もう9月ですので秋のお話を。
現実では残暑というレベルではない暑さに苦しめられていますがね。
うだるような暑さは和らぎ、最近は過ごしやすくなってきた。強者揃いの我が騎士団も暑さには苦しめられてきたが、もうそんな心配は無いだろう、そう思って騎士団の庭を散歩していると、うんうん唸っている少女を見つけた。
「う~ん・・・この先はどうすれば・・・」
紫色の三つ編みに、ウエスタン風の服装をした少女、リシアンサスだ。
「あ、団長さん! 何してるのかって? 今書いてる絵本の展開を考えてるんですよ。良かったら団長さんも手伝ってくれませんか?」
リシアンサスは絵本が好きが高じて、自分でも絵本を書くようになった。しかし、彼女の書く絵本は悲しい展開のない、ハッピーだけを詰め込んだものだ。
以前は子供の読者からそれを非難されていたものだが、最近はどうなのだろうか。
「最近ですか? まあ、手厳しい意見は未だにありますが、『面白かった』、『元気を貰った』って感想も貰えてますし、それにお便りの数が増えたのが何より嬉しいです!」
元気いっぱいにそう答えるリシアンサスの書いた絵本なのだから、きっと子供たちにも元気を与えられているのだろうと思った。
「そして今書いてるのは『秋』を題材にした絵本なんですよ! ほらこんな感じで紅葉とかおいしい食べ物とかがたくさん出て来るんです」
リシアンサスが書きかけの絵本を見せて来る。
ふむ、お姫様が秋の世界を冒険するファンタジーか・・・紅葉が色鮮やかだし、絵本映えするテーマではないかと思う。
「ですよねですよね。夏って楽しいことがいっぱいあるじゃないですか。海水浴や潮干狩り、花火に夏祭り! 私、夏って大好きなんです。でも秋にだって色々楽しいことがあるし、夏を懐かしがってばかりいては勿体ないなと思うんです。そんなことを皆に伝えたくて」
なるほど、それは確かに前向きなリシアンサスらしい題材だ。私にできることがあるのなら協力しよう。
「ありがとうございます、団長さん!」
彼女がニコッと笑うと、可愛らしい八重歯がちらりと見えた。
しかし私は一体何をすればいいのだろう。
「団長さんには、私と一緒に秋らしいことを探して欲しいんです」
秋らしいことか・・・
「もう夏は終わりましたけど、紅葉には少し早いし・・・イメージが湧きにくいというか・・・」
なるほど、では一緒に秋らしいことを見つけようか。
「はいっ!」
とは言えすぐに思い付くことがなかったので、取り敢えずリシアンサスの部屋に招かれた。
「いらっしゃい団長さん! さあどうぞ、今お茶もいれますから」
テキパキと私をもてなす彼女だが、その顔はうっすら赤らんでいる。
「へ? あ~これですか? 団長さんとずっとおしゃべりできると思うと興奮しちゃって・・・」
リシアンサスはその花言葉『良い語らい』が示す通り、とてもおしゃべりが好きな花騎士だ。
「えへへ、誰かとおしゃべりをすると、それだけで楽しくなって何時間も話しちゃうんですよね。その中でも、団長さんとのおしゃべりは特別楽しいです」
嬉しいことを言ってくれる。私もリシアンサスとのおしゃべりは好きだ。そう返す。
「す、好きっ!? それはその・・・すっごく嬉しいです・・・」
珍しく俯きがちになって照れているようだ。
リシアンサスの部屋には本が多い。特に絵本がたくさん置いてある。
「ここにあるのは、子供の頃から大好きな絵本ばかりなんですよ」
「絵本って元気をくれたり、楽しい気分になったりするから凄く好きなんです! 例えばこれなんて、私が花騎士になったばかりで不安だった時に、とっても元気付けてくれたんです。特に終盤の展開が」
リシアンサスは話し出すと止まらなくなってしまう。
しかしこのままでは絵本製作も滞ってしまう、そう思って彼女を静止した。
「ハッ! そうでした、絵本の題材探しですね」
まあ、まずは読書の秋といったところか。
「そう、私はそれを言いたかったんです! というわけで団長さん、一緒に読書しましょう!」
絶対今思い付いただけだと思うが・・・
さすがのリシアンサスも本を読んでいれば大人しくなるだろう。そう思ったが、私の見立ては甘かった。
「あ、そのページ、特にお気に入りなんです。こことか良くないですか?」
「それを初めて読んだのは確か騎士学校時代で・・・」
「あ、その本も良いですよ! 私はこのキャラがお気に入りで・・・」
あの、少し大人しくしてもらえないだろうか。
「あ~ごめんなさい。好きなことになるとつい・・・気を付けます」
そして二人で読みかけの本に目を落とす。リシアンサスとは、話していても楽しいが、黙っているのも案外良いものだなと思う。
ふと彼女の方を見る。寝転がって脚をパタパタさせているのが何とも愛らしい。
「団長さん、そろそろお腹減ってきません?」
そう言えばまだ昼食を摂っていなかった。これは食欲の秋だろうか。
「おお、秋ってそれら中に転がってるんですね。気づきませんでした。それじゃ私ホットドッグ作ってきますね」
ホットドッグはあまり秋らしくはないが。
「えへへ、まあいいじゃないですか」
二人でホットドッグを頬張る。さすがのリシアンサスも食べている時は静かだ。そのちょこんと飛び出た八重歯がパンにかぶりつく様が可愛らしい。
「団長さん、口にケチャップ付いてますよ。え、私も?」
互いに口元のケチャップを拭い合う。
「えへへ・・・ありがとうございます、団長さん・・・あっ!」
リシアンサスは何かを思い付いたようだった。
「絵本の展開ですよ。忘れない内に書かなくちゃ!」
そう言ってせっせと絵本を書き始める。そんな彼女を見ていると私も元気を貰える。まるで彼女の絵本の読者のように。
彼女が作業を終えた頃、窓の外は薄暗くなっていた。
「ふぅ~・・・大筋は出来た・・・あとは細かい所を仕上げて・・・ってすみません団長さん! 何もおもてなしできなくて」
いや、リシアンサスの一生懸命な姿を見ているだけで楽しかった。
「ホントですか? えへへ、そう言われると何だか嬉しいです!」
リシアンサスと共に夜の庭を散歩する。ついこの間まで熱帯夜で苦しんでいたのが嘘のように、今宵の風は涼しく吹き抜けている。
「団長さん、今日はありがとうございました。おかげで絵本が完成しました!」
別に私は何もしていなかったと思うが。
「いえ、私の書く絵本ってハッピーな展開ばかりじゃないですか? だから私自身ハッピーな気持ちじゃないと書けないんです。団長さんと一緒だと私、凄くハッピーになるから・・・だから今日も書けたんだと思うんです」
そうか、役に立ったなら良かった。しかし、私もリシアンサスと一緒にいるとハッピーになる。だからお互い様だ、そう伝える。
「団長さん・・・好きです、団長さん・・・」
そう言って彼女は頭を私の肩に預ける。涼しい夜風に紫色の三つ編みが揺れていた。
「あ、団長さんと一緒に見る夜景、凄く素敵です。まるで芸術ですね・・・芸術の秋、ですかね」
リシアンサスの頭をポンと撫でる。遠くから聞こえる虫の音に、秋の足音を感じた。
というわけでリシアンサスちゃん回でした。
元気で明るくて優しい、そして寝室ではいじらしい彼女に私のハートは撃ち抜かれまして、最近副団長にして愛でています。八重歯フェチでもありますし。
めちゃくちゃ可愛いので皆様も是非、愛でてあげて下さい。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。