飛天の剣は鬼を狩る   作:あーくわん

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第伍拾壱話 炎は燃ゆる

脱線した列車。

そこで別次元の戦いが繰り広げられていた。

役者は二人。

一人は【炎柱】煉獄杏寿郎。

そしてもう一人は【上弦の参】猗窩座である。

互いが互いに所属する勢力の中で上位たる実力の持ち主である。

そしてその戦いを傍観する他ない者達がいた。

 

 

(煉獄さん・・・!)

 

 

少年、竈門炭治郎は心の底から杏寿郎を心配する。

 

(大丈夫だ、煉獄さんは柱なんだ、強いんだ。俺が心配しなくても・・・!)

 

 

「何故だろうな?同じく武の道を極める者として理解しかねる・・・選ばれた者しか鬼にはなれないというのに。」

 

 

猗窩座が杏寿郎へと語りかける。

先程からこのように猗窩座は杏寿郎を鬼へと勧誘している。

が、それに杏寿郎が頷くことは無い。

 

 

「素晴らしき才能を持つ者が衰えていく・・・俺はつらい、耐えられない。死んでくれ杏寿郎。若く強いまま!!!」

 

 

猗窩座が身勝手な方便を述べる。

それも杏寿郎は反応することなく聞き流す。

特にそれを意に介することもなく、猗窩座が空へと大きく飛び上がる。

 

 

破壊殺・空式

 

 

空中で放たれる剛拳。

その拳により叩きつけられた空気が弾丸の如く杏寿郎へと襲いかかる。

その危険を察知し、杏寿郎は身を守るため型を放つ。

 

 

【炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり】

 

 

前方広範囲を薙ぎ払い、迫り来る暴力を無力化する。

その直後、杏寿郎が猗窩座へと迫り、首へと刀を振るう。

その刃は猗窩座の拳によって阻まれる。

 

 

「この素晴らしい反応速度も、この素晴らしい剣技も、失われていくのだ杏寿郎!悲しくはないのか!」

 

 

「誰もがそうだ!人間ならば当然のことだ!」

 

 

戦いは鮮烈を極める。

見ている側は何が起こっているのか視認するのも困難だ。

だがそれでも、分かることがあった。

 

 

(煉獄さん・・・!)

 

 

杏寿郎の限界が、刻一刻と迫りつつあるのだ。

猗窩座は鬼。その体力は無尽蔵。

対して杏寿郎は人間なのだ。

高位の鬼となれば、消耗戦で勝てることはほぼない。

それを肌で感じ取っていた炭治郎は、杏寿郎へ助太刀するためにその身を奮い立たせる、が。

 

 

「動くな!!傷が開いたら致命傷になるぞ!待機命令!!」

 

 

杏寿郎の怒声によりそれは阻止される。

事実、傷が開けば出血により後々に響くだろう。

 

 

(助けに行けない自分が情けない!!頼む、間に合ってくれ、煉獄さんをどうか・・・!!)

 

 

「弱者に構うな杏寿郎!!全力を出せ!俺に集中しろ!!」

 

 

更に打ち込む猗窩座。

負けじとそれに反応する杏寿郎。

拳と刀が触れる度、轟音が鳴り響く。

 

 

(すげえ・・・)

 

 

伊之助はそれを見るだけで、身体を動かすことが出来ない。

怪我が、という訳ではなく、二人から放たれる闘気に身を打たれ、動けないのである。

 

 

(この前の薄紅羽織()が放ってたもんよりはマシかもしれねえ。けど俺じゃこれには勝てねえ・・・!)

 

 

状況が動く。

二人が構える。

 

 

 

【炎の呼吸 伍ノ型 炎虎】

 

 

破壊殺・乱式

 

 

 

二人の技がぶつかり合う。

あまりの威力に、衝撃波が巻き起こり辺りを襲う。

砂塵が巻き上がる。

 

数秒後に砂塵が晴れると、互いに傷を負った二人の姿が。

が、杏寿郎は片目が潰され、さらに至る所から出血している。

それに比べ猗窩座は、既に傷の再生が始まっている。

これが非情なまでの人間と鬼の差である。

 

 

「杏寿郎、死ぬな。」

 

 

猗窩座が声をかける。

その表情はどこか悲しそうだ。

先程動かないように言われたものの、炭治郎、伊之助はなんとか杏寿郎の力になろうとする。

が、やはり動けない。

 

 

(隙がねぇ、入れねぇ!、動きの速さについていけねぇ。あの二人の周囲は異次元だ・・・!)

 

 

(間合いに入れば“死”しかないのを匂いで感じる。助太刀に入ったところで足手まといにしかならないと分かるから動けない。煉獄さん・・・!!!)

 

 

二人は己の無力を痛感していた。

助けたい、力になりたい。なのにそれをすることが出来ない。

それが悔しくて堪らなかった。

 

 

 

「生身を削る思いで戦ったとしても全て無駄なんだよ、杏寿郎。お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も、既に完治してしまった。」

 

 

先程から再生が始まっていた傷は、猗窩座の言う通り過ぎる既に完治していた。

 

 

「だが、お前はどうだ?潰れた左目、砕けた肋骨、傷ついた内臓。もう取り返しがつかない。鬼であれば瞬きする間に治る。そんなもの鬼ならば掠り傷だ。どう足掻いても人間では鬼に勝てない・・・」

 

 

心の底から憂う猗窩座。

声には悲しみが宿っている。

が、杏寿郎はそれを感じさせない。

未だその眼には確かな闘志が宿っている。

 

 

「俺は俺の責務を全うする!ここにいるものは・・・誰も死なせない!!」

 

 

刀を構え直す。

両手で力強く握り締め、高く構える。

 

 

(俺はもう限界が近い。が、ここで倒れてしまっては、後ろの少年達や乗客達が危険に晒されてしまう!!)

 

 

 

 

(ならば!次の一撃で決着を付ける!!相手をよく見ろ、動きを読むんだ。こちらの攻撃を確実に与え、相手の攻撃は避けてみせろ!!)

 

 

 

 

(父上・・・母上・・・千寿郎・・・・・・啓!!俺に力を!!)

 

 

 

杏寿郎からさらに濃い闘気が放たれる。

それを猗窩座は感じ取り、喜びに顔を歪める。

 

 

 

「素晴らしい闘気だ・・・それ程の傷を負いながら、その気迫、その精神力、一部の隙もない構え。やはりお前は鬼になれ杏寿郎!俺と永遠に戦い続けよう!」

 

 

猗窩座も並々ならぬ闘気を漂わせる。

杏寿郎に礼儀を示すように己も全力を振るわんとする。

 

 

 

 

 

 

【炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄】

 

 

術式展開 破壊殺・滅式

 

 

 

 

放たれる炎の呼吸の奥義。

呼応し振るわれる圧倒的暴力。

先程の技のぶつかり合いとは比較にならない衝撃波と砂塵が辺りを襲う。

 

 

(凄まじい威力だ!・・・煉獄さんは!?)

 

 

段々と砂塵が消え、その中を覗かせる。

そこにあったのは・・・

 

 

(・・・す、凄い・・・!!)

 

 

そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()

 

 

「・・・ガハッ・・・!?」

 

 

(見えた、一瞬見えたぞ!!啓の言っていた・・・透き通る世界が!!)

 

 

「煉獄さん!!」

 

 

「無事だ!!待機し・・・なっ・・・!?」

 

 

突如杏寿郎が膝をつく。

限界が訪れたのだ。

 

 

「ふふ・・・ははは!!惜しい、惜しいぞ杏寿郎!!お前の奥義は見事俺の腕を斬り落とし、首を撥ねかけた!!だが・・・」

 

 

狂ったように笑いながら猗窩座が杏寿郎へと歩み寄る。

 

 

「それが人間の限界なんだ。さあ、鬼になろう。分かっただろう?人間では鬼には勝てない、人間では限界がある。さあ・・・」

 

 

杏寿郎が膝をつきながらも猗窩座を見上げるように睨みつける。

息も絶え絶えだ。

 

 

「・・・断るッ!!」

 

 

猗窩座がより一層悲しそうな顔をする。

が、残っている手が段々と拳を形作る。

首は再び治り始め、落とされた方の腕も再生してしている。

 

 

「残念だ・・・さらば、杏寿郎。己の愚かさを悔いるがいい・・・」

 

 

杏寿郎は猗窩座から目を逸らすことはなかった。

その心は、死が迫っても尚折れていなかった。

 

十分に力が込められた拳。

それが振り下ろされようとしている。

炭治郎と伊之助は駆け出す。

 

 

(間に合え、間に合ってくれッ!!)

 

 

(させるかよおおおおお!!!)

 

 

想いも虚しく、拳が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

突如猗窩座が後ろに飛ぶ。

 

 

「なッ・・・!?」

 

 

「ほう・・・」

 

 

杏寿郎の顔は驚きを浮かべ、猗窩座は喜びを浮かべる。

杏寿郎を庇うように立つ、一つの影。

その背中は、とても見覚えのあるものだった。

 

 

「待たせたな杏寿郎。後は任せろ。」

 

 

「来てくれたのか・・・啓!」

 

 

啓が刀に手を添える。

が、啓からは一切の闘気が放たれていない。

 

 

「先程察知した闘気は見る影もない。・・・そうか、お前はもう至っているのだな、至高の領域に・・・如月啓!!」

 

 

猗窩座の顔が狂喜に歪む。 

人の身でありながら自分が目指すものに至っている啓がとても輝いて見えていた。

 

 

(啓さん!?・・・そうか、間に合ったんだ!あの時飛ばした鴉が!!)

 

 

「さあ!!あの時戦えなかった分、存分に武を持って語り合おう!!俺を楽しませてくれ啓よ!!!」

 

 

傷が全て治った猗窩座は吠える。

今ここに修羅と龍の戦いが始まろうとしていた。

 


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