しかしお月見って現実でしたことがないので、何をすればいいのかいまいち分かりませんでした・・・
取り敢えず、団長はクコと居られればそれで楽しいんでしょうけどね。
「団長、今日の夜、予定あり? なければクコ、団長と一緒、希望」
クコにそう誘われた。特に予定はなかったので、今晩はクコと二人で過ごすことにした。場所は私の部屋でいいだろうか。
「団長の部屋、う~ん・・・少し、遠出、所望」
どこか行きたい所でもあるのだろうか。では今晩はクコに任せることにしよう。
「あい♪ クコ、デート、任された」
虫の声が聞こえる夕闇の中、クコと城門前で待ち合わせをした。しばらくすると大きなリュックを背負ったクコがやって来た。
「団長、お待たせ。デート、遠出、クコ、ワクワク」
許可は取ってきたので今晩はどこへ行っても良いことになっているが、一体どこへ行くつもりだろうか。
「んん・・・秘密。クコ、案内する」
砂利だらけの山道をヒョイと軽々歩くクコ。さすが花騎士だ。
「団長、疲労? 漢方、飲む?」
こちらも騎士団長だ、問題はない。しかし漢方は貰っておこう。
「団長、こっち、こっち」
振り返ってこちらを手招きするクコ。結構歩いたはずだが、随分と元気だな。こちらはかなり身体に堪えているというのに・・・
二人でやってきたのは広い草原だった。周りには人は誰もおらず、生い茂った草が風にゆらゆら揺らめいている。
今晩の風は肌に冷たく吹いてくる。二人分の上着を持ってきて良かった。
「団長、ここ、座る。お月様、綺麗」
成程、お月見をしたかったわけか。もうそんな時期か。
シートを引いてその上に二人で座る。疲れた身体には草の感触も優しく感じた。
ふと空を見上げる。真っ黒い夜の闇に、黄色い満月が浮かんでいる。雲は一つもない、まさにお月見日和だ。
「お月様、大きい、綺麗・・・」
月を見上げるクコの横顔が、薄い月明かりに照らされて、ぼんやりと光っている。
「団長、クコ、お団子、持ってきた。クレソン、作った、お供え、余り」
背負っていた大きなカバンから団子を取り出すと、私の口に近づけて「あーん」と食べさせようとしてくる。
甘い味が口の中に広がる。お返しとばかりにクコに団子を差し出す。
「あ~ん・・・ん、美味♪」
口をもぐもぐ動かしながら微笑むクコが愛おしく感じた。
「風、冷たい。クコ、毛布、所持。団長、一緒にくるまる、推奨」
毛布にくるまったクコが私に手招きをする。お言葉に甘えて一緒に入らせてもらうと、毛布の中はクコの体温で暖かくなっていた。
「ぬくぬく。クコ、満足。団長も、ぬくぬく?」
ああ、とても暖かい。
「ん・・・でも、まだ、顔、冷たい」
クコはそう言うと顔を近づけてくる。そのまま頬同士をくっつけると、夜風に当たった冷たい肌が、どんどん火照っていくのを感じた。
「顔もぬくぬく・・・クコ、団長、体温、共有。クコ、幸福♪」
子供のように無邪気に笑うクコ。その柔らかい頬に手を寄せると、彼女は私の手に頬ずりをしてきた。
クレソンの作った団子を二人で食べながら月を眺める。
特に何か話すわけではないが、二人の体温、空気を共有できるだけで、何だか幸せな気分になってくる。
「お団子、美味。お月見、満足。でも、一つ、不足。団長、何か、理解?」
不足しているものか・・・何だろう。
「えへへ・・・お酒、クコ、持参♪」
おいおい、それは駄目だと言っただろう。
「あぁっ! 団長、お酒、奪取、何故!? クコ、やっぱり、お酒、駄目?」
駄目だ。理由はここでは言えないが・・・
「むぅ~・・・クコ、しょんぼり・・・団長とお酌、不可・・・」
まあ、いずれは酒も一緒に飲めるようになればいいな。取り敢えず今日はジュースにしておこう。
「・・・あい」
しょんぼりとしたクコの肩をポンと叩く。華奢な肩が冷たくなっていたので、しばらく私の手で温めようと思った。
「団長、クコ、眠い・・・」
クコの身体がこっくりこっくりと舟を漕ぎ始める。
しかしこんな所で寝て、風邪をひかないだろうか。
「毛布、団長の身体、ほかほか。問題無し」
医者のクコがそう言っているが、どうにも信用できない。寝るのならちゃんと部屋に帰ってからにしよう。
「んぅ・・・帰る・・・団長の部屋・・・」
やがてすぅすぅと吐息が聞こえ始めた。クコの目は閉じたままで、その小さな腹が呼吸で上下しているだけだった。
・・・仕方がない。クコをおぶって帰ることにしよう。
可愛らしいその頬を突っついてから、帰りの支度を始めた。
薄暗い秋の夜に、クコを背負って歩く。闇の中で虫の声とクコの吐息だけが聞こえる。
「ん・・・団長・・・?」
声がしたので振り返ると、クコが眠たそうな目を擦っていた。
「団長、ごめんなさい。クコ、団長に、迷惑、掛けた」
迷惑なんかじゃないさ。私も騎士団長だ。クコ一人を背負って歩くくらい何てことはない。
「団長、感謝、心から・・・」
クコの赤く染まった頬が月明かりに照らされる。何とも美しいその光景に、しばらく見とれていた。
その後、クコと手を繋いで歩いた。
二人で触れ合っていると、秋の夜風も冷たく感じないから不思議だ。
「団長、来年も、お月見、所望。クコ、今から、楽しみ♪」
幸せそうなクコの顔を見ると、こちらも幸せになってくる。
そっと彼女の唇にキスをする。
抱き合った二人を満月だけが見ていた。
というわけでお月見回でした。
本当にお月見って何する行事なんだろう・・・
私の子供の頃はお月見泥棒とかありましたね。
私はやりませんでしたが・・・
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。