。そんな彼を援護出来ない自分の力の無さが嫌になる。

 

『身共は空に浮かぶ雲すらも斬れる剣じゃぞ。あの鬼くらい斬れずにどうする』

「それは≪一閃≫以外のスキルを使うって事か?」

 

≪一閃≫は固定ダメージを相手に与えるスキルだが、ダメージ量は使用したMPに依存する。レベル0で既に≪一閃≫を使用し、MPが残っていない私では【ゴブリン・キング】を斬れないだろう。

 それはアマノムラクモも分かっている。

 ならば、【ゴブリン・キング】を斬る可能性があるのは残り二つのスキルのみ。

 

『うむ。名は≪叢雲一閃≫、リソースを固定ダメージに変換するスキルじゃ』

「リソースを固定ダメージに?」

『身共の三つ目のスキル≪勤倹貯蓄≫は、マスターの経験値になるはずのリソースの一部を貯蓄しておくスキルなのじゃ。現在のマスターはレベル0なので、リソースの全てを身共が貯蓄しておる』

 

<Infinite Dendrogram>の原作知識は焼却して力に変換してしまったので殆ど覚えていない。

 しかし、原作主人公レイの<エンブリオ>は、受けたダメージを倍化し固定ダメージとして相手に返すスキルだった事は覚えている。

 たしか<エンブリオ>孵化前にボコボコにされて、それでも諦めずにハッピーエンドの可能性を求めた結果だったはず。

 それを前提に考えれば、<エンブリオ>孵化前に無意味にモンスターを狩りまくり無駄にリソースを得ており、敵を倒すための武器を求めたから<エンブリオ>がアマノムラクモとして孵化したのだろうか? 

 

『マスターが意味も無いのにモンスターを100匹以上倒しておるからの。リソースの貯蓄は十分じゃ』

「不幸中の幸いか」

『それと≪叢雲一閃≫は≪一閃≫と違い単発技じゃから二の太刀は無いのじゃ。一太刀に貯蓄してある全てのリソースを込めてしまうからの』

「十分」

 

 アマノムラクモを構え直し、【ゴブリン・キング】に視線を向ける。【ゴブリン・キング】はこちらを完全に無視してブランドンさんを警戒している。

 当然だろう、こちらはレベル0でブランドンさんは【ゴブリン・キング】の下位互換ステータスとは言え、この場でただ一人【ゴブリン・キング】と戦える人間なのだから。

 だからこそ、【ゴブリン・キング】はこちらを警戒しない。警戒しても無駄だと知っているからだ。

 

「まあ、だからこそ勝機があるのだが」

 

 気配を消し、【ゴブリン・キング】の死角に回り込む。

 私が”侍”なら正面から正々堂々【ゴブリン・キング】と戦うのだろう。

 しかし、この身は”防人”。私の誇りは人々の平穏を守る事であって、正々堂々と戦う事ではない。必要とあれば背後から斬る事も躊躇わない。

 恐らく、こういう姿勢が父訃堂に後継者として認められた一因なのだろう。

 

「まだ勝負はついていない!」

 

【ゴブリン・キング】の死角に回り込もうとしている私に気が付いたブランドンさんは、【ゴブリン・キング】の気を引こうと気勢を上げる。

 少しでも【ゴブリン・キング】の気を引こうとしてくれるブランドンさんの援護はありがたい。

 

「GuOOO!」

 

【ゴブリン・キング】の斧の一撃を危なげなく避けるブランドンさん。

 

「まだまだ!」

 

 そのまま【ゴブリン・キング】にタックルを仕掛る。虚を突かれた【ゴブリン・キング】はタックルを切る事が出来なかった。

 しかし、【ゴブリン・キング】はブランドンさんのタックルを正面から受け止めてしまう。【ゴブリン・キング】は倒れず、自身の身体能力をフルに使いブランドンさんのタックルに対抗している。

 

「あぁぁ」

 

 力を籠めてブランドンさんは【ゴブリン・キング】を押し倒そうとするが、【ゴブリン・キング】は一ミリも動かない。

 そこにリアルの格闘技のような技術は無く、単純な力でブランドンさんを圧倒する姿に王者のプライドを感じる。【ゴブリン・キング】は群れのボスだったから、己の力を誇示する為の闘い方が癖になっているのかもしれない。

 だから、無意味にブランドンさんの全力を正面から受け止め、無防備なブランドンさんの背中に斧を振り下ろさずに力比べを受け入れている。

 

「この殺し合いは私達の勝ちだ」

「GUO?」

 

 ブランドンさんと正面から戦っている【ゴブリン・キング】の背後に迫る。

 あと一歩で間合いという所で流石に気が付かれてしまったが、この距離なら問題ない。

 ここまで来たら、後はただ無心で剣を振るうのみ。

 

『≪叢雲一閃≫』

 

 何の抵抗も無く、まるで素振りのような感触だった。

 しかし、私が振ったアマノムラクモは【ゴブリン・キング】の首を斬り落とした。

 

「斬った感触が無かった」

『言ったじゃろう、身共は空に浮かぶ雲すらも斬れる剣じゃと』

 

 アマノムラクモが自画自賛するだけはある。

 よく斬れ味を例える際に、〇〇〇が豆腐の様に斬れる、と表現する事がある。

 今の一撃はそれ以上、剣を振った私にも斬った感触が分からなかった。

 

「うわぁ!」

 

 と、感慨にふけっていると、【ゴブリン・キング】の抵抗が無くなった為、ブランドンさんが【ゴブリン・キング】の身体を押し倒すような形で倒れてくる。

 ついでに、そんなのブランドンさんの背中に【ゴブリン・キング】の首が落ちた。

 

「大丈夫ですか?」

「これは? サキモリ殿が倒したのですね?」

 

【ゴブリン・キング】にタックル後、全身でぶつかるように力比べをしていたブランドンさんは状況を確認出来ていないようだ。

 

「ええ、ブランドンさんが気を引いてくれたお陰です」

「いや、サキモリ殿の力があってこそ。流石は伝説の<マスター>ですな」

 

 倒れたブランドンさんに手を差し出しながら、改めて勝利を噛みしめる。

 

『(爽やかに手を差し出しておるが、【ゴブリン・キング】の身体を避けた薄情者なのは秘密なのかの?)』

 

 アマノムラクモが小声で囁いてくる。

 彼女が言いたい事も分かる。

 私は【ゴブリン・キング】の背後から首を斬った。つまり、私は【ゴブリン・キング】の直ぐ後ろにおり、【ゴブリン・キング】を挟んでブランドンさんと一直線になる形だった。

 ブランドンさんが勢いそのままに【ゴブリン・キング】を押し倒したのに、私はブランドンさんに手を差し出している。

 つまり、そう言う事である。残心は大事なのだ。

 

「(誰も見てないから良いだろべつに)」

『(まあ、そう言う事にしておこうかの)』

 

【クエストはクリアされました】

【クエスト報酬はリザルト画面をご確認ください】

 




童話分隊より【ゴブリン・キング】さんの登場でした。
(当然、別個体ですが)

【ゴブリン・キング】の≪ゴブリンキングダム≫は部下のゴブリンがいるとダメージが通らない、≪ライフリンク≫のようにキングのダメージが部下のゴブリンに飛ぶ、という効果がありますがキング単体では意味が無かった。

あと、今回出て来た≪叢雲一閃≫が主人公がプロローグで一発屋と呼ばれていた理由です。
何処までもリソースを貯め、それを固定ダメージに変換出来ますが一発しか打てないスキルなので。

次回更新は25日の予定です。
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