戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram> 作:haneさん
あと、タイトル通り飲酒は二十歳になってからです
□2043年8月 【騎士】防人
笑い、踊り、歌う。
そして酒を飲み、料理を食べる。
数時間前は此方に武器を向けて来た村人が楽しそうに笑っていた。歓声によって隠されているが、耳を澄ませばマークさんとソネットさんの音楽も聞こえてくる。
やはり、宴は心の距離を縮めるようだ。
「酒だ、酒!」
「肉もあるぞ!」
「美味しいね、お母さん」
ここ数年はまともな食事が難しかった村人達は争うように料理に群がり、歓声を上げながら料理と酒を楽しんでいる。ここまで喜んでくれると、わざわざ食糧を持ってきた甲斐もある。
マークさんとソネットさんの音楽の力によって警戒を解いてくれた村人達。そんな彼等と接触し、エドワードさんの紹介状を渡したことで、私達は客人として村に招待された。
そこで簡単に事情を説明し、運んできた食糧を解放して村人全員参加の宴を開催したのだ。
「若! 若も飲んでくださいよ」
「飲んでる、飲んでる」
酔っ払い特有の馴れ馴れしさで話しかけてくるフランク。
この手の宴は酒に飲まれる馬鹿が出るから嫌いだ。
特に<Infinite Dendrogram>は未成年だと飲酒出来ないから辛い。リアルなら法律を破って嗜む程度に飲めるが、システムで制限されている<Infinite Dendrogram>では規制は絶対だ。
……性的な店なら18歳から行けるのに、なんで飲酒は20歳からなのだろう。
「って、ソフトドリンクじゃないですか! なんで酒飲んでないんです?」
「飲みたくても飲めないんだよ」
この酔っ払い、ウザイな。
無茶な重労働で尻が死んでいるから気を使ってやったのに。
「まだまだですな」
「まったくです。修行が足りていません」
「リアルじゃ酔って絡んでくる奴なんて殆どいなかったからな」
「くけっ」
酔っ払いの対応に戸惑っていると、セバスチャンとリーラの執事メイドコンビが助けに来てくれる。
具体的にはリーラがフランクの背後に周り、首を絞める事で強制的に意識を奪ったのだ。
「それでは我々はコレを処理しますので」
「ああ、助かったよ」
意識を失ったフランクの足をセバスチャンが持ち、上半身は首を絞めたリーラが抱えて運んでいく。
しかし、一瞬で首を絞めて意識を刈り取るとは、我が家のメイドは恐ろしい。主と自身を守る為の護身術らしいが、接近戦ならリーラの腕は一流だ。リーラがもう少し若かった頃は、自衛隊や警察などに近接格闘術の教官として出向していた事もあるらしい。
その格闘術は夫のセバスチャンも恐れるほどで、夫婦喧嘩の際は物理的な喧嘩にならないように注意しているとセバスチャンが言っていた。
まあ、喧嘩になったら確実にセバスチャンが負けるからな。銃の扱い、特に狙撃の腕ならセバスチャンは世界でもトップレベルだけど、近接戦闘は平凡なのがセバスチャンなのだ。
「まあ、男女平等の世の中だし。妻の方が強い夫婦がいても良いのかも」
1キロメートル離れた状態で始まる夫婦喧嘩なら勝てる、それがセバスチャンの言葉だった。
まあ、私もOTONAに成長するまでリーラには勝てなかったから仕方無いが、男としてソレで良いのだろうか。
それとも、これも時代遅れの考えなのだろうか。
「この度はありがとうございました」
ソフトドリンクを片手に夫婦関係について考えていると、この村の村長さんが話しかけてきてくれた。
「いえいえ、困っている人を助けるのが癖なので気にしないでください」
「癖ですか?」
「我が家は騎士みたいな事を生業にしていますので、どうしても手を指し伸ばさずにはいられないのです」
こうして村長さんとちゃんと話すのは、エドワードさんの紹介状を渡した時以来、二回目だ。
この村の村長さんは先代村長さんの奥さんで、意志の強さを感じさせる中年女性だ。食糧が乏しかった影響で痩せているが、上品な物腰だが芯の強さを思わせる目をしているので好感が持てる。
「……手を指し伸ばされた我等は素直に手を繋ぐべきか」
「紹介状があるとは言え、氏素性が怪しい我等を疑うのは当然ですよ」
村人の大半は宴の雰囲気に酔いしれているが、それでも警戒感を解かない村人は一定数いる。
その筆頭が目の前の村長さんで、我々が村を害する者達かを見極める途中と言ったところだ。こればかりは村の長として当然の対応なので不快には思わない。
「済まぬ。やはり、損得勘定で判断すると我等を助ける利が見えぬのでな」
「<マスター>としての利で動いていますので、<ティアン>の方々には分かりにくいかもしれませんね」
単純に利だけで考えれば、この村を助ける理由は分からないだろう。だから村長さんは我々に対する疑念が捨てられない。
仮に村が復興し、村の特産物である生糸を独占出来たとしても、それまでの復興費用などを回収するまでに何十年もかかる。
それよりも村人を奴隷として売り払う方が手っ取り早く利益が得られるだろう。この可能性を捨てる理由が理解出来ない限り、村長さんは我々に対する警戒を解かないだろう。
「<マスター>としての利ですか?」
「ええ、<マスター>としての利です」
「……<UBM>ですか」
不老不死の<マスター>は<ティアン>とは違う常識で動く。
これが<Infinite Dendrogram>のNPC、<ティアン>の常識だ。
<UBM>は強大な力を持つモンスターなので普通の<ティアン>は挑まない。挑むのは自分の力に自信を持つ一部の<ティアン>か、不老不死の<マスター>くらいだろう。
そして、<UBM>は未来永劫世界に一体しか存在しないユニークボスモンスターであり、<UBM>の討伐特典である特典武具は一人にしか与えられない。
つまり、<UBM>討伐は早い者勝ちなのだ。だからこそ、不死身の<マスター>なら多少無理してでも<UBM>討伐を行っても不自然ではない。
<UBM>討伐だけでなく、村の復興という成果はゲーマーとしての達成感もある。
しかし、それは<ティアン>には理解出来ない価値観だろうから言わないけど。
「この村を<UBM>討伐の拠点となさるおつもりか」
「ええ。村の治安が不安定だと安心出来ませんし、<UBM>の情報収集も捗りませんしね」
この付近で<UBM>出没する事はエドワードさんから聞いているが、具体的な出現場所は分からない。人海戦術的に虱潰しに探す手もあるが、村人から情報を集めれば探す場所を限定出来るかもしれない。
「そう言う事であれば協力させて頂こう」
「宜しくお願いします」
完全に警戒感が消えた訳では無さそうだが、村長はとりあえず差し出したこちらの手を握ってくれるようだ。
まあ、<UBM>討伐後に我々が村を襲わない保障が無いから警戒されるのは仕方ない。
「私は<UBM>を見たことは無いのですが、祖父から<UBM>の事は聞かされています」
「やはり、この近辺に<UBM>がいるのですね」
「ええ。村の狩人は年に数回目撃しています」
我々が求めるモノが理解出来たからだろう、村長は積極的に<UBM>の情報を提供してくれる。
ギブアンドテイク、宴の為に提供した食糧の対価と言ったところだろうか。
しかし、一般人が年に数回も目撃していて人的被害は無いのだろうか? 普通に考えて目撃した者は<UBM>に襲われていそうなものだが。
「この近辺に出現する<UBM>は、騎士がアンデット化したモンスターが進化した<UBM>なのです」
「ああ、エドワードさんからも聞いている。一応【聖水】とか、あると便利そうなアイテムも持ってきている」
「なるほど、エドワード殿から。ならば既にお聞きかもしれませんが、この近辺に出現する<UBM>には人間だった頃の記憶と意識があるのです」
「……騎士の矜持で村人は襲わないという事でしょうか?」
「ええ、<UBM>が出現するようになってから約300年、村人に直接的な被害は無いのです」
なるほど、ご同業ということか。
それなら村や村人が<UBM>に襲われないのも納得出来る。生前は民を守る事を誇りに思う真っ当な騎士達だったのだろう。
しかし、領主を裏切り討伐された騎士団って聞いていたのだが、主を裏切ったのにも何か理由があるのだろうか?
「色々と<UBM>について聞きたいでしょうが、詳しい話は明日に致しましょう」
「そうですね。今は宴を楽しみましょう」
宴の場で仕事の話は無粋だ。
お互いにわだかまりも解けたのだ、今は具体的な仕事の話よりも信頼関係を強固にする方が得策だろう。
「お飲み物をどうぞ」
と、そんなタイミングでリーラが飲み物を持ってきてくれた。
酔っ払いの馬鹿を輸送し、帰りの足で二人分の飲み物を用意してくれたのだ。ホント、仕事が出来るメイドさんだ。
「いや、酒は」
「アイスティーなのでアルコールは含まれておりません」
村長という立場上なのか、本人が下戸なのか不明だがアルコールを拒否しようとする村長さん。
そんな村長さんの回答を事前に予測していたのだろう、リーラが持ってきた飲み物はソフトドリンクだった。
アイスティーは透明なガラスのコップに注がれており、キンキンに冷やされていることを主張するようにガラスの表面が水滴で覆われている。
……どうせならビールで乾杯したいが、飲めないものは仕方ない。ホントに仕方ない。
ログアウトした後にリアルで飲もうかな。
「今後の村の復興と、我々の未来を祝って乾杯しましょう」
「……村の復興ですか」
「拠点となる村は活気がある方が我々も活動しやすいので」
周りが飢えに苦しんでいるなかで、自分達だけ食事を楽しむ趣味は無い。
今回の宴も村人との交流という目的もあるが、村に到着してから食事を自分達だけで食べるのは精神的にキツイかったという事情もある。
「なるほど。それでは、その好意に甘えさせてもらうとしよう。対価として<UBM>討伐に協力させて頂こう」
「ありがとうございます。我々には<UBM>の情報や土地勘がありませんので助かります」
「なに、こちらにも利益がある事なので」
そう言ってリーラが持ってきたアイスティーを手に取る村長さん。
此方にも乾杯の文化があるのは既に確認している。
だから、手に持っていたソフトドリンクをリーラが持っているお盆に置き、私もアイスティーを手に取ってガラスのコップを掲げる。
「乾杯」
「乾杯」
周りの歓声、マークさんとソネットさんの音楽をBGMに私と村長さんは信頼関係の構築に尽力するのだった。
ちなみに、この時の乾杯はのちのち私が<超級職>に登り詰める切っ掛けになるのだが、当然この時の私は知る由もなかった。
もう一つ、私と同じく酒を飲めないはずの静とクリスがキャンプファイヤーを囲って陽気に踊っているのだが、彼女達も酒は飲めないはずだから場の雰囲気に酔ったのだろうか?
酒を飲める裏技があるなら是非とも教えてほしいものだ。
某海賊マンガ的な宴回でした。
会社の飲み会(他社の人含む)は半分以上仕事なので好きじゃない。
半分仕事だから飲み代は会社持ち(接待交際費)なのが救いですが、残業代出ないからなぁ
気が付いたら8月も最終日、夏休みとって大洗とか行きたい。