朝多マヤが起きると彼女は早速、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子に夢の話をした。
ヒロシゲが目的地に到着するにはまだ余裕があったし、今回の彼女の眠りが浅かった事もある。
そんな彼女の見た夢は二人の危惧したものとは違い、朝多マヤが見た夢は再び、平行世界の未来の夢であったらしいので二人はホッとする。
これでいつものようにマエリベリー・ハーンが夢を見る世界を彼女が見ていたとしたら、朝多マヤも危険な目に合っていても全くと言っていいほど、おかしくはない。
そんな朝多マヤの見た夢にはこことは違う近未来的な景色が見えたそうであった。
その世界では全ての力が統一されて証明されているのだそうだ。
そんな話を聞いて蓮子が食い付かない訳がないが、あくまでも朝多マヤが見ている世界の話なのであって、実際に彼女がそれを証明するには知識が足りていない。
ーー故に本来は空想上の理論として片付けられてしまうのだが、それが夢ではない事を宇佐見蓮子は知っていた。
実際、彼女はその超統一物理学の分野を専門にしている大学生なのであるのだから。
まだ授業でも習わぬそれを中学生の朝多マヤが口にしたのだから、興味を示してさない方が無理な話である。
それに朝多マヤの研究する平行世界への移動にはそう言った量子力学に近いものが用いられているのだが、朝多マヤ自身はそれがどう言う事なのかすら半分も理解していない。
ただ、自身の直感を信じて動いているのだ。
もしも、朝多マヤが自分達の歳になり、それらを研究しているのならばーーもしも、平行世界の存在を実際に朝多マヤが証明出来たのならば、宇佐見蓮子の超統一学もマエリベリー・ハーンの専門にする相対性精神学も更なる進展を見せるだろう。
何故なら、それはマエリベリー・ハーンの異世界へ通じる夢を宇佐見蓮子の専門とする超統一物理学で科学的に解明するようなものであるのだから。
「ねえ、マヤちゃん?」
「なんでしょうか、宇佐見さん?」
「貴女が夢から平行世界の未来を見れるとしたら、それは此方でも起こりうる未来なのよね?」
「そうかも知れません。でも、仮にそうだったとしたら、未来はかなり、つまらないものになっているでしょう。
だって、そこに夢やロマンがないんですから。
実際、ニュースとか見て、私達は知る事でドンドンと当たり前じゃない知識が当たり前の知識になるんですから」
「それでも、貴女がいまの研究をする理由は何故?」
宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤはしばし、考え込むと彼女にこう答えた。
「今の常識って概念に縛られた息苦しい世界から解放されたいからかも知れませんね。
私は宇佐見さんの言う超統一物理学やハーンさんの相対性精神学とかって知識はありませんし、何を言われているのかも理解出来ません。
でも、それらの根底を覆す新しい発見があったって良いじゃないですか?
誰かが現在に提示した理論とかを壊して新たな可能性を見出だしてもバチは当たらないでしょう?」
朝多マヤがそう告げるとマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は笑った。
勿論、朝多マヤの仮説を馬鹿にしたからではない。
寧ろ、新たな発見に夢を見ている朝多マヤに心底、感心したからである。
彼女に言い分では過去の偉人達が現代に与えた方程式の根本から否定しようと言うものである。
そう言った常識外の計算が如何に難しくーーそして、それを彼女がどう証明するのか・・・。
本当に朝多マヤと言う少女はまだ若いながらも面白い事を考える子だなと二人はつくづく思うのだった。
「やっぱり、おかしいですか?」
「いいえ。素敵な考えだと思うわよ?」
「そう、ですか?」
宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤは照れると興奮したように喋る。
「そもそも、今の方程式なんかも昔の人が作ったものじゃないですか?
昔と今では値の出し方も異なると思うんですよ?
例えば、面積の出し方や円周率だって昔の人が用いた方程式を使っているだけで現代人が自ら導き出した答えとは言えません。
こう考えると現代の人は昔の人の恩恵にあやかっているだけであって、自分達で本当に導き出した方程式とは言い難いんじゃないですか?」
「面白い考え方をするのね。そうかも知れないわ。
そう考えると確かに夢の詰まった話ね?」
「でも、そうなると貴女はどうやって、その新しい方程式とやらを編み出すのかしら?」
宇佐見蓮子と朝多マヤのやり取りを聞いていたマエリベリー・ハーンが朝多マヤに問うと彼女は「えっと・・・それは・・・」と口をもごらせる。
流石に彼女もまだ、そこまでの考えには至ってはいないらしい。
だが、過去に偉人達から継承した方程式を否定し、ゼロから新しい発見を模索すると言う事自体、並大抵の事ではない挑戦である。
もし、彼女がそう言ったものに関して、新たな発見などを見つけ、更に実証した時を思うと科学者として将来、芽吹くかも知れないだろうとマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は思うのであった。
空想上の理論や物理法則などを演算する技術などは当にあみだされている。
しかし、それは彼女の言うように現代人が自らの知識で得た訳でもない。
今のインターネットワークで構築される知識とも異なる見解が見付かるのかも知れない。
そもそも、ネット自体の演算機能が過去の偉人達の産物を基盤にしたコンピューターと呼ばれる代物によるものである以上はそれが常識であり、当たり前なのだ。
彼女はその常識そのものに自らメスを入れて、新たな方程式を産み出すと言う突拍子もない話なのである。
だからこそ、人間が新たな進化をする為にも彼女のような存在は希少とも言える。
それと同時に確立された現代社会でも彼女は奇異な存在であり、彼女が直感的な天才であるが故にいまの人間には受け入れられないだろうと言うのも、よく理解出来た。
やはり、彼女は此方側なのだろう。
マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は改めて、夢を現実にしようとする朝多マヤと言う少女にある種の期待を寄せるのであった。
そんな話をしている間に地下鉄新幹線ヒロシゲは目的地に到着し、三人はヒヒロシゲから降りて、朝多マヤの住まうマンションへと向かって歩き出す。