浴衣のコンボルちゃんを妄想していたら、いつの間にか一話出来ていました。
あの華奢なシルエットは、浴衣絶対似合いますよね。
「団長、祭りだぁぁぁ!」
執務室のドアが勢い良く開き、ソリダゴが元気な声を響かせた。
「近くでお祭りがあるから行こうよ! コンボルブルスと三人で、ね?」
祭りか。楽しそうだが、仕事が貯まってしまってな……。
「ちなみに、私とコンボルブルスは浴衣を着るよ」
むっ……それは行かねばなるまい。早速準備をしよう。
街へ出てみると、屋台がたくさん出ていた。射的や型抜き、お面にたこ焼き。そんな賑やかな雰囲気の中、ただ一人清廉な空気を纏った少女が佇んでいた。
「あっ、団長さん……」
青を基調とした、涼しげな浴衣。白く長い髪は一つに結い、白いうなじを覗かせている。
息を呑むような美しさ。コンボルブルスの周りだけが、まるで一枚の絵画のように切り取られていた。
「ど、どうかな、この浴衣……似合ってる?」
最早言葉は必要ない。彼女を優しく抱き締めた。まだ幼いが、仄かに女性を感じさせる、滑らかな身体の凹凸をその手で包み込んだ。
「あぁ~! 抜け駆けはずるい! 団長、私も、私も!」
いつの間に来ていたのか、ソリダゴがぴょんぴょん跳ねて抱っこをせがんでいる。言われた通り抱き締めると、ソリダゴは珍しく恥ずかしげな表情を見せた。
「お祭りと言えば屋台! たこ焼き食べよう、たこ焼き! あっ、でも熱々だから直ぐには食べられないよね。……口の中べろべろになっちゃうし」
「私が冷ましてあげる」
寒色系の浴衣が似合うコンボルブルスに対して、ソリダゴは明るい黄色の浴衣が良く似合っている。
「ふぅ~ふぅ~。はい、あ~ん」
「あ~ん……ん、いい感じに冷ましてある。流石コンボルブルス」
外見だけでなく中身も正反対な二人だが、こうして仲良くしているのを見ると、まるで姉妹のようにも見える。
「団長さんも食べる? はい、あ~ん」
コンボルブルスがこちらにもたこ焼きを向ける。それを口で受け取ると、彼女の頬は真っ赤に染まった。
「あはは、コンボルブルスのほっぺた、りんご飴みたい……そうだ、りんご飴も食べよう!」
ソリダゴに手を引かれるコンボルブルス。何とも忙しいが、祭りの雰囲気には合っているのではないかと思った。
「見てみて、夜は花火もやるって!」
ソリダゴが花火大会の看板を指差す。
「……」
「あっ……ご、ごめん、コンボルブルス」
俯きがちのコンボルブルス。そうか、コンボルブルスは夜眠ってしまうから、花火を見たことがないのか。
「私のことは気にしないで。ソリダゴと団長さんは、二人で花火を楽しんで」
その儚げな表情が私の胸を刺す。どうにか彼女にも花火を見せてあげたい。そう思いながら歩いていると、足元の方からチリンと音がした。
「あっ、猫ちゃん……」
白い小さな猫が歩いていた。しかし、この喧騒の中で、鈴の音がはっきり聞こえたのが不思議に感じた。
「どこに行くんだろう?」
「調査してみる?」
ソリダゴのその言葉に、コンボルブルスはこくりと頷いた。
猫を追っていると路地裏に出た。日の光が遮られ、ひんやりとした空気が流れてきた。
「涼しいね、ここ」
「猫は涼しい場所が分かるらしいからね」
「にゃーお」
「わっ」
見ると、三匹程の猫がコンボルブルスの素足に頭を擦り付けていた(少し羨ましい……)。
「随分人懐こいね。飼い猫なのかな?」
コンボルブルスの小さな手が猫の頭を撫でる。猫は喉をゴロゴロ鳴らし、彼女に腹を見せた。
しかし不思議だ。路地裏に一歩足を踏み入れると、先程までの喧騒が嘘のように静かになる。そして、チリンチリンと鈴の音だけが鳴り響いている。
「ここは猫達だけの場所なのかもね。あんまり邪魔しないように、私達は早く出よう」
「にゃーお」
コンボルブルスは名残惜しそうに猫の頭を一撫でして、そのまま路地裏を後にした。
表通りに出てみると、何か様子がおかしい。人が誰一人いない。そして、
「あれ? もう夜……?」
ぽっかりと丸い月が出ている。先程まで夏の日差しが輝いていたはずなのに。それに、何故夜なのにコンボルブルスが起きているのだろう。
「何々? どういうこと~!?」
ソリダゴの元気な声が夜空にこだまする。
「コンボルブルスは大丈夫なの?」
「うん……今日は眠くならないみたい」
夜どころか、辺りが暗くなっただけで眠くなるコンボルブルスが……一体何が起こっているのだろう。
「う~ん、分かんない! どうして誰もいないんだろう?」
歩き回ってはみたが、あんなに賑やかだった街に人っ子一人いない。人間がいない街は、こんなにも広く寂しいものなのだなと思い知らされた。
「にゃー」
「あっ、さっきの猫ちゃん……」
気付けば周りには数十匹の猫が集まっていた。チリンと鈴の音が、寂しい街の中に響く。
「この街、こんなに猫がいたんだ」
「普段は人のいない所にいるから、気付かなかったんだろうね」
その時、乾いた音が響き、夜空がパーンと明るくなった。
「わぁ! 花火だ!」
「これが花火……こんなおっきいの初めて見た。綺麗……」
コンボルブルスの頬に涙が伝う。
「あれ……? 私、どうして泣いて……」
いつの間にか声も震えている。ソリダゴはそんな彼女の頭を撫でた。
何時間経っただろうか。時が忘れる程、花火の美しさに見とれていた。
「……はっ!? 忘れてた! 早く人を探さないと!」
『おやおや、これは珍しいお客さんですな』
不思議な声が聞こえてきた。耳ではなく、頭の中に直接響くような声が。
「ね、猫が喋ってる……」
声の主は、一匹の黒猫だった。
『まぁ、そう驚かずに。長年人間と関わっていると、言葉も解るようになるのです』
猫は優しい声で言った。
「ここはどこなの?」
『ここは貴方達の世界の裏側。我々は人目を避けて、良くこの場所に来るのです。ここは人間の世界よりも静かですから』
「それじゃあ、邪魔しちゃった? ごめんね」
『いえいえ。それに、我々は貴方達のことを良く知っているんですよ。花騎士の方ですよね』
「そうだけど……」
『いつも街を害虫から守ってくれている方だ。少しくらい得をしても良いでしょう。花火、楽しめましたか?』
「……うん!」
『ではそろそろお別れです。またご縁があれば』
「うん。今日はありがとう」
「またね~!」
猫に手を振って、光の差す方へ歩く。ふっと身体中の力が抜け、意識が遠のいていく。
◇◆◇◆
「……はっ!」
目を覚ますと先程の路地裏だった。祭り囃子が聞こえる。戻ってきたのだ。
「夢……じゃないよね!?」
ソリダゴも私も同じことを体験したのなら、恐らく夢ではないだろう。
「花火……綺麗だった……えへへ」
目を柔らかく閉じ、そっと微笑むコンボルブルス。そんな彼女の頭を撫でる。
「団長さん、ソリダゴ、今日のこと忘れないよ……絶対に……」
ゆっくりと目を閉じる。日が段々と沈んでいく。彼女を背中におぶり、賑やかな通りを歩いて行った。
コンボルちゃんに花火を見せてあげたいと思ったらこんな話に……ちょっとARIAを意識していたり……
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。