日出国の魔法使い   作:しずくりあ

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第二話 生き残った男の子

 「今日午前八時頃、東京都のホテル、プリンセスマリアで火事があり、多数の死傷者が出ている模様です。 近くにいた人によると、爆発音が聞こえたとの情報もあり、警視庁は事件や事故、そしてテロの可能性も視野に入れて慎重に捜査をするとしています」

 

 

 そう、テレビと言うシラズビトの機械から流れてきた映像を見た瞬間に、その男はハッとした表情を浮かべて『飛んだ』。

 『飛んだ』と言うのも、羽が生えて宙に浮いたわけではなく、事件のあった現場の地点へと『飛んだ』と言う方が正しいだろう。

 シラズビトの中では『テレポーテーション』だったり『瞬間移動』だったりと呼ばれるその技は、彼らキワメビトと呼ばれる種族の間では『姿現し』と呼ばれ、最もメジャーな『魔法』の一つである。

 

 

 そして、一瞬にして件のホテルの近くに飛んだ男は、そのホテルの惨状を見るのも忘れて、まだ火の手が及んでいなかった裏口からホテル内への侵入を試みた。

 が、当たり前のことだが、その扉は固く鍵を賭けられており、どんなにその男が引っ張ったり叩いたりしても、びくともすることは無かった。

 暫くの間、男はそうやって扉と格闘していたが、とうとう観念したかのように男は羽織っていたコートの内側に手を入れ、長い木の枝のような棒を取り出し、それを扉のノブに向けたかと思うと、「アロホモラ 開けよ」と唱えた。

 するとどうだろう、たちまちのうちに先ほどまで固く閉ざされていた扉の鍵はガチャリという音と共に解かれ、扉は簡単に開いた。

 

 

 ホテルの中に入ると、男は一目散に階段を駆けあがり、九階まで駆けあがった。

 905号室と書かれた部屋の前に立ち、扉を先程と同じように「アロホモラ 開けよ」と唱えて開けたが、扉を開いた瞬間に部屋の中からすさまじい勢いで炎が飛び出した。

 一瞬だけ怯んだ男も、直ぐに平静を取り戻し、杖を炎に包まれた部屋に向けて、「アグアメンティ 水よ」と唱えた。

 杖の先からは、大量の水が発生し、勢いよく飛び出したかと思うと、炎に包まれた部屋は瞬時に消火され、強烈な焼け焦げた臭いと、蒸発した水の水蒸気が溢れかえった。

 その中を、男は水蒸気をかき分けるようにして進む。 その先に広がる光景は、彼が求めるものではなく、見れば深く後悔することになるだろうと知りながらも、歩みを止めない。

 部屋は全体的の黒く焦げており、ほとんど判別がつかない状況になっていたが、床に黒い人間の形をした―― 否、黒く焦げた人間だったものが二つ転がっているのが見えた。

 その視覚情報が脳に到達した瞬間、彼の全身の力がふっと抜け、その場に跪いた。

 

 

 が、それ故に気づくことが出来た。

 ふと、男が黒く焦げた人間だったものの片方に目をやると、その下に何かがあることに気が付く。

 慌てて、灰の下から何かを引き摺り出すと、その正体はまだ幼い赤子であった。

 男は、深く考えるよりも先にその赤子の手首に指を押し付けて、胸に耳を当てる。

 トクン……トクン……トクン、と心臓の鼓動が聞こえるのを確認した男は、二つの塊に向かって、「ごめん…‥な…さい」とかすれ声でいうと、赤子を抱いて部屋から逃げる様に飛び出していった。

 

 

 ◇

 

 

 「では、件の現場からは魔法を使用した痕跡が見られたと言う事ですか?」

 

 

 日本国魔法省は東京ではなく京都に本部が存在する。

 二条城の下に隠されている日本魔法省の本部の中にある大会議室には、各国の大勢の魔法使いが招かれ、先日の火災事件の会議が行われていた。

 そして、その部屋の中心に立つ男を囲むように設置された円卓の中心にいる男―― 日本国魔法大臣安倍春昭(あべのはるあきら)はそう静かに言った。

 

 

 「はい、その通りであります、魔法大臣」

 「では、何か? 二十三人のシラズビトと、二人のキワメビトを殺した犯人はキワメビトであると?」

 「我々の調査の結果では」

 「そんな……」

 「まあ、そう熱くなりすぎるな、春昭」

 

 

 安倍が熱くなりかけたところを宥めたのは、国際魔法使い連盟の代表者として派遣された、アルバス・ダンブルドアである。

 ダンブルドアは、その半月メガネの奥の瞳をじっと安倍に向けて、友に語り掛けるように言った。

 

 

 「日本の魔法界は他の国の魔法界よりも規模が小さいからのう、春明が信じられないことも無理はないのだがの」

 「ダンブルドアきょ……ダンブルドア殿、私は、この日本魔法省の名に懸けて、そのような事をするキワメビトは居ないと信じておりますっ」

 

 

 諭すようなダンブルドアの言葉は、安倍の魔法大臣としての矜持を損なうように思え、語気が荒くなる。

 

 

 「分かっておるとも、十分に分かっておる。 日本ほど、礼儀正しく、闇の魔術を嫌い、魔法界の治安が保たれている国はそうそう無いのは最早世界中の魔法界の常識じゃろうて。 だがな、春明。 敵は、いつも思いがけないところに隠れておるのじゃ。 信じたくないものから目を逸らしていれば、何時まで経っても何も進まぬ」

 「魔法大臣。 我々闇祓いは全身全霊をもって調査をしていおります。 欧州のような危機を、この日本で起こすことは絶対に阻止して見せると、私の部下も十分に意気込んでおります」

 「……」

 「のう? 日本の闇祓いは、わしにとってはとても残念な事じゃが、イギリスの闇祓いよりも優秀なのじゃ。 そのようなことは春明が一番よく分かっているであろう」

 「…すみません……どうしてか、最近はちょっとした事件でも敏感になってしまうようで」

 

 

 納得したようにそう言って、安倍は椅子の背もたれに背を預け、眉間を指で押さえた。

 

 

 「呪文の種類は特定できたかのう?」

 

 

 頭を休めている安倍に代わって、ダンブルドアがそう男に聞いた。

 

 

 「いいえ、魔法省データベースにある如何なる呪文とも痕跡は一致しませんでした」

 「ほう、なるほど、なるほど」

 

 

 そう言って、ダンブルドアも黙ってしまうが、しばらく考えるそぶりを見せた後、顔を上げ、

 

 

 「生存者はいるのかね?」

 

 

 と、聞いた。

 

 

 「はい、幸いなことに火災から逃れることが出来たシラズビトは多数おりましたが、原因を知るものはおりませんでした……ですが…」

 「ですが?」

 「いえ……その、一人だけキワメビトの生存者がおるのです」

 「ほう?」

 

 

 ダンブルドアは興味深そうに男を見据え、安倍は体を起こして詳しく話を聞こうと体を前かがみにした。

 

 

 「それが……今回の事件で死亡したきわめびと二人の子供でして……その…産まれて間もない赤子なのです……」

 「なんと」

 「ダンブルドア殿、その二人と言うのは大変優秀な闇祓いで、昔からの彼の同僚でした」

 「それは……」

 

 

 先程よりも深く考え込むしぐさをするダンブルドアに対して、安倍はこう続けた。

 

 

 「たしか、昨年例のあの人を退けたのも赤子の男の子でしたよね。 選ばれし者だとかなんとか呼ばれていましたが、たしか、名前は……」

 「ハリーじゃよ、ハリー・ポッター。 生き残った男の子じゃ」

 「ああ、ハリー・ポッターでした、そうでした。 近頃は、赤子が生き残る風潮でもあるのでしょうかね、私も気を付けなければいけません」

 「春昭、わしらは最早古きものじゃ。 古きものはもとより新しきものに追い落とされる運命。 悲しい事じゃが、これが現実なのだ」

 

 

 冗談めかして言った春昭に、ダンブルドアが呆れたように言った。

 

 

 「そこで」

 

 

 二人の間に割って入るように、男が口を開いた。

 

 

 「その赤子を私に育てさせていただきたいのです。 あの子だけが生き残ったのも、アイツらが私に託したからこそだと思っています。 アイツらを護れなかった私の唯一の恩返しとして、そしてなにより、あの子の親をよく知る人間として、あの子を育てたいのです」

 

 

 「どうか」と、男は頭を下げた。

 その表情は、覚悟を決めたように凛としていた。

 

 

 「そのような件に関しては我々の判断することでは無い。 だが、あの赤子の両親に身寄りは無かったのは確認されている。 お前の覚悟が本当なのであれば、あの子を引き取ってあげてくださいさい」

 

 

 安倍は神妙な面持ちで言った。

 男は、もう一度頭を下げると、「では」と、会議室を後にしたが、途中、

 

 

 「今回の事は残念でした。 あの二人が大変優秀だったこともありますが、なにより長い友人だったあなたの気持ちを想像することは、私達にはできないでしょう。 私達にはあなたを励ますことが出来ません。 あなたが自らの力で前を向くしかないのです。 私から言いたいことは言いました。 これからどうするかはあなたが決めなさい」

 「……私は、ここに残りますよ。 アイツらの無念を晴らさなきゃいけないのでね」

 「そうですか……これからも励みなさい、蕪木悟(かぶらぎさとる)

 




 変に、日本の闇祓いだけ『陰陽師』やら何やらにするのもアレだなと思ったので、そのまま『闇祓い』で行きますね。

キワメビト→魔法が使える人間
シラズビト→魔法が使えない人間、マグル
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