戦姫絶唱いない<Infinite Dendrogram>   作:haneさん

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6話 全てを斬る剣

 □2043年7月15日 アルター王国サウダ山道野営地  防人

 

 手にした<エンブリオ>、TYPE:メイデン with アームズのアマノムラクモと共に駆ける。

 エドワードさん達が立て籠もる馬車はブランドンさんが守っているが、【ゴブリン・ウォーリアー】に囲まれ多勢に無勢といった感じになってしまっている。

 レベル0の私を気遣ってブランドンさんは、【ゴブリン・ウォーリアー】六匹を相手にしているので早く援護しなくてはならない。

 

「後ろの【ゴブリン・ウォーリアー】は任せてください!」

「かたじけない」

 

 ブランドンさんを背後から襲おうと気を伺っている【ゴブリン・ウォーリアー】を後ろから斬りかかる。

 卑怯な行為だが、相手はブランドンさんを後ろから襲おうとしていたのでお相子だろう。

 それに”侍”と違って”防人”は守る為なら多少卑怯な事もするのだ。

 

「それが<エンブリオ>かい? 良い剣だ」

 

【ゴブリン・ウォーリアー】を一文字に切り裂いた所を横目に見ていたブランドンさんが、私の<エンブリオ>アマノムラクモを褒めてくれた。

 そんなブランドンさんも剣士系統上級職【剛剣士】らしい剛剣で【ゴブリン・ウォーリアー】を一刀両断にしてしまう。

 これで残り【ゴブリン・ウォーリアー】四匹に【ホブゴブリン】一匹。

 

「サキモリ殿はレベル0という事だったので戦力になるか不安でしたが、流石は<マスター>ですな。頼りにさせて頂きます」

「ブランドンさんのおかげですよ!」

 

 大剣を振り上げたブランドンさん。その気合を感じ取ったのか、本能的に【ゴブリン・ウォーリアー】はその大剣を警戒してしまう。

 そして、その隙を私は見逃さない。ブランドンさんを脇を走り抜け、こちらの警戒が薄くなった【ゴブリン・ウォーリアー】の首を落としていく。

 

『マスターは容赦無いの』

「ステータス的には【ゴブリン・ウォーリアー】の方が格上だから仕方ない」

 

 システム的にレベル0の私と、下級モンスターとは言えそれなりの戦闘能力を持っている【ゴブリン・ウォーリアー】。

 普通に戦えば【ゴブリン・ウォーリアー】が勝つが、今の私には<エンブリオ>という牙と勝てる状況を作り出すリアル由来のスキルがある。

 

「<マスター>なのに【ゴブリン・ウォーリアー】程度が格上とは悲しい現実ですな」

 

 私とアマノムラクモの会話が聞こえていたのだろう、ブランドンさんが面白そうに嘆いて見せる。

 まあ、伝説の勇者がスライムよりも弱いというのはアレだよな、どこのコメディ作品だよって話だ。

 

「【ゴブリン・ウォーリアー】が強い訳じゃなくて、私が弱いだけなので数日後には逆転していますよ」

 

 アマノムラクモを薙ぎ払い【ゴブリン・ウォーリアー】を斬り裂くが、傷が浅かったのか光になって消えない。

 しかし、今はそれで十分。ブランドンさんの大剣が手負いの【ゴブリン・ウォーリアー】にとどめを刺してくれる。

 

「これで【ゴブリン・ウォーリアー】二匹に【ホブゴブリン】一匹ですな」

「だいぶ楽になりましたね」

 

 勝つだけなら楽なのだが、これは護衛クエストだ。

 馬車の中に避難しているエドワードさん一家を守らなければならず、その為に行動を制限される部分があった。

 しかし、相手の数が減ったので受ける圧力が減り、防衛線を突破され馬車を攻撃される危険も減ってきている。

 油断大敵だが、ようやく勝利の目が見えてきた。

 

『知っておるぞ、そういうのをフラグと言うのじゃろ』

「不吉な事を言うな」

 

 それが本当にフラグだったのか、ただの偶然だったのかは分からない。

 しかし、突如として馬車の反対側から軽い衝撃と共に煙が上がる。

 

『フラグじゃな』

「私のせいなのか?」

 

 アマノムラクモと問答している場合ではない。

 すぐさま馬車の屋根に上り状況を把握する。馬車の側面が燃えており、火を付けた犯人と思われるモンスターも確認出来た。

 

「【ゴブリン・メイジ】か」

 

 手に杖を持っているので、火属性魔法を馬車に向けて撃ったのだろう。

 幸いエドワードさんの馬車は箱馬車で、それなりの防御力があるのか小火ですんでいるが、何発も火属性魔法を撃たれると不味い。

 

「エドワードさん達はまだ中にいてください!」

 

 馬車の中にいるエドワードさんに聞こえるように叫び、【ゴブリン・メイジ】に斬りかかる。

 小火とは言え火が付いた馬車から避難させた方が良いのかもしれないが、まだ【ホブゴブリン】を筆頭にモンスターが残っているし、まだ周囲に伏兵がいる可能性もある。

 馬車から避難したところを【ゴブリン・アーチャー】などに狙撃されたら防ぎきれる自信が無い。

 

『マスター!』

 

 こちらが間合いを詰めるより早く、【ゴブリン・メイジ】の杖が怪しく光り始めた。

<Infinite Dendrogram>での魔法発動はまだ目にしたことが無いが、どう見ても【ゴブリン・メイジ】は魔法発動直前だ。

 魔法発動前に【ゴブリン・メイジ】を斬るには遠すぎる。どの様な魔法が発動するかは不明だが、下級モンスターの魔法なので避けるのは容易いはずだ。

 しかし、後ろにはエドワードさん達の馬車があるので魔法は避けられない。

 

「わかっている!」

 

 魔法発動を阻止できず、回避も出来ない。防御もレベル0なので不可能だろう。

 この身は<マスター>なので本当の意味で死にはしないが、<Infinite Dendrogram>に現実時間で一日、<Infinite Dendrogram>内の時間で三日間ログイン出来なくなってしまう。

 その間にエドワードさん達が無事である保証は無いし、何より”防人”として守ろうと思った対象を守れないのは後味が悪いし、”防人”の誇りが許さない。

 

「魔法って斬れる?」

『身共は雲すらも斬る剣じゃぞ、斬れるに決まっておる』

 

 基準は分からないが、雲が斬れるなら魔法くらい斬れる気がする。

 まあ、リアルでは錬金術を斬っているし大丈夫だろう。難易度ならリアルよりゲームの<Infinite Dendrogram>方が簡単なはずだ。<Infinite Dendrogram>がリアル並にリアルな事実は置いておこう。

 相手も超一流の錬金術師ではなく、ただの下級モンスターだし。

 

『くるぞ!』

 

【ゴブリン・メイジ】がバレーボール程の大きさの火球を放ってくる。

 予想通り、キャロルやアダムの錬金術と比べれば月とスッポンだ。

 これなら斬れる! 

 

『身共は全てを斬る剣、その力の一旦を見せてしんぜよう』

 

 迫りくる火球を斬ろうとアマノムラクモを振り上げると、その刀身が青く光っていることに気が付く。

 これが全てを斬る剣の力なのだろう。ならば、目の前の魔法くらい斬れる。

 疑うことなく、己が<エンブリオ>を振り下ろす。

 

「っは!」

『≪一閃≫!』

 

 振り下ろした剣はいとも簡単に火球を斬り裂いた。

 斬れたことに喜びを感じるが、今はまだその時ではない。

 魔法を斬った勢いをそのままに【ゴブリン・メイジ】に迫り、そのまま青く輝く剣を振り下ろし一太刀にて【ゴブリン・メイジ】を光へと返す。

 

「凄い斬れ味。これがアマノムラクモのスキル?」

『二つ? いや、三つあるスキルのうちの一つだ』

「何かスキルの数があやふやだな」

『一つはスキルを使う為の補助的な機能なのでの。身共のもう一つのスキルのオマケみたいなモノなのじゃ』

 

 周囲に伏兵がいないか警戒しつつ、アマノムラクモにスキルの確認を行う。

 こういう時は自分で説明してくれるので、意思のあるメイデンは便利だ。

 

『先程使用した≪一閃≫はマスターのMPを攻撃力に変換するスキルじゃ。攻撃対象に固定ダメージXを与えるオーラをY秒身共に纏わせるスキルじゃな。ちなみに消費MPはXかけるYなので単純じゃろ』

「固定ダメージか。だから魔法が斬れたのか」

『うむ。この世界に”あるモノ”なら問答無用で固定ダメージを与えられる』

 

 何でも斬れる、と言うか何にでもダメージを与えられるのは大変便利だ。

<Infinite Dendrogram>にいるか分からないが、世の中にはノイズみたいに位相をずらして攻撃をすり抜けることで無効化する敵もいるからな。

 いや、まて。位相をずらされると、その瞬間はこの世界に”いない”から固定ダメージは与えられないのか? 

 

「なあ、この世界に”無いモノ”にはダメージを与えられるのかな?」

『マスターは何を言っておる。この世界に”無いモノ”にどうやってダメージを与えるのじゃ』

「だよね」

 

 どうやら、この世界から“いなくなる系”の回避術は無効化出来なさそうだな。

 まあ、ノイズみたいな例外がそうそういるとは思えないから気にしても仕方ないか。

 いや、でもノイズって扱い的にはモブなんだよな。

 

『あと、ダメージ量と効果時間のXとYは可変じゃが、正の整数しか指定出来ぬからの』

「あ、そうなんだ。効果時間を0.1秒にすれば消費MPの節約になると思ったのに」

 

 固定ダメージ100、効果時間1秒の場合の消費MPは100。固定時間100で効果時間0.1秒なら消費MPは10になると思ったけど、流石に対策されているか。

 まあ、効果時間を小数点にすれば固定ダメージをいくらでも増やせるからな。固定ダメージ1万、効果時間0.01秒なら消費MPは100になってしまうから対策されていて当然だけど。

 

『ちなみに今のは、マスターの全MP10を固定ダメージ10に変換したからの。MPが回復するまで使えぬので注意せよ』

「……レベル0だから仕方ないね」

 

 MP多ければ使えるスキルなのに、MP無いから使えないスキルになっている。

 しかし、火の玉って10ダメージで斬れるのか。

 

「……伏兵はいないみたいだな」

 

 辺りを警戒するが、伏兵は今しがた斬った【ゴブリン・メイジ】しかいなかったようだ。

 他にも伏兵がいれば【ゴブリン・メイジ】と共に馬車を攻撃していただろうし、私を油断させる策だとしても【ゴブリン・メイジ】を見殺しにする程のメリットは無いはず。

 

『それより早く消火したほうが良いと思うのじゃ。耐火素材なのか燃え広がってはいないようじゃが』

 

 アマノムラクモの声に従い後ろの馬車に目を向ければ、そこには燃え続ける馬車が。

 炎が燃え広がっている様子は無いので、アマノムラクモが言うように耐火素材なのかもしれない。

 

「消火するにしてもどうするか」

 

 悲しいかな、私はレベル0で斬るしか能がない。

 燃えている個所を破壊して消火する方法もあるが、消火の為とはいえ流石に他人の財産を破壊する訳にはいかない。

 確か<マスター>同士の争いは法的にOKだが、NPCに対する暴力行為などは犯罪行為になってしまう。

 

「お、良いモノ発見」

 

 馬の飲み水を入れているバケツが二つ。それなりの量の水が残っているので、これで消火活動をしよう。

 まあ、まさに”焼け石に水”のような気もするが、何もやらないよりはマシだろう。

 

「ちょっと借りるな」

 

 モンスターの襲撃にも怯えていない二頭の馬に断りを入れ、バケツの水を燃え盛る炎にかける。

 残ったもう一つのバケツに外套をつけ、水を湿らせる。後は勢いが弱くなった炎を消すために奮闘するのみ。

 

「しかし、あの馬達は度胸あるな」

『つながれているから、逃げられないと諦めているのではないかの?』

「そう言う見方もあるか」

 

 言われてみれば諦めの表情な気もするな。

 馬の表情は分からないので勝手な想像だが。

 

「とりあえず何とかなったかな?」

 

 水を湿らせた外套で火を叩くこと数十回。なんとか消火出来たようだ。

 次からはアイテムボックスに消火器を入れておいた方が良いかも。<Infinite Dendrogram>に消火器があるかは知らないが。

 

「ご助力感謝しますサキモリ殿。それで、外の様子は? 何やら火を付けられたようですが」

「いえいえ、美味しい夕飯をご馳走になりましたから。とりあえず消火しましたが、まだモンスターが残っているので、もうしばらく馬車の中でお待ちください」

 

 外の様子が気になったのだろう、エドワードさんが馬車の中から話しかけてきた。

 とりあえず消火出来た事を伝え、もうしばらく馬車の中に立て籠もっていてもらう。

 

「よし、こっちは大丈夫だからブランドンさんの援護だ」

『あの者なら既に全滅させておるやもしれぬの』

「なら楽が出来て良いんだけど」

 

 馬車の反対側に戻れば、ブランドンさんが最後の【ゴブリン・ウォーリアー】を斬り裂いていた。

【ゴブリン・ウォーリアー】は下級モンスターで、ブランドンさんの合計レベルはまだ二桁だが上級職。普通に戦えば【ゴブリン・ウォーリアー】に勝機は無い。

 

「うん。やっぱり楽が出来そうだ」

『またフラグにならなければ良いがの』

「後は【ホブゴブリン】だけだから大丈夫だと思うけど」

 

 もちろん油断、慢心はしない。

 しかし、この状況から番狂わせが起こるのであれば、私はお祓いを検討した方が良いレベルで運が悪いだろう。

 

「GuOooo !」

 

 フラグだと思いたくないが、【ホブゴブリン】は己の斧を掲げて咆哮をあげる。

 そして斧から光が零れ落ち、【ホブゴブリン】の身体に光のシャワーのごとく降り注いでいく。

 

『どうやら、またフラグが成立したようじゃの』

「思っていた以上に呪われているのか?」

 

 おかしいな、私は神様の弟子なんだが。こう見えても神様から祝福されているのだが。

 そう言えば誰かが言っていた、呪いと祝福は似ている。表裏一体だと。

 だとするならば、神様の祝福を受けた私は、同時に神様に呪われているという事だ。

 

「だからと言って、これは無い」

 

 目の前で【ホブゴブリン】の身体がより強大に変化していく。

 いや、変化というレベルでは無い。どう見ても進化している。ゲーム開始直後にこれは無い、クレームレベルなのでは無いだろうか? 

 表示名が【ゴブリン・キング】に変化した敵を前に、己が不幸を嘆かずにはいられない。

 

『しかし、あの斧。身共と同じ系統の力を持っておるようじゃの』

 

 そんなアマノムラクモの言葉と共に、【ゴブリン・キング】に進化した群れのボスは産声とも言える咆哮を上げた。

 




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アマノムラクモ TYPE:メイデン with アームズ 到達形態:I
能力特性:ダメージ増加
スキル:《一閃》、???、???
モチーフ:天叢雲剣
ステータス補正
HP補正:F
MP補正:E
SP補正:G
STR補正:F
END補正:G
DEX補正:G
AGI補正:F
LUC補正:G
備考:コストを支払う事で与ダメージを増加する<エンブリオ>。典型的なコスト・イズ・パワーシステム。
<マスター>がレベル0のまま戦うというアホな事をしたので、<マスター>のステータスに依存せずに敵を倒せる能力を保持している。
<マスター>のステータスに依存しないのでステータス補正は低め。

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固定ダメージは正義! でも《消ノ術》は勘弁な
《一閃》は最後までSPにするかMPにするか悩んだけどMPに

次回の更新は7/22の予定です
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