送られてきたというのも、配達業者がやってきたわけではなく、信じられないことに、見慣れない鳥 ―― 本人が後に聞いたところによれば、その鳥はウミツバメと言う種類の鳥らしい ―― が自宅の玄関を叩いったと思うと ―― これも厳密に言えば、叩き、ではなく、つつき、であった ―― 何も言わずに紙が筒状にまかれている巻物のようなものを彼に押し付けて飛び去ってしまったのである。
しばらくの間、彼の未だに幼い頭の理解は追い付かず、その場で立ち尽くし、それが数分後に彼の父親が野暮用から帰ってくるまでそのままであった。
彼は、とりあえず父親にその巻物を手渡してみると、手渡された父親は若干困ったような顔をしながら、
「それは、お前が初めに見るべきだ」
と、いつものやさしさの溢れる声で言ったので、彼はその通りにした。
巻物は、開いてみると存外に大きな紙でできており、リビングの机の端から少しばかり飛び出してしまうほどの長さであった。
そこに、筆によって書かれたであろう文字が連なっており、中には難しい漢字も含まれていたものの、彼の父親の協力もあって何とか読み進めた彼は、その後に驚愕し、歓喜し、不安に襲われることとなった。
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拝啓、加茂光久殿
陽射しが春めいてまいりました、光久殿におかれましては、益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、光久殿は本年三月一日に、無事六歳のお誕生日を迎えられることと思っていおります。
私達からもささやかながらお祝いを申し上げると共に、我が校の既定の条件に満たしたため、光久殿の魔法処魔法魔術学校への入学許可と、入学案内をさせていただきたく事を大変喜ばしく思っております。
無礼とは存じていおりますが、光久殿の身に着けていらっしゃる、紺色のズボンの右ポケットに必須の教材リストを忍ばせていただきました。 後ほどご確認ください。
新学期は、四月一日から始まりますので、二月二十九日必着のウミツバメ便、又はお近くのポストの既定の投函場所に投函してください。
光久殿のお返事を、教員一同心からお待ちしております。
敬具
副校長
校長
国際陰陽師会会長
国際魔法使い連盟会員
創設
西暦982年
陰陽師、安倍晴明によって創設。
以後、東亜細亜地域最大の魔法魔術学校として魔法界の発展に貢献。
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「父さんは今まで隠し事をしていたが、遂にお前にも言うときが来たみたいだな」
「……」
「お前は――」
唖然としている光久に、彼の父は言った。
今まで、光久は父が野暮用と言って頻繁に出かけることに、疑問さえ抱けども、それを直接聞くようなことはしなかった ―― 父親が二日ほど帰ってこず、心配した幼稚園職員が自宅を訪れた際はとても困ったのだが ―― 。
しかし、思えば不思議な事は今までもあったのだ。
爪は切っても切ってもすぐに伸びてくるし、遠足の時に忘れ物をしても、気が付いたら鞄の中に入っていたり、昆虫採集をしようとしても、光久の周りにだけは昆虫が一切いなかったり……。
そして何より、彼が怒った時には、決まって何かが壊れた。
突然、食器棚の皿が割れたり、部屋の蛍光灯がおぼろげになったり……。
どこかで、彼は普通 ―― 周りの幼稚園児や、先生等 ―― とは違った存在なのだと自分自身の事を感じ取っていた。
故に、その言葉を受け入れるのは難しくなく、それどころかどこかで納得している自分が居ることに、光久自身が驚いていた。
「――魔法使いなんだ」
◇
京都には様々な歴史的建造物がある。
町は日々観光客や地元人で溢れかえっており、活気にあふれているのだが、やはりどうにも、歴史的建造物の荘厳さ、重みと言ったものは変わらず実感させられるものであると、光久は思っている。
話は脱線するが、日本に住んでいれば、平安京と言う名を聞いたことの無い人はあまりいないであろう。
今日の世界に誇る京都の街並みの原型を作ったのは、正に平安京であるという人もいるほどなのだが ―― 実際に、その通りである可能性は極めて高い ―― 、残念なことに、現在ではその街並みの名残や一端でしか見ることは叶わず、平安京と言う者は既に失われたものであるというのが一般的であり、明らかな事実の一つである。
しかし、京都にはそれと同じ名を冠し、その前身よりは規模は小さいものの、それでもその当時の街並みを色濃く残している場所が今でもあったのだ。
最も、電車やバス、自転車や徒歩と言った一般的な ―― 所謂マグル的、いや日本においてはシラズビト的と言う表現の方が正しいであろう ―― 方法では行くことが出来ないのだが…。
ではどやって行くのか? 答えは簡単だ。 橋から鴨川に飛び込むのである。
しかして、父親につられるまま、鴨川に身を投げたわずか齢六歳の男の子は、その幼いが故の生存本能により死を覚悟したのであるが、一向に話に聞く向こう側からの使いがやってくる気配はなく、逆に、自分が
杖 ―― それは、多くの魔法使いにとって、自らの真価を発揮させる道具である。
父がそう誇らしげに語っていたのを聞き流しつつ、光久は右腕に教科書やら鍋やらを抱え、左手で、先月突如として自らのズボンの右ポケットに出現した教材リストを持ちながら、「次は杖ね」と、父の話すのを遮りつつ言った。
聞き流していた父の言葉の辛うじて記憶に残っている部分を要約すれば、杖と言うのは、道具でありながら生き物でもあり、それ自体に知性が存在するのだそうだ。
―― 因みに、この時点で今までシラズビトの社会に浸っていた光久が思考を放棄したのは言うまでもないだろう。
そのため、杖は使う人間が自ら選ぶのではなく杖が自らの主を選ぶのであって、その関係性は詳しいことは分かってはいないものの、おそらく運命的な物であるらしい。
最も、日本において杖が使われ始めたのは江戸時代後期で、黒船によって日本が開国したと同時に、西洋の魔法使いが使っていた杖と言うものが日本で広まったのである。
それまでは何を使っていたのかと言うと……御札なんだそうだ。
実際に、教材リストの初めの方に載っていた気がするのだが、その程度の認識でしかなく、ただの薄っぺらい紙切れに、変な難しい文字がつらつらと書かれているものと言うぐらいの認識しか、光久には無かったし、父親もその程度の認識で飼っていた気がする……教材リストに載っているから仕方なくしぶしぶ買うしかないかのような顔をしていた。
御札にも御札だ特有の力があり、分野によっては杖のそれよりも強力且つ効率的なのだそうだが、使用難易度が高すぎるそうだ ―― 光久が実際に知っているわけではないが、魔法処卒業生の彼の父親が憎たらしそうに顔をゆがめてそう語っていたので、きっとその通りなのであろう ――ただ単に彼の父親が不得意なだけであったという可能性もあったが、光久はお得意の幼いながらの生存本能で自動的にその可能性を排除したのだ。―― 。
そう頭の中で振り返っているうちに、杖を売っている日本で唯一の店 ―― 恐らくと言う副詞はつくのだが ―― に付いたようだ。
そこは、京都ではありふれた建築物であり、瓦屋根に白い
暖簾には、
『杖処 天狗屋』
と、書かれていたが、当然光久に読めるわけもなく、足早にその暖簾をくぐったのであった。
中に入ると、先ず一段床が高くなっているところに土間と隔てるようにしてカウンターがあり、そこには肌が干し柿の様に黄ばんでしわくちゃとなった老婆が据わっていた。
その奥には、大小、色も様々な箱が、丁寧に整理整頓されながら陳列されており、清潔感を保っていた。
少したっても、老婆からの「いらっしゃい」の一言もないもので、光久はてっきりその老婆が既にこと切れているものだと勘違いしたが、彼の父親が、さも当たり前かの様にその老婆に話しかけた。
「お久しぶりです、花子さん」
すると、死体の様になんの反応も見せなかった老婆が、その梅干しのような唇を動かし、
「誰じゃったかの?」
と、言った。
その時の父親は、明らかにがっくりしたような形で、「そういえば、オリバンダ―さんとは違うんだよなぁ」と、何かを嘆いていたが、光久には当然理解の出来ないことであった。
「すみません、私が六歳の時も、ここで杖を買って言ったんですよ。 ほら――この杖です」
そう言って、自分のローブの内側から細く、それでいてしっかりした木の枝のようなものを取り出して見せた。
それが、杖であると認識するには、光久にとってはいささか短すぎて、それでいて自分の真価を発揮すると豪語した割には、頼りないものに思えた。
が、
「あんたの名前は覚えてなんだが、その杖の事は鮮明に覚えておる。 白樺の木にハナハッカの茎。 九寸。 頑固。 二十七年前のちょうど今日から一週間と二日前の日じゃたかえ?」
光久は、最初老婆が当てずっぽうで言っているのだと思っていたのだが、父親の反応が度肝を抜かしたように唖然としていたので、その老婆の言葉が真実であると察した。
「で? その杖を見るからに何の問題もなさそうだという事は、その隣にいる坊やの杖でも買いに来たのかね?」
「そ……その通りです」
光久は緊張しながらもそう言った。
老婆は、光久の方を向くと、カウンターの上に置いてあった虫眼鏡を持ち、レンズ越しにじっと品定めするように見つめた。
暫くそうしていると、虫メガネの柄の部分から杖を引き抜き ―― 柄の長さと杖の長さがあっていないので、どうやって収まっていたのだろうかと、光久は純粋に疑問に思った ―― 、奥の箱が積まれている山に向かって二回ほど軽く振った。
すると、音から少しの物音もせず、一つの長方形の箱が浮遊しながら光久に向かってきたかと思うと、 ―― 光久の前で浮遊しながら ―― その箱が開き、中から一本の杖が出てきた。
光久は、一瞬それをどうするべきか迷ったのだが、老婆や父親の視線を見て、これを手に取ってみるべきなのだと感じ取り、その杖の柄の部分を、右手で掴んだ。
―― ×××××× ――
オーラが変わった。
気がした ―― などと言うちゃっちな物ではなく、確実に、かつ、決定的に、数秒前までただの木の枝と等しかった光久の手の中にあるソレは、光久の手に納まった瞬間に、己は主の真価を発揮させるものであるという確信を、光久に与えた。
そして、彼の体の一部となったかのように、自然に、そして光久の体に向かって流線的な力の奔流を描き、
光久は、老婆にお礼を言い、自らの杖を選んだ。
「その杖は、蓬莱の玉の枝に、秋津狼の尾毛。 十寸。 しなやかでありながら如何なる力にも屈しない」
父が代金を支払ったのを見ると、光久はようやく自分が魔法使いなのだという確信と実感がわき、これからの未来に思いを馳せたのだった。
老婆が、そのしわくちゃな顔を、いっそうしわくちゃにして父親に何事かを囁いていることに気が付かないくらいには、光久の魔法界へのあこがれは強いものだった。
―― ×××××× ――
魔法処の設定は、様々なサイトや二次創作、そして何より公式設定と自分の妄想によって造られております。
基本的には公式設定を曲げるようなことは致しませんが、それ以外のたらない部分は公式設定ではなく、自分を含めたファンたちの妄想を文面化しただけでありますので、なにか至らぬ点がございましたら、感想にておしらせください。
因みに、題名を『ハリー・ポッターと日出国の魔法使い』から『日出国の魔法使い』へと変更いたしました。
理由と致しましては、プロット段階でのハリー・ポッターとその仲間たちとのオリ主との接触にしばらく時間が掛かるため、その間はタイトル詐欺染みたことになってしまうのではないかと危惧したからです。
魔法処をしっかりと描く物語は珍しく、また公式設定も乏しいという、実質ゼロから始めている物語ですので、皆様には何卒温かい目で見ていただきたく。
では、また。