そんな中でも心だけは温かくありたいものです。
コメディの前回からの落差が凄いですが、今回はしっとりしたお話。
最近急に肌寒くなってきた。
手がかじかんでしまって、書類仕事が碌にできない。
しまっておいた暖房器具を引っ張り出した。
ふと、結露した窓の外を見つめる。
もうすっかり葉が落ちてしまった木の下。そこにクコが佇んでいた。
吐く息が白い。
冷たい手を擦り合わせながら、クコの元へ向かった。
「あ、団長……」
クコもこちらに気付いたようなので、何を見ているのかと尋ねてみる。
「紅葉、散った、寂しい……」
クコが木を見上げる。
その目はどこか虚ろだった。
クコの言う通り、あれだけ美しく色づいていた葉も、今ではほとんど落ちてしまっている。
「あい。秋、終わり。クコ、お胸、ぽっかり、寂しい……」
確かに季節の変わり目は寂しいこともあるが、新しい季節を迎える楽しみがあるじゃないか。
「楽しみ……あい♪ 冬、団長との冬。クコ、楽しみ♪」
ようやく笑ってくれた。
彼女の頭を撫でて、寒いから中に入ろうと言った。
ストーブに二人で手をかざす。
クコの小さな手は赤く霜焼けになってしまっている。
その指先にそっと触れると、クコはこちらを見てはにかんだ。
「えへへ……団長も、指、冷たい。クコと一緒♪」
しかし、以前のクコなら季節の変化を肯定することも無かっただろう。
彼女も変化している。未来に向かって。
「あい。クコ、変化、許容、未来のため」
フロッタン島での出来事がクコを変化させたのかも知れない。
「クコのパパとママ、もう居ない。悲しい……過去、悲しい。でも、未来のため、クコ、受け入れる」
言葉ではそう言っても、クコの小さな身体は震えている。
それはきっと寒さのせいではない。
彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。クコは顔を赤くしてこちらを向いた。
「団長。クコ、過去、受容、理由、分かる?」
クコが過去を受け入れた理由。未来のためか。その未来というのは、きっと……。
「あい。未来、団長との未来」
優しく微笑んだ彼女の頬をそっと撫でる。
クコと私の未来か……。
クコがそのために変化したように、私もまた彼女のために変わる必要があるのかも知れない。
「?」
クコが首を傾げる。その仕草が何とも言えず可愛らしい。
彼女の頭を撫でて、まあそのうち分かるだろうと伝えた。
季節が常に移り替わっていくように、クコと私の関係も変わらずにはいられない。
それが悲しいことなのか否か。誰にも分からないが、少しでも素敵な方向へ向かうため、私は出来ることをやっていこうと思った。
窓の外から光が差した。
布団をめくると、朝の冷たい空気が肌に染み込んでくる。
もう一度布団を被る。
騎士団長という責任のある立場になっても、やはり朝は苦手だ。
特に冬の朝は、自力で起きることが難しい。
「……ちょう。……団長」
耳に微かに届いた声。優しく綺麗な声だった。
「団長、朝、起床、推奨」
……もう少し寝かせてよ、母さん。
「っ!?」
声にならない声が頭上で響いた。
頭の中が覚醒するにつれ、声の主がだんだんと分かってきた。
そして、先程の発言の恥ずかしさに気が付いた。
枕元にはクコがちょこんと座っていた。
顔が赤らんでいる。私も同じだ。
「団長、クコ、お母さん、誤認?」
ね、寝ぼけていたんだ。あまり気にしないでもらえると助かる。
「えへへ……クコ、お母さん。団長の、お母さん」
クコはそう言ってニコニコと笑う。私の話は耳に入っていないようだ。
クコはお母さんになりたいのか。
「あい♪ クコ、ママ、なりたい。あっ、でも……」
そこまで言ってクコは口ごもる。
柔らかい頬は真っ赤に染まり、俯いてしまった。
「クコ、一番、なりたい、団長の……」
それ以上は言わせないように、クコの唇をこちらの唇でふさぐ。
最初は驚いていたクコだったが、やがて私を受け入れてくれた。
ここから先は、いつか私の口から言わせて欲しかった。でなければ、きっと後悔するような気がした。
クコが部屋の暖房を入れてくれたので、何とか布団から出ることができた。
寝間着から制服に着替えるのを、クコはじっと見ている。
「団長、寒いの、苦手?」
苦手だな。寒い日の朝は布団から出たくなくなってしまう。
「えへへ……それじゃあ、クコ、毎朝、団長、起こす」
それは……私としては嬉しいが、クコが大変ではないか。
「大丈夫。クコ、団長のママ。だから平気♪」
出来ればそのことは忘れてもらいたいのだが……。
着替えが終わって、クコと一緒に朝食を摂ることにした。
いくつかの料理はクコが作ってくれた。
「クコ、料理、勉強中、クレソンから」
料理の知識が皆無だったクコが、こんなに美味しい料理を作った。
これも変化だ。とても素敵な変化だ。
「団長、美味しい?」
とても美味しい。そう答えると、クコは髪の毛をしきりに弄って照れ始めた。
「本当? 本当に美味しい?」
本当に美味しい。
それに、クコの作る料理はとても温かくて優しい。きっと私のことを思いながら作ってくれたのだろう。それはどんな技量よりも大事なことだと、私は思う。
「……団長、クコ、歓喜。嬉しい、本当に……」
クコの声が震えている。
彼女を見ていると、私は心の中まで温まるように感じた。
「団長、クコ、明日も、朝ごはん、作る♪」
変わっていくこと、変わってしまうこと。
色々な変化はあるが、クコが隣に居てくれれば、それだけで幸せなのだと思った。
それだけは永久に変わることはない。
だからこそ私はクコに、誓いを立てようと思った。
永久の誓いを、いつか……。
と、何かを匂わせておいて今回のお話は終了です。
このお話ですが、ゲームの方で永久の誓いが実装されたら書こうと思っている結婚のお話の前日談という立ち位置です。
今から少しずつ書いてはいるのですが、中々進みません。
やっぱり一世一代のことですからね、下手なことは書けませんし、自分の思いの丈を出し切らないといけないと思っています。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。