ギガントバイツ   作:ザイグ

1 / 4
クジラになりました

まず初めに俺は転生者だ。何故死んだかは覚えていない。だが、ただの学生でしなかった俺が二度目の人生を手に入れた。しかも大手企業社長の息子だ。

人生勝ち組。前世の分まで楽しむぞと意気込んだ。実際いまも個人所有のクルーザーで優雅にホエールウォッチングを満喫していた。

だが、海面に映る自分の顔を見てふと気づいた。

 

短い黒髪、タレ目気味の黒目、人を見下した人相……こいつって。

 

「どうしました、伊佐奈(・・・)さま?」

 

使用人の言葉に「なんでもない」と返す。

 

そう俺の名前は尊伊佐奈(そんいさな)

 

漫画「逢魔ヶ刻動物園」のキャラクター、あの呪いによってクジラの姿に変えられた丑三ッ時水族館の外道館長と同じ顔、名前を持つ人間だ。

 

 

━━あっぶねえぇぇぇぇぇぇっ! え、ここって逢魔ヶ刻動物園の世界なのか!?

 

 

原作で『伊佐奈』はクジラを撃ち殺して、化け物クジラに呪われていたが、この状況はまさにその場面だ。これ、撃ち殺したら俺も呪われてたのか。

いや、『伊佐奈』ほどなんでもかんでも見下してないし、クジラがかわいそうだからそんなことしないけど。

流石にクジラ顔になるのは勘弁だ。危険回避できたと安心したその瞬間……。

 

「坊ちゃん、大変です! クジラが突っ込んできました!!」

 

「………はぁっ!!?」

 

使用人が指差し先には目前に迫るクジラがいた。……いや、何もしてないよね? 恨まれる覚えがないよ?

瞬間、轟音とともに俺は海に投げ出された。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「知らない天井だ」

 

次に目が覚めたのはどこかの病室だった。ついお約束の言葉を吐いてしまう。

 

「目が覚めたかね、伊佐奈くん」

 

俺が寝かされているベッドの傍に眼鏡をかけた男が立っていた。この男、どこかで見た様な……逢魔ヶ刻動物園のキャラクターにこんな人いたっけ?

 

「……貴方は?」

 

「「牙闘(キリングバイツ)」管理局長、祠堂零一。単刀直入に言おう。瀕死だった君は獣化手術しか助ける手がなかった。━━君は獣人になったんだ」

 

……ああ、この世界って逢魔ヶ刻動物園じゃなくて、キリングバイツの世界だったらしい。

 

祠堂さんの説明はろくに頭に入ってこなかった。完全に聞き流していたけどこれだけはわかる。俺が獣化する動物なんて一つしかない。

 

どうやら俺はどんな世界でもクジラになる運命からは逃れられないらしい。いや、獣人が殺し合うキリングバイツの世界で、獣人になってる時点でこっちの方が酷いか。

 

こうなったらヤケだ。俺は伊佐奈だ。だったら、あの恐怖の支配者『伊佐奈』をリスペクトしてやる。

とりあえず『伊佐奈』を真似て水族館でも経営しようと思ったが、これがうまくいかない。父親の会社は石田財閥と呼ばれる四大財閥の傘下であり、その石田財閥は現在、崖っぷちに立たされているせいで水族館なんて建てる余裕がない。

石田財閥は日本経済を支配する四大財閥の一つだが、石田財閥は四大財閥の中で最も資金力が乏しい。財界での発言権を賭けて獣闘士を戦わせる代理戦争「牙闘」で負け続けているからだ。

資金がないから雑獣(ザコ)しか雇えずに「牙闘」に負ける。勝てないと発言権が得られず、資金を増やせない。資金がないから雑獣しか雇えいの繰り返し。悪循環だ。

だから、「牙闘」管理局と手を組むことにした。石田財閥が盛り返すには、獣人に関する研究施設・医療施設の全てを管理する祠堂さん達の助けが必要だった。

祠堂さんの目的は知らないが現財閥トップの三門を蹴落としたいという利害が一致しているので、協力に漕ぎ着けた。そして裏で造反計画を進めること2年。計画始動の要となる彼女(・・)のデビュー戦が始まった。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

とある会場、そこではリアルタイムで中継されていた「牙闘」の決着の瞬間が映し出されていた。

 

対戦は百戦錬磨の「獅子(レオ)」VS新人の「蜜獾(ラーテル)」。

 

賭け率(オッズ)は99対1で「獅子」の圧勝が予想されたが大番狂わせ。勝者は「蜜獾」。

 

……あれが宇崎瞳さん。祠堂さんの最高傑作か……そしてこの世界の中心人物……原作がスタートしたんだ。

 

いよいよ物語が始まる。まずは宇崎さんを石田財閥に雇う。その後は「牙闘獣獄刹(キリングバイツデストロイヤル)だ。

一対一ではなく、複数の獣闘士が入り乱れる殲滅戦。一人が突出して強くとも、複数の獣闘士に襲われれば勝てる保証はない。勝利するためには強豪獣闘士を揃える必要がある上、仲間との連携も重要だ。

 

原作では石田財閥は勝つために宇崎さんを臨時で雇ったが、それでも「獣獄刹」に勝てたのは運が良かっただけだ。

原作と現実は違う。実際、本来は尊夫妻に存在しなかった息子(おれ)という原作乖離があるんだ。どんな予想外なことが起こるかわからない。勝つためには万全を期すべきだ。

 

原作では、石田財閥の参加メンバーは宇崎さん以外は「(ラビ)」の稲葉初さんと「河馬(ヒポポタマス)」の岡島市之助さんだった。稲葉さんは戦闘力ゼロ。岡島さんも強豪獣闘士には劣る。やはり、勝つには宇崎さんだけではダメだ。強力な獣闘士を集める必要がある。

 

参加メンバーは、宇崎さんと俺、そして━━

 

「……コウモリ。おまえも「獣獄刹」に出ろ。少しは俺の役に立て」

 

「それは構わないけど、私の名前はコウモリじゃないわ。それくらい覚えてよね、ボス♡」

 

俺をボスと呼ぶ彼女は黒夜愛さん。元泥棒という異色の経歴を持つ彼女は、あの三門財閥をターゲットにして盗みに失敗。追われる身になっていたのを部下になることを条件に匿った。現在は俺の秘書として働いている。

このように俺は秘密裏に人材を集めている。なんでもかんでも一人でやるには限界があるから、個人的に動かせる部下は絶対に必要だ。水族館経営を目指す身としては魚類獣人(アクティア)が部下に欲しいが、獣人が爆発的に増えた2年後でも希少種とされる魚類獣人は、現時点で存在しないので諦めた。

ちなみに彼女をコウモリと呼んでいるのは、『伊佐奈』が動物たちを名前で呼ばずに種族名で呼んでいたので、俺も獣化する動物で呼んでいるだけで特に意味はない。

 

黒夜さんを入れて三人。これが「獣獄刹」に参加する石田財閥のメンバーだ。大幅な戦力アップによって勝率は高まった。だが、他の財閥も強豪揃い。油断はできない。入念な準備をしなければいけない。まずは宇崎さんの勧誘に行こう。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

なんでこんなことに!?

 

僕、野本裕也は不幸の連続だった。昔のアルバイト仲間に共犯者にされそうになる。「牙闘」という獣人の殺し合いに巻き込まれ、殺されかける。ヒトミさんにはアパートに居座られ、おまけにパシリ扱い。その上、現在進行形で獣人に襲われていた。

 

全身武器。鋼鉄さえボロボロにする針を斉射する獣闘士「山嵐(ラヴディ)

そんな針を徹さないラーテルの頑丈な甲皮を持つヒトミさん。

訳がわからない常識外の戦い。ただ言えるのは僕では巻き込まれるだけで即死してしまうということだけだ。だが、その時。

 

 

━━鯨撲(げいぼく)

 

 

巨大なナニカが「山嵐」を吹き飛ばした。

 

……な、何いまの? 凄く大きな尾ひれだったような?

 

「あんな獣闘士に手こずるのか……まぁ、使えれば何でもいい」

 

巨大なナニカは暗闇に隠れた人影に戻り、その人に収まっていく。そして人影は歩み寄り、街灯の光で姿を見せる。現れたのは二人の男女。

 

「小娘、石田の陣営に入れ。死にたくなゃ命を削れ」

 

ヒトミさんに見下した視線を向けるスーツの上にコートを羽織る青年。その男に付き従う微笑みを絶やさない美女。

 

「ああ? いきなり何言ってんだ。殺すぞ」

 

「口が悪いな。俺のために働け」

 

「うるせぇ! 私に命令するな!!」

 

ヒトミさんが男に襲いかかる。だが、男に辿り着く前にキーンという音が響いた。瞬間、ヒトミさんが倒れた。……な、何が起きた!? いまの音、何!

 

「か、身体が……がぁっ」

 

「見た目通りの肉食系だな。だが、会話をしよう。俺たちは喋れるんだから」

 

男は正論を吐きながら、ヒトミさんの頭を踏みつけた。言ってることとやってる事が矛盾してませんか!?

 

「暴れられても困る。おとなしく話せないもんかなあ」

 

「誰、が……お前、なんかに……!」

 

ヒトミさんは反抗しようとするが身体が動かないらしく、男に踏まれたままだ。このままだとヒトミさんが危ない。なんとか、なんとかしなちゃ!

気づけば僕は叫んでいた。

 

「あの……こんなところじゃなんですし、僕のアパートで話しませんか!?」

 

僕の口から出てたのは情けない言葉だった。カッコよく助けるなんて、怖くて無理です。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

宇崎さんを勧誘に来た俺は、野本さんの提案を承諾して彼のアパートに来ていた。黒夜さんに怪我をした野本さんの治療を任せて俺は宇崎さんと交渉を続ける。

 

「で、お前誰?」

 

「石田財閥の尊伊佐奈だ」

 

「私は黒夜愛。同じ石田財閥所属よ」

 

宇崎さんの不機嫌そうな問いに俺たちは答える。

宇崎さんの俺に対する第一印象は最悪だろう。

「世界一怖いもの知らずの動物」としてギネスブックに認定されるほどの横暴さを誇るラーテルの因子を色濃く持つ彼女にとって、高圧的で頭を踏みつけた俺は気に食わない相手だろう。

頭を踏みつけるつもりはなかったけど、『伊佐奈』を演じ続けてたせでついつい手が出やすくなってしまった。いや、今回は足か。

 

「話をしたいと言ってるんだ。「獣獄刹」に出て……」

 

「そんなの出ねぇし、どこにも属さねぇ」

 

「お前にとっても悪い話じゃない。おとなしく聞いてくれ」

 

「てめぇ誰に向かって言ってんだ。闘んのか、ああ?」

 

「……つくづく会話ができねえんだな」

 

取り付く間もないとはこのことだ。更にどんどん彼女の機嫌が悪くなり、このままでは協力は得られないどころか、殺し合いが始まりそうになった時、そこへ黒夜さんが割って入ってくれた。

 

「はいはい。このままじゃ話が纏まらないわ。ここは私に任せてボス」

 

「……いいだろう」

 

「ヒトミちゃん、少し話を聞いてくれないかしら?」

 

「やだ。あの野郎の仲間なんかと話すことはねぇ」

 

「ボスがごめんなさいね。あの人、口が悪いから。……でも、そのボスが祠堂局長のお仲間だって言ったら、話を聞いてくれる?」

 

「えっ、祠堂さん!?」

 

黒夜さんは人の懐に入るのがうまい。あの傲慢な宇崎さんの関心を引いてる。それからとんとん拍子に話は進み、祠堂さんの命令ならばと宇崎さんは石田財閥に臨時で所属することを承諾。彼女を引き入れることができた俺たちは帰った。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「獣獄刹」当日。豪華客船では試合前のパーティーが行われていた。

どれだけ金をかけたと言いたくなる豪華なパーティーだ。

金に糸目をつけず、強豪獣闘士でガチガチに固めた三門。

 

負けじと人材をかき集めるが一歩遅れ二番手に甘んじる八菱。

 

はぐれ者を使って姑息に漁夫の利を狙う角供。

 

そして四大財閥で最も資金力に乏しく雑獣しか雇えない石田。

 

財閥間の力関係がハッキリ分かる。それも今日までだ。俺たちの造反計画が成功すれば勢力図は一気にひっくり返る。その為にも「獣獄刹」に勝たなければならない。

 

「やあ、はじめまして伊佐奈君。親子で揃って参加とは大変だね。健闘を祈るよ」

 

「ああ……わざわざありがとうございます。あの有名な「獅子」に応援して貰えるなんて」

 

話しかけてきたのは宇崎さんと戦った獣闘士「獅子」の谷優牛さん。公式では初対面だが、彼も造反計画の協力者で、何度か顔を合わせている。

ちなみに公の場では流石に傲慢な態度はとってない。『伊佐奈』もスポンサー相手には愛想笑いをしていた。

 

「何、家族総出で悲願を果たそうとしている君たちと話してみたくなっただけさ。今回、僕の出番はなく、話す機会は会場だけだから」

 

「それは正直、石田としては有難い。貴方が参戦すれば勝ち目なんてない」

 

宇崎さんとの戦闘による負傷を理由に不参加と言ってるけど実際はどうなんだろう?

元々、「獣獄刹」に出ない確約をしていたから、傷は言い訳だと思う。

そもそも宇崎さんとの試合も本気だったかも疑わしい。原作で宇崎さんを追い詰めた「(ティガ)」に勝利した「獅子」があんなにあっさり負けるか?

 

「欠場だと? 逃げたな、「獅子」。俺と闘るのがそんなに怖いか」

 

「……これはまた大物だ」

 

噂をすればなんとやら。谷さんの発言を聞いて割り込んできたのは八菱所属の獣闘士、中西大河さんだ。前回大会の優勝者にして優勝候補筆頭。勝つための障害になるのは間違いない。

 

「あ、石田の代表? ヒトミに説明ぐらいしなさいよ。あの子、何も知らなかったのよ」

 

「エルザさんでしね、すみません。ドタバタしていたものですから」

 

大河さんと一緒に来た妹の中西獲座さんに文句を言われた。勝手に宇崎さんに接触したのはエルザさんで、説明を押し付けたのは三門の連中だから俺に言われても困る。

 

「まぁ、いいわ。次から気をつけてね、おじさん(・・・・)

 

よし、この小娘はぶっ潰す。誰がおじさんだ! 俺はまだ二十歳だ!!

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

さて、ここで「獣獄刹」のルールを説明しておこう。

各財閥を代表する獣闘士三名。計十二名によるバトルロワイアル。

舞台は無人島をゲーム盤に見立て、獣闘士を「駒」にして「プレイヤー」が動かす。プレイヤーの従わない場合、首輪の爆弾が爆発して獣闘士は死亡(リタイヤ)する。

同じマス目に敵がいれば戦闘開始。最後まで生き残った獣闘士がいる財閥が勝利だ。

 

「頼む、伊佐奈! 勝ってくれ! 石田会長に勝利を厳命されているんだ!! 勝たないと私たちの未来は……!!」

 

現実逃避はやめよう。いま目の前ですがり付いているバーコード頭が特徴的なおじさんは、俺の父親、尊正義。これでも大手企業、ソンバンクの代表取締役だ。実の息子にすがり付いている姿に威厳はないけど。

ちなみに俺のプレイヤーは母親の尊聖羅だ。財閥代表が父さん。プレイヤーが母さん。駒が息子。まさに家族が一致団結して挑む訳だ。

とりあえず、父さんを引き剥がす。スーツに鼻水がついてしまいそうだ。

そして安心させるために優しく声をかける━━なんて『伊佐奈』はしない。容赦なく頭を踏みつける。

ぐえっ、とカエルのような声を出す父さんに上から目線で告げる。

 

「黙れよ、クソ親父。勝つのは俺だ。おまえは授賞式のスピーチでも考えてろ」

 

「何言ってんだ。牙の鋭い方が勝つ。それが「牙闘」だ。だから、勝つのは私だ」

 

「おまえも黙ってろ、小娘」

 

「おまえが黙れ、タレ目」

 

この後、また始まった罵倒合戦は、黒夜さんが止めるまで続いた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。