戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram>   作:haneさん

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2043年8月 <UBM>討伐
13話 <UBM>を討伐する為に


 □2043年8月 【戦巧者】防人

 

 リアルは変わらず忙しい。

 特にアメリカの動きが不穏で、日本の諜報を司る風鳴は大忙しだ。

 そして残念なことに忙しさの割に成果は上がっていない。

 

『戦闘中に考え事とはマスターらしくないの』

「悪い、雑念に捕らわれていた」

 

 まったく、戦闘中に余計な事を考えるなんて私もまだまだ未熟だ。

 目の前の【ブラック・ウルフ】に集中しよう。相手は名前の通りの狼系のモンスターで、その攻撃方法は牙か爪での直接攻撃に限定される。

 攻撃方法は単純だが群れでの連携攻撃が厄介で、現に今も私の後方から気配を殺しながら一匹の【ブラック・ウルフ】が迫っている。

 

「敵の動きがパターン化していないのが<Infinite Dendrogram>の凄いところだな」

 

 背後から近づいてくる【ブラック・ウルフ】も気配を殺すのが上手いが、左側から接近してくる【ブラック・ウルフ】の方が気配を殺すのが各段に上手い。普通の武術家レベルでは気が付かないレベルだろう。

 それに比べると右から接近してくる【ブラック・ウルフ】は恐怖で気配が駄々洩れだ。

 同じ【ブラック・ウルフ】というモンスターなのに技術レベルに差があり、感情の強弱も異なる。

 

「まったく、何処までもリアルだ!」

 

 均一な能力、同じ行動パターンの敵などリアルには存在しない。あのノイズでさえ行動パターンに違いがある。

 しかし、今までの既存ゲームではモンスターの行動パターンはシステムで決められており、“ヘイト”と呼ばれる数値に従いプレイヤーを攻撃するだけだった。

 

「だからデンドロは面白い!」

 

 正面から威嚇してくる【ブラック・ウルフ】を無視し、≪軽業≫スキルを使い大きく後ろにバク宙の要領で飛び、背後から近づいて来ていた【ブラック・ウルフ】を飛び越える。

 目の前の獲物が急に消えた事で一瞬動きが止まった【ブラック・ウルフ】に背後から襲いかかり、その首にアマノムラクモを突き立てる。

 

『やっぱりマスターの闘い方は卑怯くさいのじゃ』

「安全で効率的と言ってくれ」

 

 首を刺された【ブラック・ウルフ】は光となり、首に刺さったアマノムラクモがフリーになった。抜かなくても良いのはゲームの良い所だ。

 勢いを殺すことなく、左から接近していた気配を殺すのが上手い【ブラック・ウルフ】に迫り、≪一閃≫を使って一太刀で【ブラック・ウルフ】の首を刎ねる。

<Infinite Dendrogram>内で2ヶ月近く。アマノムラクモと共に戦った成長の証として、≪一閃≫はアマノムラクモが戦況を判断して自動発動してくれるようになった。

 

『ふむ、固定ダメージ3000は下級モンスター相手には多すぎかの?』

「多すぎ。最近はMPを湯水のごとく使うのが癖になってない?」

『まだまだ余っておるし、回復力もあるから問題無いのじゃ』

 

<エンブリオ>アマノムラクモの成長補正、【戦巧者】で習得したジョブスキル≪MP回復力向上≫で強化されたMPの自然回復量、二つ目のジョブである【生贄】により大幅に強化された最大MP量。

 これらが合わさった事で≪一閃≫は奥の手から、普段使い出来るスキルになっている。

 

「レベルカンストまであと少し、もうひと踏ん張り」

 

<Infinite Dendrogram>のサービス開始から約3週間、内部時間で2ヶ月近い時間が経過している。

 廃人プレイヤーなら数度のレベルカンストによる転職を行い、中には<UBM>を倒した<マスター>もいるらしい。

 それに比べると私の歩みはほんの少しだけ遅い。半分学生で半分社会人なのでログイン時間に制限があるので仕方ないが、ファーストジョブの【戦巧者】はレベルカンスト、アマノムラクモが進化して到達形態:Ⅱになったくらいの成長だ。

 

『素直に【生贄】のままレベル上げした方が効率良いのにのう』

「……色々とプライドがあるんだよ」

『負んぶに抱っこの方針だったじゃろ』

 

 二つ目のジョブには最大MP量の大幅強化を目的に【生贄】を選択した。【生贄】は一切の戦闘行為が出来なくなるので、レベルを上げるにはパーティに寄生するしかない。

 

「自力でレベル上げの方法が出来たから方針変更って言ったろ」

 

 アマノムラクモが進化したのは、私が【生贄】としてパーティプレイをしていた時だ。【生贄】なので戦闘行為は出来ず、せめて何か役に立とうと囮役をしていたのだが、そんな時にアマノムラクモは進化してくれた。

 アマノムラクモの進化は純粋に武器としての性能向上の他、スキル≪勤倹貯蓄≫の強化が大きな目玉だった。

 

『≪勤倹貯蓄≫で貯めたリソースを経験値に戻せるとは言え、変換効率が悪すぎると思うのじゃが』

「……ヒモ男よりもマシだ。これでクリスにデカい顔されないで済む」

 

 アマノムラクモのスキル≪勤倹貯蓄≫は、私が獲得したリソースのうち指定したパーセント分を≪叢雲一閃≫のダメージリソースとして貯蓄しておくスキルだった。

 しかし、アマノムラクモの進化と共に≪勤倹貯蓄≫に二つの機能が追加された。

 一つは貯めたリソースに1月あたり0.1%の利子が付くようになった事。<Infinite Dendrogram>のログイン時間が720時間を経過する毎に貯めていたリソース量が0.1%増えるのだ。

 二つ目が貯めたリソースを経験値に戻す効果。これは任意に発動出来るので、【戦巧者】として闘い貯めたリソースを【生贄】の経験値に戻す事が出来る。

 寄生するしかレベル上げの方法が無い【生贄】にはありがたい効果なのだが、欠点として100の経験値を100のリソースとして保管していた場合、貯めていたリソースを経験値に戻した場合50の経験値にしかならない変換効率の悪さがある。

 

『素直に皆を頼った方が早く【生贄】を卒業出来ると思うのじゃが』

「まったくだ、素直になれっての」

 

 残っていた【ブラック・ウルフ】のうち、囮役として元々私の正面にいた個体の額に矢が突き刺さる。

 クリスの狙撃だ。どうやら静と共に相手をしていた【ブルーレミングス】の群れの処理が終わったらしい。

 今日はクリスと静、そして私の三人パーティで狩りをしていたのだが、【ブルーレミングス】の群れと戦闘中に【ブラック・ウルフ】の群れが横から接近してきたのだ。

【ブルーレミングス】と【ブラック・ウルフ】が共闘するとは思えなかったが、二つの群れを相手にしては物量で押される危険があった。そこで私が時間稼ぎとして【ブラック・ウルフ】の相手をしていたのだ。

 

「養ってくださいとお願いしてくだされば、私はいくらでも尽くしますのに」

「静、重い。それはちょっと重いって」

 

 芝居がかった仕草で、それでいて何処か色気を感じる、静が重いセリフを口にする。

【生贄】に転職して戦闘行為を行えなくなった私の世話を積極的にしてくれるのが静だった。次点で世話をしてくれたのはクリスだが、クリスはツンデレなので尽くす事に照れが無かった静の独壇場となった。

 

「ふふ、いけない趣味に目覚めそうです」

「……監禁は犯罪だからね」

 

 静とは風鳴宗家の屋敷に一緒に住んでいる。静以外にも住み込みの使用人が複数人おり、当然部屋は別々でプライバシー保護もしっかりしている。

 しかし、そこは諜報員の巣窟である風鳴宗家。こっそりの同僚同士の趣味嗜好を調べる悪癖がある者が一定数いる。

 そんな者達の報告によれば、静は最近ヤンデレ物の同人誌、特に彼氏を監禁して性的な事をしてしまう女の子が出てくる同人誌にハマっているらしい。

 未成年の静がそんな同人誌を見ているのはどうかと思うのだが、風鳴宗家はそれ以上の非合法活動をしているので誰もソレを指摘する者はいない。

 

「リアルで監禁したら直ぐにバレてしまうのでやりませんよ」

「デンドロ内でも止めてね」

「色々とお世話はお任せください」

 

 色々の部分が随分と艶めかしい雰囲気がある。

 静の手が私の頬を優しく撫でた。

 うん、<Infinite Dendrogram>はそういう行為が出来るので期待してしまう。ハニートラップ対策として色々経験を積んでいるが、やはり男はアホだと感じる瞬間だ。

 

「何恥ずかしい事してるんだ! そういうことは家でやれ!」

「家でやっているので安心してください」

 

 大人な雰囲気を感じ取ったクリスが顔を真っ赤にして抗議してくる。相変わらずクリスはこの手の事に免疫が無い。

 そして言われた静も慣れたもの。手を私の頬に当てたまま、それをクリスに見せつけるように反論するのだった。

 

「リアルで家でもココでは外だろ!」

「見解の相違ですね」

「だから手を放せって!」

 

 普段の静であればクリスをここまで挑発する事は無いのだが、やはり<Infinite Dendrogram>というゲームの中と言うのが心理的ハードルを下げさせているのかもしれない。

 ガングニールの事は悩んでいるようだが、なんだかんだ言ってロールプレイを一番楽しんでいるのは静なのかもしれない。演じるロールの方向性が定まらないが、本気でロールを演じているから適当にあしらう訳にもいかないし。

 

「ほら、ケンカしないで狩りを続けよう。予定が押している」

「予定が押してるのはお前の余計なプライドのせいだろうが」

「……ホントにスイマセン」

 

 風鳴グループ・アルター王国班は王国南部で噂される<UBM>を討伐する為に遠征予定なのだ。

 初めての長期遠征なので物資の調達や移動手段の確保、<UBM>討伐の為のレベル上げなどやる事は多い。

 私は【生贄】のレベルカンストと、第三のジョブに就く事がタスクとして求められている。

 

「素直に私達を頼ってくれていたなら今頃は準備完了の予定でした」

「ったく、プライドだかで余計な迷惑かけるなよな」

「……ホントにスイマセン」

 

≪勤倹貯蓄≫の強化により自力で【生贄】をレベル上げが出来るようになったとは言え、変換効率を考えると二倍のリソースを稼ぐ必要がある。メインジョブ以外は経験値が入らない<Infinite Dendrogram>の仕様が憎い。

 

「ほら、さっさと次いくぞ!」

「<UBM>討伐は早い者勝ちなんですから、早く行きましょう」

「ああ」

 

 二倍のリソースを稼ぐ為、適正レベルよりも上の狩場に来ているので、上級職に就いておりステータス的には私よりも強い二人の手助けは非常にありがたい。

 ……MPだけなら負けていないが。

<UBM>討伐の為にも頑張らなければ。

 




ちょっと時間が進んで8月です。
UBM討伐編といった所ですかね。

次回は8/20の更新予定です。
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