フラワーナイトガール短編妄想集   作:イッチー団長

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やっと書けた……気が付けば9000文字を超えていました。
前編と後編のペース配分がおかしいとか、視点がごちゃごちゃで読みづらいとか、色々とツッコミどころはあると思いますが、その大味っぷりも楽しんで頂ければ。

今回、ちょっとリョナというか……花騎士の骨が折れる描写があります。苦手な人はご注意を。


お嬢様学園へ潜入せよ!(後編)

「たぁっ!」

 私の一振が相手選手の剣を弾き飛ばし、青空の下に生徒たちの歓声が響き渡った。

「くっ……参りました」

 悔しそうな顔をしながらも、相手は握手を求めてくる。

 

「強いですわね、サントリナさん。剣の心得が?」

「はい。剣は昔から……」

(あれ? どうして剣を始めたんだっけ? それに、何かとても悲しいことがあった気がする……)

 大切なことだと思うけれど、何故か思い出せない。頭の奥が、霧がかかったようにもやもやしている。

 

「サントリナさん、お疲れ様」

 学級委員のカオルさんがタオルを渡してくれた。

「ありがとうございます、カオルさん」

 私が笑顔を見せると、彼女も静かに微笑んだ。

 

「学園にも大分慣れたみたいだね。最初は凄く深刻そうな顔をしてたから、心配してたんだ」

「そう……でしたか?」

「うん。まるで、何か使命を果たそうとしてるような……」

「使命……痛た……」

 その言葉を復唱しただけで、頭が締め付けられるような痛みが走る。

「だ、大丈夫?」

「大丈夫です……少しジッとしていれば治りますから……」

 今まで何度もこの頭痛が襲ってきた。今のように何かを思い出した時に痛むことが多い気がする。それが不思議だった。

 

 

 

「サントリナ~!」

 校門の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「コマチソウさん、エキザカムさん」

「こんな時間ですし、帰りましょう。今日は美味しそうなお茶を頂いたので、帰ったら早速淹れてみますね」

 いつもの帰り道をいつものメンバーで歩く。皆の笑顔が夕焼けに照らされる。当たり前なことなのに、そんな時間がとても愛おしく感じる。

 

「そう言えば、三人ってどうやって仲良くなったの?」

「どうって……同じ日に転校してきて、寮でも同じ部屋だったので」

「凄い偶然だよね」

 偶然……確かにそうだ。偶然にしては出来過ぎている。そもそも、私は転校してくる前から、彼女達のことを知っているような気がする。漠然とした疑問を抱えながら、三人の寮へ帰っていった。

 

 

 

「♪~」

 エキザカムさんは、先程言っていたお茶を鼻歌交じりに淹れている。朗らかな空気が流れる中、私はずっと抱えていた疑問を言ってみた。

 

「最近、何か大切なことを忘れているような気がするんです……」

 その言葉にエキザカムさんは手を止めた。

「……実は私もです。お二人にこうしてお茶を淹れるのも良いですが、私には大切な人がいて、その方のお世話をするのが何よりも幸せだったと思うんです」

「あたしも。最近のあたしは空っぽって感じなんだよね~。大好きなことを忘れちゃったような……」

 

「「「う~ん……」」」

 

◇◆◇◆

 

 カオルさんと廊下を歩いていると、聞き慣れた歓声が聞こえてきた。

「空蝉の君……相変わらず凄い人気ですね」

「ま、あの容姿ならね」

 男性と見間違うような、スラッとした長身。綺麗に整った顔。確かに女の子に好かれる要素が多い。

 

「サントリナさんは興味ないの?」

「私はあんまり……」

「そう。私もああいう気取った人は好きじゃないんだよねぇ」

 咄嗟に辺りを確認した。空蝉の君のファンが近くにいたらまずい。

 

「私、元は庶民の出だから、ああいう『いかにも』なお金持ちは苦手」

「そうだったんですか……」

 転校してきた日に、「庶民の生まれなんじゃないか」と聞かれたのを思い出した。

 

「本当の両親は私の小さい頃に亡くなって、今の両親に引き取られたの」

 その話にデジャヴを感じた。

 両親が……親しい人が亡くなった記憶。私にもそんな記憶があるような気がした。

 いや、そもそも何故私は自分の過去が分からないのだろう。覚えているのはこの学校に転校してからの数週間のみで……。

 

(この胸の痛み……皆……先輩!)

「そうだ……そうだったんだ……」

「サントリナさん?」

「カオルさん、頼みがあります」

 

◇◆◇◆

 

「いやぁ、空蝉の君っていいよねぇ~」

 コマチソウが、窓の外の空蝉の君を見つめている。だらしない表情で。

「コマチソウ様は空蝉の君のファンなんですね」

「うん! 特にあのフォルム……たまんないよね……」

(……フォルム? 確かにスタイルは良いですが、そんな言い方しますか? それじゃあまるで……)

 

「ところでところで、エキザカムだってさっきから空蝉の君のことジロジロ見てるじゃん」

「私は彼女の付けている宝石が気になるんです。私、宝石磨きが趣味なんですよ」

「変わった趣味だね……」

(ん? 変わった趣味? それ、あたしも良く言われてたような……)

 

(そう言えば、どうして宝石磨きが好きになったんでしたっけ……)

 その時、二人の脳内に稲妻のような衝撃が走った。

「「あぁっ!」」

 

◇◆◇◆

 

「サントリナ!」

「サントリナ様!」

 コマチソウさんとエキザカムさんが形相を変えて走ってきた。

「その様子……二人も思い出したみたいですね」

「いや~、もうばっちり! それにしてもあの害虫、あたしに害虫採集のことを忘れさせるなんて許せない! 絶対捕まえて標本にしてやる!」

「私もです! ベッセラお嬢様を愚弄するなんて……今回ばかりは厳しく行きますよ!」

「落ち着いて、二人とも」

 

 興奮状態の二人を、落ち着いた声が止めた。

「カオル……?」

「私が頼んだんです。空蝉の君を倒すのに協力して欲しいって」

「よ~し、それじゃ団長を交えて作戦会議だ!」

 

 

 


 きゃっきゃっと女生徒たちが長いスカートをなびかせながらはしゃいでいる。そんな様子を間近で見ることが出来るのは教師の特権だ。本当に、この学校に来れて良かった。

 

「先生♪」

 生徒が呼んでいる。行かねば。

「団長さん!」

 背後から声をかけられ、ピタリと立ち止まった。

 そこにいたのは四人組の女生徒たち。内三人は何やら見覚えがあった。

 

「もう、何やってんの団長。早く気付いてよ」

 団長……先生ではなく団長……そうか、私は……。

 

◇◆◇◆

 

 というわけで、騎士団長、完全復活だ。

「遅いよ~。今まで何やってたの?」

 何か幸せに満ちた時間だった気がするが……記憶が曖昧で良く覚えていない。

 

「まぁ、何にせよこれで明確な敵が分かったわけですし、後は対策を立てるだけです」

「そのことなら、私にいい考えがある」

 サントリナのクラスメイトだという女生徒、カオルが手を上げて発言すると、おもむろに紙と筆を取り出した。

「これをこうして……」

 

 カオルは紙に文字を書き始めた。古風な彼女と書道というのは実に良く似合っている。

「出来た」

 彼女が見せた紙には、達筆且つ荒々しい文字でこう書かれていた。

『果たし状

 

 空蝉の君へ剣での勝負を申し込む

 明日〇月〇日の15時に武道館で待つ

 

 サントリナ』

 

「……何ですか、これ?」

「果たし状。あの空蝉の君が全校生徒の前で負けたら、もうこの学園には居られなくなるんじゃないかなって」

 勝負に負けたくらいでそうなるだろうか。

「う~ん。確かにあの手の害虫はプライドが高いし、惨めったらしく負けたら逃げ出すかもね」

「果たし合いなんて恰好良いです。当日は応援させてもらいますね、サントリナ様」

「って、私が戦うのは確定ですか……まぁいいですけど……」

 

 

 

≪翌日≫

 掲示板に張り出された紙を見て、生徒たちがざわついていた。

「あの空蝉の君に勝負を挑もうなんて……なんという命知らずな……」

「誰ですの、このサントリナとかいう小娘は?」

「確か最近転校してきた二年生ですわ」

「相当頭がお悪いのでしょう。こんな小娘、空蝉の君が相手をする前に私が叩きのめして差し上げますわ!」

 

 口々に罵声が飛び交う中、そよ風のような爽やかな声が届けられた。

「どうしたんだい、皆」

「う、空蝉の君……」

 サラっとした長い金髪をなびかせ、空蝉の君は生徒たち一人一人に優しく微笑みかけた。

 

「果たし状のことは知っているよ。大丈夫、私は負けない。何といっても私は『君たちの』空蝉の君だからね」

「きゃぁぁぁ~!」

 きざな台詞に黄色い歓声が飛び交う。満足そうな笑みを浮かべながら、彼女はおかっぱ頭の二人の生徒に目で合図を送っていた。

(楽しみだね……あの花騎士が全校生徒の前で無様に負けるなんて……)

 

◇◆◇◆

 

 そしてついに決戦の日がやってきた。『春華の戦い』。そう呼ばれ、後世まで言い伝えられる戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 

 武道館には空蝉の君の活躍を見ようと数百人の生徒たちが押し寄せていた。その妙な熱気の中、サントリナは飽くまで冷静に自身の剣を磨いている。

 

「凄い人ですね……」

「そうだね……ってエキザカム、その恰好は何?」

「これですか? 学ランと言って、応援団の正装らしいです。団長様がおっしゃっていました」

「団長……」

 そんな目で見るな……やはり応援団と言えば学ランにハチマキなのだ。

「この格好をしていると、何だか力が湧いてくるような気がします。今日は張り切って応援しますよ!」

 

 

 

「やぁ、君がサントリナだね。今日はよろしく頼む」

 武道館の中央、審判の前で向かい合う二人。空蝉の君が差し出した手を握り返すと、会場からはブーイングが起こった。

「完全アウェイだね……サントリナさん、頑張って」

 

「よろしくお願いします」

 サントリナは空蝉の君に近付き一礼する。その時、空蝉の君が彼女の耳元で囁いた。

「まさか暗示が溶けるとは、流石花騎士だ。しかし、暗示にかけられたままの方が幸せだったんじゃないか?」

「っ!? どういう意味です?」

「そのままの意味だよ。私に逆らわなければ幸せな学園生活が送れたものを……」

「花騎士としての任務ですから。空蝉の君、一つ約束して下さい。この勝負、私が勝ったら学園から出ていって欲しいんです」

「……いいだろう。まぁ君が私に勝てるとは思えないがね!」

 

 空蝉の君はすぐさま武器を構えて彼女に打ち込んだ。

「くっ!」

(速い……それにリーチが長い……間合いに入りにくいですね)

 空蝉の君の長い腕から繰り出される猛攻を、サントリナは二つの剣で受け流していく。

 

「どうした? 反撃してこないのか? それとも出来ないのか?」

 高笑いする彼女を、サントリナは冷静に見つめる。

(隙は……そこ!)

「ぐっ!」

 重心を低くし、空蝉の君の懐に入り込む。そのまま剣を振り上げるが、空蝉の君はバックステップでかろうじてその攻撃をかわした。いや、本人はかわしたと思ったが、実際には攻撃はかすっていた。額から血が流れ始める。

 

(くそっ……思ったよりも強い。そう簡単に勝たせてはくれないようだね……それならこちらも奥の手を使おうか)

 空蝉の君の目が発光を始める。その様子を見て、コマチソウが身を乗り出した。

「サントリナ! 奴の目を見ちゃダメ! また暗示をかけようとしてるよ!」

「なっ!? しまっ……」

 

◇◆◇◆

 

 蝉の声が耳に、頭の中にまでこだましている。四方八方霧に覆われているような、ぼやけた視界の中、いくつかのシルエットがくっきりと浮かんできた。

「サントリナ!」

「サントリナお姉ちゃん!」

「皆……」

 そこにいたのは、以前私が暮らしていた町の人達。害虫に殺されてしまった人達……。

 

「サントリナ」

 肩をポンと叩かれる。その声は、その顔は忘れられるわけがない。

「先輩……」

 私をかばって死んでしまった先輩が、何故か私の隣に佇んでいた。

 

「サントリナ、もう戦うのは止めなさい。あなたが学園で幸せに暮らしてくれれば、私も嬉しい」

「でも、花騎士としての任務が」

「任務なんてどうでもいいの。誰もあなたの幸せを邪魔することなんて出来ないんだから」

 先輩が両手を広げる。私は吸い込まれるように彼女に近付いて行った。

 

「そうよ。来なさい、サントリナ」

「……ごめんなさい、先輩」

 後ろ手に隠していた剣で、私は先輩の身体を真っ二つに切り裂いた。割れた身体の中から、蝉型の害虫がその姿を現した。

 

「き、貴様……!」

「私は戦います! 皆を守るために! それが先輩に教えられたことだから!」

「後悔するぞ! お前は一生、死んだ人々や花騎士たちの亡霊を背負いながら生きるんだ!」

 視界が晴れていく。もはや迷いは無かった。

 

◇◆◇◆

 

「がはっ! な、何故暗示が効かない!?」

 サントリナの攻撃が空蝉の君に直撃する。いつも爽やかな笑顔の彼女からは想像もつかないような、苦痛に歪んだ表情がむき出しになった。

 

「許さない……町の皆や先輩を弄んだあなたを、私は絶対に許さない!」

 サントリナは涙を流しながらも、攻撃の手を休めることはない。

 

「や、止めろ! がは……わ、私はお前達に幸せを与えてやったんだ。ぐぁっ! 悲しい過去も忘れさせてやった。何が気に食わないんだ!?」

「私達は過去を受け継ぎ、幸せな未来を自分の手で掴み取るんです。あなたに与えられる必要なんてありません!」

 

「ぐぁぁっ!!」

 訓練用の剣とは言え、彼女の握力で握れば、それはもはや凶器となる。並みの人間には致命傷となるような攻撃を数十発受け、流石の空蝉の君もその場に倒れこんだ。

 

「が、がは……」

「空蝉の君……」

 生徒たちの顔色がみるみる青ざめていく。あの空蝉の君が負けたという事実を、誰もが受け止められないでいた。

 

 

 

「私の勝ちです。さぁ、早くこの学園から去りなさい」

 サントリナの剣が空蝉の君の面前に向けられる。血が滲むような激しい歯軋りの音を響かせ、空蝉の君は憎悪の表情でサントリナを睨んだ。

 

「こうなったら……夜叉! 羅刹!」

「はっ!」

 ギャラリーの中から現れたのは、黒いおかっぱ頭の二人の少女。見た目は普通の少女のようだが、白目が赤く、異形の雰囲気を醸し出している。

 

「奴を殺せ! 私を助けろ!」

「御意」

 自身の身体程の大きな鎌を取り出し、二人はサントリナに襲い掛かった。

 

「がっ……」

 しかし吹き飛ばされたのは夜叉と羅刹の二人の方だった。

 

「コマチソウさん、エキザカムさん!」

「空蝉の君さぁ~、ルール違反は淑女としてどうなの?」

「一対一なら応援に徹していましたが、ここからは私達も参戦します」

 

「く……そ……」

 空蝉の君は何とか立ち上がると、花騎士たちに背を向け、武道館の出口へ駆けていった。

 

「逃げた!? サントリナ、奴を追って! こいつらはあたし達が押さえておくから!」

「分かりました! 二人とも気を付けて!」

 数百人の観客を飛び越えて、風のように走るサントリナ。その身体能力に驚愕する生徒たちをよそに、私もサントリナを追うことにした。

「団長さん、私も行く。生徒の避難誘導とか、出来ることはあると思うし」

 

 

 


「宵闇の波動!」

「ぐっ……!」

 羅刹の手から放たれた衝撃波に吹き飛ばされ、二人の花騎士は壁に身体を打ち付けた。

 

(凄い威力……それにあのコンビネーション……全く隙が見えない)

「ふふ……我々は共に産まれ共に生きてきた、謂わば一心同体の存在」「愚かな人間よ、あなた達に勝ち目はありません」

 

 二人の必殺技、「宵闇の波動」は、その威力故に溜めの時間を要する。しかし夜叉と羅刹は、一人が必殺技を放ち、もう一人が溜めを行うことでその隙を失くしている。加えて呼吸すらピタリと揃った連係。そこにはコンマ一秒の隙も無かった。

 

「コマチソウ様、私達には彼女達のような連係は出来ません。ですから、それぞれの長所を活かし合うことでしか、勝利の道は無いと思います」

 そう言うと、エキザカムはコマチソウに耳打ちを始めた。

「……でもエキザカム、これ失敗したら……」

「大丈夫。私はコマチソウ様を信じていますし、コマチソウ様が私を信じて下されば」

「……うん、分かった。いっちょやってみるか!」

 

◇◆◇◆

 

(くそ……何だあの強さは……とにかく逃げなければ! 生徒達の記憶は暗示でどうにでもなる)

 まだ生徒達の残る放課後の廊下を、空蝉の君は必死に走った。注目を集めているが、もはやなりふり構っている場合では無かった。

 

「たぁっ!」

「なっ!? ぐぁぁっ!」

 突如現れたサントリナが、空蝉の君を背中から切り裂いた。今握っているのは訓練用の剣ではなく真剣だ。背中がぱっくりと割れ、空蝉の君は激しい痛みにのたうち回った。

 

「がぁぁぁ! や、止めてくれサントリナ! 生徒達には危害を加えない。約束する。だから見逃してくれ!」

 恥も外聞も投げ捨て、空蝉の君は頭を地面に擦り付けた。その惨めな姿に、サントリナの足は一瞬止まってしまった。

 その一瞬の間に、空蝉の君は周囲を見渡した。その血走った目に映ったのは、動揺する生徒達。そして、生徒を避難させようとするカオルの姿だった。

 

◇◆◇◆

 

「害虫、私が相手です!」

「愚かな……宵闇の波動!」

「ぐぅっ!」

 羅刹が放った衝撃波を、エキザカムは自身の必殺技で受け止めようとする。

 

「……たぁっ! はぁ……はぁ……」

「ほぅ、宵闇の波動を弾きましたか。しかし一撃防いだところで無意味」

 今度は夜叉が波動を放つ。

「ぐっ! あぁっ!」

 よろけながらも、エキザカムはその一撃も弾き飛ばした。

(おかしい……何故こんな無意味なことを……?)(それに、もう一人の花騎士は何処に? 彼女の閃光が邪魔して背後が見えない……)

 

「ここだよ」

「!? な、何だこの網は!?」

「夜叉!」

 夜叉がコマチソウに捕まり動揺する羅刹。その隙にエキザカムは一気に距離を詰めた。

 

「厳しく行きますよ!」

 彼女の必殺技、「スウィートエイミング」が羅刹に直撃し、彼女の身体は崩壊を始めた。

「主……申し訳ありません……」

 

 二人を倒したことを確認すると、エキザカムはその場に倒れ込んだ。

「コマチソウ様、流石の速さでした」

「エキザカムこそ、良くあれを二発も防げたね」

 コマチソウはエキザカムの手をぐっと握る。

 

「でもまだ終わりじゃない。サントリナの援護に行かなきゃ」

 

◇◆◇◆

 

「頼む……」

「そんな約束、信じると思いますか?」

 しかし一瞬の隙があれば十分だった。床を突き破って現れた触手が、カオルの全身を拘束した。

「きゃぁっ!」

「カオルさん!?」

 

「おっと、動くなよサントリナ。動けばこの娘も他の生徒も死ぬぞ」

「ひ、卑怯な……」

「黙れ! 元はと言えばお前らが悪いんだ。お前らが私を否定しなければ……」

 

「サントリナさん! 私には構わないで! 害虫を倒して!」

「黙れぇ!」

 空蝉の君が睨むと、触手はカオルの身体をきつく締め付けた。

「ぎゃぁぁ……あぁ!」

「止めなさい! あなたの狙いは私でしょう。他の人は関係ないはずです」

「ふふ、それもそうだな……ではまずは武器を置け」

「……」

 

 

 

 金属音が響く。サントリナの双剣は床に落とされた。

「サントリナさん……」

「大丈夫ですよ、カオルさん」

 心配そうに見つめるカオルに、サントリナはいつも通りの柔らかい笑顔を見せた。

 

「ふん、随分と余裕そうだな。ではまずは……」

 空蝉の君が合図をすると、サントリナの身体に触手が纏わりついた。

「すぐに殺しはしない。私にこんな惨めな思いをさせた罰だ。じわじわとなぶり殺しにしてやる」

 

「まずはその細い脚を折るか、それとも目を抉ってやろうか。皮を剥ぐのも捨てがたいな……」

「あなたの悪趣味な妄想はいいですから、早くやったらどうですか?」

「……やれ」

 触手がサントリナの右腕に集まる。メキメキと力が加えられ、サントリナの顔に苦痛の色が滲んだ。そして、

「ぐぅぅっ!」

 バキッと鈍い音がした。触手が離れると、サントリナの右腕は曲がってはいけない方向に曲がっていた。

 

「サントリナさん……うぅ……ごめんなさい。私が捕まらなければ……」

「カオルさん、泣かないで下さい。あなたが悪いわけじゃありませんから。ほら、ニコ~♪ って」

 冷や汗をかきながらも明るい笑みを絶やさないサントリナ。そんな彼女を、空蝉の君は冷ややかに見つめていた。

 

「健気なものだな。だがその笑顔もすぐ消え失せる」

「……」

「っ!?」

 サントリナの睨みに、空蝉の君は思わず後ずさってしまった。

(な、なんだこの気迫は……)

 人質を取り、右腕をへし折り、間違いなく有利なのは空蝉の君の方だ。しかしサントリナから放たれる気迫は、彼女を震え上がらせるのに充分なものだった。

 

(く、くそ……震えが止まらない……あんな小娘相手に……)

 「伝説の花騎士」。復讐のために害虫を狩っていたサントリナは、その圧倒的な戦闘能力と鬼神のようなオーラから、いつしかそう呼ばれるようになっていた。

 ある者は、オーラで害虫を倒したと言う。今のサントリナから放たれるオーラを見ると、それもあながち間違いではないのかも知れない。

 

 

 

「どうしました? もう終わりですか?」

(そ、そうだ。今有利なのは私……奴の右腕は折ったのだし、左腕を折ればもう抵抗は出来なくなる)

 

「ふ、ふん……強がるな。二人の花騎士は夜叉と羅刹が足止めしているし、しばらく援軍は来ない。左腕を折れば、貴様はもう終わりだ」

「そうですか。ところで、誰かを忘れてませんか?」

「何だと……? がぁっ!」

 

 必殺の団長キックが奴の頭に直撃した。いくら害虫とはいえ、不意を突けばこんなものだろう。サントリナが注意を逸らしてくれていたのも功を奏した。

 

「き、貴様……たかが人間風情が……」

 ピキピキと青筋を立てる空蝉の君。もはや元の美形は完全に消え去っていた。

 

「もういい! 見せしめに生徒達を殺してやる! 後悔しろ、花騎士、騎士団長!」

 空蝉の君が合図を送る。しかし生徒の悲鳴は聞こえてこなかった。

 

「な、何故だ……」

「へぇ~、これも身体の一部なのかな~?」

「!?」

 

 

 

「コマチソウさん、エキザカムさん!」

「おまたせしました!」

「触手は全部採集済み。生徒達もどさくさに紛れて逃がしておいたよ」

「な……な……」

 

(くそ……終わった……。だがこうなれば、サントリナだけでも道連れに)

 そう思い背後を振り返るが、彼女の姿は無かった。

(一体どこに……)

「……これで終わりです、空蝉の君」

「!?」

 突然自分の目の前に現れたサントリナに驚愕する空蝉の君。サントリナが左腕を一振りさせると、彼女の首は冷たい床の上に転がった。

 

 

 

「サントリナさん! サントリナさん……」

「カオルさん……」

 サントリナの折れた右腕を泣きながら擦るカオル。

 

「ごめんね……痛いでしょう」

「少し痛いですけど、大丈夫ですよ。それにカオルさんは悪くありませんから」

「でも……」

「それじゃあ、笑って下さい。そうすれば、この痛みもどこか行っちゃいますから♪」

 ニコっと笑うサントリナ。その優しい笑顔を見て、カオルも泣きながら笑みを浮かべた。

 

 

 


≪その後≫

「~♪」

 鼻歌を歌いながら手紙に封をするサントリナ。随分とご機嫌のようだが、何かあったのだろうか。

 

「あっ、団長さん。えへへ、あれからカオルさんと文通してるんですよ。学園のこととか、聞いてるだけでも楽しくなってきます」

 可愛らしい笑顔を見せるサントリナには、あの学園に通う生徒と変わらないあどけなさを感じた。世が世でなければ、彼女もちゃんと学校に通えていたのかも知れない。そう思うと、胸の奥が締め付けられるようだった。

 

「だ、団長さん! そんな悲しそうな目をしないで下さい。ほら、ニコ~ですよ」

 しかしサントリナだって、本当は学校に通いたいだろうに。

「そうですね……それじゃあ、害虫がいなくなって平和になったら、その時はちゃんと通いたいです。団長さんも先生になって一緒に通いましょう」

 それはまた、素敵な未来図だな。そのためには教員試験に合格しなければならないが、彼女の笑顔を見ていると頑張ってやろうという気分になった。




いやぁ、サントリナちゃんは正に主人公って感じで書きやすいですね。

そして今回の悪役、空蝉の君(何だこの名前……)
爽やか系に見えて、実はゲスな敵とか好きです。そんな敵が惨めに死ぬのも、カタルシスを感じますね(歪み)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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