フラワーナイトガール短編妄想集   作:イッチー団長

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ようやく後編も完成。これにて海賊島のお話は完結です。

初めて1万文字を超えました……中々疲れますね。
書いてるうちに自分でも収集つかなくなってきたのを感じました。
でもそんな大味なところも楽しんで頂ければ。


海賊島の謎を追え(後編)

 あの『海賊島』での戦いの後、港付近での戦闘はますます激しさを増していった。

 もはやこれはヨーテホルクだけの問題ではない。ブロッサムヒルの全戦力を結集させこれを制圧せよ、という命令が下された。

 

 我々の騎士団は島に乗り込んで戦う前線部隊に任命された。勿論戦力を評価されたので光栄なことではあるが、正直複雑な思いがあった。島で戦った海賊害虫、あれと戦うのなら犠牲が出る可能性もある。花騎士たちは皆大切な存在だ。誰一人失いたくない。しかし確実に勝利を手にするためには……。

 

「団長、元気、無い。病気? 薬、飲む?」

 いつの間にか目の前にいたクコが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 大丈夫だ、病気ではない。ただ今後の決戦のことで悩んでいてな。

 

「団長、心配無用。クコ、守る。皆、団長も、必ず」

 クコの小さな身体が今日はやけに大きく見える。そこでハッと気付く。私は恐れているだけなのだと。海賊害虫のあまりの強さに戦意を失っているだけなのだと。

 しかしクコはあの害虫と戦ってもなお自信を失くすことはない。また一つクコに教えられてしまったか。

 

「団長、戦う、一緒に」

 そう言って小指同士を絡ませて約束した。

 

 

 

 騎士団では、あの海賊害虫を倒すための準備が急ピッチで進められていた。

 

「この毒と……この爆薬も持ってこう。ふふ、楽しみだなぁ」

 これから決戦だというのに、コマチソウは随分と楽しそうだな。

「あっ、団長。当然でしょ、あんな強くて珍しい害虫、中々お目にかかれないからね」

 動機はともかくポジティブなのは良いことだ。

 

「まぁでもあたしも怖くないと言ったら嘘になるけどね。だから準備は入念にするの。団長にも、はいこれ」

 手渡されたのは……普通の短剣のようだが。

「おっと、あんまり触らないでね。毒が塗ってあるから。いざと言う時の護身用に持ってて」

 そういうことならありがたく頂いておこう。

 

 

 

「団長、ポーチュラカ帰還したんだよ。長い期間逢えなくて寂しかったんだよ」

 遠征に出ていたポーチュラカの部隊が帰還した。勿論彼女たちにも今回の作戦に参加してもらう。持てる戦力の全てを出し切らなければ戦いに勝つことはできないだろう。

 

「噂は聞いたんだよ。強力な害虫を倒すため、皆で協力するんだよ!」

 ポーチュラカのいつものダジャレにも、今日は何だか癒されるようだった。

 

 

 

「団長さん、見て見て! ベルガモットバレーの技術者さんに頼んで、船にバリアを貼れるようにしてもらったんだ」

「これで海上の害虫とは戦わずに海賊島に辿り着ける?」

 

 

 そして迎えた作戦当日。

「では手筈通りに? ポーチュラカとイキシアの部隊が他の騎士団と共に先行して雑魚敵を殲滅、モコウ達はボスの海賊害虫に集中するです?」

 クコ、コマチソウ、コンボルブルスがこくりと頷き、船に乗り込む。

 

「よ~し野郎ども! だんちょの騎士団の底力を見せてやれ~!」

「指揮は私が執るんだよ!?」

「わっはー! やってやりましょう!」

 

「私達らしく優雅に勝つわよ」

「参りましょう、ベッセラお嬢様」

「皆、準備はいい? 出発するよ!」

 

 こうして総力戦の火蓋が切られた。

 

 

 

「おぉっ、本当に普通の害虫の攻撃くらいではビクともしませんね」

 バリアを貼った船が飛翔害虫たちを押しのけながら進んでいく。そして、

「突っ込め~!!」

 害虫たちを吹き飛ばしながら船は海賊島に突っ込む。

 

「喰らえ~!」

 船を降りたポーチュラカ達はコマチソウが作った爆薬を一斉に投げつける。砂塵を巻き上げながら、害虫たちの身体が粉々にはじけ飛ぶ。

 

「凄い威力なんだよ。でも……」

 煙が晴れていくと、その中から大型害虫の姿が現れる。

「流石に大型には効きませんね……」

「それなら私達が直接倒すしかない! いっくじょー!」

 

 

 

「船での突撃に爆弾……あまり優雅とは言えないわね。でも……」

 ベッセラの傘が次々と害虫を貫いていく。

「たまにはこういう戦いもいいわね」

「流石ですお嬢様。私も……えいっ!」

 

 

 

 花騎士たちの健闘により、島の害虫はどんどん駆逐されていく。

 我々の部隊は雑魚敵は無視し、島の中央部へ向かっていた。

「皆上手く立ち回ってくれてる? 後はモコウ達がボスを倒すだけです?」

 

「これは……地下への入り口?」

 島の丁度中央。足元にあった分厚い鉄の扉を開けてみると、暗く長い階段が地下へと続いていた。

 

「シルバーの隠れ家かな?」

「……取り敢えずその話は後です?」

 ワレモコウの表情が突然強張る。彼女の目線の先には、あの害虫がいた。

 

「ようやくお出ましだね……この前みたいにはいかないっ!」

「クコ、援護」

 クコの魔法攻撃が炸裂、不意の攻撃に害虫がよろめく。その隙をついてコンボルブルスが害虫の胸元に飛び込み一撃を放った。

「ギギィ!?」

 害虫も反撃してくるが、コンボルブルスは身体を反らせそれを回避、次の一撃を害虫の胸元に打ち込んだ。

 

「ぶんぶん!」

「ギッ……」

 コンボルブルスのヒット&アウェイとクコの遠距離からの魔法攻撃が害虫を翻弄していく。

 

(戦えてる……でもこれで終わるような相手じゃないよね)

 コマチソウの不安通り、害虫の動きは速さを増していく。同時に身体が赤みを帯びていき、発熱による蒸気が放出されていた。

 

「だぁぁぁっ!」

 コンボルブルス渾身の一撃が放たれる。しかし、

「ギィッ!!」

「ふ、防がれたっ!?」

 攻撃をサーベルで受け止めた害虫はコンボルブルスを吹き飛ばし、一直線にクコに突進してきた。

 

「あぅっ!」

「クコっ!?」

 軽々と吹き飛ばされたクコの身体をワレモコウがキャッチする。

 ワレモコウの視線が僅かに動く。コマチソウは冷や汗をかきながらそれに頷く。

 

「はぁ……はぁ……たぁぁぁっ!」

 ボロボロになりながらも立ち上がり害虫へ向かっていくコンボルブルス。無論その攻撃は簡単に防がれてしまうが、それはただの陽動であった。

 害虫の側面からコマチソウが全力で迫る。手に持っているのはいつもの武器の虫取り網ではなく、

「そりゃぁっ!」

「ギギギ!?」

 緑色の液体が入った瓶を投げつける。飛び散った液体は害虫の全身にぶちまけられていく。

 

「ギギィ……ギッ!?」

「よし、効いてる効いてる」

 害虫がもがき苦しんでいる。

 コマチソウが投げつけたのは毒薬の入った瓶だった。

 

「普通の生き物なら即死する神経毒……これを浴びて生きていられるのは流石だね」

 トドメを刺すためにじりじりと距離を詰めていくコマチソウ。しかし次の瞬間、彼女の身体は害虫の攻撃によって宙を舞っていた。

 

「えっ……えっ!?」

 事態を飲み込めていない彼女に害虫の追撃が襲い掛かる。

「コマチソウ、危険です!?」

「ギッ……!」

 しかしすんでの所でワレモコウの魔法が害虫に命中し怯ませる。その隙に花騎士たちは害虫から距離を取った。

 

「何あの威力……こ、こんなことって……」

 珍しく狼狽えるコマチソウ。彼女としてはこの毒で決着がつくと考えていたので当然か。

「落ち着くです? 相手は未知の害虫、こちらの思惑が外れることもありえる?」

「……そうだよね。あたしの考えが甘かったかも。ワレモコウ、一旦距離を取ろう。コンボルブルスもクコも疲弊してるし、援軍を待たないと」

「賛成です?」

 

「害虫、モコウが相手です?」

「ガァァァ!!」

「……」

 かなりのダメージは受けているが、それでも未だに通常の害虫以上の迫力を放つ海賊害虫に、ワレモコウは気圧されてしまう。

 それでも魔法攻撃を害虫に放っていく。ダメージを与えるためではなく、気を引くために。

 

「ワレモコウ、下がって! よ~し、点火!」

 地面に撒かれた火薬にコマチソウが火を付ける。衝撃で木々が揺れ、黒煙が天に昇っていく。

 

「団長、今のうちに距離を取って他の部隊と合流するよ」

 分かった。そう返事をして、クコとコンボルブルスを抱えながら走っていく。

 

 

 

≪ポーチュラカ部隊≫

「爆発音!? ボス害虫戦が本格的に始まったみたいだね」

「雑魚敵は私達が引き受けます。あなた方は仲間の援護に行ってあげて下さい」

 ポーチュラカ達と一緒に戦っていたヨーテホルク騎士団の花騎士がそう進言する。

「ありがとう! お互い無事帰還しようね!」

「はい!」

 

「だんちょ、待ってろよ! 生きてろよ!」

 ポーチュラカ、リシアンサス、ランタナの三人は風を切るようなスピードで木々の間を駆けていく。しかしその行く手には……。

「ぐぅっ!?」

「リシアンサスさん!」

 

 一本のナイフがリシアンサスの肩に突き刺さった。それが飛んできた方向を見ると、木の上にベージュ色のマントを羽織ったアリ型害虫の姿があった。大きさは普通だが、明らかに通常の害虫とは異なる空気感を醸し出している。

「ヒューー……」

 害虫はナイフを弄びながら草笛を吹いている。余裕綽々といった様子だ。

「随分とすかした害虫ですね……」

 

 木から降り、颯爽と投げナイフ攻撃を繰り出す害虫。それを避けながら、リシアンサスは二人にこそこそと話し始める。

「ポーチュラカさん、ランタナさん。この害虫は私が引き受けます。二人は団長さんの所へ」

「でもあの害虫、かなり強そうだよ。怪我してるリシアンサスさん一人じゃ……」

「大丈夫です、死ぬ気はありませんよ。投げナイフは私の得意分野です。害虫なんかに遅れは取りませんって」

 笑顔を見せるリシアンサス。しかしその額には脂汗が滲んでいた。

 

「さぁっ、勝負です!」

 リシアンサスと害虫のナイフが空中で衝突する。と同時にポーチュラカは走り出した。

「リシアンサスさん、ありがとう。どうかご無事で」

 

 

 

「……行きましたか」

「ヒュー……」

「すかしてるのも今のうちです。あなたを倒して、必ず皆と合流してやりますからね!」

「シュッ!!」

 害虫が目にも止まらぬ速さでナイフを投げていく。リシアンサスも何とかそれについていくが、

「ぐっ……」

 肩の痛みに一瞬動きが鈍る。害虫はその一瞬の隙を見逃さなかった。

 

(ここまでですか……団長さん達はどうか無事に帰還して下さい……)

 迫りくるナイフにリシアンサスが諦めたその時だった。

「たぁっ!」

「ランタナさん!?」

 ランタナの短剣がナイフを弾き飛ばした。

 

「どうして戻ってきたんですか!?」

「リシアンサスが気になってね。だんちょの方はポーチュラカに任せてきた。誰か一人でも死ぬとだんちょが悲しむからね」

「……ありがとうございます」

「お礼なんていいからさ、二人で一緒にあいつ倒そう!」

「はい!」

 

 

 

≪イキシア部隊≫

「よし、雑魚は大体倒した! 私達も団長さんと合流しよう!」

「了解。でもその前に……」

「?」

「隠れてないで出てきなさい」

 ベッセラが指さした方向、岩壁しかないように見えたそこから、蜘蛛型の害虫の姿が浮き出てきた。真っ黒なボディーに黒装束姿。素早い動きと隠蔽能力は、どこか忍者を思わせた。

 

「岩の影に身を潜めていたようね。こそこそと隠れて、優雅じゃないわ」

「ジャッ!!」

「イキシア、先に行ってちょうだい。この害虫は私とエキザカムが引き受けるわ」

「う、うん。二人とも、気を付けてね」

 

 

「厳しく行きますよ!」

 エキザカムが放った一撃をかわし、忍者害虫は再び影に姿を隠した。そして、

「っ!? あうっ!」

「エキザカム!? 大丈夫?」

 エキザカムの背後から害虫が突然姿を現し、攻撃を加えた後に再び姿を消した。

 

「速い上にこの隠蔽能力……かなり厄介ね……そこっ!」

 ベッセラの飛ばした斬撃も害虫は軽々と避けていく。

「くっ、せめて姿がちゃんと見えれば……」

 

(このままではやられてしまいます……何か手は……)

「ぐぅっ!」

 岩の影から影へと巧みに隠れる害虫に翻弄される二人。こちらの攻撃は当たることはなく、体力だけが消耗されていく。

 

 その時、エキザカムがあることを思いついた。

(影……それなら……)

「お嬢様っ!」

「……ん」

 二人が目線で合図を取り合う。長年主従関係を結んできた二人だ、もはや言葉は必要なかった。

 

(この一撃で決めなければ負ける……集中……集中よ、私)

 緊張した面持ちのベッセラに、エキザカムは微笑みかける。

「お嬢様。ベッセラお嬢様なら大丈夫ですよ。私も応援しますから」

「エキザカム……ふふ、そうね。私なら、私達なら必ず優雅に勝てるわ」

 いつも通りの優雅な笑顔に戻ったベッセラ。最後の一撃が今、放たれようとしていた。

 

 

 

≪団長部隊≫

「くそ~……やっぱり爆弾くらいじゃビクともしないか……」

 煙が晴れ、中から害虫の姿が現れる。ダメージはほとんど受けていないようだった。

 

 援軍が来るまで時間を稼ごうと思ったが、負傷者を抱えているこちらは直ぐに追いつかれてしまった。

「もうここで戦うしかない?」

「よ、よ~し、いっちょやってやるか!」

 後ろは海、朽ち果てた船が横たわるこの場所が最後の決戦の場となった。

 

「ぐあっ!」

「うぅっ!?」

 かなり弱っているとはいえ、相手は極限級を超える害虫。コマチソウもワレモコウも押し負けていく。

 

「団長さん、私も戦う……」

「く、クコも……皆、守る」

 花騎士たちは懸命に戦ってくれている。私にも何か……何か出来ることはないのか。

 

「う、うわぁっ!」

「コマチソウ!?」

 害虫のサーベルがコマチソウの頭上に振りかざされたその時だった。

「とぁっ! ポーチュラカ、参上だよ!」

「ギギィ……」

 ポーチュラカの圏がサーベルを弾き飛ばす。

 

「てやぁぁっ!」

「!?」

 害虫の背後から巨大な光の矢が襲い掛かる。

「ごめん、遅れた!」

 イキシアも合流する。体力が少しずつ回復しているクコとコンボルブルスも武器を構え、これで六対一。数の上では圧倒的に有利だが、私には何か胸騒ぎがしていた。

 

 

 

≪リシアンサスとランタナ≫

「くっそー! 害虫に近づけない!」

「くっ! 攻撃が熾烈過ぎます……どこかに隙は……」

 害虫の投げナイフを防ぐのが精一杯のリシアンサスとランタナ。

 

「こ、こうなったら……リシアンサス!」

 攻撃を防ぎながら、ランタナは何かをリシアンサスに耳打ちする。

 

「……っ!? そ、そんなのダメです! 失敗したら死んじゃいますよ!」

「大丈夫大丈夫。ランタナはそんなやわじゃないよ。それにリシアンサスだって、一人でここに残る時は死ぬ覚悟してたでしょ?」

「うっ! それはそうですけど……」

「大丈夫。信じてるよ、リシアンサス」

「……分かりました。花騎士の底力、見せてやりましょう! そして皆で生還してハッピーエンドです!」

「よっしゃー! いっくじょー!」

 

「害虫、ランタナが相手だ! うぉぉぉ!!」

 単身、害虫に突っ込んでいくランタナ。

「ヒュー……」

 害虫は飽くまで冷静にナイフで彼女を迎撃しようとする。

 何本かのナイフがランタナの身体に突き刺さるが、それでも彼女は止まることはない。

「ヒュッ!?」

 そんな彼女の気迫に、害虫は焦りを見せる。しかしそれこそが花騎士たちの狙いだった。

「はぁ……はぁ……やっと慌て出したね。でももう遅い!」

 ランタナの背後、害虫にとって死角となっていた場所からリシアンサスが現れる。

 

「喰らえ、正義の嵐!」

 リシアンサスの必殺技、『ジャスティーストーム』が害虫を襲う。流石の害虫もこれを防ぐことは出来ず、全身に無数のナイフが刺さっていく。そして、

「ヒューーーッ!!」

 害虫の身体が粉々に砕け散る。それを確認し、二人は安堵の表情を見せ、その場に倒れ込んだ。

 

「うぅ……もう動けない……」

「団長さん、ポーチュラカさん、皆さん……どうかご無事で」

 

 

 

《ベッセラとエキザカム》

「行きますよ!」

 エキザカムが攻撃の構えを見せると、害虫はすぐさま岩影に隠れようとする。その時、

「とぉっ!」

 エキザカムの槍が上空に放られる。大きなサファイアが付いたそれは日光を反射し、辺りを青く美しい光で照らしていく。

 

「ジャッ!?」

「そこねっ!」

 身を潜める影を無くした害虫に、ベッセラの必殺の一撃が放たれる。

「ジャァッ……」

 崩壊していく害虫の身体。勝利を確信すると、二人はその場に座り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……何とかなりましたね」

「そ、そうね……でもかなり消耗してしまったわ。団長達にも早く合流したいのだけど……」

 

 

 

《団長部隊》

「はぁっ!」

「たぁぁぁっ!」

 六人の花騎士の力を合わせてもなお、海賊害虫との力は拮抗していた。

「つ、強すぎるよ……」

 

 すると害虫の身体が突然赤く発光し始めた。

「何か来る!? 害虫から離れるです!?」

 

 害虫の身体から放たれた無数のレーザーが花騎士たちを襲う。

「くっ、避けきれない!」

「はぁ……はぁ……だぁっ!」

「クコ、皆、守護!」

 コンボルブルスの召喚した植物のツタと、クコの魔法攻撃がレーザーから花騎士たちを守る。しかし彼女たち二人は逃げ遅れ、害虫の攻撃をもろに受けてしまった。

 

「が……はっ……」

「うぅ……団長……」

 血を吹き出しながら倒れる二人。

「クコさん、コンボルブルスさんっ!」

 

 それでも害虫の攻撃は緩むことはない。その熾烈な攻撃に押されていく花騎士たち。

 しかし、今の害虫にはどこか焦りのようなものを感じる。奴を着実に追い詰めているのは間違いない。

「はぁ……はぁ……」

「くそぉ、もう少し、もう少しなのに……」

 ここまで追い詰めたが、花騎士たちの消耗も害虫同様激しい。このままでは全滅するのも時間の問題だ。どうにか……どうにかしなければ……。

 

 

 

『おい、そこの兄ちゃん。あんたは戦わねぇのか?』

 幻聴だろうか。男の声が聞こえた気がする。

『おいったら。聞こえてるんだろう、俺の声が』

 その声はだんだんはっきりと聞こえてくる。耳というより、脳に直接響くような声だ。

 

『あんた、部下に戦わせておいて自分は戦わねぇのか?』

 そうではない。しかし、花騎士でもない自分があのレベルの害虫相手に何が出来るのだろうか。

『ま、あの害虫が滅茶苦茶強いのは分かるけどな。でもあんたにも出来ることはあるだろう?』

 私に出来ること……それは一体……。

 

『俺も害虫と戦ったことはねぇから良く分からんが、一つだけ言えることがある。戦いは強い奴だけが勝つわけじゃねぇ。あんたにも分かるだろう?』

 強い者だけが……?

 そこでふと腰に付けた短剣の存在を思い出す。

 

『弱いからこそ出来ることもあるってことだ。ま、精々頑張れよ』

 声がどんどん遠ざかっていく。

 待ってくれ。あなたは一体……。

 

 

 

 ……今のは一体何だったのだろう。しかし今は考えている暇はない。私は私の出来ることをしなければ。

 

「ぐあぁっ!」

 害虫の攻撃に傷付いていく花騎士たち。私は騎士団長として、今程無力感を感じたことはない。私はこんなにも弱くちっぽけな存在なのだと改めて分かった。

 

 しかし、弱いからこそ出来ることもある。あの声が教えてくれた。

 害虫は花騎士の方だけを気にしている。私など気にもしていないだろう。だからこそ、攻撃出来る隙があるはずだ。

 コマチソウのくれた毒の付いた短剣。私の腕力ではこれを奴に突き立てることもかなわないだろう。一か所、イキシアの光の矢が付けた傷痕以外には。

 

 ゆっくり、ゆっくりと近付いていく。悟られたらお終いだ。足音が出ないように注意しなければ。

 

 心臓ははち切れんばかりに暴れている。短剣を刺したとしても、大したダメージは与えられないかも知れない。反撃で自分は殺されるかも知れない。それでも、やらなければ。花騎士たちを守るためにも……。

 

「はぁ……はぁ……っ!? ごしゅ」

 ワレモコウが気付いたと同時に、私は短剣を害虫の背中の傷に突き刺した。

「ギィィィ!!」

 

 

 

「ご主人っ!?」

「団長さんっ!?」

 その時見た空は、まるで海のように青く透き通っていた。

 

 害虫を刺した瞬間、私の身体は宙を舞った。害虫の反撃をもろに喰らってしまったのだ。

 全身の骨が粉々に砕け散る音が聞こえた。もう助からないかも知れない。最期に愛おしい花騎士たちの姿を目に焼き付け、静かに瞼を閉じていった。

 

「だ、団長……うわぁぁぁっ!」

 ポーチュラカが涙を流しながら害虫を斬りつけていく。

「ギィッ!?」

 再び毒を喰らった害虫の動きはどんどん鈍くなっていく。もはや花騎士の攻撃に対応することは出来なくなっていた。

 

「ギィィ……」

「逃がさない!」

 ポーチュラカの剣幕に動揺し、背中を向け逃げ出した害虫を、コマチソウの虫取り網が拘束する。

「皆、今だぁっ!」

 ポーチュラカ、イキシア、ワレモコウの必殺技が次々害虫に命中していく。

「ギャァァァ! アァ……」

 断末魔が止み、害虫の身体は崩壊を始める。遂に海賊害虫との戦いが終わりを告げたのだった。

 

 

 

 ここはどこだろう。真っ暗な闇の中。俗に言うあの世というやつだろうか。

『安心しな。まだ死んじゃいねぇよ』

 聞き覚えのある声が聞こえた。この声は確か、害虫との戦いの時に聞いた……。

『よっ、また会ったな』

 気が付くと自分の目の前には中年の男が立っていた。大きな身体に海賊帽と黒いマントに眼帯。見るからに海賊といった風貌だ。

 

 あなたはもしや伝説の大海賊、シルバーじゃないか。

『伝説か……そう言われるとちと恥ずかしいな……』

 男は人差し指で頬をちょんとつついた。

 

『いかにも。俺は海賊、キャプテン・シルバーだ。ここ海賊島で死んじまったんだが、成仏できずに今でも魂だけで彷徨っているらしい』

 ということは自分はやはり……。

『いや、あんたはまだ死んじゃいない。早く部下の元に帰ってやれ。あんたのことを待ってる奴がたくさんいるんだろう?』

 言われて花騎士たちの姿が思い浮かぶ。私が倒れ、皆悲しんでいるかも知れない。

 

『分かるぜ。仲間を置いて死ぬのは辛いよな。俺がそうだった。なぁ、ちょっとだけ昔話を聞いてくれないか? 久しぶりに人間と話せて嬉しくてな』

 こくりと頷いた。シルバーと話したことを教えたら、ハツユキソウ達はさぞ喜ぶだろうなと思う。

 

『政府の人間が俺を殺そうとしていると知った時、俺は海賊島にシェルターを作り、そこに仲間たちを避難させた。そして俺自身は政府の前に立ち塞がった』

 殺されると分かっていても……か。

『ああ。俺は殺されても構わない。だが仲間たちまで道連れにされるのは癪だったんでな。さっきのあんたと一緒だよ』

 

『政府は俺を殺した後、海賊島を大砲で破壊して回った。俺が存在していたことすら消すためにな。シェルターは何とか無事で、仲間たちは政府たちの目をかいくぐって逃げおおせたらしい。良かったよ』

 シルバーはニカッと歯茎を見せて笑う。噂に違わぬ豪快な男だなと思った。

 

 そう言えば、成仏していないと言ったが、何か未練があるのだろうか。そんな風には見えないが。

『未練ねぇ……俺は世界中の海をこの目で見てきたし、世界の色んな秘密を見てきた。それこそが俺の追い求めた夢とロマンだ。だからそこに未練はねぇ。ただ一つ、俺が死んだ後の海賊島を害虫に乗っ取られたこと、それだけが未練かねぇ……。だからあんたには感謝してるよ、騎士団長殿』

 

『じゃあ、そろそろお別れだ。あんたは仲間の元に、俺はあの世に行ってくらぁ』

 もう成仏出来るのだろうか。

『ああ、おかげ様でな。あっ、そうだ。地下のシェルターに行ってみろ。俺の残した財宝が眠ってる』

 しかしそれはあなたの物だろう。

『別にもう要らないしなぁ……それに、財宝なんておまけだよ。もっともっと大切なものが、この世界にはあるんだからな。ま、あんたは言わなくても分かるだろうが』

 花騎士たちの顔を思い浮かべ、こくりと頷いた。

 

『それじゃ、これでおさらばだ。くれぐれもこっちには来ないようにな』

 シルバーの身体が光になって消えていく。彼に一礼をして、私も仲間たちの元へ帰ろうと思った。

 

 

 

「……ちょう。団長っ!」

 泣き声が聞こえる。花騎士たちの悲しそうな泣き声が。

 

「っ!? ご主人、目を覚ましたです!?」

「団長……クコ、歓喜……うぅ……」

「団長~!」

 花騎士たちは皆それぞれ目に涙を貯めている。何とか腕を動かし、彼女たちの頭を撫でて微笑みかける。

 帰ろう、私達の騎士団へ。

「あい♪」

「はい!」

「うんっ!」

 

 

 

《数ヶ月後》

 私と花騎士たちの怪我はすっかり治り、我々は再び海賊島の調査へと向かっていた。

「騎士団長殿、ご同行を許してもらいありがとうございます」

 研究所の所長にも同行してもらうことにした。シルバーにも詳しい彼なら何か分かることもあるだろうと思ったからだ。

 

「それにしても団長さん、シルバーと話したなんて凄いじゃないですか~」

 ハツユキソウが手揉みをしながら私に話し掛ける。害虫との決戦の日にシルバーと対話したことを話すと、それ以来ハツユキソウは興味津々に私にそのことを尋ねてくるようになった。

 

 

 

「ここが地下シェルターへの入り口ですか」

 海賊害虫と戦う前に見つけた鉄の扉。それを開けて階段を降りていく。カンカンと甲高い足音が響き渡る。

 一番下まで降りると、そこにも鉄の扉があった。

 

「おぉっ、これは凄い!」

 先に部屋に入った所長が感嘆の声をあげる。

「シルバーが残した財宝ですよ! それに彼の海賊団の旗に……これは地図でしょうか?」

 所長が手にした何枚かのボロボロで黄ばんだ紙。そこには春庭全域の地形が記されていた。

「シルバーが冒険した場所を記録したものかも知れません。詳しく調査してみますが、これは貴重な資料ですよ!」

 深いしわの付いた顔が子供のように無邪気に笑う。彼がどれだけシルバーを追い求めてきたのか良く分かった気がする。

 

「しかしこの財宝、いったいどのくらいの価値になるんですかね? 花騎士全員で分け合っても結構残りそうですね……ふふふ……」

 いや、この財宝はここに置いておこう。

「私もそれが良いと思います。飽くまでこれはシルバーのものですからね」

「そ、そうですよね! いやぁ、私もそう思ってました!」

 

 

 

「ありがとうございました団長殿、ハツユキソウさん。おかげで貴重な体験をすることが出来ました」

 優しい笑顔の後、彼は海に向かって一礼した。

「キャプテン・シルバー、どうか安らかに……」

「シルバーの魂も成仏して天国に行けたんですかね?」

「いや、彼が行ったのは地獄でしょう」

 所長のその言葉に、ハツユキソウはぎょっとした。

 

「海賊というのは結局犯罪者です。天国に行くことは出来ないでしょう。ただ……」

 彼は海を見つめる。夕日が映り、鮮やかなオレンジ色になった海を。

「ただ、彼は地獄に行ってもなお冒険を続けていることでしょう。自分の夢とロマンのために」

「……そうですよね」

 

 海賊島での死闘は終わりを告げた。誰もいなくなったこの島で、キャプテン・シルバーの遺品だけが輝きを放っている。彼が追い求めた夢とロマン、そういったものを我々は次の世代に受け継いでいかなければならないなと思った。




やはり私バトル描写苦手ですね……何書いたらいいか全然分からない……。

あと一つ、書いてる途中に気付いたのですが、ハツユキソウが戦闘に参加してないw
まあ彼女のことですから、ボス敵は無視して雑魚害虫と戦っていたんだと思ってください。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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