戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram>   作:haneさん

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2話 キャラクターメイキングと行動指針

 □2043年7月15日 風鳴終止

 

 一つ、完全なるリアリティを保障。

 五感を完璧に再現する。ただし痛覚はONOFFが可能なので安心してプレイいただける。

 

 二つ、単一サーバー。

 仮に億人単位でも全プレイヤーが同じ世界で遊戯可能。

 

 三つ、個別選択可能なグラフィックス。

 現実視、3DCG、2Dアニメーションの中からどうやって世界を見るかを選択できる。

 

 四つ、現実時間とゲーム時間の乖離。

 ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進む。

 

 これが<Infinite Dendrogram>の広告メッセージ。

<Infinite Dendrogram>とは、プレイヤーに新世界と無限の可能性を提供するゲーム。

 その世界に私はついに足を踏み入れた。

 

「この世界に入れたって事は、ちゃんと人間として認められたって事か」

 

 純和風の実家ではお目にかかれない木造洋館の書斎のような部屋を見渡してみると、木製の揺椅子で人間の様にくつろぐ猫が一匹。

 

「はーい、ようこそいらっしゃいましたー」

「……お招き感謝する」

 

 くつろいでいた猫が日本語で挨拶してきた。幼い頃から躾けられてきたので反射的に挨拶を返すが、どうしても<Infinite Dendrogram>をプレイ出来る確信が無いので緊張してしまう。

<Infinite Dendrogram>についての原作知識の大部分は“想い出の燃焼”でとっくの昔に力と変えてしまっている。

 しかし、残り少ない原作知識によれば<Infinite Dendrogram>は“人間”で無くては遊べないゲームであることは覚えている。原作での例は主人公椋鳥玲二の姉だけだが、神に至りかけた身としては気が気でならない。

 

「あんしんしてー、君はまだ人間だから<Infinite Dendrogram>に入れるよ」

「個人情報を覗き見るのは感心しないな」

「ごめんねー、規約にも書いてあったと思うけど<Infinite Dendrogram>の仕様上パーソナルデータを収集しないといけないんだ」

 

<Infinite Dendrogram>のデバイス説明書と共にサービス規約書が入っていたのを思い出した。

 たしか<Infinite Dendrogram>はユーザー保護の為にパーソナルデータ、主にログイン中のユーザーの健康維持の為に活用される、を収集するが<Infinite Dendrogram>を運営する為にのみ使用されると記載されていた。

 

「でも、人間の域を超えそうだから気を付けてね」

「ご忠告どうも、気を付けるよ」

 

 OTONAになって10年とちょっと、こんなに早くKAMISAMAになんて成りたくない。

 

「礼儀正しい人は好きだよ。さて、まずは自己紹介だね、僕は<Infinite Dendrogram>の管理AI13号のチェシャだから。よろしくねー」

 

 これが管理AIか。シェム・ハ先生曰く、人の家に勝手に住み着いた寄生虫。

 まあ、<Infinite Dendrogram>のユーザーである私には関係無いことだが。

 

「宜しくお願いします」

「じゃあまず描画選択ねー。サンプル映像が切り変わるからどの方法が良いか選んでねー」

 

 チェシャの一言で目に映る風景が一変する。

 洋風の書斎から中世ヨーロッパ風の街並みに変化したのだ。変化したのは風景だけでは無く、風景の見え方も一定周期で変化しており、現実と変わりない風景、CG的な風景、アニメ的な風景の3パターンだ。

 

「実写映画、CG映画、アニメ映画みたいな感じか。どうやっているんです?」

「視覚で捉えた映像って結局は脳の処理を通るからねー。やりようはあるのー。という訳でこんな感じで見え方変わるんだけどどれにするー? 後でアイテム使えば切り替えることも出来るよー」

 

 この手の技術は風鳴家が経営する風鳴グループや特異災害対策機動部、アメリカのF.I.S.も研究しているが、ここまでリアルに映像を大多人数の脳に送り込む事は出来ないはずだ。

 技術としてはウェル博士が開発しているダイレクトフィードバックシステムに近いのだろうが、性能が段違いだ。

 一応、ダイレクトフィードバックシステムはアメリカの最先端技術なのだが、それを一民間企業がソレを上回る技術を開発するなんて信じられない。

 なんて普通の人間は思うのだろうが、ある程度の事情は覚えているので驚かない。

 

「リアルと同じ描写でお願いします」

「オッケー」

 

 リアルと同じように<Infinite Dendrogram>を遊びたいので、選択肢はリアル描写一択だ。

 CG、アニメの女の子と遊んでも面白くない。

 

「次はプレイヤーネームを設定してもらうねー。ゲーム中の名前は何にするー?」

「防人で」

 

 原作主人公に倣って名前を文字ってプレイヤーネームを設定しようかとも思ったが、やはりこの身は防人。ならば、名は”防人”以外にない。

 

「わかったー。次、容姿を設定してねー」

「リアル準拠でお願い。ああ、髪と目を適当に青系に設定して欲しい」

 

 リアルで鍛えた武術を<Infinite Dendrogram>で使用する事を考慮すると、やはり体形は動かし慣れているリアルと同じ方が良い。

 現実と同じ容姿だとリアルバレの可能性もあるので髪や目の色など、動作に影響無い範囲で変更はする。仮にリアルバレしても風鳴の力でどうとでもなるのだが、下手すると相手が東京湾の住人になってしまう可能性もあるので、ここは素直にリアルバレの可能性を低くしておこう。

 

「適当にって、本当に適当で良いの?」

「別に拘りないので。青系なのも、単純に姉の髪が青だからなので」

「シスコンなんだねー」

「シスコンじゃない」

 

 私をからかいながらもチェシャは仕事をしたらしく、目の前に髪色と瞳の色が変化しただけのリアルと寸分たがわぬ風鳴終止が現れた。

 

「これで大丈夫―?」

「これで良いです」

「それじゃ、一般配布アイテムを渡すねー」

 

 チェシャが空中に向けて肉球付きの猫の手を振るうと、何も無い空間からカバンが一つ落ちてくる。

 

「これが防人の収納カバン、所謂アイテムボックスねー。中は収納用の異次元空間だからー」

「ゲームっぽいアイテムだね」

「防人の持ち物なら入るけどー、逆に言うと防人の物以外は入らないからー。あとPKされてランダムドロップしたり、《窃盗》スキルで盗まれたりするから気をつけてねー」

 

 自由度が高いゲームなだけあって、そういった犯罪系の自由度も高いようだ。

 そして、それをチュートリアルで注意するってことは、犯罪行為も出来るよって暗にプレイヤーに教えているよな。

 

「このアイテムボックスは一般的なアイテムなんですか?」

「そだよー。一般的に普及しているし、もっと容量が大きいのとか、盗まれにくいのとか、小さくて持ち運びやすいのとか色々売ってるよー」

「それじゃ必要に応じて買い替え出来るのか」

 

 風鳴の人間を動員して一大勢力を築く予定だから、どうしても兵站の事を考えてしまう。

 アイテムボックスがあれば兵站輸送が楽になるので、何処かに攻め込む時には大いに活用させてもらおう。

 

「次は初心者装備一式ねー。防人はどれにするー?」

 

 チェシャは本棚から一冊の本を取り出し私に差し出してくる。

 渡された本を開くと色々な武具が一揃い画像付きで記載されていた。

 

「服装は洋風にするとして、武器は悩むな」

 

 風鳴宗家の次期当主なので武芸百般に通じている。具体的には剣術、槍術、弓術、馬術、柔術をはじめ弦十郎兄貴から兄貴オリジナルの謎格闘術を学んでいる。

 基本的にはどれも一流以上に使いこなせる自信があり、特に剣術は得意で太刀、打刀、短刀、二刀流、小太刀二刀流、抜刀術と幅広く習得しているし、嗜みとしてフェンシングなどの西洋剣術も多少学んでいる。

 

「盾術は苦手だし、やっぱり日本刀が一番かな」

 

 西洋剣術は剣と盾の両方を持っている事を前提にしているが、日本の剣術の場合は盾を持たない。

 この為、私は普通の一般人よりマシなレベルでしか盾を使いこなすことが出来ない。

 

「とりあえず木刀でいいか」

 

 洋風の服装に木刀は似合わないかもしれないが、とりあえず初期装備なので妥協しよう。

 

「オッケー。じゃあ装備と武器を」

 

 初期装備を決めると、チェシャの掛け声と共に私の服装が選んだ洋風の物に変化した。

 もしかすると既に容姿も先程決めた容姿、青系の髪と目に変化していたのかもしれない。

 体格が一緒なので分からないが、恐らく変化しているだろう。

 

「これ最初の路銀ねー。銀貨五枚で5000リルねー。ちなみにおにぎり一つで10リルくらいだよー」

「かたじけない」

 

 腰に木刀があるので、なんとなく侍風にチェシャが手渡してきた銀貨五枚を受け取る。

 傍目には洋風の服装で青系の髪なので、きっと外人の侍コスプレにしか見えないだろう。

 

「次は<エンブリオ>を移植するねー」

「<エンブリオ>?」

「まだ初日だから情報出回ってないかー。<エンブリオ>は全プレイヤーがスタート時に手渡されるけれど、同じ形なのは最初の第0形態だけー。第一形態以降は持ち主に合わせて全く違う変化を遂げるよー」

「なるほど」

 

 一応原作知識で知ってはいるが、サービス開始初日に知っているのも変なので知らないふりをしておこう。<エンブリオ>の説明が大々的に行われるのは明日、発責任者を名乗るルイス・キャロルがTVやネットを通じて行うはずだ。

 もしかするとデバイスに付属していた説明書に記載されていた可能性もあるが、規約関係はちゃんと確認したが説明書は読んでいないので分からない。

 

「千差万別だけど、一応カテゴリーはあるよー」

「攻撃タイプ、防御タイプとか?」

「惜しいー、大まかなカテゴリーで言うとー。

 プレイヤーが装備する武器や防具、道具型のTYPE:アームズ

 プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー

 プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ

 プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル

 プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー

 かなー」

「それじゃ、日本刀型のTYPE:アームズに変化することもあるのか」

「変化の可能性は無限だから保証できないけどねー。あと、このゲーム、キャラの作り直し出来ないから<エンブリオ>の作り直しも出来ないからねー」

 

 そう言えばそんなも設定あったな。

 たしか、脳波データを登録しているから別デバイスでログインしても同じキャラでログインするんだっけ。

 

「後悔しないように大事に育てますよ」

「うん、大事に育てねー。なんて話している間に<エンブリオ>移植完了ねー」

「おぉ、これが」

 

 いつの間にか左手の甲には淡く輝く卵形の宝石が埋め込まれている。

 

「これが<エンブリオ>」

「そだよー、それが<エンブリオ>だよー。第0形態はそんな風にくっついているだけなのだけど、孵化して第一形態になったら外れるからー」

 

 移植されたばかりの<エンブリオ>を撫でる。見た目道理の宝石のような感触で生物的な感じはまったく感じない。

 しかし、これが相棒と思うと見た目はただの宝石なのに愛着を感じるから不思議だ。

 

「じゃあ最後に所属する国を選択してくださいねー」

 

 チェシャはそう言って書斎の机の上に地図を広げた。

 それは古びたスクロール型の地図だったが、広げ終えると地図上の七箇所から光の柱が立ち上り、その柱の中に街々の様子が映し出されている。

 

「この光の柱が立ち上っている国が初期に所属可能な国ですねー。柱から見えているのはそれぞれの国の首都の様子ですー」

 

 それぞれの光の柱の周囲には、国の名前や説明が光の文字となって浮かんでいる。

 

 白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み

 騎士の国『アルター王国』

 

 桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭

 刃の国『天地』

 

 幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間

 武仙の国『黄河帝国』

 

 無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市

 機械の国『ドライフ皇国』

 

 見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ

 商業都市郡『カルディナ』

 

 大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地

 海上国家『グランバロア』

 

 深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園

 妖精郷『レジェンダリア』

 

「バリエーション豊かだな」

 

 どの国にも魅力を感じるが、所属する国はあらかじめ決めている。

 リアルの事情を考えれば刃の国『天地』なのだが、せっかくのゲームなので騎士になるのも面白い。

 あと、原作主人公が所属する国って言うのも決め手の一つだ。

 

「アルター王国でお願い」

「オッケー。ちなみに軽いアンケートだけど選んだ理由はー?」

「リアルが侍の家系だから騎士になるなんて許されない。けど、ここは無限の可能性を提供してくれるんだろう? だから、リアルでは選択出来ない事を選択したいんだ」

 

 風鳴家云々の詳しい事情を隠し、騎士の国で騎士になろうと思った理由を語る。

 

「うん、君たちは何にでもなれる。英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのも、<Infinite Dendrogram>に居ても、<Infinite Dendrogram>を去っても、何でも自由だよ。出来るなら何をしたっていい」

「それはありがたい。リアルじゃ出来ない事を<Infinite Dendrogram>でやってみたかったんだ」

 

 私は<Infinite Dendrogram>で遊ぶ為に転生した人間だ。

 転生した時はリアルマネーを使わずにデンドロ内で冒険という非日常を楽しみ、獲得した報酬で飲む、打つ、買う、の俗物的な事を楽しむつもりだった。

 今もその欲望が完全に消えた訳ではないが、他にやってみたい事が出来た。

 

「やってみたいこと?」

「国盗り」

 

 風鳴の家に生まれ、護国の為と力を磨かされてきた。

<Infinite Dendrogram>のプレイヤースキル獲得の為と思えば鍛錬は苦では無かったし、体に流れる風鳴の血がそうさせるのか防人という生き方に不満がある訳でもない。

 

「でもやっぱり、“護国”という枷が無い状態で存分に力を振るってみたい」

「ふーん、なるほどー。だから”護国”とは真逆な”国盗り”をやってみたいんだー」

「リアルじゃ絶対出来ないから。あ、一応は防人の誇りがあるから民草に無用な血は流させない」

 

 いくらゲームとは言え、テロのような事は防人として出来ない。PKなら問題無いけど、庇護する対象を傷つけるのは面白くない。

 

「その方が良いよー、NPCの殺害は犯罪だからー。悪人や犯罪者になるのもプレイヤーの自由だから止めないけどー」

「ご忠告ありがとう。心配しなくても合法的に”国盗り”を目指すさ」

 

 斉藤道三のような下剋上しての”国盗り”も良いが、最終的に国を領有していれば良いので、なるべく血を流さない方法での”国盗り”を目指す。

 一人じゃ難しいかもしれないが、あらかじめ風鳴の人間を大量投入する予定なので戦力に問題は無いだろう。

 

「けっこう本気なんだね」

「こういうゲームは本気でやらないと面白くないだろ?」

 

<Infinite Dendrogram>で遊ぶ為に転生し、楽しく遊ぶ環境を守る為に世界の危機を救ってきたのだ。全力全開で<Infinite Dendrogram>を楽しんでやるさ。

 

「それとも、ゲームシステム的に無理とか?」

「そんなこと無いよー。君の手にある<エンブリオ>と同じさ。これから始まるのは無限の可能性」

 

 良かった。王になるのも自由って言われているのに、やっぱりシステム的に無理と言われたら詐欺だと訴えるところだ。

 

「<Infinite Dendrogram>へようこそ、新しい王様になるかもしれない君。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」

 

 その言葉の直後、周囲から書斎が消え去った。

 書斎にあった机、本棚は消え、色々と教えてくれたチェシャすらも消えた。

 所謂チュートリアル空間が消えた変わりに眼下に広がる広大な大地が見える。

 

「……リアルで慣れているから驚かない自分が悲しい」

 

 リアルで言えば成層圏くらいの高さだろうか。そこから重力に引かれて大地に落下していくが、この程度の事はリアルで体験済なので慌てない。

 

「おお、流石にゲームだ。空を飛べない」

 

 慌てずにいつもの通り空を飛ぼうと試みるが、既にゲームアバターになっているからか空を飛ぶことが出来ない。

 本当にゲームの世界に来たんだな。

 




評価頂きありがとうございます。
ルーキー日間(加点)見ていたら本作がランクインしていました。
最高ですね

と言う訳で、主人公の国盗り宣言です。
これから色々あってプロローグの2045年には王国でそれなりの地位に成り上がっている主人公。
果たして国を盗れるのか……

次話投稿は明日の15時頃の投稿を予定しています
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