こちらの話だけでも完結はしておりますが、クコとの出会い(前編)も併せて読んで頂けると嬉しいです。
「ご主人、今回の任務はモコウ達の勝利? でも断じて手放しでは喜べない?」
モコウの言う通り、今回の害虫は強く、何人も負傷者を出してしまった。
「団長、クコ、医学知識あり。クコ、治す、皆を」
クコが負傷者の手当てに向かう。私も彼女の手伝いをすることにした。
「あい、手当、終了。薬、処方」
さすが医者と言うべきか、クコは手際良く手当てを終わらせる。彼女のおかげで被害は最小限に留めることができた。
帰還後、窓の外を眺めていると、クコの姿が見えた。
薄暗くなった中庭に座っている彼女の、その金色の長い髪が月明かりに照らされている。しばらく私はその光景に見とれていた。
クコが騎士団に来てから、私の心はどこかにフワフワと浮かんでいるようだった。
彼女の儚げな瞳、そのことばかりを思ってしまう。
勿論、騎士団長として花騎士を気にかけるのは当然のことだ。しかし、彼女にはもっと特別な思いがあるんじゃないか。その思いは果たして許されることなのか、私は悩んでいた。
中庭に降りてクコに声を掛ける。
クコの長い前髪が夜風に揺れ、朱色の瞳がチラチラと見え隠れする。
「・・・団長? クコに用事?」
しかし、話し掛けてから、特に話題がないことに気が付いた。
取り敢えず隣に座っていいかと許可を求めた。
「ん、許可。むしろ、希望。クコ、団長とお話、所望」
クコの隣に腰かけると、涼しい風が二人の間を通り抜けた。
どうだ、騎士団には慣れたか。そんな当たり障りのないことを聞く。
「あい。花騎士、皆優しい。騎士団、居心地、良好」
そうか、それは良かった。
クコが嬉しそうに話すと、つられて私も嬉しくなる。
「でも、問題、一つあり。団長、あなた・・・」
そう言われて動揺した。私に何か至らない点があるのだろうか。
「団長、存在。クコ、お胸、ズキズキ、苦しい・・・」
クコの言葉の意図をどれだけ考えても、結論は一つしか考えられなかった。
つまり、クコも私のことを特別に思っている、ということだ。
「クコ、団長、好き。でも、恐怖・・・あなたといると、クコ、変わっちゃう」
そう言えばクコと初めて会ったときも、彼女は変化を恐れていた。何か理由があるのだろうか。
「・・・今から言うこと、団長、受け入れられる?」
勿論だ、クコが言うことなら私は受け入れる。そう言ってクコの肩に手を置く。その華奢な身体が小さく震えているのが分かった。
「・・・あい」
「クコ、過去の記憶、皆無・・・」
クコがポツリポツリと話し始めた。
「でも、気にしてない。過去、不要。今、大事・・・一番大事・・・」
彼女が語る言葉の一つ一つが、私の胸に突き刺さっていく。過去の記憶が無いということは、一体どれだけ辛いのだろうか。
「団長、悲しそう・・・何故?」
クコが心配して聞いてくる。クコの痛みを想像していたら、自分でも苦痛の表情を浮かべていたらしい。
「・・・やっぱり、団長、優しい。だからこそ、クコ、苦しい・・・」
「クコ、最近、いつも、あなたのこと、思ってる。これ、変化? クコ、変わっちゃった?」
彼女の大切な『今』に私が入ってきたこと、それが『今』を壊してしまうことを彼女は心配しているのだろう。
思わず彼女の小さな身体を抱きしめる。
「んん・・・団長、暖かい。クコ、ポカポカ」
顔まで赤くしながら彼女が囁く。
「団長、もう少し、このまま、希望・・・」
クコが私の胸に顔をうずめる。夜風が彼女の長い髪を撫でると、何故だか懐かしいような匂いを感じた。
朝日が部屋を照らす。その眩しさで私は目覚めた。ふと隣に気配を感じたのでそちらを向くと、クコが寝息を立てていた。
「んん・・・団長・・・?」
・・・そう言えば昨日の夜、眠くなったクコを抱えて執務室に運んできたのだった。
「団長、クコ、運んでくれた? クコ、感謝♪」
彼女が微笑むと、軽く寝癖が付いた髪がフワッと揺れた。
取り敢えず一緒に朝食を摂ることにした。
適当に作っただけだったが、クコは満足してくれたらしい。
思えば誰かと朝食を共にしたのはいつ以来だろう。クコの頬に付いた米粒を取ってあげながら、そんなことを思った。
「団長、漢方、摂取、推奨」
朝食後、クコが漢方を私に差し出してきた。そう言えば彼女には漢方の知識があったのだった。
「疲労回復、効果あり。団長、激務、疲労、蓄積?」
確かに、最近は難しい任務を任されることも増えた。それ自体は嬉しいことだが、身体がついていかなければ元も子もないな。そう思って漢方を口にする。
舌に苦みを感じる。苦しそうな顔をした私を、クコはニコニコと見守っていた。
「団長、クコ、昨日・・・」
クコが俯きがちに囁く。昨晩私に言ったことを気にしているのだろか。
「クコ、団長のこと、好き・・・大好き・・・」
彼女は耳まで真っ赤にしている。頭をそっと撫でると、目を閉じて受け入れてくれた。その様子がまるで小動物のようで可愛らしい。
「えへへ♪ クコ、感激」
そのままクコと一緒にソファーに座ると、彼女は頭を私の肩に預けてきた。昨晩も感じたことだが、彼女の匂いはなんだか優しく、懐かしい。最近会ったばかりなのに不思議だ。
「団長、クコ、不安・・・」
クコは『今』が大事だと言った。だからこそ『今』が変わっていくのが怖いのだろう。その思いは直ぐに変えられるものではない。しかし・・・
しかし、私はクコの傍にいたい。クコがいつか過去も未来も受け入れられるようになるまで。彼女の目を見てそう約束した。
「団長・・・クコ、嬉しい・・・いつか、クコ、全てを受け入れられたら、そうしたら・・・」
クコの口がもごもごと動く。何かを迷っているようだ。
「・・・何でもない」
彼女の愛らしい瞳が私を見つめ返す。言おうとしたことは気になるが、今はそれで充分なのだと思った。
「団長、クコとずっと一緒、約束♪」
そう言って小さな小指を立てて私に見せる。
私も小指を立てて絡ませる。そのままクコの手を握り、今日の任務に向かうのだった。
というわけで、クコとの馴れ初め妄想を2話に渡って書きました。
やっぱり自分はクコが一番好きですね。3話連続で書いてしまいました。
次は他の子にも焦点を当てたいなと思っています。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。