大丈夫、第一章の内に出そう。
そう、出そうよ。
出すよね……?
20/7/20 後半書き足し
私が生まれた地には古くからの慣習があった。一年に一度、村人は子どもを
私の村は山の中腹にある小さな人口300人ほどの小さな村だった。洋服を着てはいたが、今思えばお洒落とは無縁な村だった。私の村はそれでも死ぬ大人の数と生まれる子供の数が同じくらいの人口が減らない少子高齢化とは無縁の珍しい村だった。今に思えば、そうやって人口管理をしていたのだろう。誰かが死にそうになれば、決められた順番通りに子どもをつくる。そんな計画的な村だった。
私の生まれた村の近くに川が流れている。長い年月をかけて川によって削られた山に向かうため橋がかけられている。山の向こうには神様の住む神社がある。その橋を通れるのは子どもだけ。橋は大人の重さに耐えられない。
とんだ欠陥建築だ。とっとと修理業者を呼べばよかったのに。
一年に一人だけ選ばれた子どもは、その橋を通って天神にお供え物を届けに行く役割を与えられる。ただ、その子どもが帰ってきたことはない。帰ってくるはずがない。お供え物の中には子どもの含まれているのだから。
大人たちは挙って「今年は不作だった」と言っている。幼い私にはその「不作」の意味が分からなかったけれど、大人たちの雰囲気が異様に重苦しく苛立ちを含んでいることはわかった。そんな雰囲気が2か月続いた。そして私の誕生日が来た。何時ものようにみんなお祝いをしてくれるのだろうと思っていた。
ピリピリしていた大人たちの雰囲気が今日に限って穏やかというか活気づいているというか、待ちに待った。そんな感じだったからだ。私はその雰囲気を感じて大人たちの意識がこちらに向いてくれたのだと思った。
でも、それは違った。
いつまでたっても大人たちは私の誕生日を祝う準備をしてくれない。こんな日くらいしか町に降りて買ってきてもらえない洋菓子を楽しみしていたのに、誰もそこのについて話題を上げない。私の言葉などすべて無視して大人たちは祝い事の準備をしていた。
4つ身を着せられた姉は悲しそうに私の頬を撫でた。真っ白な着物を着ている姉は、ハラハラと泣きながら私を抱きしめる姉の異常さを私は幼いながらに悟った。何度も何度も頭の上を行きかう姉の手に、私も同じように姉の頭に手をのせた。
「もっと一緒にいたかったね。」
「ずっといっしょだよ。すぐにあいにいくもん。」
私の言葉に姉は首を横に振った。
「絶対に会いに来ちゃダメ。お姉ちゃんとの約束、守れるでしょう。」
無理やり私の小指を絡めて約束を取り付ける。そして乱暴に私の手を振り、契る。母親が私の肩の上に手を置き、父親が姉の腕を掴む。
「心配しなけていい。お前もいずれは
父は私にそう言った。捧げものにされる少女には決まって
姉はこれから天神に捧げられる。村の大人たちはみんなそうすれば村は救われる、そう言っていた。聞こえはいい。でも、違う。姉が割を食ったのだ。私が生まれたのは大人たちの勝手な都合で子どもが割を食うことが当然な村だった。
私はその天神とやらに一矢報いるために、大人たちについていこうとした。しかし、私は山に連れて行ってもらえなかった。女の子は満7歳まで山に登ってはいけないのだ。天神が怒ってしまうから、と家の中に閉じ込められてしまった。
当時4歳だった私は村の大人たちが持っている小さく松明の光を山の木々からこぼれ、ボッと光っているのをじっと家の窓から見ていた。私の部屋からでは見えないので、もう使われることのなくなった姉の部屋からその様子を見ていた。11月の冬の日、粉雪がサラサラと降る中で、かすかに大人たちの声が聞こえてきた。その声は憤りやら、歓喜やらがごちゃ混ぜになった気色の悪い声だった。そして私自身がその声に中てられていた。
私の姉は天神の供物として捧げられた。
1992年11月15日。この日この時、私は呪詛を吐いた。
翌年、それはそれは豊作だった。村人たちは「今度はきちんと供物が届いた」そう言って喜んでいた。
私は村人も天神もここに在るもの全てを呪いたかった。
それから20年ほどの月日がたった。何時もに比べ早い積雪を全身に浴び、私の人生は今終わろうとしていた。雪のせいだろうか。深くえぐられ、内臓が飛び出しているのに痛みを感じない。
願いをかなえたい子どもたちがいて、その子供たちのために命を懸けた。その結果が、これだった。
結果から言えば、私はもうすぐ死ぬのだろう。でも、目的は達成され、あの子たちはそれぞれの体を持つことは出来ずとも、人として生きていける。
六歳になった芳醇な
ずず、ずずっと雪の中を引きずるような音が頭上の方から聞こえる。真っ青だった空の影が差し、見慣れた呪霊がこちらをのぞき込んでいた。
「
睡意と呼ばれたブクブクと太った2mほどの呪霊は「あ、ぁ」と言って彼が来た方へ指を指した。その呪霊には頭はなく、腹に口があった。気だるげなその言葉に私は嬉しくなった。
「、そう。」
睡意は私の腕を掴み、腹にある口の中に運ぶ。
暗い光のない腹の中に私は滑り落ちていった。
私の人生は、これで終わったのだろう。
お疲れさまでした。