あの舌足らずな喋り方が可愛いですよね。
「おっ、団長~! 明けましておめでとう。今年も宜しくね」
今年最初の出勤に来たのだが、綺麗な着物を着た美少女に声をかけられてしまった。向こうはこちらを知っているようだが、一体誰だろう。
「あ、あれっ? どうしたのそんなキョトンとした顔して」
この声、舌足らずな喋り方。そしてパッチリとした青い瞳。……コマチソウか。
「分からなかったの? うわ~、信じらんない~」
あまりにも雰囲気が違い過ぎて分からなかったのだ。すまないと頭を下げて謝る。
「なんてね。あたしだって鏡見て『誰これ!?』って思ったもん」
本当に見違えたようだ。桃色を基調にした着物がよく似合っている。
「えへへ……団長はこういうの好きかなって思って」
コマチソウの頬が着物と同じ桃色に染まる。そのまま小さな手を広げて抱きついてきた。
「それにしても暇だね~。害虫もお正月休みなのかな?」
膝の上に乗ったコマチソウが、脚をパタパタさせながらぼやく。
休みではないだろうが、寒いから活動が鈍くなっているのかも知れない。
「そっか。早く新しい害虫バラしたいな」
可愛らしい顔で物騒なことを言っている。
コマチソウは害虫のパーツを集めるのが好きな花騎士だ。彼女の作った標本を何度も見せて貰ったが、確かに女の子の趣味としては少々変わっているかも知れない。しかし、標本を見せる彼女の顔はキラキラと宝石のように輝いている。その顔が見たくて、新作の標本が出来る度に見せて貰っているのだった。
「年末年始だらだらしちゃってさ~、ちょっと太っちゃったんだよね。だから運動しよ? はいこれ」
コマチソウが手渡してきたのは羽子板。どうやら羽根突きをしたいようだ。しかし今は勤務中だし、遊ぶわけには……。
「え~、いいでしょ~。どうせ今日は暇だよ」
コマチソウが駄々をこね始めたその時、一本の連絡が入った。
「何々、今年最初のお仕事?」
興味津々で尋ねて来るコマチソウ。彼女の頭をポンと押さえながら、任務の支度を始めた。
「害虫はどこだ~!?」
コマチソウは着物のまま任務にやってきた。我が団には明らかに戦闘用ではない格好で戦う花騎士も多いので、最近はもう気にならなくなってきた。
ブロッサムヒル市街地。ここで何人かの少年少女が害虫に襲われたらしいが……。
「おっ、被害者発見!」
そこには顔中墨だらけで泣いている子供たちがいた。
彼らの話によれば、羽根突きで遊んでいる最中に害虫に襲われたらしい。
「なるほど、羽根突きが好きな害虫なのかもね。だから今の時期に出てきたのかも」
しかしそんな害虫がいるだろうか。
「害虫もきっと暇なんだよ。だからあたしたちが羽根突きしてたら、混ざりにくるかも」
そう上手くいくとは思えなかったが、ここは害虫捕獲のプロに任せることにした。
「行くよ団長、そ~れ!」
打ち上げられた羽根が冷たい風にひらひらと揺れる。羽根突きなんて久しぶりなので感覚が分からない。思いっきり空振りすると、コマチソウはそれを見てけらけらと笑った。
「団長下手くそ~。取り敢えずあたしの一勝ね」
墨で顔に落書きをされる。そう言えばこういうルールもあったな。
「よ~し、どんどん行くよ~」
コマチソウが構えたその時、木陰から蝶の害虫が飛び出してきた。
「アケオメェェェ!」
「うわっ、出た!」
まさか本当に出て来るとは……。
それ以上に驚いたのが害虫の格好だ。着物のようなものを羽織り、手には羽子板を持っている。そんな和風な格好なのに何故か頭はど派手な金髪のトルネードというアンバランスさが、この害虫を一際目立たせている。
「う~ん、この害虫、『チョウチョウフジン』っていうのに似てるな~。でもあいつは羽子板じゃなくてラケットだし、もしかしたら新種かもっ!」
コマチソウが目を輝かせている。
「団長、この害虫捕獲しよ!? あれの仲間なら羽根突き対決で勝てば意気消沈して、簡単に捕まえられるはずだから」
害虫と羽根突き勝負とは……危険ではないだろうか。
「大丈夫。あいつらスポーツマン精神があるし、対戦中は人に危害加えないから」
コマチソウのテンションを見ると断りづらく、結局害虫と羽根突き対決をすることになった。
「よ~し、勝負だ害虫!」
「ヨクッテヨ」
羽根の打ち合いが始まる。コマチソウもさすが花騎士だけあって、身体能力もかなりのものだ。しかし……。
「うわっ、飛ぶのは卑怯だって!」
高く打ち上げた羽根を害虫が上空から打ち落とす。角度の付いた羽根を打ち返すことができず、地面に落ちてしまった。
「あぁ~、負けちゃったよ~」
悔しがるコマチソウに害虫がじりじりと近づいてくる。
「な、何するの!? やめろぉー!」
「うぅ……墨だらけ……」
どうやらこの害虫は負けた者の顔に墨で落書きしてくるようだ。コマチソウも私も既に10回ずつ負けてしまい、顔中墨だらけにされてしまった。
「ぷっ……団長の顔、面白いことになってるよ」
笑っている場合ではない。このまま害虫を放っておくことは出来ないし、何とか勝たなくては……。
「そうだね~。勝たないと脚とか羽とか貰えないし」
採集する気満々だな……。
「お困りのようね、団長」
その声は!
「ここは私に任せなさい」
赤いトルネードが眩しく光る。花騎士のベッセラだ。
「要はテニスでしょう? 私も幼い頃からやってきたし、害虫なんかに負けることはないわ」
自信満々のベッセラ。非常に頼もしい。
「私も応援します。頑張って下さい、お嬢様」
エキザカムの応援を背に、ベッセラが害虫の前に陣取る。
「さぁ勝負よ、害虫! 優雅に勝ってみせるわ!」
「キナサイ」
「うぅ……墨だらけ……こんなの全然優雅じゃないわ……」
「お嬢様、今すぐお拭きします」
駄目だったか。まぁ、テニスと羽根突きでは大分勝手が違うし、仕方ないか。
しかし本当にどうすればいいのだろう。勝てるビジョンが見えないぞ。
「もうこれは罠を仕掛けるしかないね」
しかしそれはスポーツマンシップに反するのではないか。
「そんなのどうでもいいの! 勝てばいいんだよ、勝てば。勝てば害虫バラせるんだし」
「というわけで、これが特殊加工された羽根です。目の錯覚を利用して、羽根の動きがブレて見えます」
何でそんなものを……。というか、それを使ったら我々もやりづらいんじゃないか。
「団長に勝つために持ってきたんだよ。まさか害虫相手に使うとは思ってなかったけど。それに、この専用眼鏡をかければ普通の動きに見えるから」
……取り敢えず使ってみよう。
「いくぞ、害虫!」
「イクワヨ」
コマチソウのサーブが高く打ち上がる。打ち返そうとする害虫だったが、
「ナンデ!?」
思いっきり空振りした。
その後も何度も対戦したが、一向に打ち返してくる気配がない。
コマチソウのスマッシュが決まった瞬間、害虫はがっくりと膝?を折った。
「モエツキタ……マッシロニ……」
「やったぁ、あたしの勝ち~!」
ここまで来ると害虫が少し哀れになってくる。しかし当のコマチソウは全く気にせず勝ち誇っている。
「それじゃ、パーツ獲らせて貰うね」
ブチッと音を立てて害虫の手足が外れていく。
「アァー!」
害虫の断末魔が響く中、コマチソウの可愛らしい笑顔がきらめいていた。
「ふぅ~、今日は疲れた~」
コマチソウは執務室に戻ると、ぐでーっとソファーに寝そべった。だらしなく乱れた着物に、私は目のやり場に困ってしまう。
「あたしも団長も墨だらけだし、もう散々だよ~」
そう言いながら、「抱きしめて」と言わんばかりに両手を広げて来る。期待通りにその小さな身体を抱くと、コマチソウは耳元で囁き始める。
「だからさ、一緒にお風呂入ろ? いいでしょ?」
その甘い囁きに、思わずお姫様抱っこをしてしまった。どうやら私は彼女の罠にかかってしまったようだ。
今回のコマチソウ、ちょっと鬼畜過ぎたかな……?
本当はもっと純真で可愛い子です。今後はそういう所も書きたいですねぇ。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。