マエリベリー・ハーンは朝多マヤの実家である東京を訪れる為に再び卯酉新幹線ヒロシゲへと乗車する。
東京へは親友の宇佐見蓮子に何度か訪れたが、特に彼女が見るべきものは特になかった。
だが、今回は違うかも知れないと思いつつ、マエリベリー・ハーンは楽しげに雑談する宇佐見蓮子と朝多マヤを見る。
本当にこの二人は似た者同士だ。
まず、行動力が違う。
まさか、二日後に三人でヒロシゲに乗るとは思ってなかった。
しかし、親友に似ているだけではなく、朝多マヤから自分と同じものも感じ、マエリベリー・ハーンは彼女を親友の宇佐見蓮子と自分を足して2で割れば、彼女みたいな子が出来るのではと思う。
そんな彼女の何者も恐れない姿勢と飽くなき好奇心、実現の為の行動力がマエリベリー・ハーンには眩しく思えた。
彼女だけではない。親友の宇佐見蓮子も恐らく、彼女が羨ましく思っている事だろう。
マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は対極に位置し、互いの欠点を補う事でいまの二人で一つの秘封倶楽部となった。
だが、朝多マヤはマエリベリー・ハーンのように別世界を覗き、宇佐見蓮子も顔負けする行動力を持っている。
ある意味、二人の理想とする姿が彼女である。
だが、逆も然りである。マエリベリー・ハーンのように世界を見ると云う事はそれが実体験となって襲い、宇佐見蓮子に似た行動力の為に自ら危険に飛び込む。
マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はお互いがお互いを補うと同時に双方が自身のストッパー役となっている。
だが、朝多マヤは一人だ。
誰かが止める事も出来ない。故に彼女自身が体験し、それを解決しなければならないのだが、彼女がそれを判断し、如何に危険を回避するかを学ぶには幼すぎる。
それも含めて、先輩である彼女達が朝多マヤに知恵を授ける必要があった。
最悪、彼女には研究をやめるように言わねばならぬだろう。
もっとも、二人の特性を持つこの少女が聞き入れるとも思えないが・・・。
マエリベリー・ハーンはそう思いながら溜め息を吐き、新幹線から見える景色を見詰めた。
卯酉新幹線ヒロシゲは京都から東京まで直通を地下鉄新幹線である。
その際に富士山の通るのだが無論、地下を通る為に本来、富士山は見えない。
窓に写る景色は人工的に作られた映像である。
それとは別にマエリベリー・ハーンには違うものも見えている。
ーーと楽しげに親友と会話していた朝多マヤの様子がおかしくなる。
「どうしたの、マヤちゃん?」
「いえ。少し気分が悪くなってしまって・・・お二人に会えて、はしゃぎ過ぎたのかも知れません」
心配する宇佐見蓮子に朝多マヤはそう言うとペットボトルの水を飲んで気分を落ち着かせる。
そんな朝多マヤを見て、マエリベリー・ハーンは別の心配をする。
もしかすれば、彼女は自分と遭遇して感応したのかも知れない。
見ているものは違えど、別世界をお互いに見ている事には変わりない。
特異点同士がぶつかれば、より大きな特異点が勝る。
つまり、マエリベリー・ハーンと云う大きな特異点に朝多マヤと云う小さな特異点が呑まれているのではないだろうか?
「・・・何か飲み物を買ってくるわ。二人とも、何か欲しいものはある?」
「あ、なら、私はコーヒーで」
「オレンジジュースでお願いします」
マエリベリー・ハーンは席を外し、新幹線内の自販機へと向かう。
昔は購買用の円柱のロボットがいたが、最近では見なくなってしまった。
代わりに昔ながらの自販機が新幹線内で見られるようになる。
人間と云うのはわがままなもので便利さよりも旧式の作法の方が愛着が湧くものらしい。
文明は便利になれども、根っこの部分が変わらないのが人間である。
だから、人間は今、現在も進化の袋小路にいるのだとマエリベリー・ハーンは考えてしまう。
自販機で飲み物を購入し、マエリベリー・ハーンが戻って来ると朝多マヤは眠っていた。
「寝ちゃったの?」
「ええ。寝顔もだけど、本当に可愛いわね?」
「襲っちゃダメよ?」
「笑えないわよ、その冗談」
マエリベリー・ハーンから飲み物を受け取りながら宇佐見蓮子は彼女とそんなやり取りをすると親友に訊ねた。
「マヤちゃんの様子がおかしくなったのって、メリーのせい?」
「蓮子もそう思う?」
「勘だけどね。電波はより強い電波に掻き消される。
メリーって電波にマヤちゃんって電波が掻き消されそうになったのかなって・・・」
「私も似た事を考えていたわ」
宇佐見蓮子とそんな会話をしながらマエリベリー・ハーンは先程まで自分の座っていた席に座り直す。
「・・・いま、マヤちゃんが見ているのは彼女の夢だと思う?それとも、マエリベリー・ハーンって強い電波から受信した別の夢?」
「それは本人が起きてから確認しましょう?」
マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はそう言って静かに寝息を立てる朝多マヤを眺めた。
「そう言えば、こうやってメリーと東京へ行くのはいつ以来かしら?」
「そんなに日は経ってないわよ。でも、なんだかとっても懐かしく思えるわね?」
「・・・ねえ。メリーは大学を卒業したら、どうするの?」
不意に親友からそんな問いを受け、マエリベリー・ハーンはしばし、考え込む。
「勿論、私の研究を続けるわ。でも、そうね。
もしかしすると私は蓮子と離れ離れになったら、前の生活に戻ってしまうかも知れない。
誰にも理解されず、誰にも知られる事なく、夢とも現実とも解らない狭間を漂うのかも」
マエリベリー・ハーンはそう告げると「蓮子は?」と問う。
「私は勿論、学者になっているわ。でも、そうね。マエリベリー・ハーンって親友が迷わないように傍らにいるのも悪くないかもね?」
親友にそんな事を言われて、マエリベリー・ハーンは目を丸くすると「ふふっ」と笑ってしまう。
「まるでプロポーズみたいね?」
「まあ、そんなものかもね?男の方が良かった?」
「いえ。蓮子は蓮子よ。私の無二の親友。
例え、自分が解らなくなっても、蓮子が側にいてくれれば、乗り越えられる。そんな気がするわ」
二人はどちらからともなく微笑むと朝多マヤが起きるまで他愛もない雑談をして時間を潰す。