「マヤちゃん。貴女には貴女の理論があるのよね?」
「はい。そうですが・・・」
「なら、これは貴女の研究成果と言えるのかしら?
よく考えてみて。これは本来、貴女の得た知識ではないでしょう?」
そうマエリベリー・ハーンが諭すように質問すると朝多マヤは黙ってしまう。
マエリベリー・ハーンが何を言わんとしているのか、解らない程、朝多マヤは子供ではない。いや、子供ではある。
しかし、変に大人びてしまった思考故にマエリベリー・ハーンの発言は彼女を深く傷付ける事となる。
「・・・どうして、そんな事を言うんですか?」
「貴女の知識ではないからよ、マヤちゃん。
確かに貴女は夢で得た知識で今、実際に私達と平行世界を体験している」
「だったら、何が悪いんですか、ハーンさん?」
「それはーー」
「マヤちゃんが自分で到達した結果じゃないからでしょ、メリー?」
マエリベリー・ハーンに否定されてショックを受けている朝多マヤにキツい言葉を言い掛けた彼女に代わって、親友である宇佐見蓮子が答えた。
そんな宇佐見蓮子は納得していない朝多マヤに優しく囁く。
「マヤちゃんは確かに凄いよ。こんな風に平行世界の未来の境界を一人で暴いちゃうんだから」
「・・・宇佐見さん」
「でも、だからこそ、マヤちゃんは自分の力でそれを証明しなきゃ駄目なんだよ。
その別世界の岡崎教授だってマヤちゃんにヒントをくれただけなんだから、答えを丸写ししてたらダメでしょ?
それは別の方程式とかもゼロから探しているマヤちゃんの考えに反するとは思わない?」
囁く宇佐見蓮子に朝多マヤは嗚咽を漏らして泣き出す。
二人なら解ってくれると思っていた。
出会った事でそれは確信へと変わる。
そう朝多マヤは信じていた。
しかし、待っていたのは否定の言葉である。
ここまでしても認められない事にーー信じられる人間に言われたらこそ、まだ年端もいかぬ少女は涙を流す。
「・・・ひっく・・・ぐすっ・・・わたし・・・頑張ったのに・・・」
「うん。マヤちゃんは頑張っているよ。
エラいと思う。実際にマヤちゃんは凄い事をしているんだから」
「・・・ぐすっ・・・蓮子さん」
「だからこそ、自分の中にある本当の答えを見付けてね、マヤちゃん。
借り物の力じゃなくて、マヤちゃん自身がこれだと思う結果を自分の力で見付けなきゃ意味がないんだよ」
「・・・はい!私、頑張ります!」
涙に濡れながら朝多マヤは宇佐見蓮子に抱き付くと宇佐見蓮子は優しく朝多マヤの頭を撫でる。
そんな二人を見て、マエリベリー・ハーンはホッとすると同時に少し親友が羨ましくも思う。
自分ならば、結論しか口に出来ないだろう。
何故ならマエリベリー・ハーンは夢と現を区別出来ない程に不安定なのだから。
結果的に朝多マヤを不安にさせ、最終的に全てを否定して終わるだろう。
(敵わないわね、蓮子には・・・)
自分の中心となった親友に色々と思いながら、マエリベリー・ハーンは婦警に視線を移して頭を下げる。
「大変でしょうが、彼女を宜しくお願いします」
「・・・今更って感じね。まあ、私も彼女とは浅はからない縁だし、彼女が本当に犯罪者にならぬように見ているから安心なさい」
婦警はそう告げると抱き締め合う宇佐見蓮子と朝多マヤに向かって手を叩く。
「さ、もう良いでしょ?・・・貴女達は自分の世界に帰りなさいな」
「そう言えば、貴女の名前は?」
「私?私はことーー」
そこまで聞かぬ内にマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は朝多マヤの覚醒によって彼女と同時に共有していた平行世界へ通じる夢から覚める。