今回は久々にイエローパンジーのお話。
いいですよね、アホの子可愛くて。
寒い……寒すぎる。私はどうしてこんなに寒い季節にウィンターローズに来ているのだろう。
「出張だからだろう? 団長、忘れちゃったの?」
イエローパンジーにツッコまれる。いや、忘れたわけではないが……。
一カ月後、ウィンターローズの騎士団との合同作戦が行われる。今日はその下調べのために出張に来たのだった。地元民がいた方がいいだろうということで、イエローパンジーを連れて。
「今日は良い調査と話し合いが出来ました。それでは、作戦の日を楽しみにしております」
現地の騎士団長と握手を交わし、その日の調査は終わった。
「ごめんな、団長。作戦会議では全く役に立てなくて。あたし、考えるのは得意じゃなくてさ~」
手を頭の後ろに回しながら「えへへ……」とはにかむイエローパンジー。
そもそもそれは私の職務だし、イエローパンジーはイエローパンジーなりの職務を果たせばいいのだと言っておく。
「あたしの職務……取り敢えず今は団長に道案内をすることだな」
ウィンターローズにはほとんど来たことが無いので、帰り道も何も分からない。取り敢えず今晩泊るホテルまでの道を教えて欲しい。
「よしっ! それじゃ頑張るぞ! 団長、あたしについて来て!」
手をぐっと握って気合を入れる彼女がとても頼もしく感じた。
「あれ? ここをこう行って……こっちじゃなかったっけ?」
かれこれ1時間は彷徨っている気がする。辺りも暗くなってきたし、そろそろ着いてもいいと思うのだが、もしかして迷ったのか。
「そ、そんなことっ! ほら、ネオン街には入ったし、もうちょっとだよ」
本当だろうか。まあ確かに地図を見るとこの近くではあるらしい。
「……あった。着いたぁ~」
ホテルの名前を何度も確認し、ホッと胸を撫で下ろす。
「どうだ、団長。ちょっと迷っちゃったけど、ちゃんと着いただろ?」
やはり途中で迷っていたのか。
「あっ! ま、まぁいいだろ、結果オーライってやつ?」
彼女の能天気さに笑うと、彼女もつられて笑顔になる。キンと冷えた空気の中に暖かいものが混じった。
……と、そんなことをしている場合ではない。ずっと極寒の中を彷徨っていたのだ、早くホテルに入らねば凍死してしまう。
「凍死なんて大げさだな、団長は」
いや、笑い話ではなく。というかイエローパンジーは何故普段着なのに平気そうなんだ。私は念入りに厚着して、それでも寒いのに。
「おっ、いい部屋! 団長、見てみて! 景色が綺麗だよ」
部屋に入るや否や、イエローパンジーは窓際まで駆けていった。相変わらずの元気さだなと苦笑し、私もその後へ続いた。
大きな窓からは街が見下ろせる。夜の闇を照らしている色鮮やかなネオンが美しい。
「結構高いんだな。人があんなに小さく見える」
嬉しそうに私に笑いかけるイエローパンジー。その愛くるしさに、私も冷たくなった頬を緩ませた。
「それにしても、綺麗な夜景が見えるホテルに二人で泊まるとか、これはもうデートだな」
言われてみればそうかも知れない。二人で同じ部屋に泊まった方が安かったのでそうしたのだが、嫌ではなかったか。
「嫌なわけない。だってあたしと団長の仲だぞ、同じ部屋に泊まるくらい普通だって」
そう言って腕を絡ませて、上目遣いで私を見つめてくる。
「あっ、でも姉と妹にはからかわれるかも。その時には一緒に言い訳考えてくれよな」
「それにしても、歩き回ったらお腹減っちゃったよ。夕食まで時間あるし、何か食べたいな」
歩き回ったのは誰のせいだ、という言葉を胸の奥に押し込める。
下の階には軽食をとれる店があるらしい。何か食べたいものはあるか。
「うーん、こういう寒い日はやっぱりアイスだな。アイスが食べたい!」
何故だ。せっかく部屋で暖まれたのに、何故また冷える必要があるのだ。
「団長知らないの? 寒い日に食べるアイスは最高なんだぞ」
知るか。知るわけないだろう。
結局イエローパンジーの熱意に負け、アイスを食べることになった。何故か専門店もあることだし。ウィンターローズにアイス専門店は必要なのだろうか……。
「おぉ、フレーバーが色々ある!」
やたらとはしゃぐイエローパンジー。
それにしても、やたらと繁盛しているのが気になる。もしかしてイエローパンジーと同じ価値観の人が多いのだろうか。
「あたしは王道のバニラにしたぞ。そこに苺のシロップをたっぷりかけて……ほら美味しそう」
確かに美味しそうではある。しかし出来れば暑い日に出会いたかった……。
「あぁ、確かに暑い日でもアイスは美味しいよね」
「あれ、団長スプーンが進んでないぞ。食欲ないの?」
そういうわけではないのだが……。
「それともあたしに食べさせて貰いたいとか? まったく仕方ないなぁ……ほら、あ~ん」
私の口にスプーンが近づいてくる。そのスプーンを持つ彼女の頬は苺のシロップにも負けないくらい赤く染まっていた。
「……どう、美味しい?」
口の中で冷たいアイスクリームが溶けていく。これは美味しい。バニラの上品な甘さと苺の酸味が調和し、絶妙な味を奏でている。
「おぉ。あたしもそんな感想言いたい!」
それではお返しに私から食べさせてあげよう。そう言ってスプーンをイエローパンジーに差し出す。
「えっ!? あ、あ~ん……」
耳まで真っ赤にしながらアイスを頬張っているのが可愛らしい。
「んぅ……これ、思ったより恥ずかしいんだな……」
恥ずかしさでいつの間にか二人の身体は暖まっていた。
夕食を食べ、風呂にも入ったし、あとは寝るだけか。
そう思っているとイエローパンジーが部屋に入ってきた。いつもの二つ結びを解いた長い髪からは湯気が上がっている。
「団長、お風呂あがったぞ~。さて、何する!?」
もう寝るぞ。明日も早いのだし。
「えぇ~、遊ぼうよ~」
子供のように駄々をこねている。そんな彼女も可愛いが、この寒い夜では遊ぶ気にもなれない。早く布団をかぶって寝てしまった方がいいだろう。
「う~ん、団長がそう言うなら……」
電気を消し真っ暗になった部屋。夜の冷たい空気がすぐそこまで這い寄ってきているのを感じる。
……いや、それだけではない。何か物音が……。
「よっ、団長」
布団の中を見るとイエローパンジーの顔があった。
「ぷはっ! 団長が寒いかな~と思って来たよ。一緒に寝よう?」
いや、出張先だしさすがにそれは……。
「固いこと言うなって。ほら、こうやってぎゅっとしてれば寒くないでしょ?」
彼女の細く白い腕が私の背中に回る。
鼻の先に感じるシャンプーの匂い。控えめだが確かに膨らんだ、柔らかな一部分の感覚。
「うわっ。団長、心臓バクバクだ。って、あたしもか……」
虫や鳥の声すら聞こえない静かなホテルの一室。その中だからこそ、二人の心臓音は余計に響く。
永遠のような沈黙の後、私から口を開き、彼女の服に手をかけた。その時、
「すぅ……すぅ……」
その吐息を聞き、ハッと彼女の顔を見る。穏やかな寝顔がそこにはあった。
「んぅ~、よく寝た~! おはよう、団長」
……おはよう、イエローパンジー。
「ん、どうしたんだ? 目の下にクマが出来てるぞ」
昨日あまり眠れなくてな……。
「あはは。もしかして団長って、枕が変わると眠れないタイプ」
……そういうことにしてくれ。
結局昨晩は一睡も出来なかった。眠い目を擦りながらイエローパンジーを見る。
「どうした、団長? ……もう、そんなに見ないでよ。団長ったら、あたしのこと好き過ぎだろ」
その柔らかい笑顔に昨晩の温もりを思い出す。
今日は、昨日よりは暖かく過ごせるんじゃないかと、何の根拠もなくそう思った。
いやぁ、今回は本当に難産でした。
皆さまに見せられないようなつまらない話を書いては消し、書いては消し……。
しかし何でもないきっかけからイエローパンジーのお話を書こうと思って、そこからは早々と書けました。
ありがとう、イエローパンジー。
やっぱり楽しい話は自分でも楽しい気分じゃないと書けないなって思いました。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。