マンションの一角にある朝多マヤの部屋に入ると二人は目を思わず、目を疑う。
その部屋にはB級映画にでも出てきそうなゴテゴテした機械と実験台が部屋の一室を占領していたからである。
「・・・これ、マヤちゃんが一人で作ったの?」
「はい。5年は掛かりましたが、なんとか形にする事が出来ました」
「5年って・・・マヤちゃんはその時、10歳でしょ?」
宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤは「えへへ」と笑う。
まさか、この様な形で既に用意されているとは二人も思わなかった。
やはり、彼女には才能があるのだろう。
ーーただ、同じく夢と現を垣間見るマエリベリー・ハーンには非効率な方法なのでは思ってしまう。
元々、夢と現の境界のないマエリベリー・ハーンには朝多マヤのような実行力はない。
理由としては幾つがあるが、実体験として肉体に残るからである。
例えば、夢の中で怪我をすれば、現でも本当に怪我をするし、夢で手に入れたものを現実に持って来る事が可能である。
また、最近では夢を共有して宇佐見蓮子に実際に見せる事すら可能なのだ。
朝多マヤが行おうとしているのはそれを夢にリンクして平行世界の未来を現実として体験しようと言う物である。
そんな説明を聞いて、マエリベリー・ハーンは不安になった。
もしも、これが成功した時、それは誰も彼もが同じ体験をする事が可能となる。
つまり、誰も彼もがマエリベリー・ハーンや朝多マヤのような体験が出来るのだ。
勿論、それに対して、朝多マヤ本人に邪念などはない。
彼女は産まれながらの探求者なのだ。
それ故にマエリベリー・ハーンは注意しなければならなかった。
このような追体験の装置は危険であると・・・。
だが、言えなかった。
もし、否定してしまえば、朝多マヤの才能を否定する事になるし、なによりもまだ、どの程度の危険なのかも解ってはいない。
もしかすれば、この装置自体、未完成の可能性もある。
だが、彼女の言葉を聞いて、マエリベリー・ハーンはこの装置が見せかけではないと知る。
「この装置はとある教授からアイディアを頂きました。
まあ、夢の中で・・・なんですけれどね?
名前は確か、岡崎夢美と名乗っていたと思います」
その言葉を聞いて、マエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はお互いの顔を見合わせる。
岡崎夢美と言えば、宇佐見蓮子の専門である超統一物理学の教授の名前である。
その彼女が平行世界の未来で朝多マヤに伝授したと言うのであれば、本当の事なのだろう。
それ故にマエリベリー・ハーンは慌てふためく。
「マヤちゃん!それを起動しては駄目よ!」
「え?どうして、ですか?」
「貴女のーー岡崎教授の知恵なら本当に起こる可能性があるからよ!」
「?それなら本当に試さない手はないのでは?」
「それが危険だと言っているの!
ともかく、この装置を止めなさい!」
鬼気迫るマエリベリー・ハーンの言葉に朝多マヤは首を捻ると宇佐見蓮子を見る。
そんな宇佐見蓮子の反応はーー
「面白そうじゃない!行ってみましょうよ!平行世界の未来って奴に!」
ーーと、かなり乗り気であった。
「ちょっと!?蓮子!?」
「まあまあ、落ち着きなさい、メリー。平行世界とは言え、あの岡崎教授の教え子って事は私の後輩になるでしょ?ーーその岡崎教授の興味を持った子ですもの。きっと意味があるんだわ」
そう告げると宇佐見蓮子は朝多マヤに顔を向けた。
「それでどうするの、マヤちゃん?」
「私がリンク役になります。宇佐見さん達は2メートル近くで寝てて頂ければ、問題ありません」
「OK。早速始めましょう」
「待ちなさい」
はりきる二人にマエリベリー・ハーンは待ったを掛けると親友と次期後輩を見詰めた。
「私も同行するわ。貴女達。二人に何かあったら困るもの」
「とか言って、本当は除け者になるのが嫌なだけなんでしょう?」
「うるさい」
茶化してくる親友にマエリベリー・ハーンはそう告げると朝多マヤに近付く。
「マヤちゃんに足りないのは実際の体験だと言う自覚ね。本当に夢を現実にするって言う怖さを知らなすぎる」
「え?」
「だから、ちゃんと私と蓮子が教えて上げるわ。その危険性って言うのをね?」