戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram>   作:haneさん

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10話 未来の旦那様の決意表明

 □王都アルテア 【戦巧者】防人

 

「さて、初日に合流出来た者の自己紹介は以上か。次は今後の」

「いやいやいや。忘れてる、健気に暖簾持ってる俺達を忘れてますよ、坊っちゃん!」

 

 中世ヨーロッパ風の街並みで暖簾を持っている男が抗議してきた。

 これも一種の様式美という奴なので他意は無い。リアルでは風鳴宗家の次期当主という事で、私が外出する時には何時もそれなりの数の付き人や護衛が付く。その堅苦しい緊張した雰囲気の中で彼は馬鹿な事をし、そして私はそれをあえて無視する。

 そして、彼が無視する私に抗議するのが我々の中のお約束。緊張を解す為に彼が発案し、それに私が乗っかっている形だ。

 この手の事はデリケートなので、いじめとかパワハラにならないよう注意はしている。前世ではそういう事を気にする立場では無かったので最初は戸惑ったが、これもそういう家に生まれた宿命と今では割り切っている。

 

「そもそも、なぜ暖簾? 集合の目印は家門を描いた旗だったはず」

「いや~、日本人なら暖簾かなって。修一とも早めに合流出来たし」

 

 修一とは暖簾を吊っている棒のもう片方を持っている青年の事だ。

 修一は私の乳兄弟でフルネームは柊修一、静こと柊律の実の兄にあたる人物である。

 

「勝手にお前が巻き込んだだけだろう」

「そうだったか? 暖簾作るのに忙しかったから覚えていない。そんな事より自己紹介、自己紹介」

「静の兄です、キャラクターネームはとりあえずランスロットにしてみました」

 

 冷静に抗議し、冷静に自己紹介する修一。

 いや、こちらではランスロットか。リアルの彼は実直な性格で、勉学や武術に励む人間だ。

 全ては風鳴宗家の次期当主である私の乳兄弟であり、将来は私の補佐役として仕える事が決まっているから。言わば、決められた将来、縛り付けられた未来。

 縛り付けてしまった側が言って良い事なのか分からないが、修一には別の未来、可能性を見つけて欲しくて<Infinite Dendrogram>に誘った側面もある。

 

「しかし、ランスロットか」

「この手の遊びに縁が無いので。とりあえず騎士の国と聞いていたので、有名な騎士の名前を選んでみました」

 

 これもスタートダッシュ組の特権か。ランスロットなんて直ぐに誰かが使いそうな名前なのに。

 しかし、選ぶならランスロットよりもガウェインの方が嬉しかったな。主的には。

 確かにランスロットはアーサー王伝説において最も優れた騎士の一人と称えられる一方、最も罪深い円卓の騎士と呼ばれている。簡単に言えば使える主を裏切った騎士なのだ。

 

「いや、まあ、それも新たな可能性か」

「? 粉骨砕身の気持ちで頑張ります」

 

 そう言えば勉学は実用的な物が中心で、あまり雑学的なことは苦手だったな。

 

「最後は俺ですね。リアルでは坊っちゃんの運転手の息子、フランク・ディ・ジェモンです」

「こっちは凝った名前だな」

「映画俳優みたいでカッコいいでしょ」

 

 ニカっと笑って見せるフランク・ディ・ジェモン。

 彼も静やランスロット程では無いが、世間では幼馴染と呼んで良いくらいの付き合いがある。

 生真面目なランスロットと違い、フランク・ディ・ジェモンは陽気な性格だが誰よりも仲間を大事にする性格でもある。

 

「とりあえず、これで初日に合流出来たメンバーは全員か」

 

 これで本当に全員の自己紹介が完了した。

 私を入れて全部で9名。サービス開始初日という事を考えれば、それなりに大規模なユーザーパーティなのでは無いだろうか。

 

「みんな、まずは私の我儘で<Infinite Dendrogram>まで付き合ってくれてありがとう」

「ハード代1万円は坊っちゃんのおごりですし、業務時間も融通して貰っているので大丈夫ですよ!」

「フランク君、坊っちゃんは止めるように。それと君は時給のバイト扱いだから単純に減収だね」

 

 VRMMOをするにはハードとソフトを揃えれば良い訳では無く、ゲームをプレイする為の時間が必要だ。

 今回、<Infinite Dendrogram>を風鳴関係者と共に遊ぶにあたりハードを確保するだけでなく、私が直接雇用している使用人については<Infinite Dendrogram>のプレイ時間を業務時間に含めるよう調整している。

 もちろん、無制限に<Infinite Dendrogram>をプレイされてしまうと本来の仕事が疎かになってしまうので、業務としてのプレイ時間はリアル基準で一日4時間まで、当然ながら業務時間外のプレイ時間は業務とは見なさないとルールは設けている。

 そして、<Infinite Dendrogram>で足りなくなる人手の為に人員を追加で雇い、すでに新規人員の教育も終了、思う存分に<Infinite Dendrogram>を遊べる環境は整っているのだ。

 ……プレイ時間も業務時間に含める代償として、使用人には<Infinite Dendrogram>内での協力を約束して貰っているが、業務の延長という事で皆には納得してもらっている。

 

「え、俺には給料出ないんですか?」

「フランク君の場合は不定期に仕事手伝ってもらっているから成果報酬という事で」

「うっす。頑張りますよ、坊っちゃん」

 

 どうやら意地でも坊っちゃん呼びは止めないつもりらしい。

 

「あたしには小遣いないのか?」

「クリスは特機部二からお小遣い貰ってるでしょ」

「でも静はコイツから小遣い貰ってるんだろ?」

 

 静の言う特機部二とは、特異災害対策機動部二課の略称だ。周りから突起物とも揶揄される事もあるが、ちゃんとした国家機関であり風鳴家も援助しているので資金面は充実した組織だ。

 つまり、そこでシンフォギア奏者として前線で戦っているクリスの小遣いと言う名の給料は結構高い。

 

「クリスちゃん、終止君をコイツとか呼ばないの」

「ソネットも、ココでは防人君だよ」

 

 クリスは基本相手を呼ぶときは“お前”だ。僅か一週間とは言え捕虜生活が幼いクリスに与えた影響は大きく、クリスは野良猫気質な所があり他人とのコミュニケーションが苦手な所がある。

 単に恥ずかしくて相手の名前が呼べない、とはクリスと壮絶なケンカの末に唯一名前を呼ばれている静の言葉だ。

 

「あら、私ったら。こういうのは成れてないから」

「ママは音楽以外ポンコツだからな」

「もう、音楽以外も人並みに出来るわよ。それよりクリスちゃん、未来の旦那様をコイツって呼んだらダメよ」

「コ、コイツは旦那じゃねえ!」

 

 顔を真っ赤に染めるクリス。

 まったく、クリスとソネットさんは相変わらずだな。

 誘拐されたクリスを助け出し、心のケアを静と一緒に行った頃からソネットさんの旦那さん発言は始まっている。

 

「真正面から否定されると悲しいな」

「お前も何言ってんだ!」

 

 クリスについてはバルベルデ共和国での誘拐を防げなかっただけでなく、フィーネの件でも上手く立ち回れずに重い十字架をクリスに背負わせてしまっている。

 クリス本人は騙された自分が悪いと強がっているが、ちゃんと助けられなかった私のミスだ。

 

「あらあら。思ったよりも早く孫の顔が見られそうね」

「ママ!」

 

 しかし、ソネットさんの旦那さん発言は本気なのか冗談なのか未だに分からない。

 そう言えば、南米バルベルデ共和国で誘拐されたクリスを探している時、アマゾネスの集団に子作りを迫られる日本人の少年がいたが、彼の貞操は無事だろうか? 

 

「セバスチャンとリーラも付き合ってもらって悪いな」

 

 クリスとソネットの親子のじゃれ合いを一歩後ろから見ている二人に声をかける。

 二人は私を支えてくれる大事な存在で、だからこそ無理を言って<Infinite Dendrogram>に付き合ってもらっている。

 

「坊っちゃんに仕えるのが仕事ですのでお気になさらず。それに、ココは良い実践訓練の場になりそうですので今から楽しみです」

「ええ、風鳴宗家のメイドを鍛える良い機会になりそうです。リアルで本物のお客様相手に実践練習する訳にもいきませんが、こちらでなら幾らでも実践練習出来そうです」

 

 風鳴宗家は日本でも有数の名家であり、政財界に強い影響力を持っている。

 だからこそ、風鳴宗家を訪れる客人はそれなりの身分を持つ相手が殆どだ。そんな客人の対応を使用人達が行う訳で、当然そういった事は研修内容に含まれている。

 しかし、研修は研修なので、どうしても経験豊富な使用人と新人の使用人を比べると実力に差が出てしまう。場数という実践した数が違うのが問題なのだ。

 

「こちらでも上流階級の方を招く機会は多いだろうから、みんなの仕事には期待しているよ」

「それでは、やはり」

 

 セバスチャンは何かを確信したように真剣な表情になった

 

「うん、多分想像している通りだよ。皆、聞いてくれないか」

 

 何かを察したセバスチャンに頷き、この場に集まったメンバー全員に語り掛ける。

 これからする話はセバスチャンだけに話す訳にはいかない内容だからだ。

 

「こっちで一日過ごしてもらったけど、<Infinite Dendrogram>がどれだけリアルなのか十分に理解してもらったと思う」

「事前に坊っちゃんに聞いていた通り、凄いリアルでした」

「人に自由な意思があり、人々は社会を構築し、円滑なコミュニケーションの為のマナーがあるようですな」

「こっちにも音楽を楽しむ文化があるみたいだ」

「ちゃんと法が整備され、正しく運用されていました」

 

 私の問いかけに、男性陣がそれぞれの感想を口にした。

 彼等もそれぞれの視点で、この<Infinite Dendrogram>がリアルと変わらない程にリアルだと実感しているようだ。

 

「ここはリアルだが、それでもゲームだ。だからリアルでは許されない事をしても、リアルでソレを咎める者はいない。なんたってゲームなのだから」

 

 風鳴宗家には強大な権力があり、それを補強するカネや人材もある。

 しかし、風鳴は権力者として立つことは無い。八紘兄上が内閣情報官として事務次官級の国家公務員を勤めている。事務次官は生涯職公務員の省庁内における最高位で、官僚の出世コースのゴールではあるが、大臣の補佐役でしか無いのだ。

 

「我々は防人であり、国とそこに住まう人々を守る剣だ。そして、剣である以上、剣の主になる事は許されない」

 

 風鳴宗家、風鳴一族は剣の一族だ。剣の主では無い。

 風鳴の主は戦国大名、征夷大将軍などの時の権力者では無く皇室だった。

 日本史において最も権威を持つ皇室を相手に叛意を持つ事など出来ず、風鳴は明治維新まで影から皇室を守り続けてきた。

 明治維新後、風鳴は皇室の守護とは別に日本を陰から守る役目を持ち、その為に風鳴機関などの諜報組織を整備した。

 そして第二次大戦後、風鳴の枷は皮肉にも外国勢力により解かれてしまう。枷が無くなった風鳴は日本を守る鬼として暴走している面もあるが、それでも日本という国の主になるという考えは全くない。

 それは剣の一族としの誇りであり、権力者から身を守る為の処世術でもあった。

 

「しかし、ここはゲームの世界だ。我々を阻むモノは何も無く、リアルの世界で失うモノも何も無い。<Infinite Dendrogram>ではリアルで培った技術を全て使い、我々が何処まで行けるのか見せつけてやろう」

「つまり、坊っちゃん。どうするんで?」

「野心を持ち、立身出世を邁進する。目指すは”国盗り”だ」

 

 フランクの質問に返す形で<Infinite Dendrogram>での目的を打ち明ける。

 打ち明けたが、やはり皆の反応が気になる。言ってみれば、警察官がゲームの中で犯罪行為をしましょうと誘っているようなものだからな。

 

「自分は若について行きます。元々自分は若の補佐が仕事ですし、将来の為の良い勉強になりそうです」

 

 真っ先に賛成したのはランスロットだった。リアルでは乳兄弟として私の補佐役として勉学や武術に励んでいるのが、まだ学生であるので実務的な経験は全くない。

 ちなみにランスロットは私よりも年上で、今年T大の文一に合格した秀才だ。

 

「若者に先を越されましたな。私達にも異存はありません」

「夫と共にお仕えするのが仕事ですからね」

「最も、坊っちゃんが人の道を外れるなら全力で諫めさせて頂きますが」

 

 続いて賛成してくれたのがセバスチャン、リーラ夫妻。

 こちらは現役の使用人であり、<Infinite Dendrogram>プレイ時間も業務時間に含めているので賛成してくれると予想していたが、実際に賛成してくれるとありがたい。

 

「勿論だ。”防人”の誇りは<Infinite Dendrogram>でも忘れたりしない」

「ならば我々使用人一同、若に変わらぬ忠誠を」

 

 そう言って膝をつくセバスチャン。その横ではリーラがカーテシーでその意を表してくれた。

 何気にリーラのカーテシーは初めて見た。我が家は和風だからな。

 

「でも、”国盗り”って具体的にどうするんですか? 王様を誅殺するんですか?」

「具体的な手段は未定。とりあえず、こつこつと貴族になって領地を得てと王道の立身出世を目指す」

「……付き合ってあげるけど、お姫様のお婿さんなんて”国盗り”は許さないからね」

「了解」

 

 うん、静の合意も得た。彼女はランスロットの実の妹なので立場的に使用人に近いのだが、幼馴染という事で使用人にして友人という微妙な立ち位置にいる。

 その二股な立場故、静はリアルでは将来私の愛人になるのではと噂されていたりする。

 

「仕方ないから、あたしも手伝ってやるよ」

「仲間外れは嫌なのよね」

「私達も手伝おう。もっとも、歌で世界を平和にするという夢があるから手伝えない事もあるが」

「ありがとうございます。勿論、”防人”として平和を壊さない範囲で頑張ります。逆に、皆さんの歌の力をお借りしたいと思います」

 

 文化の、歌の力は侮れない。人の心の栄養となる歌の力は重要で、人心が荒廃していてはまともな統治など望むべくもない。パンとサーカスとは良く言ったものだ。

 

「将来の目標は理解しました。今後の方針などは?」

「まずはレベル上げだ。レベルが低いと何も出来ないからね」

 

 何も出来ないは言い過ぎかもしれないが、レベル制MMOならやはり高レベルの方が有利だ。

 

「という訳で、一狩り行こう」

「なら、こいつの出番だな」

 

 そう言って赤い弓を取り出すクリス。何処となくだが、クリスがリアルで使っている弓に雰囲気が似ている気がする。普段良く見ているのはボウガン型なのだが、どちらもカラーリングが赤と黒で同じだ。

 

「これがあたしの<エンブリオ>イチイバルだ」

「やっぱりクリスにはイチイバルだ。良く似合ってる」

「バ、バカ! そういうことは真っ正面から言うんじゃねえ!」

 

 顔赤くして抗議してくるクリス。相変わらず褒められるのに慣れてなくて可愛い。

 しかし、クリスは弓を持っているが良いのだろうか? 

 マークさん、この場合は雪音雅律さんから事前に<Infinite Dendrogram>で親子三人、家族で音楽を奏でたいからスノーシンフォニーという姓を使うと聞いていたんだが。

 単純な音じゃなくて、家族という楽団で奏でる交響曲。そう熱く語っていた雅律さん。

 親子三人で音楽を奏でる日は来るのだろうか? いや、武器が弓だからと決めつけるのは間違いだ。リアルのクリスも弓や銃器を武器にしているが、歌を歌っているし。

 

「ちなみにクリスのジョブは?」

「弓手系統の【弓手】だ。やっぱり武器は射撃武器が一番だ」

「色々と異論はあるけど、親の心子知らずというのは分かった」

 

 うん、雅律さんは泣いて良いと思う。

 

 




遅くなりました。
月末で忙しく更新ボタン押すの忘れてました。

とりあえずスノーシンフォニーの意味を出しましたが、大した理由じゃなくてスイマセン。
あとクリスの<エンブリオ>は最後まで悩みましたが、結局イチイバルにしました。
恐らく奏者の<エンブリオ>はシンフォギアと同じにしようと思います。原作の使用でも名前被りoKなようなので


何時ものペースなら8/3なのですが、月初で忙しいので8/5頃の更新になると思います。
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