異世界かるてっと×2   作:アニアス

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第十話 ドッジボール

林間学校を終えた日の翌週、4組はいつも通りに学校へ登校していた。

こっちの世界での学園生活にも慣れて教室では談笑をしている。

 

あれから特別な出来事も起きていないが、1つだけ変わったことがある。

 

「おはようございます」

「おはよう」

「おはようなの」

 

教室に入ってきたアクとルナ、そして林間学校でエセアルラウネに操られていたトロンがみんなに挨拶をした。

 

林間学校の後、九内と愛子が校長先生に掛け合いトロンを4組の転校生として迎えたのだった。

最初は戸惑うトロンであったが真々子を始めタマにポチ、ミーアにミュウと温かく迎え入れてくれたため今は普通に学園生活を送れている。

 

「おはようアクちゃん!ルナちゃん!トロンちゃん!」

「おはようなのですトロン!」

「アクもルナもおはよう」

 

入ってきた3人にミュウとポチとミーアが近づいて挨拶を返す。

 

「っていうかアンタたち、前に言ったでしょ。私のことはルナ姉様と呼びなさいって」

 

今のところ妹のような存在がアクしかいないルナはこの機会に更に妹と増やそうとしているもののミュウたちは姉様などと呼ばずにちゃん付けや呼び捨てをしている。

それが気にくわないためアクはミュウたちに再び言い聞かせようとする。

 

「私の方が年上で三聖女の1人で副委員長だから偉いのよ」

「だったらミュウはクラス委員長だから偉いの!」

「ん、ミュウは偉い」

「ミュウの方が偉いのです!」

「うっ!?そう言えばアンタ委員長だったわね…」

『ふふっ』

 

しかしルナに負けじとミュウもえっへんと胸を張りクラス委員長であることを自慢する。

戸惑うルナにアクとトロンは笑いを堪えてしまう。

クラス委員の仕事のほとんどはルナやルルたちがやっているがクラス委員長としての自覚があるだけでもマシである。

 

そんな光景を全員が微笑ましく見ていると九内が教室に入ってきた。

 

「早く席に着きたまえ。ホームルームを始めるぞ」

 

『はーい』

 

九内の呼びかけと共に4組のいつも通りの学園生活がスタートするのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「つまりこのようにたんぱく質を摂取すると腸の働きでアミノ酸に分解されるってことだ」

 

昼休み前に差し掛かった頃の四時限目。

4組は田原の授業を受けていた。

田原は体育教員でありながらも理科の授業も兼任しており分かりやすく進めているため、ミュウたちも興味津々に受けている程である。

 

すると四時限目を知らせるチャイムが鳴り田原は授業を切り上げた。

 

「んじゃあ今日はここまでにするか。五時限目は体育だからグラウンド集合しとけよ」

 

『はーい!』

 

授業が終わり昼休みに入ろうとした時だった。

 

「失礼します田原先生」

「んぉ?どうしたレルゲン先生?」

 

教室の扉が開き、そこからレルゲンが入ってきたのだった。

 

「実は…ご相談したいことがありまして…」

「相談?」

 

レルゲンはかなり真面目な性格のため相談ごとは人目がつかない場所でしていた。

にも拘らず、教室で相談を持ちかけてきたため何か自分たちにも関係があると思いサトゥーたちも聞くことにした。

 

「その…五時限目の4組の体育なのですが、2組と合同授業という形で行いたいのですが…」

「2組と合同授業?」

 

レルゲンの相談に田原は首を傾げてしまう。

前もって相談ならともかく、急遽他のクラスと合同と持ちかけられたら話は別である。

いきなりであるがために田原は困ってしまう。

 

「事情は後で話します。無理なら構いませんが…」

「…どうするよ委員長?」

 

しばらく考えた田原はミュウに判断を仰いだ。

独断で決めるのはよくないため4組の委員長であるミュウに任せることにしたのだった。

 

「んー…うん!ミュウは大丈夫なの!」

「俺も別にいいですよ」

「私も問題ありませんと捕捉します」

 

ミュウが大丈夫と言ったことを皮切りに次々に賛同する声が上がっていく。

今のところ2組とはほとんど交流がないが誰も反対する様子もなかった。

 

「という意見みたいだぜ」

「ありがとうございます。それからもう一つお聞きしたいことがあるのですが…」

「ん?」

 

レルゲンが深く頭を下げると気まずそうに顔を上げる。

何かを言おうとするも戸惑い躊躇う素振りを見せるレルゲンに田原含めて4組は首を傾げてしまう。

 

そしてついにレルゲンは勇気を振り絞り口を開いた。

 

 

 

「君たち…唐揚げには何をつける…?」

 

 

 

『……………はい?』

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

昼休みが終わり五時限目が始まろうとしていた時、グラウンドには4組と2組の面々が揃っており、田原とレルゲンの姿もあった。

 

生徒たちは円状に作られ三等分されたコートで混合にチームを作り内野と外野に分かれている。

そして何故かそれぞれが『ケチャップ』『しお』『マヨネーズ』と書かれたゼッケンをつけていた。

 

今からやるのは見ての通りドッジボールなのだが、何故か2組は各々でバチバチに火花を散らしながら睨み付けている。

 

何故このようなことになったのかというと、原因は2組のほんの些細な会話からだった。

最初は近所の肉屋の唐揚げが美味しかったという話だったのだが、途中から唐揚げに何をつけるのかという話へ発展して塩コショウ派のターニャとケチャップ派のアインズで意見が分かれてしまいその亀裂が2組全体へ広がってしまったのである。

誰が正しいのかと2組で話し合いをするも一向に解決される気配がないため、レルゲンの提案により何故かドッジボールで勝負することになったのである。

ちなみに4組が呼ばれたのは数合わせということで今に至る。

 

「つまり俺らはそのくだらない争いに巻き込まれたってことか?」

「迷惑な話だよな」

 

唐揚げに何をつけるなどどうでもいい争いに巻き込んだ2組に対して塩コショウ派のハジメとマヨネーズ派の真人は呆れてしまう。

 

「お前らはまだマシだろ。俺たち3人は教室の前を通りかかっただけで参加させられたんだぞ」

「だからここにいるのか…」

 

4組と2組でチーム分けをしてもバランスが取れなかったため、たまたま通りかかった尚文、ラフタリア、フィーロも巻き込まれる事態となり、ケチャップ派のサトゥーは尚文たちがここにいる理由を理解する。

 

完全な巻き込まれであるが、これも授業の一貫であるため4組と尚文一行は致し方なく受け入れるしかなかった。

 

「同じ塩コショウ派として頼りにしてるぞ。盾男に眼帯男よ」

「何なんだ一体…?」

「何でこの幼女は偉そうなんだよ?」

 

「共に塩コショウ派を蹂躙しようではないか」

「蹂躙って…」

 

「ま、俺たちマヨネーズ派は気軽にやろうぜマーくん」

「頼りにしてるぞ勇者マーくん」

「マーくんの呼び名が浸透してる!?」

 

それぞれのチームのリーダーが4組たちを鼓舞する中、めぐみんが先ほどから気になっていたことを口にする。

 

「あの~すみません。あちらにいるお二方はどうして参加していないのですか?」

 

めぐみんが指を差した先には、中立として実況席に座っているヴィーシャの隣にいる真々子とその膝の上に座っているミーアの姿があった。

何故かマヨネーズ派にも塩コショウ派にもケチャップ派にも属していない2人に2組が首を傾げる中、真人とサトゥーがワケを話した。

 

「母さんは唐揚げには何もつけない派なんだよ」

「ミーアはそもそもお肉自体を食べられないんだ」

 

何もつけずに唐揚げを食べる真々子とお肉を食べられないミーアはどのチームにも入れないため今回は見学という形になったのである。

 

「あのエルフの子はお肉を食べられないのね…」

「勿体ないなぁ。美味しいのに」

「うん、そうだねお姉ちゃん…」

 

同じエルフでも違う世界では食べられないものもあるのかとエミリアとアウラとマーレはミーアに注目する。

 

それぞれで話し合っている中、審判の田原がホイッスルを吹いて注目を集める。

 

「んじゃあ今からドッジボールを始めるが、その前に自分のチームの面子を確認しとけよ」

「メンバーを確認した後、内野はそれぞれの陣地へ入るように」

 

 

 

『塩コショウチーム』

ターニャ

ケーニッヒ

ノイマン

レム

ラム

コキュートス

ダクネス

ハジメ

ティオ

香織

ナナ

ポータ

メディ

尚文

フィーロ

 

 

『ケチャップチーム』

アインズ

アルベド

シャルティア

デミウルゴス

めぐみん

ちょむすけ

グランツ

サトゥー

リザ

タマ

ポチ

ルル

ユエ

ルナ

ラフタリア

 

 

『マヨネーズチーム』

スバル

エミリア

パック

ベアトリス

カズマ

アクア

アウラ

マーレ

ヴァイス

真人

シア

ミュウ

アリサ

ワイズ

アク

トロン

 

 

「んじゃ始めるぞー!」

 

そして田原がホイッスルを吹きドッジボールが開始されるのだった。

 

『さぁて始まりました!から揚げ何つけるドッジボール対決!実況は私、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブコリャコーフ!ゲストは4組の真々子さんとミーアさん!そして解説にはお肉屋さんに来ていただきました!この勝負どう見られますか?』

『感じるぜ、今だかつてない生命の躍動をな………ヘッ!』

『唐揚げには何をつけても美味しいけど、やっぱり何もつけずに食べたいわね。でもマーくんには勝ってほしいかしら』

『みんな頑張って』

 

実況席から解説やら応援が聞こえてくる中、ケチャップチームのベアトリスが動いた。

 

「まずは小手調べでありんす!」

 

手に持っているボールに魔力を込めて塩コショウチームへ投げる。

その直線上に立っているのはダクネス。

堂々と振る舞いボールを止めようとするように見えたも束の間、両腕を広げてわざと当たり宙を舞う。

 

「…あれ、わざと食らったな」

「分かるか?」

「まぁ、ウチのクラスにも似たようなヤツがいるからな…」

 

満足そうに宙をまっているダクネスを見ながらスバルとカズマと真人は呆れた声を出してしまう。

 

「これは…!いい…!」

「おのれダクネス殿!なんと羨ましい仕打ちを!」

「娘タチ…」

 

ボールが当たった衝撃を受けて満足しているダクネスとそれを妬ましく思っているティオを見てコキュートスも呆れた声を出してしまう。

当然塩コショウチームのリーダーであるターニャも呆れてしまう。

 

「何をしているのだ…」

「少佐殿!ボールがケチャップチームの方へ溢れてしまいました!」

「何!?」

 

ケーニッヒからの報告を受けたターニャがケチャップチームの陣地を見ると、リザがボールを持っていた。

ターニャたち塩コショウチームが身構えた時、ケチャップチームが動いた。

 

「いきますよ!タマ!ポチ!」

『アイ!!』

 

リザがボールを頭上へ高く投げるとそのまま仰向けになり両足を空へ上げる。

それに続きタマとポチがリザのそれぞれの足の裏へと飛び乗ると、リザが力を入れて2人を上へ押し上げた。

 

『てりゃあああ!!』

 

飛び上がった2人はそのまま投げられたボールを塩コショウチーム目掛けて蹴り飛ばした。

 

『ここでケチャップチームが見事な連携技を繰り出したぁ!』

 

ヴィーシャが実況を続けるが、このまま黙っているケチャップチームではない。

 

「いくわよレム!」

「はい!姉様!」

 

今度はコキュートスが先ほどのリザと同じ体制になると、ラムとレムもそのまま足の裏へと飛び乗り上へと飛び上がる。

 

『ふんっ!』

 

そのまま飛んできたボールをすかさずマヨネーズチームへと蹴り飛ばした。

 

「負けてられないよマーレ!」

「うん!お姉ちゃん!」

「えっ!?えぇっ!?」

 

そして今度はマヨネーズチームのアウラとマーレ、そしていつの間にか攻撃に参加していることに戸惑っているヴァイス。

流れに乗るしかないヴァイスは他のチームと同じように寝転がると、足の裏へアウラとマーレが飛び乗る。

 

「んぐぐぐぐっ…!」

『ヴァイス大尉辛そうです…!』

 

子供二人を蹴り上げるのは人間にとってかなりキツイが、軍人の意地を見せつけようとヴァイスは力を振り絞り二人を蹴り上げる。

 

『いっけぇぇぇ!!』

 

そしてアウラとマーレは向かってくるボールを蹴り返した。

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

『アー!ノイマン選手取れない~!』

 

しかし狙いが外れてしまい、そのまま外野へとボールは流れてしまう。

するとここで田原がホイッスルを吹いた。

 

「お前ら、足使うのはダメだろ」

『え~???』

 

ドッジボールはボールを投げることがベースであるため、蹴り技は禁じ手とされている。

キックでボールを返した6人に注意をすると、不満そうになるが渋々承諾した。

 

そしてノイマンがボールを持ち試合が再開される。

 

「少佐殿!」

「おう」

 

ここは無理して敵チームを狙いにいかずノイマンは味方陣地のターニャへとボールを回す。

しかしその隙をカズマはついた。

 

「甘いな。スティール」

「なっ!?貴様ぁ!」

 

自身のスキルを利用してボールを文字通り手中へと収める。

相手の陣地へ踏み入れていないためルールの網目をすり抜けたプレーである。

 

「カズマよくやったわ!ボールちょうだい!」

 

カズマのファインプレーを褒めつつアクアは半ば強引にボールを横取りする。

それにカズマは不服な顔をしてしまうもアクアはケチャップチームのアインズに狙いを定める。

 

「聞きなさい貴方たち。本来アクシズ教はすべてを許す教えよ…でも今、私が唐揚げにつけたいのはマヨネーズなのよ!」

 

どういうわけかマヨネーズは譲れないらしく拳に魔力を溜め始める。

 

「食らえ!ゴッドブロー!!」

「技の名前ダサっ!?」

『嘗てこんなカッコ悪い必殺技の口上があったでしょうか!?』

 

そしてそのまま必殺技の名前を口にしてボールを殴り飛ばした。

その名前にワイズはおろかヴィーシャまでもツッコミを入れてしまう。

しかしダサいとはいえ凄まじい威力でアインズとその側にいるグランツへと迫っていくと、すぐさまアルベドが助けに入った。

 

「笑止!ウォールズ・オブ・ジェリコ!」

「あぁぁぁぁぁ!!??」

 

自分の偉大なる至高の御方を守るべく壁を発動させるスキルを発動させてボールを防ぐが、何故かグランツをエビ反りしている。

 

「この技を俺にかける必要ってありますぅ!?」

 

完全なとばっちりである。

そのまま転がるボールを拾った…否、咥えたのはチョムスケ。

 

「ニャァ………ボウッ!!」

 

猫のような…否、完全に猫であるちょむすけは咥えたボールに火を灯してマヨネーズチームに吐いた。

 

「猫が火を吹いた!?」

「コイツ絶対普通の猫じゃねぇだろ!」

「どう見ても普通の猫ですよ」

「普通の猫はボールを投げたりしねぇよ!」

 

明らかに普通の猫じゃないちょむすけにスバルと真人はツッコミを入れるもめぐみんは猫だと言いきる。

そうこうしている内にボールはスバルと真人へと迫ってきていた。

 

「ってうわぁぁぁ!避けられねぇ!」

「任せなさい!」

 

間に合わない真人たちを助けようと、ワイズは魔道書を開き魔法を発動させた。

 

「死亡《モールテ》!!」

 

そして魔法を唱えると真人を棺桶に閉じ込め死亡扱いにさせては、ワイズは棺桶を起こしてボールを防いだのだった。

 

「ふぅ、危なかったわね」

「そうだなぁ…ってボール防ぐためにチームメイトを棺桶送りにしてんじゃねぇよ!」

「大丈夫よ。サクッと生き返らせるから」

「お前なぁ…!」

 

棺桶から蘇った真人はワイズに文句を言おうとするものの今はドッジボールに集中することにした。

次にボールを拾ったのはエミリア。

 

「パック!」

「任せてリア」

 

パートナーの精霊のパックの力を借りてボールに魔力を込めていく。

 

「その子、絶対普通の猫じゃないですよね?」

「どう見ても普通の猫じゃねぇよ!」

「喋ってるし浮いてるしな!」

 

周囲が騒がしくなってはいるもののエミリアは集中を続けると、ボールに魔力が溜まりきった。

 

「ふぅ…ゴメンね!」

 

そしてそのボールを塩コショウチームへと投げつけた。

 

「盾男!マヨネーズなどに負けるな!」

 

ここでターニャはポールを受け止める役割を尚文へと託した。

魔力込みのボールを受け止められないわけではないが、序盤で魔力の大幅な消費を抑えるべく防御に特化している尚文に任せたのだった。

 

無理やり参加させられている尚文は半ば乗り気ではないように思えたが、全身に赤い紋章が走り『憤怒の盾』へと変化すると全力でボールを受け止めた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

「なぜそこまで本気に!?」

 

まさか憤怒の盾を使うとは思わなかったラフタリアは思わずツッコミを入れてしまう。

盾とボールで凄まじい衝突になるものの、ここで尚文に助けが入る。

 

「ここまで威力が落ちれば十分だ!」

 

ハジメが尚文へと近づいてボールを掴んで止めようとするが、

 

「あっ!」

 

ボールは回転しておりハジメが掴んだことでボールが外野へと弾かれてしまい、偶然にもトロンがキャッチする。

 

「はい、ハジメアウト。内野から出ろ」

「しまったー!」

「何をやっとるんだ貴様ぁ!?」

 

そして田原からアウトを言われてハジメは頭を抱えてしまいターニャは激を飛ばす。

ちなみに尚文は体に当たっていないためアウトにはならなかった。

 

ハジメが外野へと回るとトロンがボールを持って高く飛んでいった。

 

「あれアリですか?」

「内野に入ってないからアリだ」

 

空を飛ぶトロンにめぐみんが抗議するものの田原はセーフと判断する。

 

「いくの」

 

そのままトロンは自陣の内野目掛けてボールを投げる。

 

「またまた私に任せなさい!オーライオーライ!」

 

フワリと飛んでくるボールを取ろうとするアクアは後退りしながら塩コショウチームとの境界線ギリギリで止まる。

ボールはアクアの方へと向かっており誰もが取れると確信したその時だった。

 

塩コショウチームのメディが杖をアクアのお尻目掛けて振りかぶった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

突然のことにアクアは断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れてしまう。

ボールはそのままバウンドして見事にメディの手元に収まる。

 

「ふふっ。ラッキーです」

「いやいやいやダメだろメディ!」

「明らかに反則じゃん!」

 

何事もなかったかのように振る舞うメディを見逃すまいとマヨネーズチームは一斉に抗議をする。

しかし当の本人は首を傾げてすっとぼけている。

 

「え?なんのことですか?」

「オイ!コイツしらばっくれてるぞ!」

「先生!」

 

こうなったら公平なるジャッジをしてもらおうと田原に声をかけるも、

 

「ん?あぁ悪い、急に顔に光が反射して眩しくて見てなかったわ」

「えぇ!?」

 

どうやら不正行為を見ていなかったようで証明することができなかった。

 

「どうやら不正行為なんてなかったようですね。疑いが晴れてよかったです」

 

そう言いながらメディは懐から手鏡を取り出してマヨネーズチームへ見せつける。

それを見た全員は確信した。

審判の目があるにも拘わらず不正行為ができたのかを。

 

「どうぞ少佐殿」

「うむ。よくやった」

 

そのままメディはボールをターニャへと渡すと、意外にもケチャップチームのアインズから声がかかった。

 

「それが貴様のやり方かターニャ?」

「有効的戦術と言いたまえアインズ」

 

今回の唐揚げドッジボール対決の原因であるアインズとターニャがバチバチと火花を散らしており周囲も引いてしまうのだった。

 

「……マーくん。俺らどうしたらいいと思う?」

「取り敢えず無事に終わることを祈るしかないな」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

その後、ドッジボール対決は白熱したが終盤でボールが破裂してしまった。

それを皮切りにそれぞれの熱も冷めて最終的にアインズとターニャは和解ということで幕を閉じたのだった。

 

「ったく、何だったんだ一体?」

「ホントに迷惑な出来事だった…」

 

ようやく解放された4組と尚文たちはこのまま帰ろうとした時だった。

 

「みんなお疲れ様ー!お腹空いたでしょ?みんなで食べましょ!」

 

ゲストの真々子とミーアがテーブル型の台車に何かを乗せて運んできた。

それは先ほど二人が家庭科室で作っていたコロッケだった。

できたてで香ばしい匂いが漂い全員の食欲を注いだ。

 

「コロッケか…!すごく美味しそう…!」

「私もうお腹空いちゃった~」

「流石は勇者の母親ですね!」

 

コロッケなら何をつけるのかもめる心配もないためひと安心である。

そんな中、ターニャがとんでもないことを口にする。

 

「フッ、やはりコロッケには塩一択だな!」

 

『………え???』

 

なんの違和感もなくコロッケに塩を振りかけるターニャに全員は固まってしまう。

もはや彼女はソルターなのではと思ったが、もう一人いた。

 

「確かにコロッケには塩以外考えられないな」

 

ハジメも同じように塩を振りかけており今度はこちらを見てしまう。

 

そして微妙な空気になりながらも唐揚げドッジボール対決は終わったのだった。


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