戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram> 作:haneさん
□2043年7月25日 風鳴終止
<Infinite Dendrogram>サービス開始から今日で10日目。内部時間では30日が経過し、レベルアップも順調だ。
今日は土曜日なので<Infinite Dendrogram>で遊んでいたかった。まだ高校生なので休む自由はあると思うのだが、残念ながら風鳴宗家次期当主としての仕事があるので<Infinite Dendrogram>で遊んでいる訳にもいかない。
「なんで俺が坊っちゃんを送らないといけないんですかね?」
「フランク君が昨日ミスしたからだね」
「ゲームの話をリアルに持ち込まんでください」
まずはレベル上げという事で、<Infinite Dendrogram>ではパーティ狩りを継続中だ。
とは言え、仕事などの用事もあるのでメンバーはログアウト、ログインを繰り返して随時パーティメンバーを更新して狩りを続けている。
そんな中で、フランク・ディ・ジェモンが処理しきれない量のモンスターを引っ張ってくる、所謂トレインを発生させる事故を起こした。何とか処理出来たが、体を張ったランスロットはデスペナ寸前だった。
「でも、最近は送迎してなかったじゃないですか」
「何が悲しくて男とバイク二人乗りしなくちゃいけないんだ。車の免許を取得したって聞いたからだ」
「ああ、親父から聞いたんですか」
私も翼姉さんと同様にバイクの免許は持っているが、車の免許は年齢的な問題で取得していない。超法規的措置で取得させてくれても良いのに、変な所で風鳴は真面目なのだ。緊急時は錬金術で空を飛んだ方が速いので、本当に必要かと言われると強く出れないのが辛い。
そんな訳で、車で移動する時は誰かに運転を頼まなくてはいけないのだが、今日はフランクのリアルに頼んだ訳だ。
「ちゃんと給料は出す。車買うのに貯金しているんだろ?」
「それも親父情報ですか? 仕事くれるなら車買ってくださいよ」
「ミニカーでも良いかな?」
寧ろ車を買いたいのは私の方だ。今乗っている車は風鳴宗家が所有する車と言えば聞こえは良いが、ようは父である風鳴訃堂が所有する車なのだ。
なんか親の脛をかじっているようで嫌なのだ。特にかじる相手が妖怪と称される訃堂なのが嫌だ。
「プレミア付きのならイイっすよ」
「その辺のコンビニで売っているヤツに決まっているだろ」
と、風鳴宗家次期当主という立場を忘れ、友人との雑談を楽しんでいると目的地に到着したようだ。
「……折角の海なのにつまらないですね」
「海とは言っても軍港だから仕方ない。水着女子は探してもいないと思うぞ」
辺りを見渡しているアホは放置し、目的の潜水艦に近づいていく。
引っ越し中だから荷物を持った職員が忙しく潜水艦を出入りしているので、邪魔にならないよう注意しなくては。
「それじゃ、そこらで時間潰してるんで仕事終わったら呼んでください」
「いや、大学行って勉強してこい」
私をサボる理由にしないで欲しい。
それに今日は宿泊の予定なので、待っていてもらう訳にもいかない。
「分かってますって。お勤め頑張ってください!」
と、無駄に明るい笑顔を振り向いて去っていくアホ。
余計な気を使わなくて良いので付き合いやすい相手だが、演技とはいえアホさ加減が心配になるな。
まあ、一部の人間には演技だとバレて逆に警戒されている面もあるのだが。
「いなくなったので出てきて大丈夫ですよ」
「……申し訳ありません」
引っ越し荷物の影に隠れていた友里さんに声をかけると、申し訳なさそうに出てくる友里さん。
彼女はあのアホの笑顔の仮面を見破り、その下に隠された冷徹な素顔を把握している数少ない人物のうちの一人だ。
その為、何を考えているか不気味に思いあのアホを苦手に思っているようだ。
「悪い方では無いと理解しているのですが、仕事柄どうしても警戒してしまって」
「まあ、仕方ないですよ」
あのアホの本性、どちらかと言うと黒幕キャラ的な面もあるからな。昔からよくキャンプなど、遠くに連れて行ってくれる気のいい兄貴分的なポジションだったのに、なんであんなになってしまったのか?
……風鳴の関係者って一癖二癖あるヤツが多いから、あのアホでも比較的まともな部類なのが悲しい所だ。
しかし、それでも雇用関係に問題は無い。ウチは従業員の個性を尊重するアットホームな職場なのだ。
「それで、引っ越しは順調ですか?」
「はい。旧本部からの書類等の物資回収が完了、必要な物については順次仮説本部に搬入しています」
特異災害対策機動部二課本部は元々と私立リディアン音楽院高等科の地下に建設されていたが、先月の闘いでリディアン音楽院と共に本部施設は半壊。
地上施設のリディアン音楽院と違い、特異災害対策機動部二課本部は地下施設の為に再建は困難と判断されてしまい、早々に本部施設の移設が決定。
とは言え、機密情報の塊である特異災害対策機動部二課の本部施設など早々に建設出来ず、新造された次世代型潜水艦内に仮説本部として移設されたのだった。
「その他の物資の積込みもスケジュール通りですので、予定通り航行訓練及び潜航訓練を実施予定です」
「了解です。それじゃ司令室に顔を出してきます」
引っ越しの手伝いをしたいのは山々だが、上司が手伝うと邪魔になるだろうしな。
私は高校生だが、特異災害対策機動部二課での権限の高さは上から三番目くらいなのだ。会社で言えば役員レベル、風鳴宗家からの目付け役なので大臣の承認が必要になるが、二課の司令である弦十郎兄貴の権限を停止する権限も保持している。
「あれ? 終止師匠来てたんですね」
「お疲れ様です、立花さん。あまり顔を出さないと忘れられてしまいそうなので」
潜水艦内の通路を歩いていると、シンフォギア奏者である立花響さんに声をかけられた。
彼女と知り合ってまだ数ヶ月だが、仕事が忙しい弦十郎兄貴と交代で戦い方を教えた仲なので立花さんからは終止師匠と呼ばれている。
「よく言うぜ。昨日は仕事したくないって駄々こねてたくせに」
「私は寧ろそれを知っている雪音に疑問を覚えるのだが」
「翼、二人はそういう仲ってことだろ」
シンフォギア奏者の立花さんがいるのだから、当然他のシンフォギア奏者もいる訳で。
クリスからはツッコミが、翼姉さんはそんなクリスに疑問を持ち、奏さんは翼姉さんに間違った情報を与えていた。
「やっぱりクリスちゃんと終止師匠は恋人同士だったんですね」
「んなわけねーだろ! あと、あたしは先輩だぞ。”ちゃん”じゃなくて”さん”だろ」
原作と違い、クリスは立花さんがシンフォギアを纏う前から奏者として特異災害対策機動部二課でノイズと戦っていた。
つまり、クリスと立花さんはれっきとした先輩後輩の仲なのだが、原作の修正力なのか背の低いクリスを年下と勘違いした立花さんはクリスのことを“クリスちゃん”と気軽に読んでいる。
それとツヴァイウィングファンということもあり立花さんは翼姉さんと奏さんを“さん”付けて呼んでいる。
「え~、クリスちゃんはクリスちゃんだよ」
「この馬鹿! 少しは年上を敬え」
「弦十郎兄貴をおっさん呼ばわりしているクリスが言って良いセリフでは無いと思うぞ」
「おっさんはおっさんだからおっさんで良いんだよ!」
そうハッキリと言い切られると弟として悲しくなるから止めて欲しい。
「それはそうと雪音。雪音は私の義妹になるのか?」
「先輩も冗談を真に受けるな」
「そうなのか? いや、私は本人同士が好き合っているのなら良いのだ、しかしだな」
今度は翼姉さんがクリスに絡みだした。
これが嫁と小姑のバトルか、などと観客気分で見ている場合じゃない。
と言うか、クリスは嫁じゃない。まあ、気になる存在である事は認めるが。
「そう言うのはやはり年齢順というかだな」
「翼は終止が結婚したら誰が自分の面倒見てくれるか心配なんだろ。大丈夫だって、ちゃんと緒川さんが部屋片づけてくれるって」
「私はそう言う事を心配しているのではなくてだな」
まあ、翼姉さんはその手の事に無頓着だから、平気で親戚でもない男性に部屋の掃除を任せるからな。
風鳴の家で暮らしている時も酷かったけど、女中さんが定期的に掃除してくれていた。
しかし、今の翼姉さんは反発して一人暮らし中だ。風鳴の女中さんもシャットアウトしているので、必然的に部屋の掃除は弟の私かマネージャーの緒川さんの仕事になる。
……流石に申し訳ないので、なるべく私が片づけるようにしているが。
「先輩、片づけられない女だからな」
「いい加減に弟離れした方が良いぞ」
「翼さん……」
おう、今度は翼姉さんがフルボッコだ。
特に後輩と可愛がっている立花の悲しそうな顔は大ダメージだろう。
「それで、皆さんは用事があったのでは?」
ここは弟として助け船をだす。
このまま傍観していては、後から翼姉さんに怒られてしまうからな。我が姉は剣にして防人で歌女、生意気で可愛く面倒な姉なのだ。
「弦十郎のおっさんとの話が終わったから、響の希望で訓練が始まるまで食堂で待機してようって話になってな」
「ごはん&ごはんか。それじゃ、私も弦十郎兄貴に会った後は訓練まで暇だから、食堂で待機してようかな」
他の職員が働いている中、一人でいてもつまらないからな。
仕事しろよとツッコまれそうだが、基本的に私の仕事は特異災害対策機動部二課の監督ではあるのだが基本的に暇なのだ。監視という仕事上、見逃さないよう顔を出さないといけないから忙しいと言えば忙しいが。
「それじゃ、私は弦十郎兄貴に会ってくるので」
「まて、終止。結局、雪音が終止の駄々を知っていた件が有耶無耶なのだが」
っち、覚えていたのか。
まあ、隠すような事じゃないから良いのだが。
翼姉さん、ゲームとかやらない人だし。
「最近サービス開始した<Infinite Dendrogram>ってVRMMOで話したんだよ」
「あ、そのゲーム知ってます。最近発売されたゲームですよね」
真っ先に反応したのは意外にも立花さんだった。ごはん以外にも興味あったんだな。
そういえばアニメ好きの友人がいたはずだから、その友人から教えてもらっていたのかもしれない。
「終止が遊戯とは珍しいな。てっきり勉学と武術の鍛錬以外に興味がないと思っていたのだが」
「弟の事をそんなふうに思っていたのか。真面目人間という評価に喜ぶべきか」
翼姉さんの前では勉強と武術の鍛錬しかしてなかったから仕方ない。
全ては<Infinite Dendrogram>の為の準備なのだが、そういった面を知らなければ真面目な風鳴宗家次期当主に見えるだろう。
「そりゃ良い方に取りすぎだろ」
「昔から終止は自意識過剰だからな」
人が折角プラス思考で考えているのに、クリスと奏さんが余計な事を言ってくる。
勉強と武術の鍛錬を真剣に行っていたのは本当なんだから、少しは優越感に浸っても許されると思うのだが。
「それで、その<Infinite Dendrogram>に何故姉である私を誘わない」
「いや、翼姉さんこそ剣と歌とバイク以外に興味が無いモノと」
「姉を誘うのは弟の義務だろう」
でた、翼姉さんの謎の姉理論。唇を尖らせているのは可愛いが、赤子の頃からの付き合いなので正直面倒臭いという気持ちの方が強い。
クリスが相手だとまた違うのだが。
……胸囲の格差のせいだろうか? 前世はおっぱい星人だったからな。
「もしかして先輩誘ってなかったのかよ。律も一緒だったから、てっきり先輩にも声をかけていると思ってたぜ」
「いや、翼姉さんはゲームに興味ないと思ってたから」
「そこは一言声をかけておけよ」
「……律は誘ったのに私は誘われていない」
「ほら、先輩拗ねちまった」
クリスが言うように、誰がどう見ても翼姉さんは拗ねている。
廊下に体育座りで座り込み、悲しそうに廊下の壁を見つめるという普段の防人系女子な姿からは想像できない痛々しさだ。
そんな翼姉さんを慰める奏さん。本当に翼姉さんにとって頼れる姉貴分だ。
「クリスだって何も言わなかっただろ」
「天地で武士やってると思ってたんだよ」
確かに翼姉さんはアルター王国で騎士をしているより、天地で武士をしている方が似合っている。所属国が違えば<Infinite Dendrogram>で会うのは難しいから、話題に出ないのも不自然では無いか。
「……やはり姉より恋人を選ぶのだな」
「落ち込むなって翼」
「あわわわわ」
カオスだ。
クリスに責められる私に、落ち込む翼姉さん。そんな翼姉さんを慰める奏さんに、あわあわするだけの立花さん。
「あの、翼姉さん。一緒に<Infinite Dendrogram>で遊びませんか?」
「……私など二人の邪魔だろう。まだ馬に蹴られたくない」
うん、この剣めんどくさい。
普段の姉弟仲は良いのだが、その反動か自分が除け者にされた時の落ち込みぶりは激しい。
「ほら、私が一緒に遊んでやるから元気だせ」
「奏ぇ」
そんな落ち込んだ翼姉さんを元気付けるのは奏さんだ。
奏さんは翼姉さんにとって姉みないな人で、翼姉さんが甘えられる数少ない同姓の友人なのだ。
「……<Infinite Dendrogram>のデバイス、二台追加だな」
二人のデバイスを用意しないとな。
でないと翼姉さんがまた拗ねてしまう。
「あの~、終止師匠」
「……立花さん達の分も用意するよ」
「未来の分までありがとうございます!」
他の奏者の分まで用意するのに、立花さんの分を用意しない訳にはいかない。
そして立花さんの分を用意するなら、立花さんの嫁の分も用意する必要がある。あの子は色々怖いからな。
「しかし、立花さんは情報通なんだね。<Infinite Dendrogram>なんてまだコアなゲーマーしか注目していないと思ってたのに」
「友達が色々教えてくれるんです。このアニメが流行っているとか、このゲームが人気あるとか、この歌手が凄いとか」
「歌手か。……ツヴァイウィングとか?」
ここでツヴァイウィング以外の名前を出すと翼姉さんの反応が怖い。
他にも気になる歌手やバンドはいるが、翼姉さんの前ではツヴァイウィング推しを貫くのだ。
「勿論ツヴァイウィングが一番です! でも、アメリカではマリア・カデンツァヴナ・イヴっていうデビューからわずか2ヶ月で全米ヒットチャートの頂点に登り詰めた歌姫が誕生したんです!」
「へ~、2ヶ月で全米制覇なんて凄いな」
そういえば、もうそんな時期なのか。
祝マリア・カデンツァヴナ・イヴ全米チャート制覇だけど、このままアイドル大統領誕生と進むのか進まないのか。
<Infinite Dendrogram>も忙しいからフロンティア事変は勘弁してほしいな。
更新遅くなりました。
章タイトル回収です。
次回更新は15日の予定です。