朝多マヤの夢の世界にリンクするのは容易かった。
本当に瞼をつむり、横になっているだけで見られるのだから。
「へえ。本当に現実みたいね?」
宇佐見蓮子の言葉にマエリベリー・ハーンも頷く。
この歳で夢を現実にする装置を作ってしまうだけ、朝多マヤがやはり、本物だと思い知らされる。
それと同時に様々な経験をして来たマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子には拍子抜けするものであった。
ーーと云うのも、朝多マヤの言う未来とやらは彼女達の科学世紀と然程変わらぬ光景であったからであった。
これが未来だと言うのなら、かつて、宇佐見蓮子が発言した通り、つまらない時代なのだろう。
だが、なにかが異なる。
上手くは言えないが、ここは明らかに別の未来なのだと彼女達は悟る。
それにいち早く気付いたのは宇佐見蓮子であった。
「メリー。あれはなんだと思う?」
親友の言葉にマエリベリー・ハーンも気付くと天と地を貫く線のような建物に気付く。
「もしかして、あれって宇宙まで行けちゃうエレベーターだったり?」
「そうですよ。流石は宇佐見さんです」
宇佐見蓮子の言葉に朝多マヤは頷くと家を出る。
そんな彼女の後について行くようにマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子はついて行く。
彼女達の世界では首都が移され、寂れた田舎の東京の筈であったが、今いる世界は明らかに違う。
まるで彼女達のいる京都同様に賑わっていた。
「・・・東京、なのよね?」
困惑するマエリベリー・ハーンが親友に尋ねると宇佐見蓮子も同様に困惑しながら「多分」とだけ言葉を紡ぐ。
そんな二人をおかしそうに朝多マヤが笑う。
「とりあえず、お茶にしましょう」
「マヤちゃんは・・・怖くないの?」
「え?どうしてですか?」
朝多マヤはマエリベリー・ハーンの言葉に首を捻るとマエリベリー・ハーンは何も言えなくなってしまう。
彼女が見ているのは確かに現実に近い夢なのだろう。
つまり、異世界のような世界に触れている自分とは異なるのだ。
ある意味では安心であり、ある意味では残念にも感じる。
朝多マヤとマエリベリー・ハーンは確かに似た性質であるが、その根元が異なるらしい。
故に朝多マヤは夢を楽しみ、マエリベリー・ハーンは夢を恐れる。
自分も彼女みたく、このような世界ばかり夢を見ているのなら、もう少しポジティブになっていただろう。
彼女達がお茶の出来る場所へと向かおうと角の喫茶店に入る。
無論、マエリベリー・ハーン達が来た時にはこのようなものはなかった。
三人はそこで椅子に座る。
「お金は大丈夫なの?」
「私も入るのは初めてですから、どうでしょう?」
「初めてって・・・なんで入ったのよ!」
「私だけなら不安でしたけど、今はハーンさん達がいますから」
朝多マヤの言葉に呆れながら、マエリベリー・ハーンは溜め息を吐く。
こう言う突発的なところは親友そっくりである。
そんな事を考えていると忽然と粒子が集まり、人の形を為す。
光が収まると眉間に皺を寄せる婦警の格好をした女性が現れる。
「また、貴女なの?」
「こんにちわ、婦警さん」
「お知り合い?」
「平行世界を守る警察なんだそうです。私ではよくは解りませんでしたが・・・」
本当に丸投げするところは宇佐見蓮子のようだと思いつつ、マエリベリー・ハーンはその婦警と話す。
「えっと、こんにちは」
「貴女達、この子の知り合い?」
「ええ。まあ、そうなります」
「なら、この子に言ってくれないかしら?
平行世界の治安が乱れるのはよくないから、やめて欲しいって・・・」
「それは何故ですか?」
挨拶をしたマエリベリー・ハーンの代わりに宇佐見蓮子が尋ねると婦警が「本当に知らないのね?」とぼやく。
「平行世界から飛ぶって事は未来では罰則で禁止されているの。
それなのにその子ったら、夢で見ているだけなのだから問題ないでしょうって言うのよ」
「実際、そうじゃないですか?
夢で別の世界を覗いているんですから、問題ないですよね?」
「貴女を助ける身にもなりなさい!
この間なんかは世紀末覇者みたいな世界から救出するの大変だったんだから!」
どうやら、この婦警と朝多マヤは何度か顔を合わせているらしい。
流石に婦警の言葉も気になり、マエリベリー・ハーンは朝多マヤに助言する事にした。