戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram> 作:haneさん
□王都アルテア 防人
「お兄ちゃんありがと!」
「お世話になりました」
「サキモリ殿、この度のご恩は忘れません」
無事にイベントクエストをクリアし、夜が明けるのを待ってエドワードさん達と王都に戻ってきた。
「いえいえ。お陰で色々教えて頂きましたから」
王都への道中、エドワードさんから<Infinite Dendrogram>の常識(ティアン視点)を色々教えてもらった。生の声というのは貴重な情報源なのでクエスト報酬としては十分だ。
まだ開けていないけど【小鬼王の宝櫃】というアイテムも手に入れている。これは開けると【ゴブリン・キング】由来のアイテムがランダムで手に入るらしい。
「それでは私達は王都に滞在していますので、時間がありましたら当店にいらしてください」
「ええ、その時は仲間の<マスター>と一緒に顔を出させていただきます」
エドワードさんは謝礼として現金を渡そうとしてくれたが、そちらは固辞している。
どうやらエドワードさんは王国南部でそれなりの規模の商会を営んでいるらしい。本店は南部の地方都市にあるとのことだが、王都と決闘都市ギデオンにも支店を持っているとの事なので謝礼の金銭よりもコネの方が美味しいと判断したのだ。
「ムラクモお姉ちゃんもまたね!」
「ムラクモさんもお元気で」
「うむ。お主たちも壮健での」
王都に向かう馬車の中で仲良くなったグレースちゃん、オリビアさん姉妹とアマノムラクモ。
女三人寄れば姦しいと言うが、三人は馬車の中で王都やギデオンで流行っているらしいファッションの話題で盛り上がり、アマノムラクモが来ている着物の話題で盛り上がっていた。
「サキモリ殿、これを」
「これは?」
王都への道中、ブランドンさんは護衛中だったので会話する機会は無かった。だからこの別れ際に話しかけてくれたのだろう。
そして、話しかけてくれたブランドンさんの手には一冊の本があった。
「【適職診断カタログ】です。これからのサキモリ殿には必要でしょう」
「でも、これはブランドンさんの物では?」
「才能の限界というヤツです。私がこれを使う事はもう無いでしょうが、<マスター>であるサキモリ殿には役に立つでしょう」
才能の限界。これも王都までの道中でエドワードさんから聞いた。
<Infinite Dendrogram>に生きるティアンは個々人に適性と才能による限界が存在し、適性のないジョブには就けない。
さらに、<マスター>の就職可能なジョブの数が上級職2つ・下級職6つなのに対し、ティアンは就職可能なジョブ数が少なく、レベルも上限値まで上がらない事があるようだ。
「ありがとうございます。役立たせて頂きます」
「そうしてくれるとありがたい」
個々人に適正と才能による限界がある中、上級職にまでなったブランドンさんは優秀だ。
しかし、もしかするとその先の未来が見えていないのかもしれない。
だから【適職診断カタログ】という将来の指針を私に譲ってくれるのかもしれない。
「さて、お二人を引き留めても申し訳ないですし、我々はここで」
「またね!」
こうしてエドワードさん達と再会を約束して別れた。
「さて、これからどうするのじゃ?」
「集合時間まで時間があるから転職かな」
持てる財力とコネを使って<Infinite Dendrogram>の専用機器を100台(初期納入分)購入し、風鳴関係者に無償で配布している。
今日はサービス開始日なので仕事などの事情が無い限り皆が<Infinite Dendrogram>にログインしており、<Infinite Dendrogram>の内部時間で今日の12時に集合する予定になっている。
集合と言っても所属国がバラバラなので、集合場所は各国毎に取り決めている。もっとも、初日の合流は努力目標なので絶対に合流しなければならない訳では無い。
「それでは【適職診断カタログ】の出番じゃな」
「本当にブランドンさんには感謝だ」
説明書とエドワードさんの解説を総合すると、<Infinite Dendrogram>のジョブは大きく分けて三種類ある。下級職、上級職、超級職の三つだ。
下級職は無職の物が就く事が前提になっているので転職条件の敷居が低く、レベル上限は50。
上級職は下級職で力ある者が就く事が前提なので厳しい転職条件が設定されており、レベル上限は100となる。
下級職は六つまで、上級職は二つまで同時に就くことができ、合計で500レベルが上限になる。
ちなみに条件を満たせば下級職を飛び越えて上級職に就く事も出来るらしい。
「マスターは随分無茶をしたから上級職に就けるのではないか?」
「世の中そんなに都合よく行かないと思う」
【適職診断カタログ】を開き、タログの電子音声質問に答えていく。
それと超級職は<Infinite Dendrogram>の中でも特別なジョブらしい。何しろ一名しか就く事が出来ない上に、ジョブのレベル制限が無い。
レベルアップに必要な経験値はレベルが上がる毎に上昇するらしいが、それでも強さに上限が無いのは羨ましい。
その分、転職条件はリアルの司法試験並みに難しいらしいが。司法試験は言い過ぎだろうか?
「お、結果が出た」
五分ほどカタログの質問に答えていると結果が出た。
「【戦巧者】? 名前だけなら強そうだ」
「下級職なのか。つまらぬ」
「だから行き成り上級職は無理だって」
正直に言えば、原作主人公のレイみたいに【聖騎士】に転職したかった。亜竜クラスのボス倒しているし。
が、騎士団関連の主要人物にコネが無いから推薦して貰えないんだよな。
「ふむ。ステータス補正は他の戦闘系下級職と比べると低いが、他の下級職のスキルを覚えられるのか」
「覚えたジョブスキルは【戦巧者】をサブジョブにしても使用出来るのか」
<Infinite Dendrogram>はメインジョブに設定しているジョブが習得するスキルは100%使用出来るが、サブジョブに設定しているジョブのスキルはメインジョブと互換性があるスキルしか使用出来ない制限がある。
例えば【剣士】から【商人】に転職した場合、【剣士】のジョブスキル《サンダー・スラッシュ》など剣に由来したスキルが使えなくなる。
汎用スキルであればこれらの縛りは無いのだが、汎用スキルは便利スキルなので《サンダー・スラッシュ》のように戦闘に直接関与するスキルでは無い。
「しかし、この【戦巧者】は、サブジョブはメインジョブと互換性が無いスキルは使えないというルールをどうやって回避しておるのかの?」
「戦巧者は戦が得意な人って事だから、全ての戦闘系ジョブと関りがあるし、巧者って部分で無理矢理非戦闘職と関連付けているのかも」
「もしかすると、全ては戦に通ずる、の精神かもしれんの」
理屈は分からないが、これは便利だ。
最終的にどのようなビルドにするか決めていないが、手札が多いのは単純にありがたい。
「しかし、このジョブは下手をすると器用貧乏になりそうじゃの」
「下級職だとスキルレベルを5までしか上げられないしね。まあ、大丈夫だよ」
「なんじゃ、自信がありそうじゃの」
「まあね」
リアルじゃ剣も槍も弓も使えるし、ついでに錬金術も使える所謂”魔法戦士”だからな。
リアルと同じビルドにするには”魔法戦士”的なジョブに就くしか無かったのだが、【戦巧者】ならそれが出来る。
まさに私にピッタリのジョブだ。
「なら【戦巧者】に決まりじゃな。気が早いが上級職は【戦巧者】の上位職にするのかの?」
「あ~、転職条件的に厳しいかも」
【適職診断カタログ】で確認した【戦巧者】の就職条件は、レベル0の状態で下級モンスターを自分で50%以上のHPを削って討伐する、だった。
そして【戦巧者】の上位職【戦名人】の就職条件は二つあり、一つは【戦巧者】の6人パーティ(合計レベル600以下)で犠牲者を出さずに純竜級ボスモンスターを自分で30%以上のHPを削って討伐する。
「……酷い条件じゃな」
「就職させる気があるのか疑うレベルだよ」
もう第一条件の時点で厳しい。【戦巧者】を集める必要があるし、純竜級ボスモンスターはティアンの上級職六人パーティと同等の戦力なのに、レベル制限があるパーティで挑みながら犠牲者を出さないで勝つ必要がある。
普通に無理だと思うが、名人とあるくらいなので高レベルなプレイヤースキルが要求されるのだろう。
「ちなみに、二つ目の条件の方が厳しい」
「一つ目の条件も厳しいから想像がつかぬ」
「戦争イベントの勝利数が10以上」
「ん?」
「戦争で10回勝たないと就職出来ないみたい」
戦争イベントは文字通り国と国の戦争だ。
エドワードさんの話を聞く限り、今の世の中は平和なので戦争なんて起きないらしい。
数百年前の “三強時代”から【聖剣王】の時代かけては、群雄割拠で闘いが絶えない時代はあったようだ。
しかし、現在はアルター王国とドライフ皇国は同盟を結んでおり、レジェンダリアとも友好関係を結んでいるので西方三国は特に安定しているとのこと。
「戦国時代が終わった今となっては完全にロストジョブだな」
「就職する為に戦争を起こすは無理じゃろうな」
上位職【戦名人】は他の上位職のジョブスキルを習得出来る他に、指揮官系統のようにパーティメンバーのステータスを一時的に微上昇させることも出来るようだ。
ただ、スキルの万能性と引き換えにステータス補正は低く、何でも出来るが一つの事を極められないジョブと言った感じだ。戦闘職と支援職を足して二で割ったジョブとも言う。
「まあ、上位職なんてまだ先の話だし、まずは【戦巧者】になろう」
「ホントに器用貧乏なジョブでよいのか?」
「出来ることが増えるのはありがたいからね。ジョブの第二候補は特化職だからバランス取れているし」
「第二候補?」
【適職診断カタログ】は【戦巧者】以外の候補も表示している。
しかし、このジョブをファーストジョブに選ぶのは勇気がいる。
「お主、まさか【生贄】に興味があるのか?」
そう、【適職診断カタログ】が示したもう一つのジョブが【生贄】だ。
生贄系統下級職【生贄】。上級職も超級職も無い、ある意味で特別な下級職だ。
そして、【生贄】は一切の戦闘行動が取れない上に、メインジョブにしている限りMP以外のステータスがものすごく低くなるデメリットがある。
しかし、【適職診断カタログ】によるとMP上昇補正が非常に高いので、今後の事を考えると非常にありがたいジョブなのだ。
「≪一閃≫をメインで使用していく事を考えるとMPはあった方が良いからね」
「確かにそうじゃが、戦闘が出来ぬのにどうやってレベルを上げるのじゃ?」
「まあ、そこは仲間におんぶにだっこかな」
≪一閃≫はMPを攻撃力に変換するスキルだ。攻撃対象に固定ダメージXを与えるオーラをY秒刀身に纏わせるスキルで、消費MPはXかけるYになる。(XもYも正の整数のみ)
固定ダメージは必ず相手に属性、防御力を無視してダメージを与えるので、非常に有効なスキルだ。
もちろん欠点もある。相手に1万ダメージを与えるためには、最低でも1万のMPが必要という燃費の問題だ。【適職診断カタログ】でジョブの情報を確認すると、MP上昇値は基本的に魔法系のジョブが高い。
当然だ、MPは魔法系スキル・魔力を使用するスキルで消費、魔法の威力や効果・精神系状態異常耐性に関与するステータスだからだ。
「すまぬ。MPでは無くSPなら良かったのじゃが」
「流石にそれは便利すぎるって」
アマノムラクモが言うSPとは、身体強化系スキル・剣技などの技系スキルで消費するステータスだ。ステータスの特性上、魔法スキルを使わないジョブの方が良く上がる。
つまり、MPを効率的に上げようとするなら魔法系ジョブに就けばいいのだが、それを選択するとSTRなど物理戦闘に必要なステータスの伸びが悪くなる。
もう割り切ってダメージソースを≪一閃≫に固定し、魔法系ジョブに就いてMPを底上げして固定ダメージ量を上げるか。魔法スキルも取れるから、火力はありそうなジョブビルドだ。
転生前にプレイしていたMMORPGにも殴りアコとか、特定の装備が必要になるが熾天使型と呼ばれるINTを上げて物理攻撃力上げるビルドはあったし。
「ただ、魔法系はなぁ」
「なんじゃ、マスターは魔法が嫌なのかの?」
「魔法が嫌いと言うより、男の魔法使いは全裸っていうイメージがあってだな」
悲しいかな、男性の魔法使い(正確には錬金術師だが)の知り合いは、とある全裸になりたがる某局長しかいない。
今では友人関係だが、やはりあの同類になると思うと躊躇してしまう自分がいる。
「全裸とは、一体どんなイメージなのじゃ?」
「一言で言えば変態だな」
いや、ホントにサンジェルマンさんの苦労が偲ばれる。あんな上司にはなりたくないものだ。
「初日にビルドを悩みすぎるのも良くない。まずはジョブに就かないと」
「そうじゃの。マスターが何時までも無職では格好がつかぬ」
自分にあったジョブとは何なのか? 最適なキャリアパスは?
色々と悩みはあるが、とりあえずは前に向かって進まない事には何時までもこのままだ。
国盗りという目的もあるし、何時までも足踏みは出来ない。
「……志は立派じゃが、レベル0のままモンスターを狩って一日無駄にした者の考える事ではないと思うぞ」
「人生遠回りも悪くないさ。遠回りしたからアマノムラクモという最高の相棒に出会えたんだし」
「……恥ずかしい事を言うでない」
こうして、恥ずかしそうに俯くアマノムラクモの手を引き、集合時間までに就職する為に急いでジョブクリスタルに向かうのだった。
四連休!
なんとか休みのうちに11話まで書き終わりたい。
この手のMMOはステ振りとかスキル振りって悩みますよね。
捏造設定満載の二次創作なので、ジョブも捏造です。プロローグの時点で捏造ジョブでしたが。
次回はメンバーと合流という事でシンフォギア奏者も登場します。
という訳で、次回は7/28の予定です。