戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram> 作:haneさん
1話 サービス開始前夜
□2043年7月14日
何を隠そう私は転生者だ。それも所謂”神様転生”をした転生者だ。
転生した原因はもう覚えていないが、転生した理由は覚えている。
それは、“VRMMO”で遊んで見たい。そんな願望があったからだ。
「転生して“VRMMO”で遊びたい! どうせなら食事も酒も、性的な事も出来る<Infinite Dendrogram>で遊びたい!」
社会人で酒も飲んでいたし、趣味の範囲でギャンブルも楽しんでいたし、特殊なお風呂屋さんにも出向いていた。年齢相応の年収で借金はしない主義だった私にとって、リアルマネーを使用せずに何でも出来る<Infinite Dendrogram>は魅力的だった。
「特典? 三つもくれるの?」
そしてお約束の転生特典。<Infinite Dendrogram>というゲームをチートしない範囲で遊びたい私は下記の特典を神様に願った。
1.<Infinite Dendrogram>で最上位に食い込めるプレイヤースキルを得られる才能
2.プレイヤースキルを磨ける環境
3.周りの人間(最低十人)とずっと<Infinite Dendrogram>を遊べる環境
1については単純だ。ゲームである以上、楽しむにはプレイヤースキルがあった方が良い。
そしてどうせ神様にお願いするのなら、並程度では無く最上のプレイヤースキルが欲しかった。
2は1の延長だ。いくら才能があっても磨かなければ意味が無い。だから磨ける環境を願った。
3はゲームを有利に進めるための願いだ。闘いは数、という言葉もあるように、MMORPGにおいて数は力だ。安定してログインする仲間がいれば、それだけで集団という力になる。
「そんなショボい願いで良いの?」
「ゲームデータを弄って遊ぶのは好きじゃないので」
「分かった。君が<Infinite Dendrogram>を全力で遊べるように神様が全面的にバックアップしてあげるよ!」
こうして私は転生した。
が、一つだけ誤算があった。<Infinite Dendrogram>を遊べる世界が、<Infinite Dendrogram>原作の世界とは限らないという事だ。
「坊っちゃん、いよいよ明日ですね」
「坊っちゃんは止めろ」
「坊っちゃんは坊っちゃんですよ。風鳴宗家の次期当主なのですから」
神様に願った特典は全て叶った。
世界最高レベルの才能とそれを磨く環境、そして<Infinite Dendrogram>を共に遊ぶ仲間達。
文句があるとすれば、それはたった一つ。この世界が<Infinite Dendrogram>の世界であると同時に、モブに大変厳しいシンフォギアの世界でもあるという事だ。
確かに<Infinite Dendrogram>もシンフォギアも同じ2040年代の話だけど。
殆ど豆知識だけどシンフォギアは時代設定などは公表されていなかったが、シンフォギア5期にちらっと映ったライブ告知のポスターには2045年1月21日、22日と記載されていた。そこから逆算すると1期は2043年4月から6月の話なのだ。より具体的に言うと今から半月前に奏者達の行動制限が解除されて響と未来が再会した所だ。
「でも、
「姉さんと違って鍛錬ばっかりだけど、私も娯楽を楽しみたい欲求はあるよ」
「それを聞いて婆やは安心しました」
無いが嬉しいのか、初老の域に足を踏み入れた昔なじみの女中が頷く、
私の現世での名前は風鳴
シンフォギアの原作では風鳴翼に弟などいない。風鳴宗家の当主である
しかし、この世界では息子の嫁を孕ませた事実に訃堂の正妻が激怒。冷凍保存していた自身の卵子と訃堂の精子を人工授精させ、人工子宮で発育されたのが私だ。
そして、産まれた私に名づけられた名前が終止。風鳴宗家の人間として終わりを止める者、という意味らしいが、これで打ち止めだという正妻である母の脅迫的な意味も込められている、かもしれない。
「こう見えても相応に欲望はあるんだけどな」
風鳴宗家では私はストイックに己を鍛える真面目な子供として評判だった。前世では結構遊んでいたので個人的には好ましくない評判なのだが、物心ついた頃から鍛錬しかしていなかったので仕方ない。
両親も鍛錬に励む私に何も言わず、鍛錬に集中出来る環境を整えてくれた。
別に人工的に産まれたから親子関係が良くない、愛されていない、などの理由では無い。寧ろ溺愛されていたので、私は7歳にしてOTONAになってしまった。
まるでバーロー探偵である。もっとも、向こうは頭脳が大人なので微妙に違うのだが。
「確かに。坊っちゃん、房中術の鍛錬にも本気でしたもんね」
「……思春期の男なんだから仕方ないだろ」
「……不潔」
両親に溺愛され、父である訃堂からは武術や勉学、商いについて学び、母からは琴や舞踊、茶道などの日本の伝統的な芸事を叩きこまれた。
風鳴宗家の次期当主として必要な事を叩きこまれた訳だが、精通する年頃になるとハニートラップ対策も兼ねて実践込みで房中術も叩き込まれた。両親は娘の純潔は重要視していたが、息子の純潔には何の価値も見出していなかったのだ。
……お陰で女に溺れて判断を誤るは無いだろう。父訃堂曰く、為政者として必要な技能の一つらしい。
「いや、何かごめん」
「謝らないでください、風鳴の人間としては必要な事です」
「でも、そんな悲しそうな顔をされると」
「……必要な事ですから、私は納得しています」
しかし、私が房中術を学んだ事を嫌がる者もいる。幼馴染の女の子、
彼女は私の乳母の娘で、兄妹のように育ってきた仲だ。関係は高校生になった現在も変わらず、主と近侍という関係性も増えはしたが仲は良いままだ。
……仲が良いので、所謂女遊びが非常にやりにくい。こう、良心的に。
「いや、でもゲーム機をこんなに大量に買い込むなんて、流石坊っちゃん!」
気まずい雰囲気を打ち破るように、使用人の男が部屋に詰まれた<Infinite Dendrogram>の筐体を話題にする。
一つ一つはバイクのヘルメット程度の大きさだが、それが50個も集まればそれなりの量になる。
「ここにあるのは一部で、他の拠点にもあるんですよね?」
「日本以外にも世界中の風鳴家の拠点にも納品してもらっているからね」
私は全力で<Infinite Dendrogram>で遊ぶために転生した。
転生先がシンフォギアの世界でもあったので、<Infinite Dendrogram>で遊ぶために色々と頑張ってきた。
何しろ、この世界は月の欠片が落ちてきたり、世界を解剖しようとする錬金術師がいたり、神に至ろうとするヒトのプロトタイプがいたり、人を生体端末に改造しようとする神様がいたりする、色々と世界的な危機が乱立している世界なのだ。
その他にも人類絶対殺すマンのノイズがゴキブリのように無数に存在する、モブの死亡率が非常に高い世界なのだ。特にコンサートなどの大規模イベントは危ない。
はっきり言って、シンフォギアが原作通りに進むとゲームで遊んでいられるような状況にならないのだ。
一緒に遊んでいたプレイヤーが、次の日に死んでしまった。それが当たり前に想定出来る世界がシンフォギアなのだ。
「ここまで来るのは長かった」
<Infinite Dendrogram>を安心して遊ぶため、シンフォギア原作に干渉してきた。シンフォギアファンから見れば原作レイプと言われるかもしれないが、<Infinite Dendrogram>で遊ぶ為に原作改変は必須だったので許してくれとしか言えない。
カ・ディンギルは発射されたが月に大きな被害は無く、質量もそのままで公転軌道にも変化は無いので2期のフロンティア事変は起きないだろうし、3期の魔法少女事変もキャロルと話を付けているし、4期と5期もそれぞれアダムとシェム・ハと話をしているので大丈夫だろう。
(遺憾である。もう少し師を敬わぬか)
(スイマセン、シェム・ハ先生)
私が転生して真っ先に行ったのが、遺伝子の中に眠るシェム・ハへの接触だった。
人口子宮にいるから意識があり、他にやる事が無かったので真面目に接触を続けたところ、1歳になる頃に内に眠るシェム・ハとの接触に成功した。
それから私とシェム・ハの関係は師と弟子となり、7歳でOTONAになる原因の一旦となった。
(不敬である。師には敬称を付けよ)
(……心を読まないでください)
「そりゃ、これだけ買い集めるのは大変だったでしょうよ」
「こう見えて金だけはあるから」
心の中でシェム・ハ先生と会話をしながら使用人の男と会話を続ける。シェム・ハ先生の弟子になって身に着けた技能のうちの一つだ。
<Infinite Dendrogram>を遊ぶ為の専用機器の価格は1万円。100台購入すれば100万と風鳴の御曹司としては安い買い物だが、100台手配する為の手続きが面倒だった。
荒唐無稽な性能だからか、取り扱う店が少なかったのだ。最終的に風鳴の資本が入っている総合商社経由で仕入れている。
ちなみに100台は初回納品分で、追加で400台ほど発注済なので最終的には500台体制、500人のプレイヤー連合で<Infinite Dendrogram>を遊ぶ予定だ。
「流石、風鳴宗家の次期当主様」
「金とコネがあるから」
転生した風鳴家は防人を自称し、日本の護国を目的とする一族だ。
最近では日本の諜報活動を一手に担い、認定特異災害ノイズに対応する政府機関“特異災害対策機動部二課”などに力を貸している。
父である風鳴訃堂は公務員として風鳴機関、特異災害対策機動部二課の司令官を勤めていたが、それは父個人の能力の他、風鳴家の名家としての権威、そして金の力があったからだ。
特にアメリカの物量に負けた事を悔いている訃堂は国土復興と共に、アメリカに負けない産業基盤を築くために一族の中でも積極的に経済界に進出している。
「世界に冠たる風鳴グループの大株主だし」
ビジネスの面でも風鳴訃堂は優秀で、日本がバブル景気に沸いた半世紀前には風鳴グループを世界でも10本の指に入る企業に成長させ、バブル崩壊やその後の経済危機をほぼノーダメージで乗り切り、現在でもその勢いは衰えない。
ちなみに上場企業では無く、典型的な創業者一族による同族経営をしている。株式の51%を風鳴訃堂が保有しており、長男の勇一朗兄さんと私が10%ずつ、残りの29%を他の兄妹や宗家以外の風鳴家で保有している。
「皆のお陰で3年連続営業利益4兆円を超えたしね」
「勇一朗様も”武”に優れていれば御当主様の後継者になれましたでしょうに」
「父の求める水準が馬鹿みたいに高いですから」
長兄である勇一朗兄さんは父訃堂の商才を受け継いだ傑物だが、武の才能は受け継がなかった。既に孫までいる勇一朗兄さんは風鳴宗家を離れ、風鳴を名乗っているが新たな分家として風鳴を支えている。
ちなみに勇一朗兄さんとは逆パターンなのが弦十郎兄貴で、武の才能は受け継いだがそれ以外の才能は受け継がなかった為に後継者候補から外されている。
「しかし、改めて思うと長兄が70歳って凄い一家だ」
チート転生している私が言える立場じゃないけど。
でも、だからこそシンフォギア世界を生き抜き、全力で<Infinite Dendrogram>を遊べる環境を整える事が出来た。
「チート集団の身内が100人いれば大きな戦力になる」
「坊っちゃんの御期待嬉しく思います」
初老の執事が恭しく頭を下げる。
彼は代々風鳴に使える家の出身で、特異災害対策機動部二課で諜報関係の仕事をしていたのだが任務中の怪我が理由で退職。それ以降、私付きの執事として働いてくれている。
「いよいよ明日だ」
この世界に誕生して17年と9ヶ月。ようやく、<Infinite Dendrogram>で遊べる日が来る。
(我として感慨深い。我等が捨てた世界に弟子が赴こうとは)
心の中のシェム・ハ先生も感慨深いようだ。普段は眠っており滅多に話しかけてこないのに。
(先生達が同胞を育てるために創った世界に行くのに、全力で遊ぼうと思っていて申し訳ないです)
(不要である。既にお主は至る寸前。それも無理矢理抑えつけている状態である。お主が至ろうと思えば、お主は新たな同胞となろう)
シェム・ハ先生達の目的は新たな同胞の誕生。
しかし、シェム・ハ先生達は神と呼ばれるに相応しい力を持つ高次元存在だ。通常の生物のように生殖活動では同胞を増やせず、生物が自分達と同じ存在に至れるように環境を整える事で同胞を増やそうとしてきた。
(失敗続きであった試みだが、お主という弟子が新たな同胞となる事は僥倖である)
シェム・ハ先生達の試みは幾つもの世界で行われた。
この世界は楽園的なストレスを与えず自主的に成長を促す世界のようだが、中には魔王や邪神のような絶対的な敵対者を用意する事でスパルタ的に成長を促そうとした世界もあったと言う。
無数の試みの中でシェム・ハ先生達は方向性の違いから争い、最終的にシンフォギア5期の展開になったらしい。
(我等が捨てた世界とは言え、寄生虫が我が物顔で管理者を気取っているのは業腹であるが)
(弟子の遊び場なんですから大目に見てください)
自我が目覚めているだけで力の大部分は封印中とはいえ、シェム・ハ先生がシンフォギア世界最大のラスボスにして神であることに変わりはない。
その怒気に触れたら<Infinite Dendrogram>で遊ぶどころではない。最悪の場合、地球人類の滅亡である。
(業腹であるが、弟子の楽しみを奪うほど我は偏狭では無い。人間である事を望む理由でもあるのだろう?)
(申し訳ありません、ソレが転生した理由でもあるので)
(構わぬ。既にお主が至る事は決まっておる。それに、お主以外の新たな同胞にも出会っておるし、百年程度の誤差など刹那でしかない)
(ありがとうございます)
<Infinite Dendrogram>で遊ぶ為の最大の壁、シェム・ハ先生の了解もとれた。
これで明日から心置きなく<Infinite Dendrogram>で遊べる。
ノイズとか、ノイズとか、錬金術師とか、アルカノイズとか、全裸男が暴れなければ、だけど。
この作品は、デンドロの本編開始って2045年3月だから時系列的にはXVの後なんだな、というどうでも良い気づきから誕生してます。
と言う訳で、同年代の作品のクロスオーバーなのでデンドロ、シンフォギアどちらにも触れつつストーリーを進めていきたいと思います。
基本はシンフォギアの事件に触れつつ、奏者含めてデンドロで遊ぶ展開に
なりますが。
基本、誰も絶唱しませんが。
次回も明日15時頃に投稿です。ちなみに投稿予約していないので不定期です。