異世界かるてっと×2   作:アニアス

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第八話 バレンタインデー

4組の教室にて、ルナとアリサとシアとポータが女子トークをしていた。

 

「バレンタインデー?」

 

様々なことを話している中、突然出てきたワードに首を傾げているルナにアリサとポータが説明をする。

 

「今日の2月14日はバレンタインデーって言って女性が好きな男性にチョコレートを渡す日なの」

「特に殆んどの人たちは手作りでチョコを作ったりするんですよ」

 

バレンタインデーは女性に取っては好きな男性に振り向いてもらうためのビッグイベントでかなり気合いが入ってしまう日でもある。

そのためこの学園でもその傾向が見られ女子たちが盛り上がっている。

 

「ふーん?この世界にはそういう文化もあるのね…シアはやっぱりあの眼帯男にチョコでも渡すの?」

「もちろんです!そういうルナさんも魔王先生にチョコを渡すんですか?」

「はぁ!?誰があんなヤツに!」

 

シアにチョコを渡す相手は九内なのか聞かれてルナは声を上げて否定してしまう。

そんなルナにアリサとポータは笑いながらつけ足す。

 

「別にチョコは好きな人だけじゃなくて、友達とか家族とかに渡してもいいのよ」

「それに魔王先生だってルナさんからチョコを貰ったらきっと喜びますよ」

「…そう、かしら?」

 

2人に言われてルナの心が揺らいでしまい頬を少し赤くしてしまう。

九内には日頃から世話になっているため渡すのも悪くないと思うのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

その頃、食堂にある厨房では真々子を先頭にしてタマとポチとミーア、ミュウとアクの姿があった。

 

「さぁみんな!チョコ作りを始めるわよ~!」

『はぁーい!!』

 

真々子の呼び掛けと共にアクたちは元気よく返事をする。

アクたちは九内たちに手作りしたチョコを渡したいのだが料理をしたことがなく、専業主婦である真々子に教えを乞うために厨房の一部を借りているのであった。

 

「ありがとうございます真々子さん。僕たちのお願いを聞いてくれて」

「これくらいお安いご用意ってものよ。好きな人に手作りチョコを渡したいなら喜んでお手伝いするわ」

 

代表してお願いしたアクが改めてお礼を言うも真々子は快く引き受ける。

アクたちの気持ちを理解している故に力になりたいと思ったからである。

 

「ところで真々子さん。料理を美味しく作るコツって何かありますか?」

「ポチも知りたいのです!」

「タマも~?」

「ミュウも教えてほしいの!」

「ふふっ。それはね、美味しくな~れって愛情を込めることよ。私もマーくんたちのお弁当を作る時もいつも愛情を込めてるのよ」

 

真々子がアクたちに料理を教えている姿はまるで保育園の先生のようであった。

 

その光景を受け取り口から微笑ましく見ているのはリザとラフタリアの2人。

日替わり定食を受け取ろうとした時、偶々真々子たちの姿が見えたのである。

 

「凄く楽しそうですね。リザさんはチョコはどうするのですか?」

「昨日ご主人様に内緒でミーアとナナとチョコを買いに行ったので問題ありません。ラフタリアとフィーロはどうするのですか?」

「えっと……実は、今手持ちが少なくて尚文様に渡すチョコを買えなくて…」

 

リザは既にサトゥーに渡すチョコを買っているがラフタリアとフィーロは金銭的な問題があり買うことができなかったのである。

 

「それなら、私が少し出しましょうか?」

「そ、そんな!お金を借りることなんてできません!私も手作りで渡そうとは思ったのですが、厨房は見ての通りこれ以上使うことなんてできなくて…それに、家庭科室も2組の方と何名かが使っていて…」

「2組の方?」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

一方その頃、家庭科室では2組のアルベドがエプロンを身につけアインズに渡すためのチョコレートを作ろうとしていた。

 

「バレンタインデー!愚かな人間共のイベントの中で唯一!私が評価する日がやって来ましたわ!」

「どれだけ妾がこの日を待ち望んだことか!バレンタインデーこそ妾の愛しきご主人とより親密になれる機会なのじゃ!」

「貴女とは気が合いそうね竜人!」

 

そこへアルベドと同じようにエプロンを身につけたティオも加わりバレンタインデーに対する意気込みを語る。

互いに想い人に対する気持ちは同じくらい大きいため意気投合してしまっているのである。

 

「この甘き漆黒に、愛!愛を込めて!」

「妾のこの高ぶる気持ちを!愛を!見事に込めてみせようぞ!」

 

「その通りですぅ!」

 

そんな2人の想いに賛同するように、側にいた緑髪の顔色が悪そうな男が高ぶりながら声を上げる。

 

「あなた方の愛を!愛を愛を愛をぉ!チョコレートに込めるのですぅ!」

『はい!!ペテルギウス先生!!』

 

男の名は『ペテルギウス・ロマネコンティ』

これからチョコレートの作り方を教える人物である。

いかにも怪しそうであるが、アルベドとティオは自分たちの気持ちを理解しているペテルギウスに何の疑いや警戒心などなく教えを乞おうとしている。

 

「さて、チョコレートと言っても種類は無数なのです。あなた方、一体どんなチョコをご希望なのですか?」

 

早速ペテルギウスは2人がどのようなチョコレートを作ろうとしているのか質問をする。

 

「そうですわね…やはりアインズ様は全ての死者を統べる御方。闇に相応しい…」

「ご主人はまだ若いにも拘わらず大人の魅力がある故に、やはりここは…」

 

『ビターチョコ!!』

 

アルベドはアインズを、ティオはハジメをイメージし様々な思考を行った結果、ビターチョコレートという結論にたどり着いたのであった。

 

「!…アルベド殿もビターチョコを…!?」

「やはり私たちは気が合いそうね」

 

まさかチョコレートの種類が被るとは予想できずアルベドとティオは目を見開くもニヤリと笑ってしまう。

 

「なるほど、甘さではなく大人の苦みを出すのですね?」

 

子供が喜ぶチョコレートの甘さではなく大人が好むカカオの苦みを選択した2人にペテルギウスが感心していると、アルベドとティオは続けて自分たちの考えを口にする。

 

「愛をふんだんにまぶしたチョコレート…」

「そして隠し味は妾たちの…」

 

『愛!!』

 

もはや打ち合わせでもしたのかという程のアルベドとティオの息が合い、やはりここでも導いた答えが被ったのであった。

そんな2人に対してペテルギウスは絶賛の拍手を送った。

 

「素晴らしい!素晴らしいのです!このような勤勉な方々が、よもやここに居わすとは!」

「アインズ様を愛する事に、怠惰でいられるわけがないですわ!」

「ご主人様は常に勤勉に想わなくてはならぬのじゃ!」

「まさにまさにまさにまさにまさにぃ!あなた方こそ勤勉な愛の信徒ぉ~…!」

「そう!私はアインズ様の愛の奴隷…!」

「妾こそ!最愛であるご主人様の愛の下僕…!」

 

『デスッ!!!』

 

3人とも愛について大いに語った直後、顔を伏せて同時に上げると頬がつり上がっている笑みが露になる。

その顔には無邪気さも純粋さも感じられず只々不気味であった。

 

そんな3人を同じくチョコレート作りに参加していた香織とワイズはそれを見てかなり引いてしまい、同時に後悔してしまった。

 

((く、来るところ間違えたぁぁぁ!!))

 

2人もチョコレートを作りたかったのだが、厨房は真々子たちが使っているため入ろうにも入れず家庭科室を使うことにした。

しかしそこには愛にうるさい3人がおりどうすることもできずにいるのである。

 

((!!))

 

どうしようと香織とワイズが考えていると、窓の外から 家庭科室の様子を伺っているカズマと視線が合った。

家庭科室が騒がしいことに気がついたカズマがこっそりと覗くとアルベドとティオとペテルギウスの3人が愛を何度も連呼し恐ろしい笑顔をしている光景を目の当たりにして引いていたのであった。

 

((助けてぇ………!!))

 

藁にしがみつく想いで香織とワイズは目でカズマに助けを求めるも、関わりたくないのかカズマは2人に両手を合わせて謝るポーズを取りながらその場から立ち去ってしまった。

 

(待って!逃げないで!)

(アイツ後で死亡《モールテ》かけてやる!)

「何を呆けているのですか!」

『!?』

 

カズマが立ち去ったと同時にいつの間にかペテルギウスが目の前にいたことに香織とワイズは驚いてしまう。

 

「さぁ!貴女たちも愛を!愛を愛を愛をぉ!愛を込めるのですぅ~!」

『イヤァァァァァ!!??』

 

恐ろしい笑みで迫り寄ってくるペテルギウスに香織とワイズの悲鳴が響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

一方その頃、放送室ではサトゥーとハジメと真人と尚文が集まりババ抜きをしていた。

放送委員であるサトゥーが鍵を開けているため入ることができているのである。

 

「ん?」

 

真人がハジメの手札から1枚引こうとした時、何かに気がつき辺りを見渡す。

 

「どうした?」

「いや、なんかワイズの悲鳴が聞こえたような…気のせいか」

 

実際ワイズは香織と共に絶叫の悲鳴を上げているのだがそんなことなど知らず真人はハジメの手札から1枚を引く。

そんな中、尚文が今まで言えなかったことを切り出した。

 

「………今さらなんだが、何で俺たちここでババ抜きしてるんだ?」

「仕方ないさ。使えそうな場所がここしかなかったんだから」

 

最初はサトゥーの提案で尚文をババ抜きに誘ったのだがどこもバレンタインデーで女子たちが盛り上がっており気になってしまうため静かな場所はないかと探していた時に放送室が浮かび上がったのであった。

 

「まぁ俺は別に構わないが………そういえばお前らバレンタインのチョコ貰ったのか?」

「あぁ、今朝ユエから貰ったぞ」

「俺はさっきアリサとルルから貰ったな」

「俺はメディから」

 

今日はバレンタインデーのため尚文からチョコのことを聞かれたサトゥーたちは隠さずに答える。

ハジメは今朝ユエが起こしたと同時に渡され、サトゥーと真人は4時限目が終わった直後にアリサとルルとメディから貰ったのであった。

どうやら昨日の放課後4人で家庭科室に集まってチョコを作ったようである。

 

「尚文はもうあの2人から貰ったのか?」

「いや、多分ラフタリアとフィーロは用意できなかったらしくて…かなり焦ってたな」

「そうなのか…?」

 

昨日ラフタリアが財布を開けて難しそうな顔をしていたため尚文は今日までにチョコレートを用意しようとしていたが間に合わなさそうだと推測したのであった。

しかし尚文はそんなことでは落ち込まず寧ろ用意しようとしてくれたラフタリアに感謝していた。

 

尚文たちがそれぞれの手札を減らしつつもバレンタインデーの話を続けていった。

 

「けど何でバレンタインデーってチョコレート限定なんだろうな?ホワイトデーはマシュマロとかクッキーが定番なのに…」

「実は好きな人にチョコを送るっていうのはどうやら日本だけらしいんだ」

「なんか聞いたことあるな、確かアメリカだと男から渡すのが普通みたいだぞ」

「そうなのか………待てよ?」

 

ハジメの言葉に尚文が反応し考え込むと何かを閃き手札を机の上に晒して立ち上がった。

 

「そうか…!その手があったか…!」

「どうした…?」

「悪い、少しやることができた。じゃあな」

 

そう言って尚文は放送室から飛び出して何処かへ行ってしまい、サトゥーたちは呆然となって見送るのであった。

 

「どうしたんだ一体…?」

「つーか、アイツ然り気無く上がってやがる…」

「あ、ホントだ…!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「チョコが!欲しい!」

 

その頃、廊下では女子たちと同じくらい気合いが入っている2組のヴァイスとそれを側で見ているケーニッヒとノイマンとグランツがいた。

 

「この世界のチョコは何と言えば良いのか…本当に美味しいのだ!前の世界で食べていたチョコの味を思い出せない程に!」

 

元の世界では戦争が日常茶飯事で繰り広げられまともな食料も手に入らず常にジャガイモなどしか口にできなかった。

そんな状況の中チョコレートなどは凄く貴重なのであるのだが、こっちの世界のチョコレートは比べ物にならない程甘美であり、ヴァイスはすっかり虜になってしまっているのである。

 

「ヴァイス大尉…」

「そして今日は年に一度、女性からチョコレートが支給される日だと言うではないか!?」

「ヴァイス大尉…」

「こんな幸せな日があって良いのだろうか!?」

「ヴァイス大尉!」

「何だ?」

 

バレンタインデーを勘違いし有頂天になっているヴァイスにケーニッヒが何度も呼び掛け、ヴァイスはようやく気がつくのであった。

そんなヴァイスに対してケーニッヒとグランツはバレンタインデーの説明をする。

 

「今日はそう言う日で無いです」

「ん?」

「今日は女性が好意を持ってる相手にチョコレートを贈るという日です」

「ご厚意でチョコレートを貰えるわけだな!最高じゃないか!」

「あ、駄目ですね」

「分かってないな」

「だろ?」

 

『好意』を『厚意』と捉えてしまっているヴァイスにケーニッヒとグランツは呆れてしまう。

 

「だろ?じゃないぞノイマン!お前、ちょっとこの脳内お花畑に説明してやれ!」

「任せとけ!」

 

自信があるのか、ノイマンはケーニッヒに促されヴァイスにバレンタインデーについて説明をする。

 

「ヴァイス大尉」

「ん?」

「そうです!大尉のおっしゃる通り、今日は女性にチョコレートを要求して良い日です!」

「えっ…」

 

マトモな説明をするのかと思いきや、面白がりながら間違った説明をするノイマンにケーニッヒは驚いてしまう。

 

「ただ、ちゃんとその時には礼を尽くてはなりません」

「礼を尽くす、当然の事だな…」

 

ただでチョコレートを貰うなど烏滸がましいと納得したヴァイスは女性に対してどう対応するべきか考え込んでいると、向こうからカズマが歩いて来ていた。

 

それに気がついたノイマンはカズマに声を掛けた。

 

「よぉカズマ!」

「おぉノイマン、どうした?」

「相手からチョコを恵んで欲しい時、お前のいた世界ではどう言ってたんだ?」

「そうだな…」

 

第三者の意見を参考にするべきだと促しならがノイマンはカズマにバレンタインデーの対応を聞くことにした。

カズマはしばらく考えるとヴァイスを見て状況を察し、頭を下げて両手を前に出す体制になると、

 

 

 

「ギブミィー!!チョコォ~!!」

 

 

 

腹の奥から声を出してチョコレートを要求した。

 

「…とまぁこんな感じだな」

「…ギブミー…チョコ…?」

 

カズマの行動にヴァイスは半信半疑になってしまうも、カズマは続けて説明をする。

 

「あぁ。両手を差し出し丁寧に頭を下げて何度も言えばそれはもうチョコなんて貰い放題だ」

「カズマ…!感謝する!」

 

カズマのつけ加えた説明に納得してしまったヴァイスは教えてくれたことに礼を言う。

 

「なーに、礼には及ばないよ。じゃあなぁ~」

 

そう言ってカズマはその場から立ち去って行ったが、顔は明らかに笑いを堪えている表情であった。

 

「……どう考えても嘘ですよ」

「だろ?」

「だろ?じゃねぇぞ。お前ヴァイス大尉が本気なってるじゃねぇか」

 

カズマの説明が明らかに嘘であるとケーニッヒたちは見抜いていたが、ヴァイスだけは真に受けておりにやけた表情になっていた。

 

「ユエとメディはもうチョコを渡したのですか?」

「うん、ハジメ凄く嬉しそうだった」

「お2人はまだチョコを渡していないのですか?」

「放課後に渡す…」

 

すると向こうからユエとナナとミーアとメディの4人が歩いて来た。

 

「あ、4組のナナさんたちがこっちに歩いてきたぞ~」

 

それに気がついたケーニッヒがわざとらしく呟くとヴァイスは即座にユエたちの前に出た。

 

『ん?』

 

いきなり自分たちの前に立ち塞がり身体から炎のようなオーラを出しているヴァイスにユエたちが首を傾げると、

 

「ギブミィー!!チョコォ~!!」

 

カズマが教えてくれたチョコレートの要求をヴァイスが実践してしまい、それを見てユエたちは戸惑ってしまう。

 

「…何をしているのでしょう?」

「さぁ…?」

「ギブミィー…チョコォ…」

 

そんなことなどお構いなしにヴァイスは両手を前に出したまま徐々に近づいていく。

端から見ればいい年をした大人が4人の女性に詰め寄っているという如何にも危険な画が出来上がってしまっている。

 

「ギブミィー……チョコォォォ!!」

 

チョコレートが欲しいあまり混乱状態に陥ってしまったヴァイスはそのままユエたちへ駆け出してしまった。

危険を感じたナナとメディがミーアを後ろへ下がらせると、その前にユエが立ち塞がった。

 

そしてそのままヴァイスに向けて手を翳すと、

 

 

 

「雷龍!!」

 

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!??」

 

 

 

龍を形作った雷系統の魔法を発動させ、それが見事にヴァイスに命中する。

 

「…早く行こ」

「分かりました」

「ミーアさん、あのような人に近づいてはいけませんよ」

「ん…」

 

清々しい顔になっているユエを先頭にナナとミーアとメディは着いて行き、ボロボロになっているヴァイスを素通りして立ち去るのであった。

 

「何故…誰もチョコをくれないのだ…!?」

 

自分はただ純粋に好物であるチョコレートが欲しいだけだというのに誰も渡してくれないことにヴァイスの心は折れかけてしまっている。

 

「………だろ?」

「だろ?じゃねぇぞ!」

「流石にヴァイス大尉が哀れ過ぎて…」

 

仮にも大尉の階級を持つ者がこんな有り様でいいのかとグランツは思わず目頭を抑えてしまう。

 

「どうされたのですか?何か凄い音が聞こえましたけど…」

「あ、ルルさん…」

 

今度は騒ぎを聞きつけたルルが歩いて来た。

ルルはボロボロになっているヴァイスを見つけ固まってしまう。

 

「グランツさん…これは一体…?」

「まぁ、話せば長くなります…」

 

戸惑っているルルにグランツが何があったのか説明しようとした時、ヴァイスがルルの前で膝をついた。

 

「な、なんでしょうか…?」

「ギブ………」

「はい?」

「ギブミー…チョコ………」

 

先程とは打って変わり弱々しくチョコレートを要求したのであった。

流石にそろそろ本当のことを言わねばとケーニッヒがヴァイスに声をかける。

 

「ヴァイス大尉、実はその要求方法は」

「えっと…チョコが欲しいのなら、差し上げますけど…」

『えっ?』

 

ヴァイスに対して未だに状況を把握できていないルルであったが懐から可愛らしい小袋を出して掌の上にそっと置いた。

袋からは甘い香りがしており中にチョコレートが入っているのは明らかであった。

 

「実は昨日作ったチョコが余ってしまして、もしよろしければ……あ、グランツさんたちもどうぞ」

 

人がいいルルは更に3つ同じような小袋を出してケーニッヒとノイマンとグランツに渡した。

突然チョコレートを受け取ったことにケーニッヒたちは呆然となってしまうも我に返りルルに敬礼をした。

 

「ありがとうございます!」

「我々にチョコを渡していただき恐悦至極でございます!」

「大切にいただきます!」

「そんなに畏まらないでください。ほんの気持ちですから…では私はこれで」

 

3人に敬礼されてルルは戸惑いながらも頭を下げて立ち去るのであった。

 

「まさかチョコを貰えるとは…!」

「これは嬉しい想定外だ」

「だな」

 

ルルからチョコレートを貰えたことにケーニッヒたちが盛り上がっている中、ヴァイスは感激のあまりに涙を流し声にならない程喜ぶのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

1組でもバレンタインデーで盛り上がっておりプレアデスの大半のメンバーが買い出しに行っていた。

 

「ふふっ。おじ様のために凄いの用意しちゃった」

 

そんな中、ユキカゼは席に座ったまま机の上にある九内に渡すためのチョコレートを見てニヤニヤと笑ってしまっている。

しかもチョコレートは約1メートルくらいの大きさであった。

 

「アンタまたエライの準備したわね…」

 

ユキカゼが用意したチョコレートを見てミカンは呆れてしまう。

前からユキカゼが九内のことを想っているのは知っていたが、ユキカゼは男のため頭を悩ませている。

 

「当然。このチョコの大きさは私のおじ様に対する愛と同じ。ということはチョコの大きさは愛の大きさと比例する!」

「何その理論?」

 

ユキカゼが頬を赤めてバレンタインについて語りながらもミカンには理解できずにいると、ゼナと雫が歩いて来た。

 

「随分大きなチョコね…!」

「それだけあの魔王先生が好きってことがよく分かるわ」

「アンタたちね…流石にこれはデカすぎでしょ」

 

ユキカゼが用意したチョコレートに感心しているゼナと雫にミカンはツッコミを入れてしまう。

 

「チョコの大きさは愛の大きさと比例するって、そんなこと言うのはコイツしか………」

「?…ミカン、どうしたの………」

「どうしたの2人とも?廊下見て固まって………」

 

ミカンとゼナと雫が廊下を見ると、レムが自分の体より一回りも二回りも大きなチョコレートを運んでおり、3人は言葉を詰まらせてしまう。

 

そのままレムが通りすぎると妄想から戻ったユキカゼが呆然となっているミカンたちに気がつく。

 

「何かあったの?」

「…ごめんユキカゼ。アンタが正しかったわ…」

「?」

 

ミカンの発言にユキカゼは首を傾げてしまうのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

同じ頃、職員室でもバレンタインデーということでチョコレートが男性教師たちに渡されていた。

 

「どうぞ九内先生。義理チョコですけど」

「ありがとうございます愛子先生」

 

愛子が差し出したチョコレートを九内は快く受け取った。

4組の担任と副担任ということで愛子は真っ先に九内にチョコレートを渡したのである。

 

「別に私などにチョコを用意しなくてもよろしかったのに」

「そういうワケにはいきませんよ、九内先生には日頃からお世話になってますから。それにしても随分貰ったみたいですね…」

 

愛子が九内のデスクを見ると、チョコレートがいつくか置いてあり既に数人から受け取っているということを示していた。

デスクに置いてあるチョコレートの数が3つであることに気がついた愛子は九内が誰から受け取ったのか予想した。

 

「もしかして、アクさんとルナさんと悠先生からですか?」

「…よく分かりましたね」

 

今朝出勤した時に悠から少し高級なチョコレート。

先ほどアクとルナが職員室を訪れた時にチョコレートを九内に渡したのであった。

アクは手作りチョコレートでルナは購買部で買ったチョコレートだったが九内は2人に礼を言ったのである。

 

「オイオイ長官、結構チョコ貰ってんじゃねぇか」

「かなりモテるようですね」

 

するとそこへ田原とシラセが話に加わり九内のデスクのチョコの数を見て感心してしまう。

 

「羨ましい限りってもんだ。こっちに真奈美がいれば確実にチョコを貰えたってのによぉ…!」

 

田原は極度のシスコンを拗らせており、最愛の妹がいないことに目頭を抑えてしまう。

 

「そんな田原先生には、私からチョコが用意してあります、とお知らせしまーす」

「私からもありますよ」

 

少し落ち込んでいる田原にシラセと愛子はそれぞれチョコレートを差し出した。

 

「おぉ…!すまねぇなアンタら。そんじゃありがたく受け取るわ」

「そういえば、悠からは貰ったのか?」

 

2人からチョコレートを受け取った田原に九内は悠からチョコを貰ったのかを聞いた。

同じ側近であるため気になっていたのだが田原は深くため息をついてしまう。

 

「………長官、よく考えてみろ。あのマッド女が俺にチョコを渡すと思うか?」

『……………』

 

その発言に誰も口を開くことができなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

そして時間が経過し放課後。

サトゥーとハジメと真人の3人は真々子たちからチョコレートを受け取った。

手作りだったり買ったものだったりと様々であったが真々子たちはとても嬉しそうであった。

 

サトゥーたち3人は教室に集まりそれぞれ貰ったチョコレートを広げていた。

 

「予想はしていたけど、改めて見ると凄い量だな」

「そういう割には嬉しそうだったじゃねぇか」

「母さん以外からチョコを貰う日が来るとはな」

 

「ご主人様ァー!」

 

3人がバレンタインデーについて語っていると扉が勢いよく開かれティオが飛び込んで来た。

 

「どうした?」

「どうした?ではないのじゃ!妾からまだチョコを貰っておらぬじゃろ!」

 

何の心当たりがなさそうにしているハジメにティオは少し怒りながら詰め寄った。

あれから時間が掛かってしまったがティオはようやくチョコレートを作り終えたのであった。

 

「さぁ受けとるがよい!この妾の愛が溢れているチョコを!」

 

高らかに宣言したティオが差し出したチョコレートは真ん中の骸骨らしき顔に無数の手が掴んでいるという形状でかなり不気味であった。

 

「………何だこれ?」

「何を言っておるのじゃ!妾の愛が込もっているじゃろう!」

「愛っていうか、呪いが込もっているような…」

 

苦笑いしているサトゥーが言う通り、明らかに愛ではない何かが込もっているようにしか見えず、真人に至っては絶句している。

 

「妾だけでないぞ!香織とワイズも愛を込めてチョコを作ったのじゃ!」

「白雪も?」

「そういやワイズからまだ貰ってなかったな」

 

ティオが教室を扉を見たと同時に3人も釣られて見るといつの間にか香織とワイズが立っていた。

 

顔を伏せており表情が読めずにいると、

 

 

 

「…ハジメくん、私の愛が、愛が込もっているこのチョコを受け取って…!」

「真人、アンタも受け取りなさい…このアタシが愛を、愛を込めて作ったチョコを…!」

 

 

 

2人揃って顔を上げたのだが、心なしか窶れており目の下には何故かクマができていた。

更に手にはティオと同じような不気味さ溢れるチョコが握られていた。

 

「怖ぇよ!?一体お前ら家庭科室で何してた!?」

「愛の信徒と名乗る者からチョコの作り方を教わっただけじゃ」

「愛の信徒!?」

「誰だよそれ!?」

 

香織とワイズの変わり様を見て放課後の教室にハジメたちのツッコミが響き渡った。

 

こうしてバレンタインデーは幕を閉じたのであった。


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