持っていない方は是非復刻回りましょう。可愛いですよ。
太陽の日差しが真上から差し込み、海と砂浜がキラキラと輝いている。名前も知らない木の木陰に座り込んだ。辺りには鳥や虫の声がこだましている。
どうやらこの島には人は一人もいないようだ。都会の喧騒から離れてみるのも、たまにはいいかも知れない。
「団長様~、美味しそうな木の実を取ってきましたよ~」
日光の向こうからエキザカムが駆けてくる。葉っぱで作った服を着て。
……どうしてこうなった。
≪数日前≫
連休を貰ったので、ベッセラの別荘へ遊びに行くことにした。寒いのが苦手な私にとって、バナナオーシャンの暑さはまるで天国のように感じた。
「団長、クルージングに興味はあるかしら?」
ベッセラがそんな提案をする。是非やってみたいと言うと、彼女は自家用のクルーザーを貸してくれた。
「運転はエキザカムに任せるわ。私もご一緒したいのだけど、今日は来客があって……ごめんなさいね」
それは残念だが、また今度一緒に行こうではないか。
「ふふ……そうね」
「ベッセラお嬢様からお任せされましたので、団長様をクルージングの旅にご案内です」
この辺りの地理には詳しくないので、全てエキザカムに任せよう。
「了解しました! 精一杯、団長様を楽しませてみせますよ~」
右手を掲げて「えいえいお~」と自分を鼓舞するエキザカムを、微笑ましく見守る。
寄せては返す波の音。
潮の匂いを感じ、爽やかな気分になる。
「団長様、下をご覧ください」
言われた通りに水面を見下ろす。
透き通った青の中、魚が群れを作って泳いでいる。
「この辺りはお魚がたくさんいますので、釣りを楽しむ人も多いんですよ」
そうなのか。これは釣り人としては見逃せないな。
「……そうですね?」
しかしのどかだ。視界に写るのは青い空と青い海しかない。いつもの忙しさがまるで嘘のように感じる。
「そうですね。団長様はいつもお忙しいですから、こうしてのんびり過ごす日も必要だと思います」
うむ。では今日はゆっくりさせてもらおう。
そう言って寝っ転がった。ギラギラした日差しを体いっぱいに浴びる。
「では、私は団長様が安心して寝られるように、辺りを注意しておきます」
エキザカムもゆっくりすればいいじゃないか。私がそう告げると、彼女は首を横に振った。
「海には危険がいっぱいなんです。大きな魚とか、悪天候とか」
魚はともかく、天気は問題ないのでは?
「いえ、海の天気は変わりやすいのです」
彼女がそう言うと同時に、ポツリポツリと水滴が落ちてきた。
「そうそう、こんな風に」
なるほど、これは確かに注意が必要だな。
……と言ってる場合ではない。雨はどんどん激しくなっていく。これはまずいのではないか。
「風も強くなってきましたね。ちょっと危ないかも知れないです。団長様、念のため救急胴衣を」
そう促されるが、激しい雨風に私の身体が海へ投げ出されそうになる。
「団長様!」
雨音にエキザカムの声も打ち消されていく。彼女を抱き寄せ、必死に踏ん張るが……。
「……ちょう様」
遠くから声が聞こえる。
「団長様!」
ぼやけた視界が、だんだんとはっきりとしてきた。エキザカムが私を呼んでいた。
「良かった……ご無事で良かったです」
涙声のエキザカムが私に抱きつく。彼女の頭を撫で、心配かけてすまないと呟いた。
しかしここはどこなのだろう。
砂浜と森林が見えるので、どこかの島だろうか。
「私も知らない島ですね。人間の気配がしませんし、もしかしたら無人島なのかも」
無人島か……。
取り敢えず打ち上げられたクルーザーを見る。底に穴が開いていて使えそうにはないが、非常食や非常用の道具は無事なのが幸いか。
しかし、自分たちがどこにいるのかも分からないこの状況は、正直絶望的だと言っていいだろう。
「そんなことはありません! 私がメイドとして、団長様を生還させて見せます。頑張れ私、えいえいおー!」
そんな彼女を見ていると、自分も少しだけ元気が貰えたような気がした。
「団長様、服が濡れてしまっているので、乾かしましょう。代わりに葉っぱを集めて服にしてみました」
先にエキザカムがその服?を身にまとう。白い肌の大部分が露出し、正直目のやり場に困る。
「ほら、団長様も脱いでください。風邪を引いてしまいます」
エキザカムが私の服を脱がせようとする。
……こういうのは普通逆なのでは。
「非常食はありますが、体力があるうちに食べ物を集めておいた方がいいですね。私は木の実を探してきます」
では私は魚を獲ってこよう。
木の枝を削ってモリの代わりにする。それを携えて勇ましく海へ向かうのだった。
「おお、団長様かっこいいです。頑張ってくださいね♪」
「ただいま帰りました」
木の実をどっさりと抱え、ニコニコと帰ってきたエキザカム。対照的に、私はどんよりとうなだれている。
「団長様はどうでしたか?」
聞かないでくれ……。
やがて日も沈んできた。辺りは真っ暗闇に包まれる。都会の夜がどんなに明るかったか痛感させられた。
「団長様、木で簡易の住居を作りましたので、こちらにどうぞ。バナナオーシャンでも夜は冷えますから」
木で編み込まれた家の中に入ると、外よりも大分暖かい。これなら夜も越せそうだ。
しかし、エキザカムは何でも出来てすごいな、と素直に感心してしまう。
「えへへ……ベッセラお嬢様に仕えるために、色々学んできましたから」
頬を染めて照れる彼女の頭を撫でた。
「んんっ……おはようございます。朝ですよ、団長様」
おはよう。清々しい朝だが、腰が痛い。柔らかいベッドが恋しくなる。
水平線を見つめる。助けが来るどころか、船が通りかかる気配すらない。
「気長に待ちましょう。ベッセラお嬢様が助けを呼んでくれるはずですから」
「団長様、今日は私が魚を獲ってみます」
エキザカムは武器で使っている槍を構え、勇ましく海へ飛び込んでいった。しかし魚獲りはかなり難しかったし、いくらエキザカムでも易々と成功するとは思えない。
数分後、エキザカムが水面に上がってきた。
「獲れました!」
エキザカムの槍に魚が突き刺さっている。これもう私は要らないのでは……そんなことを考えてしまった。
≪数日後≫
助けが来ない……。
髭をボーボーに生やした私が水面に映っている。ちょっとヒッピーみたいで格好いいなと思ってしまう。ふふふ……。
いや、笑っている場合ではない。このままでは野垂れ死んでしまう……。
「大丈夫ですよ、団長様。ファイトです!」
エキザカムはまだ元気いっぱいだ。底抜けに前向きなところが彼女の長所だし、彼女のためにもできることをしようと思った。
取り敢えず狼煙を上げてみた。これで気付いてくれるかは分からないが。
「きっと気付いてくれますよ」
≪さらに数日後≫
あぁ~、ダメだ。全く助けが来ない。来る気配もない。
「団長様、大丈夫ですよ。気をしっかり持ってください」
そうは言うが、もう打つ手がない。さよなら花騎士たち……。
「諦めないで下さい! 諦めなければきっと助かるはずです」
そう言われても、もう頑張る気力もないのだ。私にできるのは、このまま静かに眠ることだけだ。
砂浜に寝っ転がり、目を閉じる。波音とはこんなにも美しいものだったか。涙が出そうになってくる。
私をこの世から見送るような汽笛の音が遠くから聞こえてきた。ふふ、ついに幻聴まで聞こえるようになるとは。
「!? 団長様、船ですよ! 気付いてもらえるかも知れません」
何だと!?
狼煙を上げて、精一杯の声を出す。どうやら船はこちらに近づいてきているようだ。
「団長様ですね。ベッセラお嬢様がお探しです。さあ、帰りましょう」
船から落ちてきたのはベッセラの執事だった。やはり彼女が探してくれていたのか。
「団長様っ!?」
ふっと力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。今まで生きてきて、ここまで安心したことはない。
「まったく、エキザカム。あなたが付いていながら……」
口ではそう言うが、ベッセラは決して怒っているわけではなく、どこか安心した表情をしていた。
「うぅ……申し訳ないです……」
あまりエキザカムを責めないでやってくれ。彼女がいなければ私は死んでいたのだから。
「ふふ、まあ過ぎたことを責めてもどうしようもないものね。二人とも、今日はゆっくりと休みなさい」
ベッセラの笑顔を見て、私も安心した。生きて帰ることができたのだし、結果オーライというやつだろう。
髭もじゃの顔をエキザカム見せ、二人で笑い合うのだった。
しかし今回の話、団長がダメ人間過ぎる……エキザカム回では毎回か(笑)
さて、次はクリスマス回です。
クコを書く予定でしたが、コンボルちゃんのクリスマスボイスを聞いて、彼女も書きたくなりまして。
それならどっちも書けばいいかという結論に至りました。ちょっと忙しくなりますが……。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。