戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram> 作:haneさん
□2045年1月 【歌姫】静
私は私の”歌”が嫌いだ。
聖詠を口ずさむと、どうしても届かなかった過去を思い出してしまう。
「……Ekkitapa gungnir zizzl」
リアルでは一度として反応しなかったシンフォギアが私の聖詠に反応する。
私の身体は光に包まれ、そして光が力となる。
薄手のボディスーツに軽装なメカニカルな鎧。そして、一本の突撃槍。
これが私の力、シンフォギア型の<エンブリオ>だ。
分かっている。
ここは<Infinite Dendrogram>の中で、この胸にあるのは<エンブリオ>。
だとしても、私にとってはこの胸の力は本物だ。例え、リアルで手に入らなかった力の代償だとしても。
「マスター! 【天騎士】さんがピンチです!」
「【魔将軍】を潰すために突撃したのね」
悪魔軍団に襲われているアルター王国騎士団。召喚された悪魔を倒しても、次から次へと悪魔が召喚され続けている。
この危機を突破する為、【天騎士】は悪魔の召喚主である【魔将軍】を討とうとしているのだろう。
「まさに多勢に無勢ね」
見れば悪魔達を突破したのは【天騎士】ただ一人。その【天騎士】も無傷では無い。
早く救援に向かわなければならない。
「こういう時、あの人達はこう言うのだったわね」
シンフォギアに選ばれなかった後も、シンフォギア奏者の動向は常に確認していた。
別に好きで確認していた訳では無い。旦那様がシンフォギア奏者と共に戦場を駆けていたから知っているだけだ。
「最速で、最短で、まっすぐ、一直線に!」
槍の穂先を大地に向け、胸に流れるメロディーに乗って”歌”を歌う。
そうすれば、この世界ではシンフォギアは答えてくれる。
「Earth☆Wrath」
突撃槍が展開し、二機のバーニアが姿を現す。
現れたバーニアに光がともるのと同時に突撃槍を大地へと投擲。
投擲された突撃槍はバーニアによる加速力、ゲームシステムにより強化された投擲力、そして大地の重力を味方に加速し続け、やがて音を置き去りにした。
音速を超えた突撃槍は【魔将軍】が召喚した悪魔達を薙ぎ払い大地に着弾する。
「人がゴミみたいですねマスター!」
「人じゃなくて悪魔だけどね」
突撃槍が着弾した衝撃と砂塵で視界は良好では無いが、それでも奇襲の戦果確認は疎かにしない。
私は飛行能力を持っていないので自然落下中は無防備だ。多少の軌道変更は出来るが、出来れば敵が奇襲によって混乱している内に着地したい。
……シンフォギア奏者はよくヘリから飛び降りるけど、落下中にハチの巣にされるのが怖くないのだろうか?
それとも、こういう臆病な部分が適合者になれなかった理由なのだろうか?
「【天騎士】さんは無事ですかね?」
「……超級職なんだし無事だと思うわよ」
地面が突撃槍を中心にクレーター上に陥没して、蠢いていた悪魔達の大半が塵となっている。
救助対象の【天騎士】のかなり前方を狙って突撃槍を投擲しているので無事だと思うが、その姿を確認するまで安心は出来ない。
流石にフレンドリーファイアは無いと思うが。
「マスター、あそこに人影が」
「ほら、やっぱり無事じゃない」
「なんかボロボロですけど」
「【魔将軍】絶対許せないわね」
ガングニールが言うように、ボロボロな騎士が眼下に一人いる。
騎乗しているので間違い無く【天騎士】だろう。
「投擲前よりボロボロになってません?」
「【魔将軍】絶対許さない」
我が国の重要人物にして、個人的に親交のあるリリアーナの父をボコボコにする【魔将軍】は絶対に許してはならない。
私は【魔将軍】から【天騎士】を守る為、【天騎士】の目の前に着地する。
「……貴公が静か」
「初対面だったと思うけど?」
「リリアーナから聞いている。見た目は常識人だが、中身は主と同じで頭が槍で出来ている残念な子だと」
「失礼な。旦那様と違って私は一般人です。それに旦那様はリアルでもココでも優秀です」
親友だと思っていたリリアーナがそんな風に思っていたなんて。確かに旦那様は(まだ19歳だけど)OTONAなので見た目は脳筋に見えるが、ああ見えて風鳴宗家の次期当主なので文武両道の天才なのに。
あと、リリアーナだって其処まで賢く無いのに、私を残念な子だと思っていたなんて。
絶対許さない。
「誰かと思えば王国の<超級>か」
「はじめまして、ですね。皇国の<超級>さん」
目の前に立つのはドライフ皇国の<超級>にして決闘ランキング一位、【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。手の内を決闘である程度晒している<超級>なので、ある程度能力の把握は出来ている。
恐らくは旦那様や私のようなプレイヤースキルは皆無。
しかし、あの常時発動型必殺スキルは非常に厄介だ。色々と情報収集した結果によると、その能力は『自身のジョブスキルの数値を同時に十箇所まで十倍化する』というチートツールのようなもの。
「”一発屋”の腰巾着が何の用だ?」
「貴方は皇国の<超級>で私は王国の<超級>。何の用があるかは自明の理では?」
「腰巾着の歌手風情が俺に勝てるとでも?」
「歌手では無く歌女と呼んで欲しいですね、私の一族的には」
もっとも、歌女と言っているのは翼お嬢様くらいだけど。
そんなどうでも良い話で時間を稼ぐ。<エンブリオ>の相性的に勝てない相手では無いが、状況によっては完敗してしまう相手でもある。
「UTAME ? なんだそれは?」
「貴方を倒せる力を持った者の呼び方よ」
「戯言を。ランカーでも無い小物風情に決闘王者である俺が倒せると思っているのか?」
余程己の力に自信があるのだろう。慢心していると切り捨てるのは簡単だが、彼には慢心するだけの力がある。
この男の<超級エンブリオ>の欠点は能力の上げ幅が十倍と固定されているので、”物理最強”のような十倍以上の能力を持った相手には手が届かない。
しかし、【魔将軍】という超級職がこの男に厄介な力を与えている。【魔将軍】は【将軍】系の超級職なので、その職業特性は軍団を指揮、運営する事に特化している。
他の【将軍】系であれば軍団配下のモノ達に対するバフが特徴だが、【魔将軍】の軍団へのバフ能力の他にもコストさえ支払えば配下の悪魔を無制限に召喚するスキルがある。
はっきりと言えば、そこそこ強い敵を無制限に召喚できる物量チートが【魔将軍】ローガンの神髄だ。
……奥の手なのか決闘などでは物量チートは使わないようだが、生産職に転職すればコストを高効率で生み出せるはずなので油断は出来ない。
「……ガングニール」
「もうすぐ解析完了するよ」
私は小声でガングニールにスキル発動の準備状況を確認する。
準備をしているスキルは私達のとっておきで、効果は凄いのだが発動するには相手のスキル構成を解析する必要がある。
私は自分で言うのは恥ずかしいが、<Infinite Dendrogram>では強い方だと思う。
<超級>なので強いのは当たり前なのだが、相性的には”魔法最強”に勝てるかもと思える程度には強い。
”物理最強”は相性的に絶対に勝てないけど。
「威勢よく現れた割にはおとなしいな」
「汎用性のある貴方の<超級エンブリオ>と違って私の<エンブリオ>は準備が必要なので」
「俺の前で俺を倒せるなどと戯言を吐いたのだ、悠長に待ってやる道理はないぞ」
「ご心配なく、もう準備は完了しているので」
私の<超級エンブリオ>ガングニールには二つの固有スキルがある。
一つは今発動している歌唱スキル強化。突撃槍と身に纏う軽装の鎧はおまけで、本質は私自身にかかる歌唱スキルによるバフ効果を強化すること。
これはシンフォギア奏者への憧れが<エンブリオ>として孵化したカタチ。
そして、もう一つの固有スキルは私の劣等感をカタチにして孵化をした。
「≪選外虚構≫」
この状況で固有スキルを発動出来たのはありがたい。固有スキルを発動される為には対象のスキルを解析する時間、数十秒だが、が必要だった。
その間に【魔将軍】ローガンの最大戦力である神話級悪魔を召喚されたりしたらヤバかった。
「? 不発か?」
「いえ、私の<超級エンブリオ>は確かに発動していますよ」
「なに?」
≪選外虚構≫は確かに発動している。
だが、対象者である【魔将軍】は効果を実感していないようだ。
まあ、それも仕方ない。<超級エンブリオ>ガングニールのもう一つの固有スキル≪選外虚構≫は見た目には何の変化もない。
クラン内でも効果の変化球具合から、レジェンダリア寄りの<超級エンブリオ>だと揶揄される事もある。
もちろん、私を変態と同列視した愚か者には制裁を施したが。
「私はスキルを発動させました。次は貴方の悪魔軍団を見せてください」
「良い度胸だ。後悔するな、よ?」
自信満々だった【魔将軍】の顔が固まった。
悪魔軍団を召喚しようとして、召喚出来ない事に驚いているのだろう。
「ほら、ちゃんと私のスキルは発動しているでしょ」
「これは貴様の仕業か?」
「はい、これが私の<超級エンブリオ>の力です」
≪選外虚構≫はシンフォギア奏者に選ばれなかった、私の劣等感を元にしたスキルだ。
その能力特性は”相手に選択させないこと”。
つまり、相手のジョブスキル、装備スキル、アイテムの使用(装備品の変更を含む)を禁止する。
分かりやすいイメージとしては、相手に実行ボタンを押させないスキル、だ。
「スキルは表示されているのに、使用出来ないだと!?」
「何かを選ぶということは、何かを選ばないということ。そんなの、選ばれない子が可哀そうじゃないですか」
私の≪選外虚構≫は相手に選ばせないだけのスキルだ。だから既に発動しているスキルは無効化出来ないし、パッシブスキルなどの常時発動系、自動発動系のスキルは無効化出来ない。
あとリソースの問題だと思うが、<エンブリオ>のスキルは<下級エンブリオ>までしか禁止出来ない。おそらく、シンフォギア的な歌唱スキル強化にリソースを使った影響だと思う。
「でも、これで貴方はただの人です」
「貴様!」
【魔将軍】の恐ろしいのは<超級エンブリオ>と悪魔召喚による物量チート。
しかし、<超級エンブリオ>はジョブスキルの効果を書き換えるだけで、それ以上のチート能力は持っていない。
なら対策は簡単、私の<超級エンブリオ>でスキルを使えなくしてしまえば良い。
「まともに戦えば私は貴方に勝てないでしょうが、スキルが使えない貴方なら別ですので」
「貴様、私を見下したな! 殺す、殺してやる!!」
「残念ながら、今の貴方では無理です」
……そう言えば旦那様が言っていたな。
物量チートは恐ろしいが、その物量が牙を向かなければ怖くない。牙を向かない物量チートを誇って慢心している奴は良いカモだ、って。
「……これで、チェックメイトです」
「助力、感謝する」
背後で【天騎士】が立ち上がるのを感じる。どうやら無事に回復出来たようだ。
こっそり回復アイテムを渡していたので、ソレを使って傷だらけの身体を癒したのだろう。
【魔将軍】の物量チートは防いだが、まだまだ召喚済みの悪魔軍団は健在だ。動けない怪我人を抱えたまま戦える相手では無いし、かと言って成人男性を抱えて悪魔軍団から撤退するのは精神的に嫌だ。
「動けますか?」
「私は何とか、な。しかし、相棒は動けないようだ」
歴代の【天騎士】が王国から貸与されてきた煌玉馬【黄金之雷霆】が地に倒れ伏している。
【天騎士】は騎士系統聖騎士派生超級職なので回復魔法は使えるだろうが、流石に機械を修復する事は出来ない。
「置いて逃げる訳にはいきませんよね?」
「相棒を置いて逃げられないし、こう見えても相棒は国宝だ」
「ですよね」
このまま撤退する方が楽なのだが、黄金之雷霆を置いて行けないのなら手は一つ。
ここで【魔将軍】と悪魔軍団を潰す。【魔将軍】は<マスター>なので倒しても三日で復活するので、無力化した後は積極的に倒すつもりは無かったが仕方ない。
黄金之雷霆をアイテムボックスに仕舞えば良い話かもしれないが、黄金之雷霆はプライドが高そうだし。
あと、親友の父をボコボコにした【魔将軍】は許さないと決めたばかりだ。
「それじゃ、【魔将軍】はリリアーナパパに譲りますよ」
「ありがたいが、その呼び方は止めてくれ」
「行きますよ、リリアーナパパ!」
「だから呼び方!」
この戦場で最弱なのは間違いなくジョブスキルを封じた【魔将軍】で、次点が満身創痍だった【天騎士】だろう。
ならば、悪魔軍団の相手を私が、【魔将軍】の相手を【天騎士】が行うのが良いだろう。
「♪ ~La La ♪ ~」
さあ、この世界でも魅せてあげましょう。
この”シンフォギア”の力を!
本来なら後編で、次回から時間を巻き戻して正式サービス開始日から一話、の予定でしたが文量が微妙だったので中編に
後編は明日投稿します。