フラワーナイトガール短編妄想集   作:イッチー団長

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何故か思いついてしまったパロディ回。
元ネタはチャップリンですね。
昔好きだったなぁ……。

今回の主役はスキラちゃん。
お気に入りのキャラですが、今まで書いたことがありませんでした。
それとゲスト出演のハツユキソウ、結構出番が多いです。


スキラの「黄金狂時代」

 我々は生きていく中で、もっと富を、もっと豊かになりたいと願う。

 例えばそれが自分の命を賭けたことであったとしても。

 時に狂気的なまでに。

 悲しき哉、それが人間の性なのかもしれない。

 

 

 

「団長、黄金を採掘しに行くわよ!」

 ハイテンションで執務室に入ってきたのはスキラ。ギャンブルが大好きな花騎士だ。

 しかし黄金採掘とは……何とも突飛なことを言い出したものである。

「最近、貴族の間で噂話が流れてるの。ウィンターローズのある雪山には、まだ手の付けられていない金が眠ってるって」

 それで採掘したいというわけか。

 

 しかしスキラの実家は裕福な家庭で、金に困っているわけではないはず。

 そんな危険を冒してまで、金を手に入れる必要はあるのだろうか。

「それは勿論、パルファン・ノッテのためよ! 最近負け続きで……実家にも無心したばっかりだし……金を掘り当てたらお金がいっぱい、ギャンブルもし放題でしょ?」

 それで金に目を付けたわけか。

 しかしそれは手段と目的が入れ替わっていないだろうか。

「うぅ……分かってるわよ。でも止められなくて……それに採掘って当たるか当たらないか、ちょっとギャンブルみたいで面白そうじゃない?」

 駄目だこの子……。

 

「それで、一緒に行ってくれるんでしょ、団長?」

 いや、行かないぞ。カゲツと一緒に行ってくればいいじゃないか。

「カゲツは心配症だから、内緒にしてるの。たくさんの害虫と対峙してきた団長なら、雪山くらい平気でしょ?」

 害虫退治と雪山の探索ではベクトルが違うと思うのだが。

「いいから、いいから! それに団長も最近、お金に困ってるって聞いたわよ?」

 どこからそんな話を……。

 確かに最近は出費が重なっている。

 花騎士たちへのプレゼントやトレーニング器具。それにある筋から手に入る珠玉の写真集。

 だからと言ってそんな危険を冒すわけには……。

「案内人も付けてあるから大丈夫よ。行きましょうったら~」

 そう言って私の腕に抱き付いてくるスキラ。

 長い髪が揺れて、花のような香りが運ばれてきた。

 子供のように無邪気に笑う彼女を見ていると、何だか断りづらくなってきた。

 

 

 

 スキラに付き添う形でウィンターローズを訪れる。

 案内人との待ち合わせの場所へ行くと、よく見知った顔があった。

「案内人のハツユキソウです……って団長さん!?」

 花騎士のハツユキソウ。ウィンターローズ所属の彼女なら雪山を熟知しているだろうし、確かに適任だ。

「スキラさん、団長さんも一緒なら先に言っておいて下さいよ」

「あら、言ってなかったかしら? ごめんごめん」

 

 ところでハツユキソウは何故案内人を承諾したのだろう。

「スキラさん、ウィンターローズの色々な花騎士さんに頼んだらしいんですけど、全部断られて。それで私のところに来たんですよ。あんまり可哀そうで引き受けたんです。決して金の山分けに目がくらんだわけじゃありませんからね!」

 なるほど……。

 

 

 

「うぅ……寒い。お二人とも足元には気を付けて下さいね」

 足元には雪が積もっていて歩きにくいが、ハツユキソウは軽々と歩んでいる。さすがウィンターローズ所属といったところか。

 

「それにしても、今日は天候にも恵まれてますね。もっと吹雪いてる日もあるんですよ」

 今でも大分辛いのに、吹雪まで吹いたら相当厳しいのではないだろうか。

 それにしてもスキラが静かだ。

 後ろを振り返ると、スキラは息を荒げながら大分後方を歩いてきている。

「はぁ……はぁ……二人とも待ってぇ……」

 

 しばらく立ち止まっていると、スキラがやっと追いついてきた。

「何よこれぇ……こんなに歩きにくいの……?」

 どうする、今からでも引き返すか?

「ダメ! 必ず金を掘り当てて帰るわよ」

 

 取り敢えず、雪山に慣れているハツユキソウを先頭に、スキラ、私、熊の順で一列に並んで進むことにした。

 ……?

「どうかしましたか、団長さん?」

 何か違和感を感じたが、気のせいだろう。

 

 

 

「昼間の内に拠点を決めておきましょう。テントは持ってきてますから」

 うむ。取り敢えず風が届きにくい場所を探さないといけないな。

 

 白い息を吐きながら足取り重く進んでいく我々。

 その疲労に拍車をかけるように、風と雪は激しさを増していった。

「ぎゃぁぁぁ! 何よこの風……寒すぎるわよぉ……」

「激しくなってきましたね……この辺りで一旦テントを張りましょう。この天候で歩いていても体力が奪われるだけですから」

 

 風を防げる岩陰にテントを張った。ここでしばらく吹雪をやり過ごすことになりそうだ。

「はい二人とも。きのこスープですよ」

 ありがとうと言ってカップを受け取る。

 温かいスープが胃の中に落とし込まれると、心まで温かくなるように感じた。

「ふぅ……いつになったら黄金は見つかるの……?」

「まだ奥に行かないと。ここら辺は掘った痕がありましたからね」

「えぇ……しんどいわね……」

 

 

 

 そして二日目。

 一度は晴れた空だったが、再び雲行きは怪しくなり……。

「ぎゃぁぁぁ!! また吹雪!?」

 しかも一日目より大分勢力が強い。三人とも吹き飛ばされそうになる。

「二人とも! 取り敢えず岩にしがみついてください!」

 しかし疲労した腕ではそう長く持ちそうにない。

 死を覚悟しながらも、どこかに希望はないかと探る。

 ほとんど見えない視界の中、それはあった。

 木造の小屋のような建物。きっと前に来た探索者が建てたものだろう。

 

「よし、行くわよ団長! ってきゃあっ!」

 強風でバランスを崩したスキラが、思わずハツユキソウのリュックを掴んでしまう。

「ひゃぁぁぁっ! 離してください! 死にたくないですぅ!」

 ハツユキソウも必死にもがいて離れようとする。

 何とかスキラの手を引きはがした彼女だったが、その拍子にリュックを落としてしまった。

「あぁっ! リュックが!」

 しかし、今は気にしている場合ではない。

 一刻も早く小屋へ入らなければ。

 

 

 

 小屋は簡素な作りだったが、しばらく休むのには問題はなさそうだった。

 問題は先程落としたリュックに食料が入っていたことだ。

「どうしましょう……」

 吹雪が止まない限りは引き返すこともできないからな。

「ごめんなさい……もとはと言えば私が雪山探索なんて言い出さなければ……」

 スキラが珍しくしょんぼりとしている。

 悩んでも仕方がない。

 今は身体を休めて、三人とも生還できることだけを考えよう。

 

「小屋の中に食料があれば……なんて考えましたけど、無いですねぇ……」

 簡単な調理器具があるだけだな。きっと保存食は他の探索者が食べてしまったのだろう。

 仕方がない。今日はもう寝て、なるべく腹を減らさないようにしよう。

 

 

 

 時間感覚が分からなくなってきたが、おそらくあれから丸一日は経っただろう。

 吹雪は相変わらず止みそうにない。

「団長……そっち行っていい? 寒くて……」

 スキラがしおらしい。何だか可愛らしいなと思ってしまう。

「す、スキラさんずるいです! 私もそっち行きます」

 吹雪が窓を叩いて、おどろおどろしい音を立てている。

 しかし、三人で身を寄せ合っていると不思議と安心感がある。

 

 

 

 あれからどれくらい経っただろう……。

 既に空腹は限界を迎えそうだ。

「あ”あ”あ”ぁ~……お腹減った……」

 普段の可愛らしい声からは想像も出来ないような声をスキラが発した。

「静かにして下さいよ……お腹減ってるのは私も団長さんも同じなんですからね……」

 何だか空気がギスギスしてきた。

 これはいけないと思っても、何かを言う気力が既に消え失せていた。

 

「……」

 スキラがハツユキソウの顔をじーっと見つめている。

「ど、どうしたんですか?」

「ハツユキソウの肌って、白くて柔らかそうで、お餅みたいで美味しそうよね……」

 そしてハツユキソウの腕にガブリと噛み付く。

「ぎゃぁぁぁっ!! 団長さん、スキラさんが! スキラさんが~!」

 確かに美味しそうだ。

 そう思って私も彼女に噛み付いた。

「いやぁ♡ やめて下さい団長さ~ん♡」

 ……何だか反応が違うのは気のせいだろうか。

 

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 本当にすまなかった……。

「もうっ! 絶対にやらないでくださいよ!」

 珍しく本気で怒るハツユキソウ。

 両腕に噛まれた痕が残っているし、当然と言えば当然だが。

 

「でも他に何か食べるものは……」

 スキラが部屋の中を見回す。

「あっ……」

 彼女の目が一点で止まる。

 そこにあったのは雪山用の靴だった。

 

「取り敢えず煮てみました」

 ハツユキソウが鍋から靴を取り出す。

「にっひっひ! 中々美味しそうじゃない」

 濡れた靴からは湯気が出ている。私も中々美味しそうだと思う。

 

 フォークとナイフで靴を切り分け、三つの皿に置いていく。

「それじゃあ頂きま~す!」

 三人で靴をかじる。

 固い。ビーフジャーキーを思い出す。

 

「歯ごたえが……んぐっ、ごくんっ」

 スキラが一番最初に飲み込んだ。

「ふふっ……中々良い味で……うっ!!」

 口元を抑えたスキラが、突然走り出した。

 向かった先は玄関の先。そこで食べたものを戻した。

「おえぇぇぇ! げほっ! げほっ!」

 そりゃあ靴を食べればそうなる。

 何故誰も気が付かなかったのか。

 空腹と言うものは時に人間の思考を鈍らせるのかも知れない。

 

 

 

「もうっ! 誰よ、靴を食べようなんて言ったのは!」

 君だ。

 

「はぁ……もう……」

「!?」

 ハツユキソウが声にならない声を上げる。

 彼女の視線の先を辿っていくと、大きな茶色い影が見えた。

「どうかしたの、二人とも?」

 固まる二人を見て、スキラがゆっくりと後ろを振り返る。

 彼女のすぐ背後にいたのは熊だった。

「何だ、熊じゃない」

 

「……」

 スキラが再びこちらに向き直る。

 そして小屋の中に入り、無言で扉を閉めた。

 

 数秒後、木製のドアはバリバリと音を立てて脆くも崩れ去った。

「ぎゃあぁぁぁ! 熊ぁぁぁ!」

「来ないで下さい! 私は美味しくないです~!」

 逃げ惑う三人。熊はハツユキソウの方へ向かって行った。

「うぎゃぁぁぁ!! 来ないで~!」

 ハツユキソウは無意識に氷の塊を召喚し、熊を突き刺す。

 血しぶきを上げて、熊はその場に倒れた。

 

「えっ……? は、はは……やりましたよ二人とも!」

 フンっと胸を張ってどや顔をするハツユキソウ。

 しかし、スキラの視線の先には彼女ではなく、死んだ熊の姿があった。

「じゅるり……」

 まさか……。

 

 

 

「ふぅ~……満腹だわ。ご飯を食べられることって、こんなに幸せなことだったのね……」

 うむ。大事なことに気付かされたな。

「あっ、見てください! 吹雪が止んでますよ!」

 窓の外を見ると、空は澄み渡っていた。

「やったわ! 早く戻りましょう!」

 スキラの動きが軽やかになっていく。

 ようやく帰る目処が立ったか……。

 

 

 

「では私はここまでです」

「ええ、ありがとうハツユキソウ」

「でも何か忘れてるような……」

「そうかしら?」

 

「それじゃあ団長、私たちも帰りましょう。疲れたわ……」

 帰ったらゆっくりと休もうじゃないか。

「そうね。少し休んだら、パルファン・ノッテに行って……」

 こんな時にもギャンブルとは、スキラらしいなと笑ってしまう。

「……って、黄金は!?」

 

 

 

 結局何も手に入れることが出来ないまま、騎士団へと帰っていった。

 帰ったその先で、カゲツとナズナにこっぴどく叱られることになるのを、その時の私達はまだ知らない。




と言うわけで、ゴールドラッシュでした。
元ネタ好きな人、ごめんなさい。

今回はドタバタなコメディ寄りだったので、次回は落ち着いた話が書きたいですね。
もう冬ですし、そういう話を書きたいかなと。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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