ご注文はスーパーロボットですか? 作:お日様ぽかぽか(zig)
「ドリルミサーイル! アイアンカッター!」
「甘いわココア! そんな攻撃で私を倒せると思って!?」
傍受した通信から、少女達の叫ぶ声が聞こえる。
先程から多彩な技名を連呼するココアの声へ特に注意を傾けながら、頭上から降ろしたスコープの中をチノは静かに見つめていた。
「無駄よ! この体格差は埋められないわ!」
「まだまだ諦めないよ! ロケットパーンチ!」
見晴らしの良い草原で、二体のロボットが火花を散らす。
数分前に始まったばかりの戦いを見守りながら、チノは詰まる息を何とか吐き出して新しい空気を取り入れた。
(息苦しいですね……)
特に動いているわけでも、操作しているわけでもない。
しかし、いるはずのもう一機に注意を傾けつつ、ココアが作るはずの好機を逃さないよう見張る緊張は、慣れないチノの精神を確かに圧迫していた。
「ミサイルパーンチ! 光子力ビーム! ルストハリケーン!」
先程からジャベリンを振り回し続けるトライダーに対して、ココアの操るマジンガーZは次々と技を披露していた。豪快に腕先を飛ばすロケットパンチから、腹部より射出されるミサイルパンチ、瞳から出る光子力ビームなど、トライダーを翻弄するように動き回りながら相手を休ませない。
しかし相手もスーパーロボット。簡単には倒れそうもなく、周囲に起きる爆発をものともせずに両手両足でマジンガーに襲いかかる。その様子は、一寸法師を蹴散らす鬼の姿を彷彿とさせた。
「必殺! 冷凍光線!」
「あぁもうココアぁ! そんなに次から次へと武器を使うなー!」
「あれ? シャロちゃんにも武器がいっぱいあるんじゃないの?」
「私のは……その……い、一発百万円もするミサイルなんて打てるわけないじゃない!」
「シャロちゃんはゲームの中でも慎ましやかだね!」
「慎ましやかって言うな―――!」
樹木から生える葉で隅が隠される視界の中、チノはシャロの高い声を聴いた。
(シャロさん苛立って来てます。いい感じですココアさん)
用意された戦闘舞台。自然が広々と展開するマップの中には、荒野、草原以外にも森や湖が配置されていた。
森の外れに機体を横たわらせるチノは、そのうつ伏せになった体勢から、密かに一本の銃口を伸ばす。
一度きりの発射機会。逃すわけにはいかない。
「よっ! とぉっ!」
「またロケットパンチ? そんな攻撃、効かないわ!」
勢いよく飛ぶ両腕の鉄拳が、むなしくジャベリンに切り払われた。
「ああっ! 私の両腕がぁ!」
「チャンス! ココア覚悟ぉ!」
(ココアさん!)
無くなった前腕の無いマジンガーに、トライダーが間を詰める。
汗一つ流さない鉄の城は、しかしチノには危うく見えた。
(まずい! 引きますか……!?)
打てば注意が逸れる。ココアは助かる。しかしいいのか。
一瞬の逡巡が襲ったところで、チノはしかしグッと堪えた。
(いえ、ココアさんならやれます。やれるはず!)
「覚悟よココア!」
「! シャロちゃん!」
槍の切っ先をすんでで躱したココアに、二度目の突きが迫る。寝転がったマジンガーには回避する余裕が無い。
「これで!」
「まだだよ!」
「えっ!? ひゃん!?」
上段から振り下ろされる刃に、マジンガーが貫かれようとしたその時。
トライダーの体勢が崩れた。
「なっ……ココアぁ!」
ジャベリンがマジンガーを逸れて、固い地面に突き刺さる。
巨大ロボットの膝裏へ鉄拳が飛ぶ様子を、チノは見逃さなかった。
「でかしましたココアさん!」
「打って! チノちゃん!」
定めた照準の中へ砲撃をぶち込むのと、ココアが叫ぶ瞬間はほぼ同時だった。
「あぐっ!? 砲撃!? どこから!?」
頭部に直撃を受けたトライダーが、たまらず身を反り倒れる。
その間に腕を取り戻したマジンガーが、胸を突き出すように両腕を掲げると、トドメの咆哮を叫んだ。
「今だ! ブレストファイヤー!」
「きゃあああああ!」
最大火力の攻撃が、倒れる巨人に注がれる。見るからに高熱を思わせる紅色の光線が、一直線にトライダーへ突き進むと、その巨体を赤く染め始めた。
「このまま戦闘不能へ一直線だよ!」
「そうはいくかぁ!」
「リゼちゃん!!?」
マジンガーが揺れ、吹っ飛ばされた。いきなり体当たりを受けた衝撃で、勝利を確信した攻撃が中断した。
「あいたぁ! リゼちゃん! やったなぁ!」
「シャロ! ナイス踏ん張り! これでチノの居場所がわかったぞ!」
「せ、せんぴゃ~い……」
「食らえ! 五十ミリ散弾銃!」
「うわぁぁぁ! チノちゃん助けてぇ~~!」
一対一ならなんとか戦えたマジンガーも、援軍が来てはひとたまりもない。
「ココアさん踏ん張ってください! すぐに行きます!」
もはや隠れる必要もないガンダムは、すぐにその白い四肢を動かすと、背中に取りつけていた柄を握って走り出した。