戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram> 作:haneさん
□アルター王国<イースター平原> 【戦巧者】防人
風鳴関係者と合流した後、私達はパーティを結成して初心者向けの狩場にやって来た。
<Infinite Dendrogram>におけるパーティ人数は六人なので、二組のパーティ分かれて狩りをしている。
組分けは私と静にクリス、マーク、ソネットの雪音一家の計5人で第一グループ、セバスチャンとリーラの執事とメイドのコンビ、ランスロット、フランクの計4人の第二グループに分かれた。
「ちょせぇッ!」
独特な掛け声と共にクリスが矢を放つ。
放たれた矢は【リトルゴブリン】の眉間に突き刺さり、【リトルゴブリン】のHPを0にしてしまう。狙っていないようで、ちゃんと狙っているクリスの弓は流石だ。
「っは!」
クリスに対抗するかのように静が槍で【リトルゴブリン】を突き、こちらも一撃で【リトルゴブリン】のHPを0にしてしまう。
クリスと静。どちらも武人と呼ばれるに相応しい技を持っている。
『あの二人に比べればマスターは地味じゃの』
「まあ、後衛の護衛もあるし」
この手のMMORPGのパーティプレイには大きくタンク、アタッカー、ヒーラー、バッファーの役割がある。
タンクはパーティの壁役で、敵の攻撃を一手に引き受ける役割だ。仲間への攻撃を許さず、かつ自分も死なないという単純な仕事ではある。単純ではあるのだが、壁役なので必然的にパーティの前にいるので先導役、所謂道案内的な仕事もあるので求められる知識量とプレイヤースキルを一番求められる役割だ。
アタッカーはパーティの攻撃役で、ただ敵に攻撃する役割だ。とにかく効率良くダメージを与える事を求められるが、そこまでプレイヤースキルを求められる役割では無いので初心者向きだ。
ヒーラーはパーティの回復役で、主に敵の攻撃を一手に引き受けるタンクのHP回復が主な仕事になる。ただ、敵の中には全体攻撃をしてくる敵や、攻撃に集中しすぎて敵の攻撃を受けるアタッカーもいるので、どのようにパーティを回復していくか色々と管理する事が多くプレイヤースキルを求められる役割だ。
最後のバッファーは味方の能力を強化する役割だ。場合によってはヒーラーが兼任する事もあるし、デバッファーと呼ばれる敵の能力を弱体化させる役割もある。
「まあ、MMORPGのロールが何処まで<Infinite Dendrogram>で通用するかは未知数だけど」
我が第一グループの構成は【戦巧者】という器用貧乏に、【槍士】という前衛職、【弓手】の後衛職に【音楽家】という支援職が二人という構成だ。
MMORPGの役割に当てはめれば、タンクが二名、アタッカーが一名、バッファーが二名という構成だ。
まだレベルが低く、とりあえずで割り振った役割ではあるが、なんとか形になっている。
「すまないね、我々の為に」
「いえ、MMOのパーティプレイは役割分担が大事ですから」
バイオリンを奏でるマークさんが、すまなそうに話しかけてきた。前線で暴れている静とクリスの二人と違い、私はマークさんとソネットさん夫妻の護衛に徹している。
二人は【音楽家】なので戦闘能力が無いので、モンスターに襲われれば抗う術が無いのだ。
「お二人の演奏がこんな近くで聴けるんです。役得ですよ」
マークさんのバイオリンに、ソネットさんの声楽。クラシック音楽なのでコンサート活動は欧米が中心で、お二人は貧困地域のボランティア活動も積極的に行っているので日本で生の演奏を聴く機会は少ない。
そんな貴重な生演奏なのに、静とクリスは戦闘に夢中だ。
「一緒に音楽が出来ないのは寂しいが、あの生き生きとした姿を見られて嬉しいよ」
マークさんに同意するようにソネットさんも頷く。ずっと歌っているが、その視線はクリスをずっと追っているので本心なのだろう。
「色々と思う事はあるようですが、クリスは日本で元気に暮らしていますよ」
少し元気すぎる気もするが、一時期の様に元気が無く落ち込んでいるよりもマシだ。
しかし、クリスが使っている弓は<エンブリオ>なので武器としての能力は高いのだろうが、<エンブリオ>を使うクリスに対抗する静も凄い。
静の<エンブリオ>はメイデンwithアームズだが、アームズとしての形は槍では無い。だから静が使用しているのは店売りの普通の槍だ。その普通の槍で<エンブリオ>を使用しているクリスと互角の戦果を出しているのだ。
『あの者は何故<エンブリオ>を使用しないのだ? 確か自身の《歌唱》スキルを強化するのであろう?』
「色々と事情があるのさ」
『【槍士】だから《歌唱》スキルは使えぬのかもしれぬが、あまりジョブと<エンブリオ>がシナジーしておらぬようだの』
「まあ、ファーストジョブだから」
【槍士】になった後に<エンブリオ>が孵化したのか、<エンブリオ>が孵化した後に【槍士】になったのかは聞いていない。
しかし、静にとってシンフォギア型の<エンブリオ>を使用するのは色々と思う所があるだろう。特に今は本物のシンフォギア奏者が隣にいるのだから。
<エンブリオ>は<マスター>本人の最大の望み・願望・悩み・人格などのパーソナルデータと、孵化までの<Infinite Dendrogram>での行動を元に生まれるらしいが、見事に静が心に封印した望み・願望をカタチにしたものだ。
「ゲームは楽しむものだろ、本人が楽しんでいればそれで良いじゃないか。効率とか強さを追い求めるのが正しいとは限らないさ」
と、再びバイオリンを弾きているマークさんが声をかけてきた。
なんだろう、音を楽しむと書く音楽の専門家が言うと含蓄があるように聞こえる。
「静! 右だ!」
「ありがと!」
クリスが静の危機を察知し、的確に静をフォローする。
傍から見ると良いコンビなのだが、やはり内心はまだまだ解消されないモノがあるのかもしれない。
『マスター、こちらにもお客様のようじゃ』
「これだけ綺麗な演奏会をしていればお客さんくらい来るさ」
バイオリンを弾くマークさん、カンタータを歌うソネットさん。
二人の支援スキルで我々はステータスを底上げしているが、どうしても二人は無防備になるし音を奏でているので非常に目立つ。
目立つモンスターは静とクリスが駆除しているが、草むらに隠れて二人に接近するモンスターもいる。そんなモンスターから二人を守るのが私の今の仕事だ。
□アルター王国<イースター平原> 【槍士】静
「静! 右だ!」
「ありがと!」
クリスの声に反応して右を見れば、背を低くして接近してくる【ティール・ウルフ】の姿が。事前情報では<イースター平原>には滅多に現れないモンスターで、たしかワンランク上の初心者向け狩場<ノズ森林>に生息するモンスターだったはずだ。
ワンランク上の狩場に生息するモンスターとは言え、所詮は初心者向けのモンスター。私が足止めすれば、すかさず背後からクリスが放った矢が飛んでくる。
「無事か!?」
「ええ、クリスのおかげ。本当にありがとう」
「ばッ、後輩を守るのは先輩のあたしの役目だ」
口では強がって見せても、顔を真っ赤にして恥ずかしがるクリス。
終止お兄ちゃんの言う、クリスは可愛い、の意味が良く分かる。
「もう、私がお姉ちゃんなのに」
クリスと初めて会ったのは私が小学生の頃。
終止お兄ちゃんが外国から助けてきた女の子がクリスだった。当時のクリスは何も話さないし、常に周りを警戒していて誰も近づけなかった。
それでも、自分と同年代の私に対しては警戒心が薄く、クリスの世話役は自然と私の仕事になった。
親と終止お兄ちゃんからお願いされた初めての仕事だったこともあり、クリスの事を妹のように思ってお世話をしてきた。
「あたしの方が年上だって何時も言ってるだろ!」
「お風呂で身体洗ってあげたじゃないですか」
「何年前の話をしてるんだ!」
一つ誤算があったとすれば、妹のつもりでお世話をしていた女の子が年上だったこと。
何時しか立場は逆転し、今では先輩風を吹かせてくる。
こういう所は可愛くない。
「もってけダブルだ!」
放たれた矢が二本に分裂し、分裂した矢が二本とも【リトルゴブリン】に突き刺さる。
狙っていないように見えて、ちゃんと狙っているからクリスの弓は相変わらず凄い。
「どうしてこんなに差が出来たんだろ?」
胸元の<エンブリオ>、見た目はペンダント型だが間違いなくコレはシンフォギア型の<エンブリオ>だ。
頑張ってる終止お兄ちゃんの役に立ちたくて、大好きなお兄ちゃんに褒めてもらいたくて私はシンフォギア奏者を目指した。日本政府が管理する第1号聖遺物「天羽々斬」は翼お嬢様が、第2号聖遺物「イチイバル」は紛失。だから私は第3号聖遺物「ガングニール」の奏者を目指した。
けど、私の歌に「ガングニール」は反応しなかった。LiNKERも投与したが、私の低すぎる適合係数では起動させる事が出来なかった。
「っは!」
悩みを振り払うように槍で【リトルゴブリン】を一突きにする。単純な武術ならクリスにも、翼お嬢様にも負けていない。私は何が足りなくてシンフォギア奏者に慣れなかったのだろう?
胸元の<エンブリオ>を握りしめる。私の浅ましい願望、諦められない夢から生まれた<エンブリオ>。
「……まがい物のシンフォギア」
これを使えばもっと終止お兄ちゃんの役に立てるかもしれない。
けど、これを皆の、特にクリスの前で使うのは惨めすぎる。
「シンフォギアなんか無くても、私は戦える」
リアルでの私は無力だ。ただの人間が相手であれば勝てる程度の力はあるけど、ノイズなどの規格外を相手にする力は私には無い。
でも、<Infinite Dendrogram>でなら終止お兄ちゃんの役に立てる。
「だから、邪魔をしないで!」
次から次へと現れる【リトルゴブリン】や【ゴブリンウォーリアー】を屠っていく。
強くなる、強くなれる。
強くなって、昔みたいに終止お兄ちゃんに褒めてもらうんだ!
□アルター王国<イースター平原> 【弓手】クリス・スノーシンフォニー
また律が焦ってやがる。
流れるような動きで【リトルゴブリン】を倒していく技術は先輩達と同等か、もしかすると律の方が上かもしれねえ。
「ったく、世話の焼ける妹だ」
あいつは終止が好きすぎるんだ。
初めて律と会ったのは、終止に助け出されて日本に連れてこられた時だ。当時小学生だった律は塞ぎ込んだあたしに話しかけ、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。他人を信じられなくなっていたあたしは律を拒絶して、しっちゃかめっちゃかだった。
「私がお姉ちゃんです」
「地獄耳が。なんで聞こえてやがる」
小声で言ったはずが、律には聞こえたらしい。
相変わらずの地獄耳。本人が言うには、お世話をする為に観察力が鍛えられた、らしいがあの地獄耳は生まれつきだろ。あたしが小声で言った悪口を一つ残さず聞き取っていやがったくせに。
「年上のあたしが先輩に決まってるだろ」
狙いをつけ矢を放つ。放った矢は狙い通り敵に突き刺さり、ノイズと同じように消えちまう。
終止には色々借りがあるからゲームくらい役に立ってやらないとな。
ゲームで遊んだことは殆ど無いが、現実と同じように動けるのであたしでも敵と戦える。
出来れば現実で借りを返したいが、おっさんと違ってノイズも倒しちまうから借りの返し処が無いんだよな。
「終止と律には借りがありすぎるんだ」
バルベルデでパパとママを助けてくれたこと、攫われたあたしを助けてくれたこと、フィーネに騙されて<ソロモンの杖>を起動させちまったあたしをフォローしてくれたこと。
こんなあたしの居場所になってくれた終止と律、だからあたしは戦うんだ。
「パパとママの音楽で戦うなんて変な気分だ」
現実では自分の歌で戦っているが、ここではパパとママがあたしの背中を押してくれる。
あたしはパパとママとは違うやり方で世界を平和にしてみせる。
でも、今は。
「ゲームを全力で楽しんでやる!」
遅くなってすいません。思っていた以上に仕事が忙しく、想定以上に時間が作れませんでした。
次の更新は8/10を目標にしています。
ちなみに、次回は現実回と言う名の実質シンフォギア回になります。