戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram>   作:haneさん

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14話 旅のお供は幼女の手作り弁当とキス(頬)

 □2043年8月 【騎士】防人

 

「これで遠征準備は完了かな?」

「食料に回復アイテム、生活雑貨も各自のアイテムボックスに格納済みです」

「馬車の準備も完了しています」

 

 今回の遠征の為に購入した幌馬車を前に私は最終確認を行う。

<Infinite Dendrogram>での初めての遠征だ。移動に数日かかる予定なので準備も慎重になる。

 だからセバスチャンに遠征準備に漏れが無いか、何回も確認してしまう。

 

「しかし、イメージ壊れるな」

「馬車を曳く馬が用意出来無かったので仕方ありません」

 

 折角の遠征なので移動用に馬車を用意したのだが、馬車を曳く馬やテイムモンスターを用意する予算が足りなかった。

 用意出来る予算がカツカツだったのもあるが、<UBM>が目撃されたと噂がある村は貧困に喘いでいると聞いた雪音夫妻、こちらではスノーシンフォニー夫妻と言った方が良いか、が村への支援物資を用意する事を提案してくれた。

 

「ごめん

 なさいね、私達の我儘で」

「いえいえ。苦しんでいる民がいるのであれば、それを助けるのも”防人”の役目です」

 

 心苦しそうなソネットさん。救援物資の購入費用が膨らみ、移動用の馬が購入出来なかった事を気にしているらしい。

 

「それに、馬車を曳くだけなら馬鹿のカローンがあるので問題無いですし」

「でも、それだとフランク君が大変じゃない」

「大丈夫ですよ。あの馬鹿は運転していないとタダの馬鹿なので」

「……職場環境がブラックすぎて辛い」

 

 馬車と自身の<エンブリオ>カローンの接続作業をしているフランク・ディ・ジェモンが嘆く。

 彼の<エンブリオ>はTYPE:チャリオッツで、到達形態:Ⅱに進化した<エンブリオ>は大型バイク型になっている。

 下手な馬よりもパワーと持続力があるので、これはこれで移動の足には丁度良い。<エンブリオ>なのでフランク君しか操縦出来ない欠点はあるが。

 

「それに支援物資の3割はソネットさんのお手製じゃないですか」

「まだまだ初心者だから皆さんのお口に合うと良いのだけれど」

 

 今回購入した遠征物資は、馬車、回復アイテム、食糧、支援物資とそれなりの量がある。特に支援物資は村の現状が良く分からないので食糧、日用雑貨、医療品と多岐に渡る。

 それらを用意するのも大変なので、手に入れたコネを利用してエドワードさんの商会に一括発注している。

 大量購入とコネのお陰で普通に買い揃えるよりもお安くなったが、そこはまだまだ駆け出しの<マスター>なので決して安い買い物では無かった。

 と言うより、若干の予算オーバーだった。

 

「ママの手作りなら最高に決まってるだろ」

「あらあら、クリスちゃんったらお世辞が上手なんだから」

 

 そんな状況で力を発揮したのがソネットさんの<エンブリオ>だった。音楽家のソネットさんの<エンブリオ>なので音楽系の<エンブリオ>かと勝手に想像していたのだが、ソネットさんの<エンブリオ>は音楽とまったく関係無い生産系の<エンブリオ>だった。

 

「TYPE:キャッスルの【エデン】、貧困地域でNGO活動しているソネットさんらしい<エンブリオ>だと思いますよ」

「夫と違って”音楽の力”に限界を感じていた私の希望がカタチになっただけです」

「……ママ」

 

 バルベルデ共和国での事件以来、雪音一家の道には乖離が生まれていた。

 音楽の力で心を癒し、心と心が通じる事で世界を平和に出来ると信じる雅律さん、シンフォギアの力で目の前の悲劇を止めて世界を平和にすると信じるクリス。

 そして、食べ物や働ける環境を整える事で人々の不安を無くし、人々の物理的な不安を解消する事で世界を平和にすると誓ったソネットさん。

 そんなソネットさんの<エンブリオ>は畑だった。進化すると旧約聖書に登場する”エデンの園”に近づくのかもしれないが、現在は家庭菜園以上だか小規模農家以下の広さの畑でしかない。

 もちろん<エンブリオ>なので植えてから収穫するまでの期間が通常より短かったり、収穫物にステータスアップ効果が付加されたりする大変ありがたい畑なのだ。

 

「NGO活動として農業復興事業もして、少しずつですが人々から飢えを無くしているのですから立派ですよ」

「ママが”音楽”から離れているのは悲しいけど、あたしには出来ない凄いことをしているんだから胸を張ってくれよ」

「クリスちゃん、その言い方だとママが音楽していないみたいじゃない。日本ではしてないけど、パパとチャリティーコンサートだってやっているんだから」

 

 離れて暮らしている親子だが、同じ目標を持っている者同士だからか関係は良好なようだ。 

 世界を平和に。この事を真剣に考え、実行している家族はそうはいないだろう。

 そして、その考え方はリアルだけでなく<Infinite Dendrogram>でも同じだ。

 今回の遠征費用、特に救援物資の調達で購入費用が足りなかった分は、ソネットさんが生産した小麦の売却益を出してくれた事で賄えている。

 

「坊っちゃん、準備完了ですぜ」

 

 カローンと馬車の接続作業を担当していたフランク。

 どうやら出立準備が整ったようだ。

 

「坊っちゃん言うな。忘れ物は無いな?」

「はい、全てチェック済みです」

 

 馬車の動力となるカローンの接続がフランクの仕事なら、荷物の最終確認者は執事であるセバスチャンの仕事だ。

 自分達用の回復アイテムやテント、食料などは出来るだけアイテムボックスに収納しているが、救援物資の方は量が多くとてもアイテムボックスに収納しきれない。

 この為、馬車は三台もあるのに荷物でスペースが一杯だ。荷物満載の馬車が3台に乗員8人なので、<エンブリオ>とは言え大型バイク一台で牽引出来るか不安になる。

 

「そう言えば、日本だと牽引ロープに白い布をつけるって法律で決まっているけど、アルター王国では無くても大丈夫なのかな?」

「一通りの法律は調べていますが、アルター王国ではその手の法律は存在しないようです」

「流石T大法学部、頼りになる」

 

 セバスチャンとリーラが事務作業及び礼儀作法担当なら、ランスロットは法務担当だ。彼はリアルでも司法試験合格を目指すT大生なので法律関係には強いのだ。

 

「まだ法学部に進めると決まった訳では無いので」

「このまま順調に行けば法学部に進めるさ」

 

 謙遜なのかもしれないが、ランスロットは自身を低く評価する傾向がある。

 確かに風鳴の関係者にはT大卒の人間はゴロゴロいるし、肉体労働担当にしてもアメリカの特殊部隊に匹敵する能力を持つ者達の集まりだ。

 そのような環境で幼少期から過ごしているので低評価も仕方ないのかもしれないが、ランスロットも世間一般で考えれば十二分にエリート大学生なのだ。

 この認識のズレが風鳴と関係無い一般人から煙たがられ、嫌みな人間と思われる最大の原因になっている。

 特にランスロットの実の妹である静は、兄のコミュニケーション能力の低さを嘆いていた。

 

「よし、それじゃ出発しようか」

 

 遠征メンバーの顔を見渡し、<UBM>討伐遠征の出立を告げる。

<Infinite Dendrogram>で初めての遠征はアルター王国組全員、私、クリス、マークさん、ソネットさん、ランスロット、静、セバスチャン、リーラ、フランクの9名。

 まだまだ正式サービス開始から時間が経っていない<Infinite Dendrogram>においては、恐らく最大規模の固定パーティだろう。

 

「最後に挨拶を、と思っていましたがギリギリのタイミングでしたか」

「お兄ちゃーん!」

「お久しぶりです」

 

 馬車に乗り込んで、後は出発。と言うタイミングでやってきたエドワードさん一家。

 物資調達でお世話になった商人のエドワードさんに、天真爛漫なグレースちゃん、グレースちゃんのお姉さんでしっかり者のオリビアさん。

 ちなみにグレースちゃんは10歳のロリっ子で、オリビアさんは14歳のローティーンだ。

 

「その節はお世話になりました」

「いえいえ、私共も良い商いが出来ましたので」

 

 リアルで半分社会人だからか、どうしても固い挨拶になってしまう。

 プライベートな付き合いもあるエドワードさんだが、ビジネス上の付き合いもあるのでこれくらいの距離感が丁度良いのかもしれない。

 

「それに<UBM>の情報も提供してもらいましたし」

「故郷に伝わる昔話をお教えしただけですよ」

 

 そう、遠征の討伐目標である<UBM>の情報はエドワードさんから教えてもらった。

 なんでもエドワードさんの故郷であるアルター王国南部では知る人ぞ知る御伽噺で、数百年前に領主を裏切り討伐された騎士団がアンデットとして今も彷徨っている、と言う噂だ。

 そしてこの手の御伽噺には付き物だが、アンデット化した騎士団は民衆や領主から奪った財宝を今も隠し持っているらしい。

 御伽噺を信じた何人もの冒険者がアンデット化した騎士団討伐に赴き、全員が生きて帰ってこなかった。今でも裏切りの騎士団は活動しており、時に村までやって来て悪い子を攫っていく。

 と、最後は御伽噺のよくあるパターンで締めくくられる。

 そして、冒険者を返り討ちにし、やがては国が派遣した騎士を返り討ちにするまでに成長したアンデット達は今では<UBM>に至っているという。

 

「しかし、あくまでも噂なので<UBM>なのかは保障出来かねます」

「それでも<UBM>の情報はありがたいですよ。それに、貧困に苦しんでいる村があるのは本当何ですよね?」

「ええ。生糸の生産地なのですが、山奥で数年前に村に繋がる山道が崩れてしまったのです。さらに人の往来が減ったことでモンスターの生息数も増えてしまい、今では陸の孤島となっている村なのです」

 

 その村は森に囲まれており、農業に適した地では無かったらしい。そこで生産された生糸を売り、食糧を購入する事で生活していた村だったらしいのだが、物流が途切れてしまった事で一気に貧困地帯になってしまった。

 生糸の生産地とは言っても、小規模な村なので生産量も多くなかったらしい。買い取っていた商人達も別の生産地からの買い取りに変更してしまい、現在では誰も見向きもしなくなった村との事だ。

 

「我が家が商人として大成したのは、祖父がこの村の生糸の商いを始めてからなのです」

「だから今でも気にされていたのですね」

「何とか援助したいのですが、商人としては利の無い事は出来ず」

 

 交通インフラの復旧、生息数が増えたモンスターの討伐。これらの費用と生糸の商いが生み出す利益。これらを天秤にかけて利が無いと判断したのだろう。

 確かに、この村は生糸が特産品とは言え、他にも質が良く大量に生産している場所が複数あるとの事なので、この村の生糸を一手に扱っても利益は薄い。

 

「それでも食料援助はされていたのでしょう?」

「我が家が個人的に出せる金額の範囲内で、ですよ。大した援助ではありません」

 

 エドワードさん達は利益にならなくても、縁がある村という事で個人的に援助を続けていたらしい。

 だからこそ、農業が難しい村が飢餓にならずに今まで生き延びてきたのだ。

 雇った冒険者を使った徒歩での援助だったらしいが、アイテムボックスを活用しているので最低限の食糧は輸送出来ていたそうだ。帰りの足で生糸の買い取りも行っていたらしいが、冒険者の人件費や徒歩という効率の悪さから完全に赤字で商売としては成り立っていないらしい。

 

「なので、言い方は悪いですが私達はサキモリ殿を利用しているのです」

「それは百も承知です。私達もこの手の人道支援を拒むつもりはありません」

「ありがとうございます」

 

 エドワードさんが出発前に挨拶に来た理由。

 それは恐らく、自分の都合で私達を動かしている、そんな後ろめたさがあったからではないだろうか。

 しかし、私達は風鳴。民の平穏な暮らしを防人る事を生業とする一族だ。苦しんでいる民がいるのなら、そこに助けに向かうのは当然だ。

 それに、ここはゲームなのでリアルと違ってリスクは無い。リアル以上に否を唱える理由がない。

 

「難しいお話は終わった?」

「ごめんね、グレース。パパのお話は終わったよ」

 

 エドワードさんの後ろで待機していたグレースちゃんが待ちきれなかったのか、ニコニコ笑顔で大人の会話に割って入ってきた。

 

「はい、お弁当作ってきたから食べて!」

「お弁当?」

「うん! お兄ちゃんに食べて欲しくてお姉ちゃんと一緒に作ったの」

 

 笑顔で弁当が入っていると思われる小包を差し出してくるグレースちゃん。

 そしてグレースちゃんの両肩に手を置いて妹を見守るオリビアさん。まだ14歳の子供ではあるが、彼女の料理の腕はプロ級なのは知っている。

 そんな彼女と一緒に作ったお弁当ならきっと美味しいだろう。

 

「ピーマンは入れていないので安心してください」

「……ありがとうござます」

 

 14歳の少女にピーマンで気を使われるとは、年上として情けなくなる。

 だからと言って、ピーマンを食べたいとは思わないが。

 

「はい、好き嫌いしないで残さず食べてね」

 

 ピーマン食べられない同盟のグレースちゃんには言われたく無いな。

 まあ、相手は幼女なので何も言わないが。

 

「ありがとう」

 

 笑顔のまま両手で持っている小包を差し出してくれるグレースちゃん。

 私は膝をつき、目線をグレースちゃん合わせてから小包を受け取った。

 そんな時、事件は起きた。

 

「どういたしまして! っちゅ」

 

 グレースちゃんの顔が近づき、その可憐な唇が私の頬に触れたのだ。

 簡単に言えば頬にキスされたのだ。

 

「まあまあ」

 

 背後から聞こえる楽しそうな声。

 振り向かなくても誰の声か分かる。この綺麗な声はソネットさんだ。

 

「それは犯罪だろ」

 

 次に聞こえるのは怒っている声。

 うん、これはクリスの声だ。

 

「大丈夫ですよ、坊っちゃん。ランスロットに頼んで調べておきましたけど、こっちらでは未成年に対する淫行を禁止する法案は無いみたいっす」

 

 うん、これは馬鹿の声だな。

 そもそも<マスター>にティアンの法律は関係無いって言うか、法的に大丈夫でも社会的に死んでしまう。

 

「……終止お兄ちゃん」

 

 そして、悲しそうな声は静だ。

 余程ショックだったのか、キャラクターネームでは無くてリアルネームになってしまっている。

 

「えへへ。大きくなったら大人のチューしてあげるね!」

 

 この微妙な空気を作った犯人、グレースちゃんは続けて爆弾発言してしまう。

 男としては嬉しいが、後ろからの刺すような視線が痛い。ハーレム系ラノベ主人公はこんな修羅場を乗り越えて来たのか。

 凄いな、尊敬するわ。

 

 




ちょっとハーレム展開

次回更新は8月25日の予定。
9月からは新生活(?)が始まるので、もしかすると更新頻度がさらに遅くなるかも。
コロナで完全テレワークだったのに。。。
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